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日本ラグビーの今季最終戦は、社会人と大学チャンピオンの一発勝負となり、秩父宮ラグビー場でパナソニック ワイルドナイツと帝京大が対戦した。

先週のトップリーグLIXIL CUP2016決勝で東芝ブレイブルーパスとの激闘を勝ち抜いたパナソニックは、勢いそのままにゲーム序盤から一気に攻めた。キャプテン堀江翔太を軸にFW8人の素早いボールタッチが帝京DFに的を絞らせない。ボールキャリアのショートステップでタックルの軸をはずすと、わずかなギャップをこじ開けて前進を図る。LOヒーナン ダニエルの俊敏な動きとオフロードパスから帝京DFを突破すると、BKラインに加わったHO堀江のパスワークでビッグゲイン。最後はFB北川智規がゴールに走り込んでトライ。
続く5分にはラック周辺を右に、左に崩し、帝京DFの動きが止まった隙をSH内田がアタック。そこに帝京タックルが寄せられた背中越しにWTB児玉健太郎が狙い澄まして走り込んだ。(14-0)
この開始からわずか5分でのノーホイッスルトライの連続は、トップリーグを勝ち抜いた王者の意地でもあり、大学チャンピオンにとってはいきなりのカウンターとなった。日本代表としてワールドカップで日本ラグビーの躍進の核となったキャプテン堀江のリーダーシップは、パナソニックの慢心を微塵も感じさせず、このシーズンのどのゲームよりも厳しい立ち上がりで、大学チャンピオンの勝負へのプランを崩壊させた。帝京大が試みるタックルは激しく、気迫は負けてはいなかった。しかし、ボールに挑んでいくタックラーへのスイープのきめ細かさ、2人目、3人目の寄りの早さは厳しく、相手がボールに触れることのできない圧倒的ブレイクダウンの制圧でこのゲームへの希望を奪いとった。(前半21-3)

パナソニックは後半も確実な勝利への執念を緩めることなく、開始1分にSH内田、7分にはCTB林のトライで勝負を決めた。(35-3)
この日の観衆は、どの時間帯にも決して自分たちのスタイルを崩さないパナソニックのラグビーに息を飲んだ。セットプレーで前に、DFから相手にプレッシャーをかけ、狙ってボールを奪う確立されたスタイル。そして、大学王者との戦いにもポゼッションだけにこだわることなく、ギャップが見当たらなければテリトリー獲得にも冷静。確実な勝利だけを目指したパナソニックのマインドセットは完璧であり、そこには帝京大の個々の強さを消すためのリスペクトをベースに感じることができた。

帝京大は前半13分、21分にFWの核であるLO飯野、金が負傷交替となり、パナソニックFWのタックルに苦しんだ。HO堀越康介、FLマルジーン・イラウアらの突進で何度かゴール前に迫ったが、複数のタックラーが襲い掛かると最後にボールを奪われた。
ゲーム中盤では、ボールの蹴り合いからスペースのギャップを狙った帝京大BKのカウンターアタックが観衆を沸かせた。この日の尾崎晟也は、スピードに乗ったランニング、相手DFのギャップにランナーを走らせるパスでチームを勢いづかせた。SO松田力也、WTB竹山晃暉とともに、次世代JAPANの魅力を持ったクレバーなプレーヤーだ。
また、FW姫野和樹、キャプテン坂手淳史のコンタクトでのインパクトは、度々パナソニックのタックルを押し下げた。そして、この日DFではBK濱野大輔、石垣航平、矢富洋則も猛タックルの連続。特に石垣の相手アタッカーのスペースを奪うスピードとタックルからスイープに挑む激しさは、観衆の目に焼き付いた。

試合終了間直前、一つの固まりとなって帝京15人が前に出た。ゴール前ラインアウトからモールで押した帝京は、パナソニックの壁のど真ん中を突き破る。そして、続くスクラムでパナソニックのプッシュを負けず押し返し、サイドを攻めたNO8ブロディ・マクカランからWTB竹山にボールが渡る。竹山は空中で絶妙のボディコントロールからコーナーフラッグをすり抜け左隅にトライ。(49-15)

ワールドカップイヤーの魅力満載のシーズンが終わった。イングランド大会における日本代表の大活躍にラグビー人気は復活し、帝京の大学7連覇、そして最後はパナソニックの実力通りの日本一に納得の感が漂う。
パナソニックの確立された強さと帝京大のひたむきなチャレンジ。このゲームの中には、今日の結果だけでない、次世代JAPANへの成長の糧がたくさんあることを実感できる時間だった。

(照沼康彦)


◎帝京大学

○岩出雅之監督

「頑張ったけれど、まだまだ力が足りなかったゲームでした。学生のプレーと試合の中身ではもう少しというところもありましたが、まだまだが実感できました。学生たちも、もっと納得していれば、もっと爽やかな笑顔をしていると思います。顔が曇っているわけではないが、もう少しやれたらなあと思います。このゲームが終わりましたので、4年生は新しい世界に行くことになりますが、長いシーズン、最高の舞台でやらせてくれたことに感謝したいと思います」

——立ち上がりのノーホイッスルトライ2本と、後半立ち上がりのトライが痛かったが?

「そのとおりだと思います。夏にパナソニックさんと試合をさせていただいてから、社会人とはやっていません。立ち上がりは一番難しいです。あまり、始まる前から力を入れさせても良いコミュニケーションはとれないですし、試合を進める感触の中で自分たちの良いフィーリングをつかんでもらいたかったのですが。今日は立ち上がりは上手くやれるかと思っていましたが、細かなところは分からないですが、難しかったです。ゲームを積み重ねたチームとポカッと開いたチームの隙かなあと思います。上手く行かなくても、立ち続けて行こうぜと学生たちを送り出しましたが、達成感の無さが、学生たちの悔しい表情に表れていました」

——良かった点は?

「結構、たくさん、良かったところがあります。絞るのは難しいです。素質を持った選手も、経験ある選手も、普通の選手も共にしっかり頑張れる集まりで、キャプテンもしっかりしたリーダーシップで引っ張ってくれました。暮れからは、久しぶりの敗戦、キャプテンの怪我、森谷の怪我があり、逆に、そこで奮起するメンタリティーで逞しさを感じる学生たちだったかと思います。そういう精神的なことや、トレーニングで一人一人が心技体をつくってくれて、後輩たちが自分自身を含めて努力していく礎を残してくれました。一言言いたいのは、堀江やバーンズは頑張りすぎです(苦笑)。彼らの姿、パナソニックさんの空気感、先週と同じではないが、キャプテンもバーンズ選手も学生相手にチームを引き締めて、全力で臨んでくれました。我々は力不足だが、学生たちにとって次につながる、チャンピオンとしての戦いぶりに敬意を表します」

○坂手淳史キャプテン

「よろしくお願いします。まだまだできることがあったのではないかと反省しています。グラウンドであったことは、すべて成長の糧になると思いますが、正直、悔しいです。その悔しさの中から、何かが生まれ、さらに強くなれると思います。後輩たちや、春から入る1年生に託していこうと思います。ほとんどのチームが活動を終わらせた中、このグラウンドに立てたことに幸せを感じています。帝京大学はここからが勝負だと思います。行動し直して、練習して高めて行きたいと思います」

——前半、鬼気迫る仲間のタックルがあったが?

「まず、このゲームを楽しもうと、その楽しみを作れるディフェンス、タックルから入ろうと言って送り出しましたが、一人一人がタックルに危機感をもって取り組んでくれました」

——チャンピオンチームの違いは?

「身体を当てた感触としては、行けるという部分と、少し強いなという部分がありました。ゲームの中で、タックルが決まっていたのに、前へ出られてしまい、コンタクトの巧さを感じました。ディフェンスをさらに上げていかなくてはいけないと思います」

——夏の対戦と比べて?

「夏とは違いますね。一人一人の前へ出る力で、前半2本、後半1本、前へゲインを重ねられたと思います」

——最後に、スクラムからトライを奪ったが?

「皆が獲ってやろうとやって来た練習どおり、全員が行きました。嬉しかったですけど、もう1本獲ろう、と声が出ていましたので、そちらに集中していました」

◎パナソニックワイルドナイツ

○ロビー・ディーンズ監督

「今年はありがとうございました。我々としては、今年を締めくくる非常に良い試合ができたと思います。非常にタフで良い展開のあるゲームでした。両チームから、素晴らしいプレーが見られたと思います。そして、帝京大学さんの気迫は素晴らしく、常に我々の選手に展開の速いプレーを仕掛けて来て、試合終了まで我々に挑んで来る様子を見せてくれました。日本のラグビーは、この先も非常に良い方向に向かうと確信できる試合でした」

——帝京大学はトップリーグの中でやって行けるレベルなのか?

「今日の帝京大学さんのパフォーマンスがそれを証明しました。充分にトップリーグでやれるラインブレイク、キックチェイスをされたと思います。ただ、毎週やっていけるか、と言うと、敵のチームは毎週毎週分析して来るので、難しい部分はあるかもしれません。ただ、今日の帝京大学さんの試合を観て、不満を覚えて帰った人は一人もいないと思います」

——今日はバーンズ選手が80分出たが?

「ベリックは少し、小さな子供みたいに喜んで興奮していました。LIXIL CUPの準々決勝から観ているだけだったり、リザーブだったりして長く試合をする機会がなかったので、フラストレーションが溜まっていたと思います。だから、今日は楽しんでくれたと思います。JPピーターセンも、良い働きをしてくれました。彼の3年間の貢献は非常に大きかったと思います。"JPおじさん"と最後の写真を撮って、選手たちは喜んでいました。山田も、来週はシドニーでセブンズの試合をしているでしょう。80分しっかり心肺機能を高めて、セブンズに向けた良い準備ができたことでしょう。翔太はこの後、サンウルブスで頑張りますが、活躍した1年だったと思うし、これからも良いプレーを見せてくれるでしょう。それと、ライオンズが来る日は、寒い日になるように願っています(笑)」

○堀江翔太キャプテン

「お疲れ様です。自分たちは出遅れることがあるので、今日はロケットスタートを意識して臨みました。帝京大学さんの個々の強さのせいで、上手いことゲインを切れずに、あれだけ準備をしてきても前へ出ることができず、ディフェンスも脅威でした。帝京大学さんは、学生レベルではありませんでした。学生たちがどう戦うのか理解しながらも、相手は学生だと思うな、とチームに話してきたことが良かったと思います」

——どのくらいの気持ちで臨んだのか?

「いつもより結構いきましたよ。いつもより上げないと、帝京大学さんは挑戦者でメーターを上げやすいし、観客もそう。少しでも抜けると、言わば僕らはヒール(悪役)。15人がしっかりしないと会場に飲み込まれるから、簡単なプレーをせず、しっかりしたプレーをしようと言ってきました」

——良いファイトだったが?

「僕に、結構皆(選手)が来たんで、こりゃたまらんなと思っていて、それに熱くなりすぎて自分から行っちゃった部分があって、反省しています」

——初っ端のノーホイッスルトライ2本は?

「絶対に流れが向こうに行く時もあると思っていて、実際にそうなりましたが、帝京大学さんに接戦に持ち込まれると厄介なので、前半は意地でも点を取られないぞ、というメンタルを選手一人一人が持ってくれたので、とても嬉しく思います」

——せめぎ合いでは?

「ブレイクダウンで絡めるところは絡めましたが、もう少し、判断して良かったと思います。もう少し質を高めて、次のシーズンには上げて行きたいと思います。スクラムはいけている、と稲垣が言っていて、向こうはアングルをつけてきましたが、しっかりプレッシャーを掛けられたと思います」

——先週より激しさを感じたか?

「相手は学生でも、グラウンドに立てば敵は敵。あんまり学生という気はしないし、この1週間どう準備するか、メンバー以外の選手が変わらずガツガツ来てくれて、良いモチベーションになりました」

——母校の帝京大学との試合だったが?

「まあ、嫌ですよね(苦笑)。向こうには僕を良く知ってる相馬さんもいるし。母校に失礼のないように準備したつもりです。FWがあれだけ強いので、BKはどうなるか、こちらのFWが止められたらBKはどうするか。もっと向こうが上手くできれば、負けてたんですかね」

——トップリーグ決勝の翌週に、日本選手権というスケジュールは?

「選手としては正直、こういう方が良いです。トップリーグで上げて、また日本選手権で上げるのは、身体の負担、メンタルの負担があります。トップリーグのレベルが毎年上がるので、選手からすると、翌週の方が良いですね」