日本のIRBパシフィック・ネーションズカップ2008 TOSHIBAジャパンラウンド(PNC)第3戦は、昨年のW杯で8強進出を遂げた強豪フィジー。初戦でサモアに快勝し、2戦目のニュージーランド・マオリには7対11と惜敗するも地力のあるところを見せており、W杯以降強化を続けてきた日本代表とのこの対戦は注目の一戦となった。 フィジーを迎える国立競技場は激しい雨。セブンズで世界最高のハンドリング技術を誇るこのチームがどんな戦い方を見せるのか。両チームともに雨のグラウンドでのウォーミングアップを行い、コンディションを充分に確認したあと、14時10分キックオフ。 前半はお互いがキックを使い牽制する。日本代表はSOアレジの正確なキックで前進をはかった。そしてフィジーのキックにもFBウェブ、WTB小野澤、遠藤らの正確なフィールディングでピンチをしのぐ。この雨の中、キック処理のミスが出たほうが負ける。そんな結果を予感させるスタートとなった。 日本代表はバック3の安定からチーム全体が充分に意思統一された戦いを進め、攻撃力でフィジーを上回り、再三ゴール前に迫った。主将箕内は激しいタックル、ジャッカル、ラック周辺からのランプレーと体を張ってチームを引っ張る。そのプレーに応えるようにFWが前に出てフィジーの反則をさそい、前半はSOアレジの4PGで9対3とリードして終わる。 ところが後半滑り出しからゲームは一気に動いた。フィジーはそれまでのキック中心の展開から、一気に持ち前のランプレーの連続攻撃に切り替える。前半静まり返っていた観衆が一気に目を覚ます。フィジーが動き出した。 フィジー後半最初のトライは10分、ストーマーズ(南ア)で活躍するCTBシレリ。それまで抜群のキック処理を見せていたFBウェブの初めてのハンドリングミスから50mを走りきってトライ。 16分にはスクラムからラインアタックし、FBタニエラが抜け出しトライ。日本代表はSH田中が鋭く内側から前に出てプレス、ラインで上がってくるSOアレジらとビッグタックルを予感させるが、逆にマンマークが甘くなったところをつかれDFミスからのトライ。 最後は38分、スクラムからのラインアタックが崩れた2次攻撃でのキックミスからカウンターアタックされヴィレニキがトライ。フィジーのランプレーが激しい雨のグラウンドに大きくボールを動かし、そこで起こった3つのミスが試合を決めた。(12-24) 日本代表はFWが密集で力強さを増し、スクラムでの安定と成長のあとを見せたが、ゲーム終盤でラインアウトの獲得率を落とし、雨の難しさに負けた。BKはCTB平のカットイン、FBウェブのライン参加でゲインラインを突破するが、最後のフィニッシュにつなげられなかった。 W杯以降の日本代表の強化のあとが、土砂降りの雨の中見守り続けた1万994人の観衆には確かに見えた。だからこそ悔しい一戦だった。 一つのミスが勝負を決める。 そして、それを消すための日本代表の明日への戦いは、まだまだ続いていく。次のW杯の歓喜につながることを信じて。(照沼康彦) カーワン ヘッドコーチ(右)、箕内キャプテン 日本代表 12-24 フィジー代表(6月22日(日)14:10 at東京・国立競技場) ◎日本代表 ○ジョン・カーワン ヘッドコーチ 「本当に悔しい、残念な試合でした。ゲームプラン通りできた試合でしたが」 ○箕内拓郎キャプテン 「しっかりした戦術と勝つための試合展開で臨んだ試合でしたが、最後のワンプレーでミスが出てしまいました。勝たなければいけない試合でした」 ──前半の幻のトライについて。 ○箕内キャプテン 「前半は特に惜しかったとは思いますが、ゲームプラン通りできましたし、やはり相手が修正してきて、後半はボール半個ぶん、手を引っかけてくるなどうまかったと思います」 ──ミスなのか、相手のアタックがよかったのか。 ○カーワン ヘッドコーチ 「この天候で、タックルのコンビネーションがうまくいかず、ピンチでエラーが出てしまいました。チャンスもありましたが、勝つべきところを自らが捨ててしまったような戦いでした。ハーフタイムには試合をコントロールできていると感じていましたが、後半はフィジーがプランを変えて走り回ってくると予想したとおりで、それに対応が遅れました」 ──オプションについて。 ○箕内キャプテン 「ラインアウトでボールが獲れなかったのが残念でした」 ──モールでボールを奪われたが。 ○箕内キャプテン 「極力リスクを背負わないようにしたのですが、フィジーはモールで一人一人が長い手を使って来ました。組織的な動きとは感じませんでしたが」 ──ワールドカップと比べて。 ○箕内キャプテン 「特に違いは感じませんでした」 ──雨のゲームプランについて。 ○カーワン ヘッドコーチ 「フィジーがやってくることを予想し、前半はそのとおりに運びました。後半はフィジーがミッドフィールドを使ってくると、これも予想通りでしたが3つのエラーやターンオーバーから3トライを与えてしまい、特に最後の2分間はリスキーなラグビーをしてしまったと思います。フィジーが勝ったのではなく、ジャパンが負けた試合でした」 タンブア監督(左)、レアウェレ キャプテン ◎フィジー代表 ○イリヴァシ・タンブア監督 「日本チームはタフな相手であると思っていましたが、前半は攻められ、後半の最後の15分に戦法をチェンジして戦い、勝つことができましたが、やはりタフな相手ということが証明されたと思います。最後まで心配させられたゲームでした。ジャパンのキック力が良いので、自陣での反則に注意するよう言ったのですが、やはりペナルティゴールで取られてしまいました。ご覧の通りの天気で、キック中心の展開は避けられないと思っていましたが、前半はよくありませんでした。ハーフタイムに敵陣でボールをキープするよう指示し、相手のミスを待ちましたが効果があったと思います。ジャパンのラグビーは日に日に進歩していると思います。若い選手も育っており、楽しみです」 ○ケレ・レアウェレ キャプテン 「選手たちが良く戦ってくれました。幸せです。スリッピーな状況でしたが、我々にとってギブアップできないとても重要な試合でした」 ──若いメンバー、ゲームプランは変えたのか。 ○レアウェレ キャプテン 「そのとおり、とても若いメンバーです。ワールドカップで活躍した選手が抜けましたが、2011年に向けて若い選手たちを国際レベルに引き上げる経験ができたと思います。前半は反応が遅く、ステップアップしようとチェンジングルームで話しました。精神的に緊張していましたが、我慢してボールをキープしてミスを誘おうとしましたが、うまくいきました」 ──非公開練習でモール対策を指示したのか。 ○タンブア監督 「日本でプレーした経験から、モールをクロージングしたりオープニングしたりして意図して崩すことをねらっていました。非公開練習はポーカーと同じです(笑)」 最後に、二人とも日本語で「ありがとうございました」と笑顔で締めくくりました。