運営責任者が語るラグビーワールドカップ2015
19年日本開催への夢と課題は?

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム ラグビーワールドカップ2019に向けて」の第61回が2月25日、東京都港区のみなとパーク芝浦内「男女平等参画センター(リーブラ)ホール」で開催された。今回はラグビーワールドカップ2015イングランド大会・2019日本大会運営責任者アラン・ギルピンさんを招き、「運営責任者が語る、ラグビーワールドカップ2015イングランド大会」というテーマで講演が行われた。

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■大きな成果を残したイングランド大会

講演は昨年のラグビーワールドカップ2015イングランド大会のハイライト動画の上映から始まった。日本は南アフリカへの歴史的勝利を含む3勝、一方イングランドは開催国としては史上初めて予選プールで敗退する、という結果に終わった。これを踏まえ、ギルピン氏は「日本人の皆さんはわれわれイングランド人よりもいい思い出を持っている人が特に多いと思います」とジョークを交えて会場を笑わせた。

世界のラグビーを統括するワールドラグビーは、その前身である国際ラグビー評議会が1886年に発足、その後1987年に第1回ワールドカップが開催され、ラグビーという競技とともに発展した。WRはワールドカップ以外にもユースや7人制、女子も大会を運営している。2009年から16年までの間に3億3000万ポンド(約530億円)の投資を行うことができたのも、ワールドカップの成功があったからといえる。

ワールドラグビーにとって大会の成功とは何を意味するのか? この問いについてギルピン氏は「参加チーム同士が切磋琢磨(せっさたくま)し、非常に拮抗(きっこう)した試合が見られること」と述べた。15年大会でいえば、日本や米国、フィジーといったチームがスクラムで好成績を残したのがその象徴であり、ワールドラグビーが行ったコーチング強化、競技力向上プログラムの成果ともいえる。

■スタジアム以外でも楽しめる開催都市に

開催都市において大会を楽しめる場所はスタジアムだけではない。

「街に設置されるファンゾーンが重要な役割を果たす」とギルピン氏は考えを明かした。満員、チケット完売が見込まれる試合では、試合のパブリックビューイング会場として、多くの人々の“ラグビー経験”を創出するほか、開催前から「街に大会がやってくる」というブランディングにもつながる。

試合開催日のファンの導線も重要な役割になってくる。世界中からやってくるラグビーファンは高揚した気分で、チケットを握りしめてスタジアムへと歩みを進める。15年大会の開催都市のひとつ、ニューカッスルではその街の象徴であるタインブリッジを1年間かけて装飾した。その結果、多くのラグビーファンにその街のアピールに成功した。

講演の締めくくりとして、嶋津昭事務総長をはじめとするラグビーワールドカップ2019組織委員会の職員の顔写真がスクリーンに上映され、ギルピン氏は、「15年大会の日本代表の躍進によって、19年大会の成功の要因が増えた」と触れ、19年大会の成功へ期待を寄せた。

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■15年の反省を日本開催で改善へ

講演に続いて、ラグビージャーナリスト村上晃一さんと会場からの質疑応答が行われた。

——イングランド大会でうまくいかなかったことは?

「イングランド代表の成績です(笑)。大会には人によっていろいろな側面、見方があると思います。まさに今それらを19年大会の組織委員会と共有しています。15年大会の組織委員会の方々にも一緒に日本に来てもらい、うまくいかなかったところとその改善案について共有しています」

——15年大会でホスト国が負けた影響は?

「昨年の大会は初めてホスト国が決勝トーナメントに進めませんでした。準備を行う上では、イングランドが負けることも含めて、さまざまなことが起きる、ということを頭に入れていました。幸い、イングランドのファンは興味を失うのではなく、ほかのチームへの応援にシフトして、興味を持ち続けてくれました」

——イングランド大会のセキュリティーはどうでしたか?

「大会期間中、かなりの時間と労力をかけてセキュリティーに関する準備をしました。大事なのは、相手に対してこの大会がすきを見せないことでした。ただ、大会終了後わずか2週間後にパリでテロが起きました。そう考えると、ワールドカップの間に何も起きなかったのは、幸運であったと認識することも重要です」

——五輪、パラリンピックではレガシー(遺産)という話題になりますが、ラグビーワールドカップはどうでしょう?

「19年開催は、日本ラグビー協会が主体となって計画しています。15年大会では組織委員会に取り組んでいただきました。すでに成果が出ているものもあります。ラグビーに関わる人、選手だけではなく審判やボランティアも含めて増加しています」

——日本のスタジアムの周りにはパブが少なく、ビール好きのファンが満足するか心配です。

「日本はパブ、居酒屋などビールを飲めるところがあります。開催都市でファンが歩く道のりなど、周囲の雰囲気は非常に大事です。歓迎ムードがそこにあって、ファンの方たちが歩きながら、スタジアムに向かいながら楽しめる環境というのは、日本らしいものが作れると思っています。

おそらく世界のスポーツファンでラグビーファンが一番のビール好きです。15年大会は多くのサッカー専用競技場を使用しました。過去の経緯から、サッカーではスタジアムでビールが飲めない、というルールを作っているところがあります。ただ、ラグビーファンはビールを片手に、相手国のファンがいるのに何のトラブルもなくビールを楽しみながら試合を見ていた。これはサッカーファンにとって大変な驚きでした。ただ、それによる問題はないと感じています」

■あなたにとってラグビーとは?

「大きなテーマです。ラグビーは(規律やリスペクトといった)バリューを持っています。そういったものによって選手だけでなくファンも集めることができる、そのようなスポーツだと思います。私も若い頃にプレーしていました。そんな魅力があるからこそ、今もラグビーに関わり続けて、その中でたくさんの大事な友人ができ、いろいろな恩恵を受けています。本当にすばらしいスポーツです」