サンウルブズ元年を支えたボランティア
参戦2年目、そしてW杯への課題は?

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と公益財団法人日本ラグビーフットボール協会(JRFU)が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第69回が12月13日、港区の麻布区民センターで開催された。今回はスーパーラグビーに参戦する日本チーム「ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ」を運営する一般社団法人ジャパンエスアール設立社員の眞柄泰利氏と、同法人のビジネスマネジメント部ジェネラルマネージャーの室口裕氏を招き、ラグビージャーナリストの村上晃一氏の進行のもと「サンウルブズのボランティアプログラム」というテーマで行われた。

■97%が来年も参加したいと回答

まずは眞柄氏から、16シーズンのサンウルブズのボランティア活動について、講演が行われた。立ち上がったばかりの活動の中で、眞柄氏らが参考にしたのはラグビーワールドカップ2015イングランド大会だった。同大会では約2万人のボランティア候補者から、書類段階で1万人に絞り込み、さらに企業の役員らによる面接を通じて約6000人を選出。彼らには、参加する国・地域の背景、気質や会話のヒントになりそうな豆知識、さらにボランティアとしての心構えを記した行動規範をまとめた資料が配布されたという。

これを参考に眞柄氏もサンウルブズのボランティア向けの資料を作成。さらに説明会ではラグビー憲章の理念や、交通費なし、食事なし、試合観戦は不可能、男性は茶髪禁止、女性の過度な化粧を禁じるなど、一見すると厳しい行動規範作成しボランティアに伝えた。

しかし実際に1試合あたり約130人、全5試合でのべ700人ほどのボランティアが活動すると、彼らは業務を少しずつ改善しながら取り組み、楽しんでボランティア活動を行ったという。そして、シーズン終了後のアンケートではじつに97%のボランティアが「来年も取り組みたい」と回答。「日本初上陸を果たしたスーパーラグビーに関わることへの喜びが大きかったのでは?」と眞柄氏は分析した。

■語学、ホスピタリティに課題

多くのボランティアの支えによって、改善を繰り返していったが課題も残った。その中のひとつが語学の問題だ。募集時に眞柄氏は一般的なTOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)のスコアなどで語学力を測るのではなく、「ひとりで1週間、海外に行けますか?」という質問で参加者レベルを把握し、各所に英語ができる人材が配置された。しかし、アルゼンチンをホームとするジャガーズを迎えた一戦では、同国の公用語であるスペイン語ができるボランティアが少なく、その場でインターネットを使って調べるといったことも起きたとのことだ。

また、ボランティアに対するホスピタリティにも課題が残った。7月2日にホーム最終戦が行われたが、その時期は高温多湿。テントの中にあるボランティアの休憩所には扇風機がなく、用意をしたところ、今度は電源の用意がないという想定外のことも起こった。

来たる17年シーズンはどのようなボランティア運営になるのか? 新シーズンの秩父宮ラグビー場での開催は4試合。これに加えて、外苑前などのスタジアム周辺での地域貢献活動も予定されている。16年シーズンの課題として、ボランティアに応募する人は多くがラグビーファンにもかかわらず、試合を見ることができないという点があった。この点については、試合前はボランティアとして活動を行い、試合中はチケットで試合観戦できるようなプランを検討している、と室口氏は明らかにした。

■秩父宮ラグビー場の課題はサイネージ不足

2人の講演に続いて、村上さんの進行による質疑応答となった。会場の集まった熱心なラグビーファンからは実際のボランティアや、国際試合の運営に関する質問が多数寄せられた。

——国際試合を開催する上で感じた課題はありますか?

眞柄「(サンウルブズがホームにする)秩父宮ラグビー場は国際試合の会場としてはサイネージ(案内標識)が貧弱でした。また女性のボランティアが、全体の4割いらっしゃったことであらためて感じたこととして、ボランティアの更衣室が少ない、階段が急で危ない、ということがあります」

——海外からのお客さんからの質問ではどういうことが多かったのでしょうか?

眞柄「海外の方はチケットを電子的に買って待ち合わせをする方が多いのですが、なかなか合流できない方がいらっしゃったり、おみやげ付きのチケット持っていても、どこで引き換えができるのか分からない、ということもありました。海外の方の場合、日本では言葉が通じないことを分かっているので、彼らも我々の言っていることを理解しようと努力するので、必ずしも流暢な英語が喋れなくても通じる場合が多いと思う」

——17年シーズンの日程で7月15日・午後12時5分に秩父宮ラグビー場でキックオフ予定の試合(ブルーズ戦)があります。なぜ、真夏の昼間に試合をするのですか?

室口「一言で言えばテレビ放送の都合です。すべてのスーパーラグビーの試合が世界の1つのチャンネルで見られるように、という配慮です。ただ、2月の開幕直後、南半球は夏なので、サンウルブズも敵地で、熱い中で試合をしなくてはいけません。16年シーズンも7月2日にワラダーズと秩父宮ラグビー場で試合をしましたが、彼らからはまったくクレームはありませんでした」

■RWC2019のボランティア活動へ向けて

——ラグビーワールドカップ2019とサンウルブズのボランティアの連携はありますか?

室口「おそらくそういう形になっていくと思いますし、そういった形で日本ラグビー協会・大会組織委員会とも話をすることになるのではないでしょうか。私たちは国際試合、しかもエンターテインメント(の要素)を入れた試合の中で行っていますので、ワールドカップに向けたテストケースになっていると思います」

——17年シーズンのボランティアは300人ほどを募集しているそうですが、500人、あるいはそれ以上の応募が来た場合どうするのでしょうか?

室口「もしそうなった場合、いつ募集を打ち切るかというのを考えないといけません。他の場合ですと、先着にしたり、単純な抽選にして公平性を保つという形にされています。ただ、W杯となると、人が何人いても足りないと思いますので、個別の面接を進めていくかもしれません」

眞柄「300人ほどであれば、地域のラグビー協会さんなどへの声掛けなどで十分なのですが、数千人の単位になったときはボランティアの適正や本気度を確認するためにも、面接が必要になってきます。15年イングランド大会の際には、希望者に24項目におよぶレジュメ(履歴書)を提出してもらいました。『英語以外の言語を話せますか?』『地域で複数開催されるどの試合にボランティアに参加できますか?』『ラグビーをしたことはありますか?』といった質問に応えてもらい、そこから残った1万人に面接に進んでもらいました。こういったやり方は参考になると思います」

■あなたにとってラグビーとは?

室口「僕にとっては体の一部です」

眞柄「企業経営をしている立場から、改めて今回のボランティア活動の行動規範である品位、情熱、結束、規律、リスペクトといったとラグビー憲章はビジネスにおいても非常に重要であると思います。その側面からラグビーには非常に身近なものを感じるとともに、あらたな可能性を教えてくれる存在です」