12月15日に開催された、東京都港区と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」に、明治大学ラグビー部監督の吉田義人氏が登場した。
明治大で主将を務め、日本代表として活躍。世界選抜にも選ばれた吉田氏は、「世界に通じる選手とは」というテーマで熱く語った。

■次々に目標を設定して、そこに向けて努力をしてきた現役時代

吉田義人氏
吉田義人氏

今日は「世界に通じる選手とは」というテーマで話します。私が考える「世界に通じる選手」とはハートがしっかりしていて、常に目的意識を持って、一瞬に打ち込める選手だと思っています。

メンタルを強くすることは、やる気につながります。やる気があれば意思を持って取り組むことができます。一流になるアスリートには、やらなくてはいけないことがたくさんありますが、そこでしっかりと意思を持って取り組む強い気持ちが必要なんです。

私は身長が170センチありません。ラグビー選手としては非常に小さいです。でも、その吉田義人がなぜ日本代表に19歳から選ばれ、世界選抜にも3度選ばれたか、という理由を考えてもらえればと思います。

まず、私はスピードが武器でした。当時は100メートルを10秒8で走っていて、初速が速かったです。陸上の元日本記録保持者の井上悟さんの身体をみておられた鍼灸(しんきゅう)師の方に「筋肉は吉田くんの方が良い。陸上なら日本記録を出せただろう」と言われたこともあります。
このスピードと、キレ、相手の裏を突くフレアーな(ひらめきのある)プレーで私は活躍できたわけです。

そのために私はトレーニングをしてきました。ウイングというポジションは各国の能力の高い選手が集まっていますし、ラグビーはコンタクトスポーツですからタックルもできないといけません。
そこで私は体幹を鍛えました。自分の身体を思い通りに動かすために、体幹を鍛えたわけです。この部分はほかの選手よりやってきたという自信があります。「五輪でメダルを取れるような選手は1日に1000回、腹筋をする」と言われれば、その日から毎日腹筋を1000回、背筋を300回やりました。生まれ育った秋田で、小さいころから海や山で遊んでいたこともプラスになったと思います。

とにかく世界のトップになりたくて仕方ありませんでした。高校日本代表に選ばれて、次は関東代表、次は日本代表、次は世界選抜と目標を明確にして、そこに向けて努力してきました。

世界で通用するのはこのように明確な目標を持つべきだと思います。メンタルがあるからこそ、トレーニングに打ち込めます。学生時代には人が10回タックル練習していたら、私は11回やるようにしていました。

私は多くの方々に恵まれて、助言していただきました。その時々で指標を示してくれた方々がいたからこそ、活躍できたと思っています。
今も日本代表を応援する気持ちは変わりません。こうした機会がまたあれば、どんどんやっていきたいと思っています。

■ラグビーで「人を育てたい」 プロ化でもその意識は必要

以下は質疑応答の一部。

──大学ラグビーの存在が日本ラグビーの成長を妨げているという意見がありますが?

私は大学ラグビー、社会人ラグビー、プロ選手を経験しました。プロはアマチュアとは正反対です。日本ラグビーが世界でベスト8に入るために、学生をプロに入れて鍛えようと言うならば、そのリーグがしっかりと人を育てる意識がなければいけないと思います。

学生は学業にも打ち込みながらラグビーをして、人として成長しています。私も明治の監督を引き受けたのは「人を育てたい」という思いに共鳴したからです。ラグビーを通じて人間教育をしていこうと思っています。その上で大学ラグビーが活性化していくことが、日本ラグビーにとっても良いことだと思います。

──19年に日本でワールドカップを開催する意義は?

私は学生に一流になるためには超一流から学べと言っています。ワールドカップでは超一流が日本にやってきます。彼らの姿を見る、彼らの話を聞く、彼らと触れ合う。こうしたことが成長する上での財産になり、今後へのエネルギーになると思います。

日本の選手にはしっかりとした気構えでトレーニングをして、「生きざま」をグラウンドで表現してほしいです。勝った、負けたというのは結果ですから、それよりもサムライ魂で15人が一体となって戦ってほしいと思います。

──19年ワールドカップにどのように関わりますか?

今は明治の部員をしっかりと世の中に出すことに集中しています。彼らがラグビーに打ち込める環境作りが今の責務だと考えているので。

将来のことは分かりませんが、吉田義人を必要としてくれるなら、その時々で足元を見つめて活動していきます。

──明治は吉田監督が来るまでなぜ低迷していたのでしょうか?

私は当時の現場を見ていません。状況が分からないので、なぜ低迷していたかを説明するのは難しいですね。ただ、就任して最初の練習で笛を吹いて集合をかけた時に走ってきたのは数人で、後はダラダラと歩いてきました。そして走ってきた選手も歩いている選手に注意をしていませんでした。このひとつのエピソードが低迷していたことにつながっているかと思います。

■吉田氏に聞く「あなたにとってラグビーとは?」

「人間修養の場です。私の人生を振り返ってみても、ラグビーは私を成長させてくれるものでした。本当に私にとって大切なものです」

今回のみなとスポーツフォーラムにおいて、参加者からの参加費と、会場での募金額の合計58,200円は、東日本大震災の義援金として日本赤十字社へ寄付させていただきます。

写真提供:スポーツナビ