いきなり豪州を追い詰めて世界を驚かすも5戦全敗

アタックの可能性とDFの課題を消化し南アで白星を

12月2.3日、HSBCワールドラグビーセブンズシリーズ(WRSS)第1戦のドバイ大会が行われ、2シーズンぶりにコアチームの一角として参加することになった日本は、いきなり初戦で昨季総合4位の豪州に対して互角の戦いを見せるなど、随所に目を見張るパフォーマンスも見せたものの、プール戦3試合とチャレンジトロフィートーナメント2試合の計5試合を戦い全敗。

15位で大会を終えた。

 

昨年も招待チームとしては参加したものの、コアチームとしては2年ぶりに戻ってきたWRSS初戦のドバイ大会。

11月1日に就任したばかりのダミアン・カラウナヘッドコーチ(HC)に率いられた新生・男子セブンズ日本代表は、いきなり世界を驚かせるパフォーマンスを見せた。

「新しい選手も多いが、大事なポジションにはキープレーヤーたちが残っている。継続性もあるし、その一方でエキサイティングな若い選手もいるようだ」

カラウナHCは現在の豪州チームをそんなふうに分析。「ラック周辺でフィジカルに対抗していかないといけない。キックもうまく使って相手を下げていくことも重要」というのが試合のポイントと考えられていた。

 

最終的に、豪州はカップ準々決勝でウェールズに苦杯をなめたものの、続く5位決定トーナメント準決勝でニュージーランドを破るなど5位で大会を終えることになるのだが、相変わらずコンスタントな力を発揮する強豪に対して、日本は後半4分に飛び出した、この試合2本目となる小澤大のトライ(レオン・エリソンのゴール成功)で5点差に迫り、試合終了間際には相手のペナルティから敵陣深くでのマイボールラインアウトのチャンスをつかんで豪州を追い詰めた。

金曜日の午前中から「ザ・セブンズ」と名付けられた、2009年のラグビーワールドカップセブンズのために作られたドバイ郊外の砂漠の中にあるスタジアムにかけつけていた熱心なファンの間では、いきなりのセットアップへの期待感が高まったが、最後の日本のアタックでミスが出て、万事休す。

惜しくも14−19で敗れた。

「自分たちのプレースタイル、すなわち選手たちがプレーしたいスタイルを確認すること。そして、世界の強豪に対して、できうる限りハードにトライしていく。それが、選手たちに求めていること」

大会前に、ドバイ大会で目指すことに関して、そう語っていたカラウナHCだが、リオデジャネイロオリンピック出場組はゼロで、過去にWRSSでプレーした経験を持つ選手も3人のみという、若いチームはいきなり新指揮官の期待に応えるパフォーマンスをしてみせたと言っていいだろう。

カラウナHCも豪州戦後は「集まって1週間のチームの初戦としては、とてもハッピー」と、勝利という結果こそ出せなかったものの、チームのパフォーマンス自体には満足感を表明していた。

 

「我々がこのステージで勝つためにはボールを動かすことは絶対。たくさんのフレアー(ひらめきあるプレー)が出せるようにトレーニングしてきている」

 

国内合宿、ドバイ入りしてからの直前練習も含めて、現実的にはほぼ1週間の準備期間しかなかったものの、HCがチームに浸透させようとしている戦い方が開花したと言ってよかった。

 

特に、前述の豪州戦の後半4分に飛び出した2本目のトライは、このチームの持っているポテンシャルの高さを十分に感じさせる素晴らしいものだった。

 

マイボールスクラムからスペースを探すようにグラウンド中央でボールを回した後、パトリック・ステイリンが右タッチライ際のレオン・エリソンへきれいにキックパスを通し、さらにエリソンも相手のDFラインの後ろのスペースを意識してスピードを上げた小澤の走りに反応して、キックパスを中央へ返す。豪州DFに競り勝った小澤がインゴール入りするのとほぼ同時に絶好のバウンドが目の前に転がり込み、そのまま押さえ込んだ。

前半4分のエリソンのトライなどで前半はリードするなど、ケニアとも一進一退の熱戦を繰り広げた photo by Kenji Demura 前半4分のエリソンのトライなどで前半はリードするなど、ケニアとも一進一退の熱戦を繰り広げた
photo by Kenji Demura[/caption]

「パスの回数を多くして、理想はそれでトライをとる。コンタクトをなるべくせずに、きれいな形でトライまで持っていく」

3人しかいないWRSS経験者でキャプテンを務める鶴ヶ崎好昭は、カラウナHCの下で作り上げようとしているラグビーに関してそう説明する。

内側のスペースを攻めながら、いったん外にキックパスを通した後、さらに内側にキックパスを返して取ったこのトライも「サインは全然なくて、ホント自由な感じ。各自の判断にみんなで反応する」(同キャプテン)という、このチームの良さがいきなり結晶したものだった。

小澤の2本のトライなどでいきなり豪州を追い詰めて世界を驚かせた新生・男子セブンズ日本代表 photo by Kenji Demura 小澤の2本のトライなどでいきなり豪州を追い詰めて世界を驚かせた新生・男子セブンズ日本代表
photo by Kenji Demura[/caption]

 

中野、韓などの大学生も自分らしいプレーで奮闘

 

鶴ヶ崎キャプテン、小澤という2人のトップリーガーに、帰化が間に合っていればリオオリンピックメンバー入りしていた可能性も十分あったジェイミー・ヘンリーという3人のWRSS経験者を除けば、このレベルでプレーでするのは初めての選手ばかり(6人の大学生と3人のトップイーストリーグ所属の選手)。

当然だが、ほとんどのメンバーが「まだセブンズのフィットネスがあまりない」(ヘンリー)状態だったのも確かだろう。

 

結局、いきなりの好パフォーマンスで世界を驚かせた新生・男子セブンズ日本代表だったが、初戦の豪州戦が今回のドバイでのベストパフォーマンスになってしまう。

 

「1戦目のオーストラリアでいい入りをして、2戦目のケニアもけっこうつなげた。3戦目の入りが大事だったが、いきなり開始10秒とかで取られて、ガクッとなった」(鶴ヶ崎キャプテン)

 

豪州戦に続くケニア戦も前半を7−5で折り返した後、後半先に攻め込んだ日本は鶴田桂樹がケニアゴールに迫るが、あと一歩届かずターンオーバー。直後のPKからケニアに一気に走られて逆転されて惜しい試合を落とした。

 

豪州戦も、ケニア戦も日本が攻め込んで、取り切ってしまえば、完全に試合の主導権を握れる状況で自分たちのミスやペナルティでチャンスを逃し、逆に一気に相手にトライまで持っていかれるパターンでの敗戦。

 

「相手は経験のある選手が多い。ここというところでのプレーの精度、ミスのなさなど、やはり優れていた。1枚も2枚も上手だった。日本はまだ積みきれてない」

数少ないWRSS経験者のひとりである小澤の認識通りであることは間違いないし、現在の経験のないメンバーにそこまで望むのは酷といえば酷だっただろう。

 

そして、鶴ヶ崎キャプテンの述懐とおり、プール最終戦の対フランス(0−35)、大会2日目のチャレンジトロフィートーナメントの2試合(対アルゼンチン=14—31、対ウガンダ=19—26)は日本の悪い面が目立つ内容になってしまう。

 

経験がほとんどないメンバーが多い上に準備期間が短かったという厳しい条件ゆえ、致し方ない面もあるが、キックオフがほとんど取れずに、しかもそのままトライまで持っていかれるパターンを繰り返した。

「いまの自分たちにはキックオフの絶対的なうまさはない。それでも、相手のタップしたボールに反応したりという部分をもっと磨いていかないと」(小澤)

 

一気にトライまで持っていかれたのは、単純なタックルミスも目立ったから。

「確かに準備期間は1週間だけだったが、彼らはラグビープレーヤーのはずだ。タックルの仕方は知っているはず。もちろん、テクニックの問題もあるが、一番はタックルをしたいのかどうか」と、カラウナHCもDFに関してはて厳しい評価となる。

 

ドバイでの最終戦となったウガンダ戦で、本来格下であるはずの招待チームからいいかたちで3トライを奪ったものの、この試合でも全くキックオフが取れず、走力のあるウガンダのランナーに走り切られるかたちで4トライを奪われ、19—26で敗れた。

「DFはまだまだだが、アタックはゆっくりだが、目指す方向に進んでいる」(カラウナHC)

アタックの可能性とDFの課題。

WRSS初戦でチームとして取り組んでいくべき方向性が明らかになったのは、いいことだろう。

しかも。ウガンダ戦での2トライを記録した中野将宏、思い切ったアタックでチャンスをつくった韓尊文など、世界トップレベルの中で生き生きと自分らしいプレーを披露した若手が得た経験こそ何物にも変えられない。

 

「最初は圧倒されていたが、最後の2試合は自分らしいプレーができた」(中野)

ウガンダ戦で2トライの中野。試合を重ねるごとに自分らしいプレーができるようになり自信をつけた photo by Kenji Demura ウガンダ戦で2トライの中野。試合を重ねるごとに自分らしいプレーができるようになり自信をつけた
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「アジアシリーズで勝てなくて、(WRSSでは)『できるかなあ』と不安だったが、オーストラリアとかにもいい試合ができて自信になった」(韓)

フランスには0ー35で完敗。5試合中4試合で先発した韓。アタックでは通用する部分も多かった photo by Kenji Demura フランスには0ー35で完敗。5試合中4試合で先発した韓。アタックでは通用する部分も多かった
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「もちろん勝てなくて悔しいなというのはある。それでも、経験のないメンバーがよくやってくれた。若いメンバーが多くてエナジーがあったし、純粋に楽しかった。だからこそ、勝たせてあげたかった。でも、ここで終わりじゃない。南アフリカがある。きっと、1勝したら、いい流れになると思うので、課題を修正して、結果を出したい」(鶴ヶ崎主将)

アルゼンチン戦(14ー31)での鶴ヶ崎主将。チームを勝たせられない責任を感じていた photo by Kenji Demura アルゼンチン戦(14ー31)での鶴ヶ崎主将。チームを勝たせられない責任を感じていた
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アタックの可能性をさらに広げ、しっかりしたタックルでDF力を高める。

南アフリカでの白星につながった時、ドバイでいきなり世界を驚かせたことはさらに意味があるものになる。

最終戦後の円陣ではカラウナHCからタックルに関するダメ出しも。課題を修正して南アフリカで初勝利を目指す photo by Kenji Demura 最終戦後の円陣ではカラウナHCからタックルに関するダメ出しも。課題を修正して南アフリカで初勝利を目指す
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text by Kenji Demura