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大学選手権決勝は7連覇をかけた帝京大に、初優勝を目指す東海大が挑んだ。
快晴微風の秩父宮ラグビー場で東海SO野口大輔がキックオフ。キックでエリアを進め、セットプレーで優位に立ちたい東海は開始直後からアグレッシブに帝京陣内深く攻め込んだ。
注目のファーストスクラム。帝京は怪我の回復をみてリザーブに回ったHO坂手淳史に代わり、先発出場の堀越康介がいきなりゴールラインを背負ってのスクラム。この勝負を譲れない帝京FW8人が強いプッシュで対抗する。それを予測したかのように東海大はダイレクトフッキングからNO8アタアタ・モエアキオラが右へアタック。スクラムに集中して遅れたFLを振り切り、このゲームのターゲットSO松田力也を襲う。しかし、帝京DFは前に、そして早い集まりでゲインラインを守りきる。ここで最初のアクシデント。このラック周辺でNO8モエアキオラが倒れ、前半2分にして交替となった。
東海大は続くスクラムにこのゲームの勝負をかける。PR平野翔平を中心にプッシュをかけるが、帝京FWも一歩も下がらず意地を見せる。
東海大は負傷交替のモエアキオラに代わったLOテトゥヒ・ロバーツの長身を活かしたラインアウトが安定。容易にボールを確保して攻撃の機会を増やし、SO野口のキックで確実な前進を図るプラン通りの戦い方。一方、帝京大はスクラムからのファーストレシーバーにCTB石垣航平をおき、濱野大輔と両プレーヤーがゲインラインに走りこんでの起点作りから、SO松田のロングキックでエリアを回復する。コンタクトに自信をもつCTB石垣がゲインラインを突破すれば、帝京のFW陣がショートサイドに走りこみ、その裏側ではSO松田が自在にポジションを変えながらDFのギャップを狙う。この時間帯に東海は激しいダブルタックルで対抗し、さらに15人がDFの意識高く横70mをしっかりと守りきった。

ゲームが動いたのは前半31分。東海はLOロバーツを軸に中盤では4人ラインアウトからモールを押して前進し、流れを掴んだ。反則を得るとさらにキックで前進、そしてモール。帝京ゴール前に攻め込んで得たペナルティにもトライへのこだわりを見せる。そしてゴール前5mラインアウトからボールの位置を素早くずらし、一気に前進。キャプテン藤田貴大がゴールに飛び込んだ。(0-5)チャレンジャー東海大の先制トライに歓声が響く。
しかし、その直後に王者帝京が強さを見せる。SO松田が高く蹴りこんだキックオフに、東海はコールしたレシーバーをリフト。帝京はその後方のリアルなボールキャッチャーを狙い、激しいタックルから一気にボールを奪う。ターンオーバーからすぐに攻撃が開始され、LO飯野晃司のラインブレイク、最後はWTB竹山晃暉が左隅に走りこんでトライ。(5-5)
先制された得点にも全く動じず、次のキックオフで的確に準備されたタックルでボールを奪い返す。同点までにわずかに3分。チャレンジャー東海に期待する観衆に凄味を見せた。

後半開始直後も帝京大のラッシュは続いた。
SO松田のキックオフをキャッチした東海FW。その後方から、タテに強いFL磯部裕太が廻りこんで起点を作ろうとタテに走りこむ。それを狙いすました帝京FLマルジーン・イラウアが強烈なタックル。
後半1分にSO松田がPGを決めて、ついに帝京がリード。(8-5)
東海大のアタックのリズムが少しずつ崩れていく。帝京のタックルの強さに押され、ブレイクダウンに人数をかけ始めると攻撃が単調になっていく。蹴り合いの場面でもチェイスのプレーヤーが減り始め、15人が目でボールを追って動きが止まる。後半6分、東海BK野口の蹴り返すキックが浅くなったその瞬間を帝京は逃さなかった。この後半から出場のFB重一生は、カウンターアタックから東海DFのギャップを見つけて一気に突破。帝京の集散が縦に厚いサポートでゴールに迫り、最後もクリーンアウトされたボールを重が持ち込んでトライ。(15-5)
19分、さらに帝京は、東海大陣深くのスクラムでコラプシングを奪うと、次のラインアウトモールからHO堀越が押し込んでトライ。(20-5)ここで勝負を決めた。

帝京はキャプテン坂手に代わって出場のHO堀越が躍動した。東海が勝負を挑んだスクラムに耐え、ラインアウトスローにも安定を見せた。ボールキャリアとしてもタックルに負けない強さで、LO飯野、FLイラウアと攻撃の起点をつくった。また、セットアタックのスターターとしてCTB石垣のゲインライン突破の強さが機能した。石垣の圧力がDFを前に出させず、次のフェイズでSO松田、オーバーラップするWTB竹山の攻撃力をアップさせていく。
そして、チームとしては、決勝においても万全のフィットネスとDF力。どのチームよりも緻密な分析と準備がプレーヤーの自信となり、迷わずブレイクダウンに集中している。怪我によるメンバー変更にも、このチームトータルで1年をかけた準備の厚みが弱さを見せることはなかった。
東海はセットプレーで前半を優位に進めたが、ゲーム80分で帝京に迫ることはできなかった。ボールが動き、フェイズが重なると帝京の15人にプレッシャーを受けた。しかし、ゲーム終了間際に、切り札WTB石井魁がオーバーラップからショートサイドを走って揺さぶり、帝京DFを崩してスペースを奪う。後半40分、狭いスペースでのクイックハンズから、ついに帝京DFを突破したFB野口竜司のトライに観衆は湧いた。(27-17)
帝京と東海が、それぞれの強みを競い合った80分。この10点の差を互いがどう受け止めるのか。2019年のラグビーワールドカップのJAPAN世代を担う大学ラグビーのこれからに期待したい。

(照沼 康彦)


◎東海大学

○木村季由監督

「本日はありがとうございました。今日はもう決勝戦ということで、すべてを出し切ろうというシンプルな言葉で臨みました。しっかり準備して来たことをやり切って、帝京さんの強みを出させないような力をバランス良く出すことを意識しました。ディフェンスでは、とにかくタックルして前に出させないでしっかりやろう、その上でセットプレーの安定が取れれば自分たちの時間が来ると送り出しました。前半は良く我慢しましたが、後半は幾つかのペナルティやミスが出て、わかっていながら対処し切れませんでした。しかし、帝京大学さんに対して学生は自分たちの持ち味を出しました。誇りに思います」

---ハーフタイムの指示は?

「前半はイメージしていることができていたので、そこは継続して行こうと。ただ、後半の入りでバタバタ感があり、ペナルティが続いて、スコアし切れないとゲームが難しくなりました。ディフェンスの成長したところでしたが、あの辺りはエアポケットに入った感じでした」

---キックよりランナーを使った方が良かったのでは?

「できるだけ少ないフェイズで獲ろうと言って来ましたが、上手く整理できていなくて、チャンスのない中での苦しまぎれのキックが後半、出てしまったと思います」

---モエアキオラ選手が開始早々に負傷退場して?

「彼を起点のプレーとして準備していましたが、そのオプションができませんでした」

---帝京大学に勝つには?

「秘策はないと思います。フィジカルに優る部分、ブレイクダウンにかけて行く加速感、勢いが重要です。うちがボールキープできなかった、そこのディフェンスに対しての勢いみたいなもの、プレーの精度になってしまいますが、躊躇のないプレーが大事なカギになると思います」

○藤田貴大キャプテン

「前半はディフェンスを下がらせて、結果、敵陣でラインアウトモールも有効だったと思います。後半は、ペナルティが重なり、自陣に張り付かされ、メンタリティの優位性を出されてドタバタしたところが負けた原因だと思います。ただ、最後に攻め続けて獲り切ったのは評価できると思います」

---どの様なゲームへの入り方を?
「優勝を目指してしっかり勝つことは第一ですが、目の前のプレーは臨機に変わるので、一つ一つのプレーを皆で全力でやり続けてゲームを楽しもうと臨みました」

---セットプレーは?
「前半は味方スクラムのスタメン3番が平野で、マネジメントができました。後半、負傷退場で人が代わり、精度が変わったのが悔やまれることです。ブレイクダウンでは、帝京さんのFWと一進一退でしたが、後半、動き出しが遅れたところを狙われました。フィットネスが足りなかったところです」

---帝京大学との差は?

「前半は想像以上に優位に進めていましたが、後半はミスで慌てて出足が止まったところを思い切って攻められました」

---15点差がついた場面では?

「時間もあるし、自陣に居るとプレッシャーが掛かるので、慌てずにまず敵陣へ行こうと言いました。キックチェイスが甘かったので、そこが良くなかったと」

---キックオフでのミスは?

「後半の入りで、集中力が一瞬途切れ、リフトのカバーが一瞬遅れてしまいました。帝京さんは一つ一つのプレーに皆が反応して、一気に入って来る集中力を見せていました」

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◎帝京大学

○岩出雅之監督

「久々に厳しい決勝戦で、重みのあるゲームを体験できました。勝利できて嬉しく思います。7連覇も嬉しいです。1年間やってきたことを学生たちがしっかり出して、勝利で終われたことは良かったです。内容は相手の動きと我々の動きの重なりなので。今週、仕上がって、これで終わりというところで、森谷の怪我の報告がありました。ただ、明治の田村君のように試合中の怪我でなく、1日あいていたので動揺はありませんでした。優勝は森谷の怪我で確信していました。今年は帝京は嬉しい反省点が多く、皆さんの関心を感じて、やりがいと共に、もっと自分たちは成長して行かなくてはいけないと思いました。相手の頑張り以上に頑張ることが勝利への道です。監督の我々がもっと成長して、良い指導と上手く学生を生かすアプローチをしたいと毎日思っています。この勝利で、学生に向けて新しい積み重ねができました。日本選手権は何人か怪我人も出ているので、一呼吸置いて、学生代表として頑張りたいと思います」

---ハーフタイムの修正点は?

「勝ちにこだわり過ぎているのではないかと。スーパーエキサイトしているが、もっと冷静さが必要で、もっと厳しさを楽しもうと。いつもより、ちょっと力が入っていました。森谷が抜けたところで金田も調子を崩していたので、3人いないところで、皆にそれを感じさせて力ませてしまいました。(松田)力也は試合前に泣いていて、多分入っちゃって、笑わせようとしても笑わないんです。スタンドオフが力みすぎると良くないですね。リラックスと修正をかけました」

---後半入りが良かったが?

「集中力高い前半のクロスゲームが、彼らの集中力を高めて、少し力が抜けて、野球やゴルフで言えば、良いスイングができたのではないでしょうか」

---7連覇の秘訣は?

「能力的に必要なのはフィットネスとスキルです。状況判断する情報をたくさん集約する力も。年間通して15人で固めてしまうと良くありません。15人より20人、戦術の礎さえ作っておけば、5試合目で縦の強さも横の動きも完成できるかなと思います。指導者として、学生が生きる力を作っています。今日で言えば、必ず東海さんのFWは走れなくなってミスマッチが起こると。いかにミスマッチを作り出すかだと」

---新日鉄釜石の7連覇と比べて?

「僕は野球の監督でなく、学生スポーツの中でやっているだけなので。連覇も大事ですが、4年間、1年間の努力で積み上げることも同様です。勝利も大事だが、社会人になっても生きる力を身に付けてもらいたいです。連覇は積み重ねで、彼らが持っている1年間のモチベーションが大事です。釜石とも神戸とも違いが多いのが学生です。学生は夢を持つことがエネルギーになるのです」

○坂手淳史キャプテン

「本日はありがとうございました。今日は勝つことと共に、相手のプレッシャーを感じて、二つのことを楽しもうと送り出しました。嫌な時間帯に身体を張ることができたので、この勝利があると思います」

---ハーフタイムには?

「ゲームに入る時、不安なく、今日のメンバーがベストと思っていました。東海さんに前へ出られた時、ペナルティを取られましたが、声を出せないもどかしさを感じました。ハーフタイムにはしっかりコミュニケーションできて、皆が良い顔をしていて気合いが入っていたので、何も言いませんでした。ちょっと気負っていたのが(松田)力也で、一人でやるんじゃなくて、皆と一緒に思い切りプレーしてこいと送り出しました」

---交代で入った時は?

「仲間にやっと来たかと言われて。僕が入った時はトライを決めて乗っている時間帯でしたので、流れを変えないで身体を張り続けて行こうと言いました」
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