進化し続けた春シーズンを締めくくる
「最高の80分間」を披露し、有終の美を

6月23日、東京・秩父宮ラグビ―場で『IRBパシフィック・ネーションズカップ(PNC)2013』日本―アメリカ戦が行われる。
『リポビタンDチャレンジ2013』第2戦でウェールズから歴史的勝利を挙げた4日後にPNC第3戦でカナダに競り勝った日本代表。

エディー・ジョーンズヘッドコーチ体制になって初のPNCでの勝利でもあったカナダ戦から、再び中3日で行われるアメリカ戦。

10試合目となる今春のテストマッチの総決算として、「最高の80分にして、春のシーズンを締めくくる」(WTB廣瀬俊朗キャプテン)ことが期待される。

(text by Kenji Demura)

カナダ戦はコンディション不良のためメンバーから外れたCTBウィングが先発復帰
photo by RJP Kenji Demura
「バルセロナのメッシのような存在」とジョーンズHCが評価する堀江(左端)はHOながら3試合連続先発出場
photo by RJP Kenji Demura

「ここ3-4週間のチームの進歩は目覚ましいものがある」
ジョーンズHCが自信を深めるとおり、6月1日の豪雨の中のアウェー戦でフィジー代表に8―22で完敗した以降、日本代表は間違いなく右肩上がりの成長を遂げながら、確実に結果を残してきた。

フィジーからの約17時間の長旅を経た後、4日間の準備期間しかなかった『リポビタンDチャレンジ2013』第1戦では世界ランキング5位のウェールズに対して前半リードして折り返すなど欧州王者を追い詰め(18―22)、1週間後の第2テストでは「もっとBKがリードするのが大事。チャンスにBKが要求していく」(SO立川理道)点など、第1テストで出た課題を修正して23-8で完勝。

双方がキャップ認定試合と認めたテストマッチでは、史上初めてホームネーションズから白星を奪う偉業を成し遂げた。

その歴史的勝利から4日後の19日には、アメリカ、フィジー、トンガを破り、PNC初優勝に王手をかけていたカナダに16―13で競り勝ち、「ウェールズに勝ったことで甘えが出てしまうとカナダ戦に影響する」(SH田中史朗)という危惧を一掃するタフネスぶりを披露した。

そして、カナダ戦同様、中3日で迎えるアメリカ戦。

厳しい条件での試合が続いているが、計10試合に上る今春のテストマッチシリーズで貫かれている「最強メンバーで臨む」(ジョーンズHC)という方針は、今回も守られるかっこうとなった。

カナダ戦からのメンバー変更は、「タイトファイブが短期間で3試合連続して先発するのは難しい」(ジョーンズHC)という理由で両PRが長江有祐、畠山健介から三上正貴、山下裕史へ、両LO真壁伸弥、ジャスティン・アイブスが大野均、伊藤鐘史に入れ替え。

HO堀江翔太に関しては、「スーパーラグビープレーヤーだから大丈夫。バルセロナのメッシのようにチーム絶対必要な存在」(ジョーンズHC)と、あくまでも“特別扱いで”の3試合連続先発出場となる。

一方、BK陣は、当初カナダ戦の先発メンバーに入っていながら、コンディション不良のため直前に出場を回避したCTBクレイグ・ウィングが、「フルコンディションに戻っている」という理由で先発に復帰する以外は不動。
「世界トップ10チームになるためには、すべての面でタフにならないといけない。コンディションは100%ではないとしても、チーム全体がいい準備をする。厳しい日程は言い訳にはならない。日本代表キャップを得られるのは、それに相応しい働きをみせられる選手に限定されるべきだ」と、テストマッチには常に最強メンバーで臨むのが当たり前というのがジョーンズHCの考えだ。
 廣瀬主将は「1週間に1回の試合の時は練習で追い込んでいるので、試合に匹敵する強度のことを練習でやっている。いまは練習の強度が落ちている分、しんどいというのはない」と、強行軍にもフィジカル面は問題ないことを強調する。

一方、前述のとおり、“特別扱い”されたかっこうのHO堀江は、「(フィジカル的には)そりゃあしんどいですよ。騙し騙しやっている面も確かにある。それでも、試合に出られる喜びの方が大きいし、ここまで来たら勝って終わりたい。セットプレーを安定させるのと、スーパーラグビーに行ってブレイクダウンに頭を入れられるようになったりというのは今までの僕にはなかったプレーなので、そういうフィジカルなプレーでも貢献したい」と、日本代表でプレーできる充実感が圧倒的に大きいと語る。

アメリカは日本ラグビーを知り尽くすNO8クレバー主将が先発復帰する
photo by RJP Kenji Demura
FWの前5人は再びウェールズ戦勝利時の先発メンバーに(写真はLO大野)
photo by RJP Kenji Demura


「世界トップ10に向けて一歩たりとも後戻りしない」(ジョーンズHC)

試合終了8分前のFB五郎丸歩バイスキャプテンの決勝PGで競り勝ったカナダ戦に関して、「スクラムもラインアウトも良かった。厳しいコンディションの中で、一貫性のある安定したパフォーマンスをし続けることができた」と、全体的には高い評価を与えたジョーンズHCだが、「最初の30分間、2~3フェイズ目でいくつかのボールをターンオーバーされた点は改善する必要がある」とも。
「強いチームと対戦した場合、最初の30分間のフィジカル面での優位性によって、15~20点差をつけられる可能性がある。最後の30分で相手が消耗して、力強くフィニッシュするイメージはできている」
日本がカナダを破った同日にフィジーに35―10で敗れたアメリカだが、「日本をよく知っているトッド・クレバーがプレーするし、FBのクリス・ワイレスも戻る。キープレーヤーが揃って、水曜日よりも強いチームになっているはず」とジョーンズHCは予想する。

トンガ、フィジーに対する連敗ですでに日本のPNC制覇の可能性はないものの、アメリカは15年ワールドカップのプール戦で対戦する可能性のあるチーム。前哨戦でしっかりした内容で勝っておくことは、本番でのマイナスにはならないだろう。
「自分たちアタッキングのチームなので、どんどん自分たちでデシジョン・メイキングして、ボールを空いているところに運びながら、みんなでアタックしてトライ取れればいい。もちろん勝利を前提に、内容的にもいい試合にしたい」(廣瀬キャプテン)

ウェールズに対する歴史的一勝の後、W杯で引き分けが続いていたカナダにもいい内容で勝利を収めたことで、「自分たちのテンポでプレーしていけば、必ず相手はバテる。こんなチーム世界でみても他にはない」(五郎丸バイスキャプテン)と、チームは自分たちの「ジャパンウェイ」に自信を深めている。

ジョーンズHCの公約どおり、世界トップ10入りに向けて、着実に歩を進める日本代表。「一歩たりとも後戻りしない」(同HC)、進化し続ける集団として、再び秩父宮で最高のパフォーマンスを見せてくれるはずだ。

カナダ戦では全16得点をひとりで叩き出したFB五郎丸副将。アメリカ戦でも勝利のキーマンに
photo by RJP Kenji Demura
今春最後のテストマッチで再び秩父宮ラグビ―場に歓喜の輪が広がるか
photo by RJP Kenji Demura