第55回全国大学ラグビーフットボール選手権大会決勝は、帝京大学の連覇を止め悲願の初優勝を狙う関西王者天理大学と22大会ぶりの優勝を目指す明治大学の真っ向勝負の戦いとなった。この日の秩父宮は寒波襲来により気温はわずかに5度。曇り空には雪も舞い、途中照明も灯る中で、天気とは裏腹に激しい攻防が繰り返され2万人を超える観衆を沸かせた。
ゲームの立ち上がりがコントロールできない明治は、この日もキックオフレシーブでミスが起こる。自陣22mからFB山沢京平のキックかFWのランナーでクラッシュするかの迷いが天理の速攻を許す。ハンドリングエラーによるファーストスクラムで天理フロントローの圧力に、たまらずコラプシングの反則。この直後の最初のラインアウトを天理FWが確実にトライに結び付ける。クリーンキャッチからモールとみせてタッチ際にアタック。HO島根一磨がタックルを乗り越えて先制のトライ。(5-0)しかし、この先制パンチが効いて、逆に明治が目を醒ます。
SH福田健太の素早いパスとFWが連携し、テンポよく前に出る。かつてDFを跳ね飛ばして真っすぐ前進した明治は進化を遂げ、FWの見事なショートパスから空いたスペースにランナーを次々に走らせる。ボールをステイさせない素早いポッドアタックが明治の起点となると、効果的にチーム全体の攻撃が機能し始める。BKでは、SO忽那鐘太のパスワークがFWのランナーと裏側のBKをバランス良くコントロール。この、グラウンドを広く使い切る得意のパターンが反撃のトライに繋がる。グラウンド中央をタテのアタックで切り崩すと、最後はBKのタッチ際へのカットパスからWTB山崎洋之がゴールに飛び込み追い着いた。(5-5)
この日の明治は、このゲームを通して15人がチームとしての見事な規律を見せる。3対2、4対3のフェイズでは、パススキルと判断の速さで圧倒。試合前のアップの最後の時間まで身体に染み付かせたアタックパターンがことごとく天理DFを突破。また、DFにおいては天理アタッカーへのタックルに必ず複数で挑み、天理の起点となるオフロードパスでの突破を防いだ。タックル後の起き上がり、次の仕事への判断の速さは大学トップレベルのワークレートに成長を感じさせる。
さらに22分には、ラインアウトモールからパスを受けたSH福田が、DFラインとの10mのギャップをうまく使いアングルチェンジしたブラインドWTB高橋汰地を走らせ、天理DFを切り裂いて鮮やかなトライで逆転。(5-12)
後半も明治のテンポは衰えない。後半11分にはSOに松尾将太郎を投入してさらに攻撃でのスピードを上げ、用意したオプションが展開される。ショートサイドではSH福田の動きに天理DFは幻惑され、外に飛び出してはブラインド側からのWTB高橋のアタックに狙われた。
流れに乗った明治はFWが勢いづき、スクラムでも健闘する。天理陣内でのスクラムの渾身のプッシュがついにコラプシングでの反則を奪い、FB山沢のショットで突き放す。(5-15)
さらには21分、天理ゴール前で明治FWが突進を繰り返す。狭いスペースでの相手タックルにも、ポッドアタックからボールキャリアのヒットを2人目、3人目が後ろから打ち込んで前進。最後はHO武井日向がポスト直下にタックルを突き破ってトライ。勝負を決めた。(5-22)
もう後がない天理。スクラムで押しきれず、FWのアタックも明治のダブルタックルの精度に背中でボールを繋げない。しかし、残り15分となって、17点差に開き直った。
CTBシオサイア・フィフィタの強烈なアタックに狙い澄ましたHO島根が飛び込んでサポート。このオフロードパスがついに繋がると天理得意のビッグゲイン。キャプテンがゴールを突破して反撃の狼煙を上げる。(10-22)
35分にも、再びHO島根が渾身の激走。天理15人の猛攻からCTBフィフィタのトライで17対22と5点差に詰め寄った
試合時間終了のホーンが鳴る。
明治陣での天理最後のスクラム。両チームの執念がぶつかる。こぼれたボールを後半29分に入替のSH小畑拓也がパスアウト。この大会で何度も観てきたホーン後のシーンがよぎる。しかし、天理のアタックを明治DFのプレッシャーが封じ込めてノーサイド。
明治の日本一獲得への戦い方は、周到な準備にあった。大学チームナンバーワンと胸を張れるアタックスピードとバリエーションの豊富さ。特筆すべきは、FWのショートパス能力とハンマーでドライブする力。
セットプレーでも、強力な天理スクラムへの対抗と身長差で上回るラインアウトでの計算通りの圧倒。そして、何よりも一人一人のタックル数とオフロードパスをさせない2人目の早いDFが確実に勝利への可能性を高めた。
天理は予想外にセットプレーとブレイクダウンで苦戦し、ダイナミックな攻撃力を発揮させてもらえなかった。特にタックル後のボールにからむ明治をうまくクリーンアウトできずクイックボールが使えない。自分たちのリズムでプレーができなかった。反則数が少ないゲームの対応など、この経験を日本一獲得への糧として、次の挑戦を期待したい。
(照沼 康彦)
■天理大学
〇小松節夫 監督
「今日はありがとうございました。いい準備をして臨みましたが、ファイナルに勝つ何かが足りなかったと思います。去年、明治大学さんは悔しい思いをされて、ここに勝ち上がって来られましたが、我々は7年振りに来ました。この差が出たのかなと思います。残念ですが、天理大学としては良い経験ができたと思いますので、この悔しさを次の学年が受け継いで、日本一を目指して頑張っていきたいと思います」
―後半はキックが多いと感じましたが、どのような作戦だったのでしょうか。
「前半は風下で、選手たちが風を感じながら自陣での戦いが多かったので、後半はエリアをとって、自分達の形で戦うように指示しました。その結果、キックが多くなったと思います。明治大学さんのバックスリーのキック処理が良く、効果的に風上を活かすことができませんでした。点差が開いてから思い切って攻めましたが、ゲームの運びとしては、エリアをうまくとることができませんでした。」
―監督にとって2度目の決勝戦ということで、フォワードを強化されて臨み、スクラムで良いプレイもありました。敗れてしまいましたが、改めて、どのように感じていますか。
「7年前と比べると、今日は良い勝負、五分の戦いをするつもりで臨みました。しかし、明治大学さんの集中力のあるディフェンス、アタックに、今までの試合とは異なるファイナルならではのプレッシャーを感じました。先ほど申し上げたことがその差なのかと思います。我々ももう一段ギアを上げて、決勝戦用のディフェンス、アタックをすべきところでしたが、それができませんでした。明治大学さんはそれができ、良いアタック、良いディフェンスをされたと思います」
〇島根一磨 キャプテン
「本日はありがとうございました。最高の準備をして、挑戦する気持ちで戦ったのですが、最初のところで受けてしまったのが敗因の一つだと思います。明治大学さんの強いディフェンスに対して攻めきれませんでした。決勝戦まで上り詰めてこの舞台に立てたことは、天理大学として良い経験ができました。下級生が多く残るので、次に託して、彼らが日本一を目指して頑張ってくれると思います」
―最初のところで受けてしまったとのことですが、最初のトライは、積極的に仕掛けていったと思いますが。
「最初のトライは相手のミスからのものでした。用意したサインを使ってのトライでしたので良かったのですが、明治大学さんボールになった時にディフェンスが止まってしまい、いつも通りのディフェンスができませんでした。フォワードのところでゲインをさせてしまったことがディフェンスを崩す要因となり、受けてしまいました。その上で、相手に簡単にトライをさせてしまったのが、入りのところでまずかったと思います」
―ホーンが鳴った後のマイボールスクラムは、ボールをキープするつもりだったのでしょうか、それとも、こぼれてしまったのでしょうか。
「キープしながら押すつもりでいましたが、相手のプレッシャーが強く、受けてしまい、ボールを出さざるを得ませんでした」
―スクラムと、マイボールラインアウトの感触は。
「スクラムは終始プレッシャーをかけることができたと思いますが、最後の一本や、途中のペナルティーゴールを決められる前のスクラムでは、相手のプレッシャーを受けてしまいました。大事なところで良いスクラムが組めませんでした。ラインアウトに関しては、相手のプレッシャーを受けてしまい、うまくいきませんでした」
―明治大学のディフェンスやプレッシャーを、プレイ中にどのように感じていましたか。
「我々のテンポを遅らせるためにボールキャリーに絡んできて、相手の方が人数が多い状況となり、そこでプレッシャーを受けてしまい、良いアタックをすることができませんでした。その繰り返しで、終始、プレッシャーをかけられていました。絡んでいるということは試合が浮いていることなので、サポートに早く入り、テンポを出すよう話し合っていました」
―今までの試合と、今日の決勝戦との違いはありましたか。
「いつも通りというイメージで臨みました。入りは良かったのですが、前半の途中から受けてしまい、テンポが崩れてしまいました。後半は修正して落ち着いてできましたが、前半に自分達のラグビーをすることができなかったことが、いつもと違うと感じてしまったのだと思います」
■明治大学
〇田中澄憲 監督
「明治大学として22年ぶりの悲願の大学選手権優勝を達成することができました。優勝が22年ぶりという実感はなく、初優勝という気持ちです。天理大学は強くてタフなチームで、明治のスクラムは劣勢で厳しい試合でしたが、選手たちはそれ以上にタフに、また良く我慢して勝ってくれました。去年の決勝戦で、1点差で敗れた帝京大学に勝って優勝することを目標にして、ここ1年間やってきました。決勝の相手は天理大学でしたが、間違いなく目標とするチームがあったためここまで成長できたと思っています。また、この大学選手権に入って、立命館大学、東海大学、早稲田大学から厳しいレッスンを受けて成長し、今日、天理大学に勝つことができました。これで終わりではないので、チームとしてまたさらに大事なものが積み上がったような気がします。多くの観客の皆様にも感謝いたします」
――後半序盤でのスタンドオフ、試合最後でのフロントの選手交代の意図、また前後半を通じて多かったキックの蹴り合いについては、どのような指示だったのか?
「スタンドオフについては、先発の忽那鐘太選手が良い流れを作ってくれたので、後半10分まで引っ張りました。ゲームにアクセントをつけるために、忽那選手から松尾将太郎選手に交代させたのは予定通りのものです。試合最後でのフロント3人のチェンジは、消耗が激しかったのでスクラムになったら交代させる予定でした。キックの件は、指示していませんでしたが、選手たちがメンタル面で少しかたくなった部分もあったと思います。良いキャッチをしたのであれば、ボールを動かしてから蹴っても良かったのではと思います」
――ハーフタイムでは、そのようなキックに関する思いを伝えなかったのか?
「ハーフタイムでは、情報量が多すぎてもいけないので、もっとシンプルなことを話しました」
――試合前に選手にどのような話をされたか?
「対抗戦が開幕してから36人のメンバーが紫紺のジャージを着て戦い、タスキのようにつないできたわけですが、勝敗を意識するのではなく、メンバー外の選手たちから見て誇りに思えるプレーをしようと言いました」
――今日、80分間ディフェンスが良かった要因は?
「ディフェンス面は、対抗戦の早明戦が終わり大学選手権に入ってどんどん成長していると思います。それは自分たちのシステムによる面もありますが、我慢強さが発揮できるようになったこと、明治大学はどちらかというとアタックが好きで、タックルが嫌いな選手が多いのですが、勝つためには『ディフェンス』だという文化に選手同士が理解して取り組んだ結果だと思います」
――最後のスクラムで、天理大学がボールをキープせずに出したときに感じられたことは?
「何も感じませんでした。パイルアップになって相手ボールになったときは、選手たちを信じることしかありませんでした」
――決勝戦で、1点差で負けた去年最後のチームと今のチームとの違いは?
「去年は決勝戦まで行って満足してしまったチームでした。勝って日本一を取るぞと言っていても、そこまでの自信はなかったと思います。120%の力を出して、帝京大学が100%の力を出し切れなくてあの点差になったと思います。しかし、決勝戦の舞台に立って本気で日本一を取りにいかなければならないと学生たちが思い、自信を持って1年間積み上げてきました。今日の結果は、去年の4年生から始まっていると思っています」
――監督は、22年前に現役のスクラムハーフでしたが、その後の明治大学のラグビーをどのように見ていたのか、どの辺りを重点的に強化されたのか?
「私が4年生のときに大学選手権決勝で敗れた以降、明治大学は優勝していません。去年19年ぶりに決勝戦に進んだことにびっくりしました。その理由を考えるとマインドセット、心構えだと思います。日本一を本気で目指す努力をしているのかを去年来たときに思いましたので、そこだけを去年1年間たたき込んできました。今シーズンは、ラグビーの細かい戦術やシステムのところに着手しました」
〇福田健太 キャプテン
「高校生のときに、帝京大学を倒し絶対に日本一になると決めて明治大学を選びました。去年は決勝の舞台で、1点差で帝京大学に敗れ、その悔しさを1年間自分の心のどこかにずっと残してプレーしてきました。今日の決勝戦に至るまでの道のりは決して楽なものではありませんでした。対抗戦では早稲田大学、慶應義塾大学に良い課題を教えていただき、この二戦があったからこそチームとしてレベルアップできました。大学選手権に入っても、チームとして成長し続けていることをキャプテンとしても感じました。天理大学には春夏の試合で共に負けていますので、我々としては気持ちの余裕はなく、自分たちが1年間積み上げてきたものをぶつけようと臨みました。その結果、日本一を取ることができ嬉しく思います。この優勝に至るまでたくさんの方々の支えを強く感じましたし、これだけ応援していただけるチームで試合ができたことを誇りに思います」
――ノーサイド直前のピンチのときと、実際に試合が終わったときの気持ちは?
「残り時間約1分のところで、味方のミスでボールを奪われ、相手スクラムになりました。相手はスクラムを強みにしていますが、我々はネガティブになることなくディフェンスでもう一回ボールを取り返してやろうという強い気持ちでプレーしました。結果的には相手のノックオンで終わりましたが、あの場面だけではなく 80分間相手にプレッシャーをかけ続けたことによるノックオンだと思います。ノックオンでノーサイドになったときは本当に嬉しかったです。80分間通してディフェンスが鍵だと思い、プレッシャーをかけ続けたことが今日の勝因だと思います」
――コーチ陣が中心となった事前分析と周到な準備を選手たちはどのように体現させたのか?
「スタッフの方々が入念な準備をされてストラクチャーを用意していただきました。ただ、自分の反省として対抗戦の早稲田大学戦では、相手のプレッシャーや裏のスペースの状況を全く考えずにストラクチャーに固執しすぎて相手のディフェンスにはまり、明治のアタック力を生かすことができず敗戦してしまいました。なので、ストラクチャーはあくまでも攻撃の一つのオプションとして持ち、試合中はウイングなど選手とのコミュニケーションを取りながらストラクチャー選択を行いました。その結果、準備したプレーでトライを取ることができました。ディフェンスに関しては、コミュニケーションの量やタックル後はすぐに立って次の仕事を探すことがチームとして見えましたので、成長し続けていると感じました。」
――22年ぶりの優勝について、選手たちの思いは?
「22年も遠ざかっていたので、大学選手権優勝というものは全く未知のものでした。そのような状況の中で、去年、漠然として大学選手権優勝というのが頭の中にあり、決勝まで行けて明治大学の殻が破れた気がしました。明治大学は日本一を目指すべき集団だと思いますし、去年、決勝に行けたことで自信を持って1年間取り組みました。22年ぶりに優勝したことの実感はありませんが、徐々に気持ちが湧いてくるのかなと思っています」