この度、財団法人日本ラグビーフットボール協会(JRFU)が財団法人全国高等学校体育連盟ラグビー専門部と共同で、今年度のユース(U16~U18)の強化方針についての戦略会議「ユースコーチ会議」を実施いたしました。

本件は、去る4月3日に発表した「JRFU戦略計画2010-2019」(戦略計画)に掲げる、「一貫指導体制」の確立を目指し、各地域(ブロック)の現場指導を担う「ユースコーチ」を指名し、指導方針及び指導方法を共有することを目的にするものです。ここで確立した方針に基づき、先日発表いたしましたU16、U17ブロックトレーニングキャンプ(ブロック講習会)及び高校日本代表(U18)強化活動等に於いてユースエリートの継続強化が実施されます。

<開催概要>

■日 時: 2010月4月22日(木)14:00~4月23日(金)12:00(1泊2日)
■場 所: 流通経済大学付属柏高校
■参加者: 合計28名(高体連、高校指導者、日本ラグビー協会)
■内 容: 2009年度高校日本代表のトレーニングと総括、高校日本代表のゲーム分析、日本スタイルと長期育成計画の確立に向けた検討、セレクションポリシーの検討、ストレングスとコンディショニングの重要性、ブロック合宿に向けた共通理解、コーチのためのコーチング研修、懇親会など。

<4月22日>
前田理事および柴田・高体連専門部長のご挨拶をキックオフに、ユースコーチ研修会がスタートしました。その後、すぐにグラウンドに場所を移し、流通経済大学付属柏高校ラグビー部の選手を対象に、高校日本代表のコーチングスタッフが練習を披露。内容はボールキャリアやハンドリングのドリル、前に出るDFの基本ドリルの後、FWとBKに分かれユニットプレーを確認し、最後はAT&DF形式の練習などを行いました。スピーディーな展開攻撃や素早いプレッシャーと低いタックルを軸としたDFなど、高校代表メンバーが実際にフランス代表戦に採用した戦術を、この会議の参加者にわかりやすく説明をしました。

流通経済大学柏高校の選手による高校代表での練習の再現   流通経済大学柏高校の選手による高校代表での練習の再現
流通経済大学柏高校の選手による高校代表での練習の再現

その後、研修室に戻り、実際のフランス遠征時のゲームの映像を基に、編集ビデオを使って成果と課題を振り返りました。まずは、総括を高崎監督に行っていただいた後、今年度、日本ラグビー協会が配置したリソースコーチの松尾氏、古川氏から、客観的なゲーム分析が行なわれました。テストマッチでは、ロスタイム、ラストプレーでの苦い敗戦となりましたが、その健闘ぶりには、指導陣の強化指導の成果がはっきり見えました。同時に、複数のチームの選手から編成される代表チームは、事前合宿において基礎基本プレーの統一化に多くの時間を要し、戦術の強化には一切たどり着けなかったという課題が残りました。

高校代表フランス遠征の映像分析セッション   リソースコーチからもレビューが行われる(松尾コーチ)
高校代表フランス遠征の映像分析セッション リソースコーチからもレビューが行われる(松尾コーチ)

夕食は、全員で鍋を囲みながら和やかな雰囲気の中、コミュニケーションを深めました。つかの間の休憩をはさみ、本研修のメインセッションとなる「日本スタイルの確立と長期育成計画の構築」では、日本ラグビー協会コーチングディレクターの中竹氏が進行役を務めました。

特に、このセッションでは、日本協会からのトップダウンではなく、あくまでもユースコーチの方々と共に今後の日本ラグビーを創り上げていくというスタンスを理解していただくため、議論のほとんどはグループディスカッションを通じて行われました。

2019年ワールドカップで日本がベスト8に入るためには、今、何をするべきかという命題を前提に議論がスタート。まずは、日本ラグビーの現状と課題を整理しました。特に、日本代表(高校代表、U20、ジャパンAなど含む)編成における課題として、強化合宿では基本スキルの徹底にほとんどの時間が奪われ、戦術戦略に時間をかける余裕がないこと。また、日本の各カテゴリーのトップレベルの選手が必ずしも海外で通用しないことがあり、外国人相手に通用する選手のセレクションが困難であること。よって、日本のラグビー選手が目指すべき日本スタイルの確立とそれを浸透させるための一貫指導体制の構築や長期育成計画の必要性が確認されました。

次第に議論は具体化し、日本社会および日本人の強みや弱みを分析し、日本が目指すべきラグビースタイルを検討しました。日本協会が既に整理した現状分析(SWOT分析を活用)も参考としながら、ディスカッションの中で「日本スタイル」の骨子案ができ上がりました。その結果、「敵より早く低く激しく、走り勝つ」を基本スタイルとして掲げることとなりました。その根底には、「コーチ・選手が自ら考え、成長し続ける」といったコーチング哲学も重要視されています。

中竹CDを中心に「日本スタイル」について議論
中竹CDを中心に「日本スタイル」について議論

前提:日本スタイルのコーチング(指導)哲学

「コーチ・選手が自ら考え、成長し続ける」

日本スタイルの骨子(案)

世界一のスピードを有し

「敵より早く低く激しく、走り勝つ」

(* Japan とU20の指針を参考)
~スピーディでテンポよく、キレのあるAT&DFと
緻密で隙のないゲームメイク~

この日本スタイルを浸透させるためには各ブロックでの一貫指導体制の構築が重要となってきます。そのためには、コーチングディレクターとリソースコーチが、ユースコーチや各ブロックの現場の指導者の方々と連携を図りながら、知恵を出し合い議論を通じて指導方針・体制を作りこんでいかなければなりません。また、一貫指導を行うには、身体機能から導き出された育成ピラミッドの理念を理解する必要があります。まず「正しい型」をきちんと覚え、その型を「より早い」動作で行い、最終的に「より重い」負荷でトレーニングするという育成の理念に基づいて、長期育成計画を策定し、年齢別の必須習得スキルや能力を整理するとともに、セレクションポリシーへと反映させていくことも今後の重要な取り組みの一つです。

一貫指導体制のイメージ

初日の最後に、ストレングス&コンディショニング(S&C)の必要性について日本協会の下農コーチから話がありました。まず、S&Cとは何か?という問いからはじまり、ラグビーにおけるS&Cの重要性を説いてもらいました。S&Cの要素のひとつであるウエイトトレーニングやフィットネス、柔軟性などを個別に強化していくのではなく、スポーツ障害予防とパフォーマンスアップのためには、Periodization(計画性)が最も重要だということを学びました。日本スタイルの骨子である「敵より早く低く激しく、走り勝つ」には、S&Cが非常に大切であり、そのために実施しなければならない各年代別のトレーニングや定期測定方法などを紹介しました。

下濃コーチによるS&Cに関するレクチャー
下濃コーチによるS&Cに関するレクチャー

夜11時に予定していたミーティングが終了し、その後、懇親会へと移りました。全国から集まったユースコーチと日本協会のスタッフがラグビー談議に花を咲かせ、深夜まで至りました。

<4月23日>
昨日の疲れも見せず、朝は8時から研修はスタート。午前の最初は、上野競技力向上委員長よるコーチングセミナー。コーチが自ら考え、成長するという理念のもと、前日の練習をどのように改善するかという具体的なディスカッションを通じて、
キーワードは、「Think(自分で考える)」で、コーチは「What To Coach(何をコーチングするか?)」から「How to Coach(どうコーチングするか)」に近付くべきだという指導をいただきました。

上野委員長によるコーチングセッション
上野委員長によるコーチングセッション

その後、前日に引き続き中竹コーチングディレクターが進行役として、ブロック合宿での方針について議論を進めました。仮設定として3年後のU18がウェールズ戦で勝つために、各ブロックのU16、U17、U18では、どのようなセレクションポリシーを掲げ、必須スキルを落とし込むべきかを議論しました。2日間にわたるたび重なるディスカッションを通じて、日本協会からの指針をトップダウン的に浸透させていくのではなく、9年後の日本代表を担うユース世代の指導陣が主体的に自ら考え現場から共に創り上げていくことの重要性を改めて確認していただきました。

閉会式では、これからの日本ラグビーの将来を担うユースコーチの方々に対して、前田理事から熱い激励のお言葉をいただいた後、高崎監督のご挨拶で無事終了となりました。多くの参加者からは、とても充実した有意義な会議だったとの声が上がりました。次回のユースコーチ会議は、10月を予定しています。

前田理事からのメッセージ
前田理事からのメッセージ

2010年度 ユース強化体制及びユースコーチ一覧
2010年度 ユース強化体制及びユースコーチ一覧(クリックで拡大)