3月8日、日本ラグビーフットボール協会は、2005年度の日本代表の活動方針について記者会見を行いました。新しい年度の日本代表スコッド(フォワード)(バックス)の発表を始め、1年間の目標、スケジュール、強化の方針など、重要な内容です。コーチングスタッフは、萩本監督が留任し、さらにフランスから2人のアドバイザーを招くなど、新しい試みも発表されました。以下、記者会見の内容をご紹介します。

まず真下昇・専務理事、勝田隆・強化委員長、萩本光威・日本代表監督から、2005年度の強化に対する決意が述べられました。

◎真下昇・専務理事

真下昇・専務理事
  真下昇・専務理事

「この4月以降、日本代表が始動します。萩本監督の続投にあたっては、彼の資質が素晴らしいという点を評価してのことです。昨年11月のヨーロッパ遠征では、大敗を喫しましたが、このときの反省も含めて、反省を糧として、次のシーズンに向かって彼に任せることにいたしました。任期は12月31日までです。

日本協会としては、萩本監督を全面的にバックアップしていきます。2007年ワールドカップ、2011年のワールドカップ日本招致に向けて、あらゆる面でできる限りの支援をしていく覚悟です」

◎勝田隆・強化委員長
昨年の欧州遠征は、たいへんショックな戦いになってしまいました。5月にはスーパーパワーズカップで初優勝。そして、リポビタンDチャレンジ2004でのイタリア戦では、たくさんのファンが秩父宮ラグビー場に足を運んでくれましたが、欧州遠征で、そういった方々の期待を裏切ってしまったということについては、たいへん深く、重く受けとめております。

ファンの皆さまの信頼を回復し、もう一度、グラウンドに足を運んでいただけるかは、今後の南米遠征などにかかっている。まさに正念場であり、重大な局面を迎えているという認識でおります。

強化というものは、長期的にみるものですから、2007年のワールドカップ、そして2011年のワールドカップ日本招致をふまえた考え方が必要であり、そのこともご説明しなければなりませんが、この席では、2005年度の、短期目標についてご説明します。ウルグアイ、アルゼンチン、アイルランド、そしてスーパーカップも、厳しい戦いになりますが、代表チームに言い訳はないと思っています

◎萩本光威・日本代表監督

萩本光威・日本代表監督
  萩本光威・日本代表監督

「このたび、(代表監督として)2年目の指揮をとることになりました。昨年の欧州遠征の反省をふまえまして、ファンの皆さんに感動を与えるゲームができるよう、強いジャパンをつくるべく努力してまいります。これからの1年、2007年ワールドカップに向けた強化、そして2011年ワールドカップでのベスト8という目標への基礎づくりの年と認識しています。それに向けて最大限の努力をしていきます。

今年の目標として、3つ掲げています。

  1. 2007年ワールドカップ出場権獲得。香港・韓国に勝ち、予選1位で通過。

  2. 世界ランキング18位を15位まで上げる。ウルグアイに勝ち、スーパーカップ2連覇を達成する。

  3. 世界第2グループをとらえ、世界第1グループに挑む。

世界ランキング11位のイタリアと同等の実力をつけます。そして第2グループ上位のアルゼンチン、第1グループのアイルランドとのテストマッチに挑みます」

第2グループ、第1グループとは、2003年10月からのIRBのランキングを元に、日本協会で独自に各国を実力ごとにグループ分けしたもの。日本は第3グループの最下位に位置づけています。
強化委員会で作成した世界ランキングの分析表は、ダウンロードしてご覧いただけます(PDFファイル約88KB)

第1グループ: ニュージーランド、イングランド、オーストラリア、フランス、南アフリカ、アイルランド
第2グループ: アルゼンチン、ウェールズ、スコットランド、フィジー、サモア、イタリア
第3グループ: カナダ、ルーマニア、アメリカ、ウルグアイ、ポルトガル、トンガ、日本

会見では、中山光行テクニカル・ディレクターから世界ランキング分析に関する説明も行われました。

「昨年のスーパーパワーズカップで、カナダに勝って優勝したことを考えれば、第3グループの上位国に勝つ実力はあるものの、これまでの実績をみると、常に勝つ力はないといわざるをえません。また、去年イタリアに敗れたことからも、第2グループには手が届かないのが現状です」


●強化スタッフには人的資源を増加

勝田隆・強化委員長
勝田隆・強化委員長

日本代表スタッフは、昨年度よりも充実させます。勝田・強化委員長から次のような説明がありました。

「新たに今年度、テクニカル・アドバイザーというかたちで、フランスからジャンピエール・エリサルド氏、エドモン・ジョルダ氏にお願いすることになりました。2人の選出にあたっては、まずニュージーランド、南アフリカ、カナダ、南米と、いろいろなところに、日本にいま必要なアドバイザー、コーチングスタッフは誰かと、調査を進めてまいりました。その結果、最終的にフランスの前テクニカル・ディレクターである、ピエール・ヴィルプルー氏にご尽力をいただきました。彼はIRBのオフィサーでもあり、幅広い情報を持っており、萩本監督にフランスに何度か行っていただき、打ち合わせを重ねたうえ、お2人を推薦いただきました。

エリサルド氏、ジョルダ氏には、春先からアイルランド戦まで、日本代表のすべての合宿・遠征・試合に帯同していただくことになっています。

またフォワードについては、アドバイザーとして薫田さん(東芝府中ブレイブルーパス監督)にお願いします。いうまでもありませんが、フォワードに関する高いコーチング力を評価していますし、昨年フランスからコーチを呼び、フランスのコーチに対する認識など持っておりますので、強力な支援をいただきたいと思っています。

アシスタントコーチに佐野さん(ヤマハ発動機(ジュビロ))、テクニカルスタッフとして古田さん(三洋電機ワイルドナイツ)、山下さん(茨城県立医療大学)にお願いしています。フィットネス&コンディショングコーチの守田さんは、アメリカのアメリカンフットボール、バレーボールなどを専門にしてきた、ストレングスとコンディショニングに力のある方です。そして専任トレーナーに渡邉さんです。また昨年度まではチーム総務はボランディアというかたちでしたが、稲辺さんにはフルタイムで関わっていただきます」


●ゲームデザインの考え方

ゲームデザインの考え方として、萩本監督の説明は次のとおりです。

「まずは、昨年に引き続きディフェンスの強化に取り組んでいきます。そして昨年の反省として、点がとれないということがありました。そこで攻撃力アップを目指します。
(図1で)"獲得"・"前進"・"接近 ずらす"、とありますが、ここまでは口を酸っぱくしていってきました。そこにさらに、個々の判断能力を高め、"回避"と"接触"を加えたバリエーションをとっていきたいと考えています(図2)。それによって

  1. 攻撃時間の増加、ディフェンス時間の短縮につながる
  2. 攻撃の継続による得点力アップ

を図ります」

図1
図1

図2
図2

「組織力を高めて戦っていくというところだけに、日本のラグビーは陥っているのではないかと思います。世界で戦うには、やはり個々の判断能力とプレー・バリエーション、それからメンタル面の強さ。これがないと戦えないということは、昨年の結果からも分かりますし、私も痛感しております。フランスのラグビーと日本のラグビーを融合させて、まずやりたいのは、個々の選手が組織から離れても、自分で判断できる能力をつけたい。1対1での抜きあいもそうでしょうし、スペースを見る感覚、判断。そういったことをフランスでの合宿を通してつくっていきたい。

先ほどの図でいうと、ラックのつくり方も、ただ壁にぶち当たるのではなく、まず個人が抜きに行く。そしてパスできるところではパスをする。しかし敵がいればやめる、ラックになる、モールになる、というイメージです。トップリーグのなかでも、こうしたプレーはされていますが、個人個人に徹底して認識させて判断できるようにしていきたいと思っています」


●なぜフランスラグビーか?

フランスのラグビーを採り入れる方針については、中山光行テクニカル・ディレクターからも説明がありました。

中山光行テクニカル・ディレクター
  中山光行テクニカル・ディレクター

「なぜフランスのラグビーを採り入れるかを簡単にご説明しますと、ディフェンスに近づいてからの考え方を、非常に多く持っているからです。フランスが、オフロードパスを多用していたことにも注視していました。

日本は、スクラム、ラインアウトから、近づくまでのプレーのバリエーションは多く持っています。ただ近づいてからのオプションがあまりない。多くの場合はラックプレーになります。世界的にみて、体格的に劣る日本人が、ラックの連続でゲームを進めるのは厳しいと考えています。

いま日本にとって必要なのは、近づいてから、いかに前に出られるか、いかにして裏に行けるか、の方法論です。フォワード、バックスとも、直線的な動きではなく、抜く、つなぐといった個人の資質が、非常に重要になると考えています。こうした考え方をもっているのが、まさにフランスのラグビーであるということです。

彼らの理論である「壁に当たるのではなく、玄関から入る」、言い換えますと、ディフェンスにぶち当たるのではなくて、スペースから裏に出る、むやみなコンタクトを避けて、扉を開けるように防御を突破するという考え方は、我々にとって非常に参考になると思っています。またディフェンスに時間を与えないために倒れない、という考え方も、素早いリズムでゲームを進めていきたい日本にとっては、必要なことであると考えます。

もちろん、いままで築き上げてきた方法論を、否定したり、大きく置き換えたりするものではなく、前述の考え方を、日本人に適したかたちにアレンジして、採り入れていきたいと考えています

フランスラグビーの導入

●日本代表スコッドの選出について

2005年度は、セレクションマッチの実施、B代表の新設等、セレクションにも注力していきます。中山光行テクニカル・ディレクターから説明がありました。

強化の方針

「日本代表スコッドは77名になります。このなかから、日本代表セレクション合宿招集メンバーを50名選出しております。基本的にはこの50名で日本代表セレクション合宿を行う予定ですが、セレクションですから、当然ゲームの実施も考えています。したがって、けがをしている選手、コンタクトプレーを行えない選手については、今回の合宿には招集いたしません。その不足した部分には、残りの27名のバックアップメンバーから上げていきます。

ただ、この合宿に参加できないからといって、フランス・南米遠征メンバーに選ばれないというわけではありません。けがの回復が遠征までに間に合うと判断できれば、ランキングにそったかたちで、選考を進めていきたいと考えています。また、7人制の代表選手については、もちろん何名か招集しておりますが、(ワールドカップセブンズ終了直後なので)コンディショニングに十分配慮したうえで、合宿への参加形態を考えていきたいと思います。

この日本代表セレクション合宿を経て、フランス・南米遠征メンバーと、ジャパンAのメンバーを選んでいきます。さらに、もう少しみていきたいという選手については、4月のA代表・B代表セレクション合宿に呼ぶ予定です。またこの合宿には、先の三地域対抗試合からセレクションされた20名にも加わっていただきます。

そして日本代表がフランス・南米遠征を終え、またNZUシリーズ(ニュージーランド学生代表来日シリーズ)終了後、それぞれ評価を行うとともに、代表スコッドのランクを見直して、5月からのワールドカップ予選、スーパーカップ、アイルランド戦に備えていきます

会見後、いわゆるカコミ取材を受ける萩本監督
  会見後、記者から取材を受ける萩本監督