2020年に向け、男女セブンズが抱える課題
強化委員長が語る今後の強化方針とは?
公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第72回が3月22日、港区の高輪区民センターで開催された。
今回の講演者は、日本ラグビー協会 男女セブンズ日本代表強化委員長の本城和彦。ラグビージャーナリスト・村上晃一さんによる司会のもと、「男女セブンズ 2020に向けて」というテーマで、男女セブンズ日本代表の強化方針や課題などが語られた。
■リオデジャネイロオリンピックでの男子の躍進と女子の惨敗
2020年に行われる東京オリンピックでは、リオデジャネイロ大会に続き、男女共にセブンズ(7人制ラグビー)が正式種目として行われる。開催国枠での出場が決まっている日本は現在、20年に向けた強化を進めている段階。講演の冒頭ではリオデジャネイロオリンピック プール戦初戦、ニュージーランド代表戦の試合が紹介され、話はリオデジャネイロオリンピックでの男女セブンズ日本代表の戦いぶりへ及んだ。
本城は「メダルを取れなかったのは残念ですが、成果という意味ではきちんと挙げてくれたと思っています」と大会を4位で終えた男子セブンズ日本代表の戦いぶりを評価。ニュージーランドを相手に大金星を挙げた試合で得たものは「自信」だったという。
「(ニュージーランド代表戦で)自信を得たことで、その後のゲームは堂々とした戦いっぷりだったと思います。準々決勝フランス代表との試合は最後に逆転しましたが、見ていて負ける気はしなかった」と男子セブンズ日本代表の躍進を振り返った一方で、「競技として存在感を示すという意味では、3位と4位では大きな差がある」と、メダル獲得に一歩手が届かなかったことを悔やんだ。
プール戦3試合で1勝も挙げることができず、10位に終わった女子セブンズ日本代表に関しては「結果というよりは4年間、年間240日以上かけて作ってきたラグビーが全く発揮できなかったことが残念だった」と本城。金メダル獲得を目標とし、強化を進めていく中で行ったいくつかのチャレンジが「目指すべき目的(戦い方)を達成するための手段だったにもかかわらず、それ(チャレンジ)をすること自体が目的化してしまった」と惨敗の要因を分析した。
■男女共にヘッドコーチが変更、岩渕GMはセブンズの総監督に
リオデジャネイロオリンピックの戦いを踏まえ、2020年に向けた男女セブンズ日本代表の強化体制に変化があった。GM(ゼネラルマネージャー)制が廃止され、15人制と7人制それぞれに総監督が設けられたのだ。これにより、ゼネラルマネージャーを務めていた岩渕健輔氏は男女セブンズ日本代表 Team Japan 2020の総監督として、セブンズの強化に携わることとなった。
また、ヘッドコーチも顔ぶれが一新。男子代表はニュージーランド出身のダミアン・カラウナ氏が新たにヘッドコーチを務める。カラウナヘッドコーチを選出した理由について、本城は「新しい知見や視点を持って、日本代表チームにアイデアとして落とし込める人が必要だった」と語り、「重視したのは選手を育てる力があるかどうか」と2020年に向け、選手育成も視野に入れた選出だったことを明かした。
女子代表は稲田仁ヘッドコーチが代行を務めることが決定した。本城は「あまりなじみのない方かもしれません」と前置きした上で、稲田ヘッドコーチ代行に関しては「とても将来性のあるコーチで、年は34歳と若いですが、よくラグビーのことを分かっている。女子選手のマネジメントも非常に長けているので、大切に育てていきたい」と語った。今後については岩渕総監督とも連携を取りながら、慎重に強化を進めていく予定だ。
■男子は専任化推進、女子は人材発掘が課題
続いて話題は男女セブンズ日本代表の強化方針へと移った。男子セブンズ日本代表の強化方針として、本城が真っ先に挙げたのが「専任化推進」だ。15人制でプレーしている選手を7人制に特化させるというのは男子代表が抱えている大きな課題であり、東京オリンピックに向けても、早めに選手を確保したいという気持ちがあるのも事実。本城は「15人制を選ぶのか、セブンズを選ぶのか——。酷な選択をさせることになる」と選手の迷いを理解したうえで「その決断をしてくれた選手をしっかり受け入れる仕組みは作っています」と語る。
一方で、目先の勝負にも勝っていかなくてはならない事情がある。今戦いの真っ最中であるHSBCワールドラグビーセブンズシリーズはコアチームとして残留する事がマストである。
9月からはアジアラグビーセブンズシリーズが開催されるが、この大会は2018年のラグビーワールドカップセブンズの予選を兼ねる重要な大会であり、2位までに入る必要がある。しかし、同時期にはジャパンラグビー トップリーグが開催されるため、主力選手が大会に出場できるかは、選手本人の意思と、それぞれのチームの判断に委ねられることになる。
男子セブンズ日本代表が選手の専任化に課題を抱える中、女子セブンズ日本代表の場合は「競技力の底上げ」と「アスリート発掘」の2点が挙げられる。世界的に見ても女子の競技レベルは高いとはいえず、競技人口の面においても男子が11~12万に対して、女子は4000~5000程度と、まだまだ少ない。
こうした現状を踏まえた上で、本城はトライアウトを開催するなど「新たな人材発掘」を進めている。幼いころからラグビーをやってきた選手を発掘することに加え、「他競技からの転向」も視野に入れて動き出している。
「今後はトライアウトの数を増やしていきたいと思っています。今までは年に1、2回実施していて、ある程度の人数を集めようというスタンスでしたが、1回あたりに参加する人数は少なくても数多くやりたいなと。そうすると世の中への露出量、発信量が高まっていく。東京だけではなく、いろんな場所で行うことによって、地方でのセブンズの普及にもつながっていくと考えています」
代表チームが強くなることが一番のマーケティング
本城の講演に続いて、来場したファンからの質疑応答が行われた。以下はその要旨。
——男子セブンズ日本代表のダミアン(・カラウナ)ヘッドコーチを選んだ理由は?
「(前任の瀬川智広ヘッドコーチには)最大級の賛辞を送りたいし、評価もしています。一方で(リオデジャネイロオリンピックでは)メダルを目標にしていて、そこに手が届かなかったのも事実です。オリンピックではトップ3との差を実感しました。そこをどう乗り越えて新しいステージに行くかというときに、新しい風を送り込みたいという思いがありました。
日本人だから、外国人だからという物の見方はしていません。これまでも、どういうラグビーをやったら世界と戦えるかということを手探りながら一生懸命勉強して、考えながらやってきました。まだ気付いていないことがあるのなら、手遅れにならないうちに、きちっと理解しておくべきだと。そういう意味で、新しい視点を入れる必要があると思いました」
——15人制より7人制に向いていると思うのはどんな選手か?
「一言で言えば、『15人制ラグビーで一番すごい選手』ですね(笑)。体が大きくてスピードがあって、相手を抜く力もあって、パスもうまい——。ただ、そんな人は世界中を見てもなかなかいない。ですから、ある部分をどうチョイスして、チームの中でどう活かしていくかということが大事になってきます。その中で、しいてあげるなら、スピードが一番重要ですね。チーム全員が凄く足が速い選手である必要はないですが、一定の水準はクリアしなければいけないと思います」
——セブンズを広めることに関して、広報活動が足りないのではないか。
「ご指摘の通りだと思います。予算との兼ね合いがあるのも事実ですが、強化と普及(広報活動)は両方大切なことだと思っています。両輪で回していくことが重要ですが、あえて優先順位をつけるならば、僕は強化が先だと思っています。
代表チームが強くなることが一番のマーケティングだと思っています。活躍している選手を見て『あんな選手になりたい』『オリンピックに出たい』というふうに多くの子供たちが思ってくれるかというところで、その後が変わってくる。
普及というと『大会を作る』というような話がよくでてきますが、単発的な大会から得られるものは少ない。大会を作るなら、その大会の意義は何かというのをきちんと位置づけて、そこからどう拡がりを持たせていくかを設計することが重要です」
いずれセブンズと15人制を分ける必要がある
——リオデジャネイロオリンピックでは惨敗した女子セブンズ日本代表に関して、選手やコーチはどのような反省をしているか。
「ラグビーというのは人間力を問われるスポーツだと思っています。人間の持っている能力をフルに使うスポーツで、体もそうですし、頭もそうです。だから人間力をどう磨いていくかがすごく大事です。そう考えたときに、1年のうち240日以上を練習に費やすという、今までのようなやり方が本当にいいのかどうかについては立ち返るべきだと思っています。
また、女子は男子と比べても海外のチームとの体格差、スピードの差が歴然としています。オーストラリアの選手と比べると、平均身長が10センチ、平均体重も10キロくらい劣っている。スピードの差も歴然としていて、日本で一番速い選手がオーストラリアの平均だったりするわけです。そこの差を埋めていくのは不可欠です。もちろん最後の勝負で気高く勝つことも大事ですが、そこを上げていかなければ戦えない。それは競技力自体をどう上げていくかという点と、運動能力の高い選手をスカウティングしてきて、セブンズでプレーしてもらうのかという、先ほどの話につながっていくと思います」
——男子の国内サーキット大会を作るのはどうか。
「すぐには難しいと思います。何故ならば、国内にセブンズのチームがほとんど存在していないからです。女子セブンズ日本代表はオリンピックで正式種目になったことで、セブンズに軸足を置いたチームが複数できました。男子は『サムライセブン』と『PSIスーパーソニックス』くらいでしょうか・・・。ですから、そういった大会を作ったところで、それがどのくらい強化・普及につながるのかというのは未知数です。
ただし、将来どうするかというところは考えなくてはならないと思っています。これは20年よりもっと先の話になると思いますが、セブンズと15人制をどこかのタイミングで競技自体分ける必要があると思っていますし、その時はやはり『プロリーグを作る』ことかなと。その勉強はし始めているところです。
ただ、それは簡単なことではありません。プロリーグであれば収益性も大事。ビジネスとして本当にそれが成り立っていくのかをきちんと整備しなければ、選手に給料が払えないしチームも存続しない。(選手の)セカンドキャリアをどう設計するのかという問題もセットで考えておく必要がある。しかし、15人制と競技をセパレートするか否か。そこのスタディは避けては通れない話だと思います」
■あなたにとってラグビーとは?
「幼い頃にラグビーと出会い、高校生でプレーを始め、現役引退後も企業人としての人生を送る一方で、コーチや今のような立場(男女セブンズ日本代表強化委員長)で携わり、常に自分の生きていく世界にありました。
ラグビーで培ったものは、仕事でも良い影響をもたらしてくれていますし、またラグビー関連の仕事に当たる際も、企業人として得たものが生かされていると思っています。
人間形成や人格形成に影響を与え、物事を考える時の指針も示してくれました。
私にとってラグビーは『師』であり、『パートナー』であり、『バックボーン』ですね」