公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」の第37回が10月21日、東京・港区の麻布区民センターで開催され、『ラグビーワールドカップ2019アンバサダーが世界大会の魅力を語る』をテーマに講演が行われた。
アンバサダーとしてフォーラムに参加したのは、ラグビー元日本代表選手の松田努氏、増保輝則氏、田沼広之氏の3名。ラグビージャーナリストの村上晃一氏の司会のもと、田沼氏が所用により遅刻するという“緊急事態”でのスタートとなったが、実際に出場して体験したワールドカップの魅力、また思い出話など、時には松田氏が“寒い”と評判のジョークを交えつつラグビーファン垂涎の内容を披露。田沼氏もなんとか講演時間ギリギリに到着し、ラグビーの魅力を大いに語るとともに、3名ともラグビーワールドカップ2019成功のためのアンバサダーとしての活動を報告した。

■平尾誠二監督からの熱い手紙に涙

左から村上晃一氏、田沼広之氏、松田努氏、増保輝則氏
左から村上晃一氏、田沼広之氏、松田努氏、増保輝則氏

村上晃一氏、田沼広之氏
 
松田努氏、増保輝則氏
 

2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップ2019。アジアでは初となるラグビーのビッグイベントを成功に導くため、組織委員会は以下の4つの柱をビジョンとして打ち立てた。

1. 「強いニッポン」で世界の人々をおもてなししよう
2. すべての人が楽しめる大会にしよう
3. ラグビーの精神を世の中に伝えよう
4. アジアにおけるグローバルスポーツの発展に貢献しよう

4本目の柱に関してはすでに日本がアジア各国に対し活発に支援をしていることから、まず講演は1-3本目の柱に関するトーク内容となった。

実際に複数回にわたってワールドカップに出場した経験から、増保氏が感じたことは、ラグビー大国の“本気度”はもちろんのことだが、試合以外に目を向けると、開催国のホスピタリティに感銘を受けたと言う。

「僕は91年のイングランド、95年の南アフリカ、99年のウェールズの3大会に出場しましたが、迎えてくれる国のホスピタリティがすごく高かったですね。例えばホテルから会場まで白バイが3台くらいで移動バスを先導してくれて、僕らはノンストップで試合会場まで行くことができました。他にもボランティアだったりいろんな方たちの協力があって、本当にストレスのかからないおもてなしを受けました」

91年から4大会にわたってワールドカップに参加した松田氏は、99年のウェールズ大会において、初戦のサモア戦の前に当時の平尾誠二監督から手紙をもらったことを明かした。
「選手全員に手紙をくれたんです。平尾さんは普段から熱い人なんですが、その手紙にもすごく熱いことが書いてあって、試合前だったんですが感極まって涙してしまいましたね。それくらい気持ちが入りました」

ただ、試合は同年のパシフィック・リム選手権で勝っているサモアに9対43で完敗。松田氏はタックルを受けて負傷してしまうアクシデントもあったが、それだけ各国の“本気度”の違いを実感したという。

■痛感した世界の壁…しかし「今のJAPANは強い」

このようにワールドカップでは95年の南アフリカ大会から5大会連続で勝ち星なしと、苦杯をなめ続けているラグビー日本代表。松田氏、増保氏はその“世界の壁”を何度も肌で実感してきた。両氏が語る。

「95年当時、僕は25歳で、足が速くて絶好調だったんです(笑)。でも、世界はもっとすごかった。オールブラックスをはじめ、ウェールズ、アイルランドにまったく通用しなくて、まだまだ力が足りないなと感じましたね。自分の中では結構いけるんじゃないかと思っていたんですが…」(松田氏)

「95年はいろんなことがあったんですが、その後に心を入れ替えて、本当の意味でワールドカップに出場したと思ったのが99年でした。もうこれ以上トレーニングできないってくらいの準備をしていったんですが、それでも1勝もできませんでした。世界各国の選手たちはみんな、このワールドカップに向けてベストコンディションを作ってきますし、これが本当の戦いなんだと改めて感じましたね」

しかし、だからと言って来たる2015年のイングランド大会での6大会ぶりワールドカップ勝利は決して遠いものではない。「現在の日本代表は、今までの日本代表の中で一番強いと思う」と増保氏。「強いJAPANになっているので、次のワールドカップまでにさらに強化して、本戦で勝ってほしいですね」と大きな期待を寄せている。そして、15年のイングランド大会へ向けての大きな試金石ともなるのが、11月2日に東京・秩父宮ラグビー場で行われるニュージーランド代表「オールブラックス」とのテストマッチだ。この目前に迫った大一番については、フォーラム参加者との質疑応答でたっぷり語っているので、当レポートの下部を参照してもらいたい。

■ラグビー普及のため『桜満開プロジェクト』開始?

一方、松田氏、増保氏はラグビーワールドカップ2019日本大会成功へ向け、アンバサダーとしても活動中だ。全国各地でラグビーファンと語り合った「ワークショップ」でも、ラグビーへの熱い思いに触れたという。
 松田氏は熊本のファンから「北海道から沖縄まで日本全国でパスをつないできたボールを使って開会式でキックオフをできないか」というアイデアをもらい、増保氏は「地道な活動が大事」と説く。
「例えばSNSなどを利用したり、ファンの方と密にコミュニケーションをとっていきたいですね。ファンの方といっしょにラグビーを広げていく活動ができるのではないかと思っていますし、ラグビーファンをいい意味で巻き込んでいきたいですね」

さらに増保氏が、ラグビーワールドカップ2019の認知活動として強く提案したのが“ピンバッジ”の着用だ。
「東京五輪招致のときに、いろんな方が招致バッジをつけていて、それがよく目に付きました。これはラグビーも見習った方がいいと思います。結構みなさん、上着につけているバッジには目が行くと思うんですよ。僕もワールドカップのバッジをつけていると、周りの方の目がバッジに行くのを感じるんですね。ですから、いろんな方にバッジをつけていただいて、2019年のラグビーワールドカップが日本で開催されるんですよ、ということを少しでも宣伝していければ、少しずつでも認知が広がっていくのかなと思いますね。それで僕は今、たくさんの方にバッジをお渡ししているんです」

そして、ラグビーを知らない人に対しては、「ぶつかり合いながら相手を尊敬できる。試合後には敵味方チーム合わせて30人同時に仲良くなれるラグビー独特の精神」(増保氏)、「パス回しではなくて、直接響いてくる当たりの激しさを見てほしい」(松田氏)と、コンタクトスポーツだからこそ生まれる魅力をアピールしていきたいとそれぞれ語った。

と、講演も終了間際になったところで、田沼氏がようやく到着。「いろんな人たちに出会えること、ラグビーで人がつながっていくこと」と実体験からのラグビーの魅力を語ると、ただ一人、日本代表のレプリカジャージを着てきたことにも言及。「99年ウェールズでのワールドカップで、街中の人たちがウェールズのジャージを着ていて、街が真っ赤に染まっていたんです。そんな光景を見てめちゃくちゃ気持ちが高揚しましたし、こんな国の代表になりたいと思いました」。そんな強い想いから、日本全国でもラグビー日本代表の試合がある日はみんなジャージを着て一体となって応援しよう!という意味と目的を込めて、ジャージの左胸に刺繍された桜のマークにちなみ『桜満開プロジェクト』を独自で立ち上げて、講演会第1部は幕を閉じた。(※日本ラグビーフットボール協会主導の RED OUT -Project for 2019- と同義)

■ぜひボランティアとしてワールドカップに参加を

休憩を挟んだ第2部では、同じく村上氏が進行役を務め、アンバサダー3名がフォーラム参加者からの質問に答えた。

村上氏「参加者の方からのご質問を紹介させていただきます。まずは、これはいくつかあったんですが、『2019年のラグビーワールドカップにボランティアとして参加したいと思っているのですが、どのようなボランティアがあるんでしょうか?』という質問です。みなさん、選手としてワールドカップに参加したときに、こんなところにもボランティアの方がいらっしゃったということを実感されたと思いますが、田沼さん、いかがでしょうか?」

田沼氏「僕たちの近いところで言うと、身の回りのことをしてくれる人たちですね」

村上氏「チームに必ず世話役の方がついていて、それはボランティアの方なんですよね?」

田沼氏「そうです」

増保氏「また、ありとあらゆるところでボランティアの方がお手伝いしてくれていますね。グラウンドに入っても、いろんなところにボランティアの方がいて、みなさん忙しくされていましたね。ボランティアの方が本当にたくさんいたな、という印象です。そういう方たちがいたから、僕たちはストレスを感じないで行動できたと強く感じていました。表に出ないような仕事でもボランティアの方たちはたくさんいたんじゃないかと思います」

村上氏「例えばプレスセンターで資料をコピーして配布してくれる方や、道案内をしてくれる方もいましたね」

増保氏「そう考えると、ものすごい人数をかけないと十分なおもてなしはできないと思うんです」

村上氏「ニュージーランド大会ボランティア数は5,564人と報告されています。それぐらいの人数がいるので、今回のフォーラムに参加された方の中でもボランティアをやりたいと思っている方もいらっしゃると思いますので、ぜひ」

増保氏「そうですね、ぜひボランティアとしてワールドカップに参加していただきたいですね」

村上氏「はい。次は松田さんに質問です。『91年-92年ごろの花園での松田さんのダイナミックなステップを今でも鮮明に覚えています』」

松田氏「自分も鮮明に覚えています!」

村上氏「(笑)。『そんな規格外のプレーヤーだった松田さんに、これまでにない誰もが驚くような観戦スタイルを考え出してもらいたいと思います』とのことですが(笑)」

松田氏「そうですね、なかなか他のスポーツを見る機会がないので…例えば、みんなで新聞を持って応援するとか…」

(会場からは微妙な笑い)

村上氏「今日は会場の空調が故障していて暑いから、みなさんを涼しくしようとしたんですね(笑)。それでこの質問をされた方は、プレーヤーやボールにカメラをつけて、その映像を出して、新しい角度からラグビーを見てはどうかというアイデアですね。実際、最近は海外でレフェリーがカメラをつけたりしていますよね」

松田氏「じゃあ、蹴っても壊れない高性能なカメラを作るとか、リコーが…」

(リコー所属の田沼氏が困惑したような表情で松田氏を見つめる)

■18歳以上の競技人口を減らさないためには

村上氏「続きましては、『全国規模といえば高校ラグビー。ここに携わった生徒や保護者がその後必ずしもラグビーに関わっているわけではない。その人たちを掘り起こすべきだと思いますが、どうお考えですか?』という質問です。田沼さん、どうでしょう?」

田沼氏「ここはやはり非常に大事な財産の場というか、その後もラグビーを選択してもらえるようにということで、やり方はいろいろあると思いますが、僕らのようなアンバサダーの立場の人間とか、今、各トップリーグのチームが地方に遠征したときは必ず普及活動とかをしているので、その中でラグビーの素晴らしさだったり、ラグビーを続けていくとこういうところに行けるという話をしています。やっぱり今言えるのは、2019年、今の高校生がワールドカップに出ることもできるという話をして、自分の将来を描いてもらった上で、トップリーグの選手たちがいい試合をする、日本代表が勝つということがすごく大事なことなのではないかと思います」

増保氏「それは大阪のワークショップでもあるお母さんがおっしゃっていましたけど、確かに息子さんがラグビーをやっている間だけという親御さんが多いみたいで、だったら息子さんにラグビーをずっと続けてもらうというのが一番いいのかなと思いますね」

村上氏「もしくは、そのお母さんを何とかアンバサダーの魅力でラグビーに引き止めるというのは?」

増保氏「はい…無理でしょう(苦笑)。もうちょっとマシなのを連れてこないと…。現在のアンバサダー6人はおっさんですからね、引退チームみたいなもんですから(笑)。まあ、でも、今ラグビーに情熱を持ってくださっている方とこういう形でコミュニケーションをとっていますが、将来的にファンを増やしていくために、高校の大会とかに我々が積極的に出て行って、そういうご父兄の方とお話をする場を意図的に作っていかないとダメなんじゃないかなと思いましたね。正直、私たちも分からない部分がありますので、ご父兄の方たちともお話してみたいですね。またワークショップなどを通じてつながりを持てますし、こういうところでのネットワークを広げていきたいですね」

村上氏「さて次の質問です。『半沢直樹効果のようにあのドラマを見ていないと話についていけない、ラグビーを見ていないと話の輪に入れない、というような日本人気質をくすぐるようなアイディアはないでしょうか?』。松田さん、どうでしょう?」

松田氏「なかなかハードルの高い質問ですね(笑)。やっぱりそれはメディアの力が一番大きいと思いますね。例えば漫画とかもそうかもしれないですし、多くの人が見るのはメディアなので、それをどう使うか、出させてもらうかだと思いますね」

村上氏「ラグビー漫画が新しく始まりましたし、これでラグビー漫画は現在2つ連載されているんですよね。そうやってラグビーを盛り上げようとする人はいろんなところにいて、仕掛けはちょこちょこ始めてはいるんですよ」

増保氏「僕たちにもアイディアを教えてほしいですよね。機会があったときに、今日いただいた質問を今度は逆にワークショップなどでみなさんに、どう思いますか?って聞いてみたいです」

■全国各地にフランチャイズを置くことは可能か?

村上氏「はい(笑)。続いては、『日本もハカをやってはどうですか』という意見です。試合前に何か儀式をやるというのは、田沼さんはどう思いますか?」

田沼氏「なるほど。何かは分からないですが、そういうのがあったらいいだろうなとは思いますね。ハカをやった後の選手の高揚を見ると、試合の直前にああいう気持ちを盛り上げるものが1つでもあればすごくいいなと思います。ただ、何かというのはパッと思い浮かばなくて、すみません」

村上氏「JAPANでは昔、エイエイオー!ってやったことがあるんですよ。大西鐡之祐さんが日本代表監督のときに、いまひとつ盛り上がらなくてやめたということらしいのですが(笑)。

では、『野球が広まった背景に各地の大きな都市にフランチャイズを置いたことがあると思いますが、ラグビーでも全国の各都市に有力チームを置くというのは実現可能なんでしょうか?』という質問です。例えばリコーがどこか別の都市に行くとか」

田沼氏「会社の事情から言えば、全国に会社の拠点があるので事業所スポーツみたいな形にすれば…なんか行く感じになってますけど、僕の権限では何も決められないので(笑)。でも会社さんによっては、そういうことは可能なのかなとも思いますけど」

村上氏「例えば仙台に1つチームを作ってもいいわけですよね?」

増保氏「そうですねぇ、でも現実的に、それじゃあ東芝さんがどこか違う事業所に行くかといったら、それは無理があるように思います。逆に、仙台にゆかりのあるところが、それは企業スポーツなのか、クラブチームなのかは分かりませんが、そういうところがラグビーチームを持ってくださることの方が現実的だと思います」