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ラグビーに向き合う姿勢がウズベキスタンのコーチ、選手の心を動かした— JICAラグビー隊員 森谷理央さんインタビュー

ウズベキスタンでJICA協力隊のラグビー隊員として2年間活動した森谷理央さん。

「1年でラグビーが外で練習できるのは6ヶ月間」という難しい環境の中で、ウズベキスタンのコーチ、選手との関係を築き、活動をしてきたこれまでの2年間を、振り返りながら、お話いただきました。

まずはJICA海外協力隊に応募した動機を教えてください。

親戚の薦めです。親戚がJICA青年海外協力隊(当時)に行っていた影響で、応募することを決めました。

ウズベキスタンはどんな国ですか。

民族として多種多様で、ウズベク人の他に、タジク人など他の中央アジアの民族の人も多いです。
それに伴って言語も多様で、私の活動する首都のタシケントはロシア語、地方に行くとウズベク語など、一括りにできない面白い国です。

ウズベキスタンのラグビーの現状を教えてください。

あまり盛んではないです。
JICAに応募する前の情報で、競技人口は400人と聞いていましたが、コロナ禍で減ったのではないかと思っています。
また、ウズベキスタン自体がスポーツが盛んではなく、社会主義の国の名残で、国のプロモーションのようにしか捉えられておらず、ロシア系住民以外はあまり運動に前向きではない中で、ラグビーはさらにマイナースポーツです。

主にどのような活動をされていたのでしょうか。

平日は月〜土の週6日、中学生以下のラグビースクールでウズベキスタン元代表のコーチと指導を行っていました。ウズベキスタンは今学校がパンク状態で、子供たちが午前と午後で交代制で学校に通っているので、学校に午後に行く子どもたちに対して、午前中にラグビーを教えていました。
対象は主に10-15歳、7-8歳の子どもたちもたまにいましたね。人数は15人くらいで男女比は男子10人、女子5人くらいでした。
午後は週3回ほど、スポーツ専門学校のラグビーチームで16-18歳の子たちを対象にラグビーの指導をおこなっていました。

活動を通じて、やりがいや学びを感じるのはどのようなところでしたか?

ウズベキスタンの指導は結構スパルタなんです。
その中で、ウズベキスタンの人たちはいろんなことに興味を持ちやすいのですが、すぐ心が折れてしまう人も多い。
自分も元々運動が苦手で、うまくいかない気持ちや挫折を味わった経験があったので、声かけをしたり、自主練に付き合ったりしたことで、選手との繋がりを感じられる場面がありました。その子たちが成長するのを見るのも嬉しかったです。

印象に残っているのは、あるチームに家庭環境に問題があって精神的にもムラがある子がいたんです。体の線もラグビーをするには少し細い子でした。その子が途中からやる気を出して、タックル練習など自主練を練習前にお願いされてするようになったんです。
その子がこの間、U18のタシケントの代表に選ばれて、全国で3位になりました。
全て本人の努力の結果なのですが、このことは自分のことのように嬉しかったですね。

これまでの活動の中で最も印象的だったことはやはりそのことですか?

このこともなのですが、2023年5月に国内のセブンズの大会に、ある大学のチームが初心者ばかりのチームで4人しか学生がいなくて、助っ人で入ってくれって言われて行ったんですよね。セブンズを5人っていうよくわからない状況だったんですけど(笑)。当時、自分自身の活動もうまく行っていない時期で、指導先の選手や、同僚のコーチとの関係性の構築に悩んでいた時期だったんです。
そんな中で参加した試合で、対戦相手はラグビーの盛んな地域の軍隊のチームで、自分のチームの子たちもビビって、帰ろうとしていたくらいでした。
それを見てやるせないな、と思って、負けてもいいからタックルでもトライでも1本でも決めてやろう!という気持ちで臨みました。
試合は記録的なスコアで惨敗したんですけど、試合が終わったら、少しだけ指導したことがある代表チームの選手や、同僚のコーチやみんなが駆け寄ってきて、讃えてくれました。
この国って人を褒める文化がないんですよね。まして外国人に対して。なのでびっくりしました。

これをきっかけに、ラグビー関係者との関係が変わった気がします。何があったかはわからないんですけど、それ以来、うちのチームに来てくれとか、地方に行ってくれというお話もいただくようになって、人間関係が改善して活動がしやすくなりました。このことがターニングポイントだったと思います。

森谷さんのラグビーに向かう姿勢が現地の人の心を動かしたんですね。
大変なことはたくさんあったと思いますが、活動の難しさはどこにあったのでしょうか?

プライドの高さ、自尊心の高さは指導する上で難しかったですし、今でも試行錯誤している点です。ましてや外国からきたコーチのアドバイスは聞いてもらうのも難しいです。
その中で、フラットな視点を忘れないようにせず、どう指導ができるかはいまだに試行錯誤していますね。

そんな中で、何か心がけていることはありますか?

とにかく一緒にやることを心がけています。そもそも練習の人数が足りないというのもありますが。この国では指導者が一緒にやる・手伝うという文化がないので、この指導方法についても、最初は反発がありました。
ただ、一緒にやることで選手たちとの距離感が縮まりました。今でもどこに行っても中に入って一緒にやるようにしています。
ある時から同僚のコーチも入って一緒にやるようになりました。初めての経験だったのか、楽しそうでした。
今では、アタックディフェンスやタッチフットはみんなで一緒にやってます。雰囲気はいいし、今日の朝も暑い中(インタビュー当日のウズベキスタンの気温は約40度)でしたが、子供たちは楽しんでやってましたね。

大変な時に、相談できる人などは周りにいたのでしょうか?

JICAの調整員さんはもちろん、ウズベキスタン人で日本語を学びたい学生さんたちが通うJICAが協力しているウズベキスタン・ジャパン・センターが近くにあったので、そこの学生さんや、ウズベク人の日本語の先生と話したり、近所のおじちゃんおばちゃんや、市場の人など、職場以外の現地の人たちと触れ合うことで客観的になれたり、頑張ろうというパワーをもらえました。

普段の生活はどうでしたか?

インフラでいくと、停電、断水が多かったのが辛かったです。
食事は、タシケントは韓国からの駐在の方が多かったり、朝鮮にルーツを持つ人が多く、コリアタウンがあって、日本の食材なども手に入るので、自炊すれば栄養には困らないです。自炊しないとウズベキスタン料理はすごく油が多いので、自炊しないといけないのは大変でした。

気温は夏もめちゃくちゃ暑いですが、冬もすごく寒いです。今年の冬はそんなに寒くなかったですが、それでもー20度くらいでした。1年目の冬は大寒波で最低気温ー40度、最高気温ー20度みたいな冬もありました。そういう時は市内のインフラが壊れてしまうので、電気や水道がきている他のJICAの方の家に避難したりしていました。
そのなかで、普段ウエイトトレーニングをしてるジムはなぜか自家発電機を持っていて、シャワーも出ていたので、そこでシャワーを浴びたりしていました笑

すごいですね。そんな中で一年でラグビーができる期間はどれくらいなんですか?

6から7ヶ月くらいですかね。7ヶ月できればいい方だと思います。

様々なご経験をされて、もう活動の2年も終わりに近づいていますが、協力隊に参加してよかったなと思う点はどんな点でしょうか?

まずは、自分の甘さに気づけた点です。

最初来た時は自分が大きなミッションを背負ってきているような気持ちで、勘違いしていた部分があったと思うんですよね。ウズベキスタンが途上国だからという気持ちで、どこか見下していた部分があったかもしれないです。
でもラグビーを通じて、いろんな人と出会うことで、自分の甘さや勘違いしていた部分に気づいて、自分自身が成長できたことが大きかったです。

自分もラグビーが好きで、ここにもいろんな難しさがありながらラグビーがあります。ウズベキスタンという違う国で、ラグビーが盛んではない国にもラグビーが好きな人たちがいて、ここの人たちも好きだからラグビーをやっているということに気づけたことが嬉しかったです。

そして、日本のラグビーの環境、綺麗な芝生で水道があって、トイレもあって、リーグワンにいけば世界のトップ選手が見られるというのはすごく恵まれた環境なんだなと気づきました。この感謝の気持ちを忘れずに生きていきたいです。

あとは、もうラグビーはいいかなーと思っていたのですが、ラグビーをもっとやりたいなと思ったのは発見でした。
仲違いしていたラグビー関係者と仲良くなったり、一緒にラグビーを見たり、そういう時間が終わることを寂しく感じます。
すごくいい2年間を過ごさせてもらったという感謝の一言に尽きます。

まだラグビーをしたいということですが、今後はこの経験を活かして、どんなことをしたいですか?

ラグビーは趣味でやっていきたいということはあります。
元々学童保育、子ども関係の仕事をしていたのですが、帰国後は、学童保育や、教育に関する仕事に戻りたいです。
ウズベキスタンでラグビーを通じて子どもと関わることで、自分の性に合っていると感じました。子どもと一緒に何かをして、喜ぶというのが自分の生きがいに感じるなと思いまして、特に国籍が違う子どもたちと関わることで多くの刺激をもらいました。この経験は今後、日本の子どもたちに関わる上でも生きると思うので、帰国後もそういった仕事がしたいです。

最後に今後応募を考えている方達へのメッセージをお願いします。

私も臆病で、一歩踏み出すのが難しい性格なのですが、今回思い切って協力隊を受けてみて、2年間の活動で全く後悔はないですし、成長できました。
やってみたいという想いが1mmでもあるならぜひ応募してほしいです。

まっすぐに現地の人と、自分と向き合って活動をされてきた森谷さん。その姿勢とラグビーへ想いが、現地の人の心を動かし、コロナ明けの色々なことが難しい中で、現地の活動を可能にしてきたことが、今回のインタビューでわかりました。

JICA海外協力隊 2024年度短期派遣中!

7月2日から、森谷さんが活動したウズベキスタンを含む、JICA海外協力隊短期派遣の募集は7/2(火)〜7/31(水)まで。
募集要項、詳細はこちらから。ぜひご応募ください!