普及育成委員会 タグ ラグビー部門長 菊地公明

去る1月2日に来日されたMartin Hansford氏(以下、Martin)と秩父宮ラグビー場にて意見交換を行いましたので以下報告いたします。

日時:2009/1/3(土曜日) トップリーグ観戦後に協会会議室にて

出席者:武田守久(日本協会普及育成委員会委員長)、飯原雅和(東京都協会普及育成委員会委員長)、星野綾子(東京都協会普及育成担当理事)、菊地公明(日本協会普及育成委員会タグ部門長:文責)

通訳:久保毛ふみ(日本協会)

Martin Hansford氏
Martin Hansford氏と意見交換会
Martin Hansford氏
Martin Hansford氏と意見交換会


【Martinの活動について】

Martinはイングランド出身/在住で、IT関連の企業に勤務のかたわら、TRDT(Tag Rugby Development Trust)の代表として仲間とともにアフリカの発展途上国でタグラグビーの普及活動をチャリティベースで続けており、昨年はIRBから普及活動部門のアワードを受賞しました。

ウガンダやザンビアなど、経済的に貧困な国や地域を訪問しタグラグビーの普及活動をしています。

10名程度のスタッフにより、地域の複数の小学校で同時にタグラグビーの教室を開催し、各学校で2週間程度の練習を積んだ後、各校が集まって「タグフェスティバル」を開催します。

J-SKY「トータルラグビー」放送でも紹介されたように楕円球に初めて触れた子供たちが、最終的に実に楽しく活き活きとタグの大会を楽しんでいます。グラウンドの周りでは先生や保護者たちも踊りながら応援をしています。驚くべきことは、子供たちの運動能力の高さです。

活動終了後は、タグの道具一式とゲームに使ったTシャツがお土産となります。

これらの映像をTRDTのホームページで見ることができます。

http://www.trdt.co.uk/

【Martinが語るタグラグビーのコーチングスキル】

タグラグビーを教えるにあたっては「Game Sense」をキーワードとしています。これは「ゲームを通じて学んで行く」という方式で、とりあえず最低限の決め事でゲームに入って行きます。

タグラグビーの場合、極端に言えば「タグを取られたらパスをすること」、これだけで構いません。ラグビー経験の豊富なコーチはともすると、「パスは必ず後ろに」、「オフサイド」など、多くの制約を始めから教えようとしますが、まずはゲームを楽しむことが一番です。

コーチはそのなかで、できていないスキル、採用したほうが良いルールがあればゲームを止めて、指導をしたりルールの追加をしたりすれば良いのです。

アフリカの各国では先天的な資質のせいか、パスのスキルなどは教えなくても良いくらいだそうです。

スローフォワードの反則も、それを取り入れた方がゲームが面白くなる場面で採用すれば良いでしょう。

コーチは常に、子供たちがゲームの戦略を考えるように、そしてその戦略に必要で効果的なスキルを学べるような進め方をするべきです。

学校の教育現場でのタグラグビー普及には分厚いマニュアルはかえって妨げになります。シンプルで最低限の情報を載せたチラシ程度のパンフレットが適していると思います。

イングランドでも女性教師の比率が圧倒的に高く、スポーツ及びその指導がそれほど得意ではないことが多く、シンプルがベストと思います。

タグラグビーはその点でも、セルフジャッジにより子供たちだけでゲームが成立するスポーツなので受け入れが良いでしょう。


【日本/イングランドのラグビー事情について意見交換】

クラブ組織を中心に成り立つラグビー先進国の方々にはなかなか理解が難しい、学校体育を中心とした日本のスポーツ事情、ラグビースクールのポジション、小学生タグラグビー大会などについて話をしました。
Martinはノーコンタクトのタグラグビーをすべての小学生に経験させることにより、その後、

  1. そのままタグラグビーを続ける
  2. コンタクトラグビーへ転向する
  3. プレーからは離れるがラグビーファンであり続ける
  4. コーチやレフリーになる
  5. 残念ながらラグビーから離れてしまう

という道があると言います。

UKでは、シニアや女性がタグラグビーを楽しむ環境があるそうです。

アジアのラグビー先進国である日本は、アジアの発展途上国やラグビー未開拓国でTRDTのような活動をしても良いのではと提言しています。

また、社会人のスポーツ活動として、東京など人口の多い地域で終業後の7時や8時からタグ教室を複数のエリアで2~3週間のコースで行い、最後にフェスティバルを行うなどの活動はどうか、などと提案がありました。

グラウンドの確保、残業や通勤時間など多くの課題はありますが、ラグビーに限らずライフワークバランスの点からも、日本の従来の企業人のあり方を考えるきっかけになるかもしれません。

あらためて、日欧のボランティアやチャリティーに対する考え方の違いや、ラグビーの成り立ちの違いを感じましたが、ラグビーの話になると言葉の壁を越え、当初の予定時間を大幅に越えてのミーティングとなりました。