女子7人制日本代表・浅見HCが語る「女子ラグビー、世界への挑戦」

10月16日に開催された、東京都港区と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」は、女子7人制日本代表の浅見敬子ヘッドコーチ(HC)と横尾千里・大黒田裕芽の2選手が登場。進行役にフリーアナウンサーの仲山今日子さんを迎え、「女子ラグビー、世界への挑戦」と題して講演が行われた。

■「ハラハラ続き」の予選を突破し、W杯本大会へ

浅見敬子ヘッドコーチ
浅見敬子ヘッドコーチ

仲山さん
「日本の女子チームがうれしいニュースを運んできてくれました。10月にインドで行われた7人制ワールドカップ(W杯)のアジア予選を突破し、来年6月にロシアで行われる本大会出場を決めました」

※日本は準決勝でフィジーに7-31で敗れ、3位決定戦に回ったが、カザフスタンを17-7で破って3位に入り、本大会への出場権を獲得した。

浅見HC
「ハラハラした試合が続きましたが、選手が頑張ってきたことがすべて出た大会でした。選手、スタッフ一同、今後の糧としていきたいと思います」

横尾選手
「出場した時間は短かったですが、リザーブメンバーとして、(試合に)出たときにはタックルなど(自分の)持ち味が出せたので満足しています。今までやってきたことを結果として出せたので、うれしい大会になりました」

大黒田選手
「とても緊張しましたが、楽しんでプレーすることができました。(キッカーを務めたが)ゴールキックのときもあまり緊張しませんでした」

■注目度が上昇中の女子ラグビー

浅見HC
「7人制日本代表は五輪競技になってから、非常に注目が集まっています。日本の女子ラグビーも(男子と同じように)15人制から始まりました。2002年スペイン・バルセロナで行われた第4回女子15人制W杯に日本は参加しています。わたし自身も出場しましたが、その大会で2勝を挙げることができ、日本の歴史の中でも自信になりました。ただ、残念なことにアジア予選が行われるようになってからは出場することができていません。

(近年若手選手が台頭しているが、選手育成に関しては)ユース選手と言われるジュニア世代の育成はつい最近から始めたわけではありません。横に座っている横尾選手、大黒田選手もユース出身の選手です。今の代表選手もユース選手として活動してきて、10年間活動してきた歴史があり、それが実を結んでいます。また陸上やバレーなど他競技からの選手発掘も大事ですが、ゲームを作るのはラグビーをよくわかっているラグビー歴が長い選手ですので、しっかりと育成していきたいと考えています。現在10年目ですが、『やってきて良かった』とコーチ陣も言っていますし、苦労しながらやってきたことが実を結んでいると思います」

仲山今日子氏
仲山今日子氏

仲山さん

「(大学生の)横尾選手、(高校生の)大黒田選手はラグビー経験が豊富ですが、それぞれラグビーを始めた年齢ときっかけを教えてください」

横尾選手
「わたしは小学校1年からです。祖父がラグビーをやっていたので、(その影響で)弟が始めて、弟の付き添いで(ラグビー)スクールに行っていました。そこでコーチが誘ってくれたんです。人が足りなかったので、試合にも出してもらいました。その試合で負けてしまって、練習しようと(競技を本格的に)始めました」

大黒田選手
「わたしは小学校4年生のときに始めました。父がやっていたことで、兄が始めて、その練習を見に行っていたことから始めました」

浅見HC
「五輪競技になってから、いろんな方々から声をかけていただきました。トライアウトをやると、多くの方が来てくれています。2年前にはこちらも驚くぐらいの参加人数でメディアの方々にも多く取り上げていただきました。今後もトライアウトを継続的にやっていきたいと思っていますし、そこから代表選手へと吸い上げていくことが今後の課題になると思っています」

■目標は「リオデジャネイロ五輪で金メダルを取ること」

仲山さん
「2016年ブラジル・リオデジャネイロ大会から五輪競技になったことで、他競技の選手も五輪で金メダルを取りたいという思いで加わる方もいらっしゃるようですね」

浅見HC
「片嶋佑果選手という陸上の投てき種目出身の選手がいます。彼女はラグビーを始めてまだ1年もたっていませんが、非常にパワーのある選手です。それぞれの選手が強みを生かすようなプレーを、とチームとしてこだわってやっていますが、彼女はスピードとパワーを生かして代表選手になっています。相手をなぎ倒すようなタックルをしますね。男性でもなかなか止まらないと言われるぐらいです」

仲山さん
「選考基準としてラグビーに向いている選手とは、どんなタイプでしょうか」

浅見HC
「ラグビーに対するモチベーションですね。横尾選手や大黒田選手のように、昔からラグビーが大好きで、うまくなりたいという延長線上で、五輪でメダルを取りたいという選手がいれば、他競技から五輪に出たいという強い思いを持った選手もいます。そうではないと続かないと思います。やはり痛い思いもしますし、けがも多い競技ですからね」

仲山さん
「そのようなことも考えつつ、トライアウトが行われているんですね」

浅見HC
「ラグビーの歴史において男子はアジアの中ではトップです。女子もカザフスタンや香港などがありますが、歴史は古いほうです。男子からはたくさんのサポートをいただいて、強くなっています。
わたしたちのビッグターゲットは、女子7人制日本代表としてリオデジャネイロで金メダルを取ることです。ここを目標にさまざまな大会に出場し、良い結果が出るように頑張っています。ただ、まだ日本は実力的には世界の10位には入れないと思います。わたしたちも選手もそれは認めているところです。でも、金メダルという最も高い目標を持つことを忘れない。現状は理解しつつ、その気持ちは忘れたくないという思いがあります。中国は『五輪で入賞』という目標を掲げています。わたしたちは中国に一度も勝てていませんが、高い目標を持ってチャレンジし続けることを忘れたくないと思っていますし、五輪での金メダルを目指したいと思っています」

■「プレーする環境は整ってきている」

以下は質疑応答の一部。

──デフラグビー(聴覚障がい者ラグビー)をやっています。女子ラグビーは他競技からの発掘がキーだという話しでした。わたしたちも他競技から若手選手を集めていますが、コンタクトなどが怖いという方がいます。みなさまは(勧誘する際に)どのような工夫をされていますか?

浅見HC
「(トライアウトは)公募になるので、広いところから集めています。今年度は規定(50メートル走のタイム7秒以下など)を設けました。全体的に組織として動けているかなと思います。関東、関西、九州という広いエリアで都道府県協会の方がうまく回してくれて、たくさんの方に(存在を)知っていただけています。あとはコネクションもありますね。大学の先生から『あの陸上部の選手はいいのでは?』などを教えてもらい、そういったピックアップもあります。ジュニアからでは、都道府県でスーパーキッズなど事業が行われています。そういった(事業に参加した)子どもたちからラグビーに興味を持っている子たちを呼んで、お試しでやってもらって続けてくれたらいいと思っています」

仲山さん
「練習メニューなど、ラグビーを始めた後のサポートも重要な要素ですよね」

浅見HC
「昔も(トライアウトは)やっていましたが、練習する場所がない。トレーニングメニューもないという状況で、『何をすればいいかわからない』という状況でした。そして、遠征に来たしても、試合や練習でけがをしてやめてしまうということがありました。ただ、今は仕事をしながらラグビーができるところもあり、大学の部活など環境が整ってきています。
質問事項に関して言えば、募集の段階でそういった(コンタクトを怖がる)選手が来ないかなと(笑)。やってみて嫌だなって人はいるかもしれませんが。『当たってみたいわ』とか興味を持って来てくださる選手が多いです。今、関わっている選手の中ではいないですかね」

■あなたにとってラグビーとは

大黒田裕芽選手(左)、横尾千里選手(右)
大黒田裕芽選手(左)、横尾千里選手(右)

浅見HC

「生きる術(すべ)ですね。これが職業になると思っていませんでした。好きなことが職業になるというのは夢のようだなと思っています。仕事と言えば、仕事ですが、入国審査で職業のところに「コーチ」と書くんですね。それは考えられなかったことでした」

横尾選手
「自分の軸になっています。ラグビーをやっているから夢が持てたし、人とつながりを持てました。ラグビーをやっていなかったら会えなかった人に会うことができましたね。これを勉強したいということも、ラグビーから出てきたもの。考える上で軸になっています」

大黒田選手
「わたしからラグビーを取ってしまうと何もなくなってしまう。すごく大きな存在です。ラグビーをしていなかったら会えなかった人が多くいました。尊敬できるコーチにも会えて、たくさん成長させてもらった部分があると思います」

仲山さん
「ラグビーやっている人は尊敬できる人が多いんです。人を魅力的にするスポーツだと思いますね。そういった魅力的な方々から学ばせてもらうことが楽しくて、いつもラグビーの周りをうろうろしています(笑)。人を魅力的にする魅力的なスポーツですね」