拠点の選定がパフォーマンスを左右する
ラグビーRWC公認キャンプ地の役割とは?

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と公益財団法人日本ラグビーフットボール協会(JRFU)が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年、ラグビーワールドカップ(RWC)に向けて」の第68回が12月8日、東京都・港区の麻布区民センターで開催された。今回はRWC2019組織委員会事業局事業部長の伊達亮氏を招き、ラグビージャーナリストの村上晃一氏の進行のもと、「ラグビーワールドカップ2019の公認チームキャンプ地について」をテーマに講演が行われた。

■チームサービス担当部門の重要性

講演はまず日本で行われるRWC2019の大会概要とともに、参加する20チームの受け入れ体制の説明から始まった。19年9月20日の開幕から11月2日の決勝までの長期間、日本全国12都市で全48試合が行われるこの大会、文化も言葉もラグビースタイルも異なる20チームが日本に集結し、世界の頂点を目指す。

伊達氏はRWCを「ラグビー界最高峰の大会、世界最高のラグビーのお祭り」と表現し、各チームがベストパフォーマンスを発揮し、海外からのチーム関係者全員が満足感を持って日本を離れることが大会の成功には不可欠と強調した。

各チームの受け入れについては、組織委員会の伊達氏が所属する事業部内にあるチームサービス担当部門が担っている。その役割としては「チームサービス」という言葉通り、各チームに対してサービスを行うことで、「各チームがベストコンディションで、4年間積み重ねてきたものをすべて出せるように、ベストな環境を提供するために努める」ことが重要と説明する。

公認チームキャンプ地については宿泊ホテル、練習グラウンド、屋内練習場、プールなどの必須設備が整っていることが必須条件。ラグビー選手のトレーニングは一般市民とは異なるため、ラグビーに適した用具を準備することも必要となる。「かつて準備したトレーニング機材では軽すぎて、片方90キロのダンベルを用意してくれという要望も出ました。『自チームのスクラムハーフでも持ち上げれば』と冗談も出ましたが…」といった実体験も交えつつ、チームに合わせた体制を組む点を強調した。チーム側のすべての要求を実現できるわけではないが、チーム側にも理解を求め、受け入れ側にも努力してもらい、選手が過ごしやすい環境を調整して実現していくことが腕の見せどころと話した。

■チームとの相性がもっとも重要

チームにとっては日本滞在中にもっとも長い時間を過ごすのが、そのキャンプ地になる。そのため、練習から調整、リラックス面なども含めて快適な環境が試合でのパフォーマンスにつながり、さらには試合を観戦するファンの満足度にもつながることを強調。そして公認チームキャンプ地の設備がRWCだけにとどまらず、レガシーとして次の世代につながるように、各自治体とパートナーシップを組んで準備していきたいと伊達氏は語る。

あるチームが宿泊ホテルで最後に撮影した笑顔あふれる集合写真をスライドで映しながら、「公認チームキャンプ地を離れるとき、みんなが笑顔で収まった写真が20枚残れば、それが大会の成功につながると思います」と講演を締めくくった。

村上氏との対談の中ではより具体的な点に触れ、公認チームキャンプ地の選考プロセスや選考ポイントを紹介。「チームにとってはいろいろとスタイルがあるので、最終的には各チームがどのポイントを重視するか次第」と一律の基準ではなく、チームとの相性がもっとも重要と説明した。

公認チームキャンプ地の募集は12月22日まで行っている。各自治体にとっては設備面をはじめ不安要素は多いものの、「ただ負担だけが増えるものではなく、確実にその後に長く続くやりがいのあるチャレンジ」と強調して第1部を終えた。

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■ハード面だけでなくソフト面も重要

休憩を挟んで行われた第2部では質疑応答が行われ、施設面の細かい条件から受け入れる側の心構えなど幅広い質問が飛んだ。以下は質疑応答の要旨。

——公認チームキャンプ地選定において一番のポイントは?

「個人的には、先ほども言いましたが相性ですね。『五つ星ホテルがあって、最高級のピッチがあって、すべてそろっています、だから絶対選ばれます』ということではないんですね。チームが視察して、そのチームが求めているものがそこにあれば、そこが最高の場所になります。そして、それはハード面と同時にソフト面が大事です。チームに寄り添いながら、付くときは付く、離れるときは離れるという気持ちも重要かなと思います」

——公認チームキャンプ地決定に、その場所のラグビー熱は重要?

「そこも相性みたいなもので、視察した関係者が、『ここにはラグビーが根付いている』と感じれば、決め手になるかもしれませんが、なかなかそこまで左右するポイントになることはないと思います」

——公認チームキャンプ地になることの経済効果は?

「専門家ではないので効果の数字は出せないのですが、ただこんな例はありました。滞在した選手がSNSで『ここは本当に良かった。ホスピタリティーも最高だった。家族でまた来たい』と発信したことで、それが拡散して国内からのお客さんが増えたとのことです」

——日本代表は開催国として公認チームキャンプ地選びにアドバンテージはある?

「これはラグビーの精神にのっとって各チームと同様に、フェアに公平に対応するので、ジャパンだけが特別ということはありません」

——チームが宿泊するホテルに五つ星、四つ星など決まりは?

「日本にはなかなかそういった基準がないので、チームが満足すればそれがそのチームの五つ星になります。基本的にはチームが判断します」

——ホテルが狭すぎるということは?

「体が大きい選手が多いので、なるべく大きい部屋を求めますが、そこはお国柄もあるので基本的にはあるものの中からチームに選んでもらいます。ただラグビーの場合はRWCでも基本的には二人部屋ですね。これはラグビーのスピリットにも合っていて、ベテランと若手を組み合わせていろいろ教えていくと。ただ若手にとって、部屋割り発表の日はやはりいろいろ気になるようです」

——食事はホテルで用意? 調理師が帯同?

「調理師が帯同するケースは他の競技では聞きますが、ラグビーの場合はあまりないですね。チームの栄養管理士の要望を元に、ホテル側と調整して食事を提供していただく場合が多いです」

——ホテルから練習場へなど距離の目安は?

「近ければ近いほどいいですが、この街は移動が25分で、こっちは32分だからということで良し悪しが付くわけではありません。チームの優先度がピッチ状態であればプールなどは多少遠くても大丈夫となるかもしれません。一応の目安としては各施設へ30分以内で移動できることとしています」

——キャンプ地のセキュリティーは警察、民間?

「選手とセキュリティーとが一緒に並ぶと、どっちがどっちを守っているかが分からなくなるような絵になりますね(笑)。基本的にはチームにはチームセキュリティーとして民間のセキュリティーが付きます。ただ地元の警察とも連携をして、チームの安全だけではなくファンや観客の安全もしっかり確保しなくてはいけません。そこは警察でできること、民間でできることを分けて計画をたてて実行していきます」

——公認チームキャンプ地をきっかけに、地方でのラグビー熱を盛り上げる仕掛けは?

「公認チームキャンプ地もそうですし、RWC自体がラグビーにとって大きなチャンスだと思います。ラグビーのすそ野を広げつつ、RWCはラグビー最大のお祭りですので、まずは19年にその魅力を多くの人にしっかりと味わっていただき、良さを感じてファンになってもらえればと思います」

——19年にチームサービスに携わることを希望しています。実際にできることは?

「現在職員を求人サイトなどで公募しています。ぜひ応募ください。最終的には250人くらいの組織になると思います。ほかボランティア含めてラグビーを知っている方に協力していただかないと成り立ちませんので、ぜひお願いします」

——一般の人がどう関わることができるでしょうか?

「ボランティアとして関わることもできますし、ラグビーが好きでしたらぜひ機運醸成ということで、ラグビーに関するいろいろなイベントを盛り上げてほしいです。チームをもてなすプログラムもわれわれと一緒にぜひ作り上げていってほしいと思います」

——大会ボランティアに必要な資質は?

「笑顔と忍耐力でしょうか。というのは冗談半分ですが、まずは楽しむことですね。楽しいという気持ちがないとなかなか続かないですね」

——いままでの経験で一番苦労したこと、一番うれしかったことは?

「うれしかったことは以前担当したチームの関係者に、その2、3年後に別の機会で会った時にフルネームで呼んでもらえたことですね。2、3週間しか一緒にいなかったのですが、ちゃんと覚えていてくれて、忙しい手を止めてあいさつに来てくれました。大変だったことは、終わる瞬間まではその一秒一秒がつらいです。次は何をする、その次は何を、と常に気が抜けずに大変です。ただ最後に『ありがとう』と言われると、その瞬間にすべてのつらかった気持ちが消えてなくなります。なので、何がつらいかは具体的には覚えていないですね」

——このチームはやりたくないな、ということは?

「それはないですね。ただ恥ずかしかったことはあります。以前アラビアンガルフというチームが来日した時に、そのチームの伝統でラクダの人形を持った時に『Dead Ants(死んだ蟻)』と言われると、寝そべらないといけないんです。それを東京駅でも羽田空港でも高級ホテルのロビーでもやらされて、恥ずかしかったですね。それをやらないとチームの一員として認められないですから、僕にも回ってきてやりました。どのチームにもそういう伝統があるようですね。でもそれをやってチームの一員として認められると本当にうれしいですね」

■あなたにとってラグビーとは?

「自分がやっていたスポーツであり、それが巡り巡っていま仕事にできていることで楽しませていただいています。本当にラグビーに関して『感謝』という気持ちです。19年の大会に向けて、ラグビーという競技に恩返しができればなと思い勤務しています。
前回RWCの南アフリカ戦の勝利の時はまだ日本にいまして、テレビで見ていました。いつの間にか正座になって、最後は気づいたら涙をこぼしていました。恩返ししようと思っているよりも先に、大きなものを与えてもらったと思います。ラグビーだけでなく、スポーツの力を再認識しましたので、いまの自分の役割を一生懸命に全うしようという気持ちになりました」