(財)日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクター 中竹 竜二

先日、9月20日、トップレフリー研修会が東京・青山の日本ラグビー協会の会議室で行われました。その研修の冒頭に、これまでコーチサイド(日本協会コーチングディレクター、リソースコーチ、ユースコーチら)が全国的に進めてきた「日本スタイルの確立」や「一貫指導体制の構築」に関する方針や具体的な活動内容を発表する機会を頂きました。

今回のように、レフリー界をリードするトップレフリーを対象に、コーチサイドから中長期的な指導方針や活動内容をご紹介するのは、日本ラグビー界で初の試みであり、レフリーサイド、コーチサイドの両者にとっても非常によい機会になったと思います。
こうした交流を始めたきっかけも、全ては、日本で開催される2019年ワールドカップでのベスト8という目標があるからです。そのためには、レフリーサイドとコーチサイド、プレイヤーサイド、同時に日本協会および三地域協会の関係者が、同じ方向を目指し、力を合わせて、ワンチーム(ひとつの仲間)であることを再認識しなければなりません。今回が、その始まりの第一歩になれば幸いです。

簡単ですが、その研修会での内容をご報告します。ぜひ、ご覧頂き、多くのラグビー関係者にご理解いただきたいと思います。

皆さんご存知の通り、2019年、ラグビーW杯が日本にやってきます。Japanのゴールは、ベスト8(決勝トーナメント進出)です。そのために、この研修会の前提として、3つの前提条件を確認しました。

◇前提1.皆さんは、Japan日本代表の勝利ために、全力で貢献します。
⇒この場だけでも、帽子/制服を着替えて下さい。

◇前提2.皆さんは、トップ選手、トップコーチ、協会幹部と、チームメイトです。
⇒私たちは、ワンチームです。

◇前提3.これからの日本ラグビーは、トップダウンではなく、現場の個の力の結集(ベースアップ)で作っています。
⇒皆さんが当事者であり、皆さんと共に作ります。

まず、はじめに、日本ラグビーの現状と課題について、説明を行いました。ジャパンの世界ランキングやU20の世界ランキングなど、世界ラグビーの中でジャパンがどのレベルにあるかということを、また、ベスト8を目指すのであれば、どの国がターゲットとなるかを、トップコーチやトップレフリーは必ず知っておかなければなりません。現在、ジャパンは13位、U20は14位です(2010年9月13日)。毎週更新されるので、チェックが必要です。よって、8位のアルゼンチン、9位のウェールズ、10位のフィジー、11位のイタリア、12位のサモアが、当面のライバルとなります。もちろん、現在、ジャパンよりも下位にいる14位のカナダ、15位のアメリカ、16位のトンガも侮れません。こうした世界での位置づけを、現場の指導やレフリングの中で意識して、選手たちに伝えていくこともトップコーチ、トップレフリーの重要な役割です。

また、日本ラグビーの現状として、日本の強み、弱み、恵まれた環境、悪条件を整理したものをご紹介しました。強みとしては、素早さ、低さ、器用さ、勤勉さ、練習時間の長さ、型にはまったときの従順さなどが挙げられ、逆に、弱みや不足している点としては、体力、パワー、判断力などを提示しました。以下の図は、日本協会が整理した日本ラグビーのSWOT分析です。
日本ラグビーのSWOT分析

一貫指導体制と日本スタイルについて

日本協会としては、日本の文化的な背景も踏まえ、以下の図のように、一貫指導体制はトップダウン型ではなく、現場の声を活かしたベースアップ型で進めていくことを基本スタンスとしています。

一貫指導体制の構築 一貫指導体制の構築(クリックで拡大)

次に、IRBが提唱しているラグビー組織概念図を紹介しました。コーチやレフリーを育成していく役のエデュケーター、トレーナーというポストがあり、特に、今回参加されたトップレフリーの方々は、今後は、そうした指導育成の役割が求められていることをお話ししました。

IRBが提唱しているラグビー組織概念図

日本ラグビーの現状を踏まえて、日本協会としては、以下の日本スタイルを提示しました。最も重要なことは、日本スタイルの戦術・戦略的ことではなく、指導する上での哲学であることを強調しています。それは「コーチ・選手が自ら考え、自ら課題を解決し、成長し続ける」ことであり、そうした哲学の上に、4Hとして掲げた「敵よりはやく低く激しく、走り勝つ」という戦略が成り立っています。

前提:日本スタイルのコーチング(指導)哲学
「コーチ・選手が自ら考え、自ら課題を解決し、成長し続ける」
No Learn, No coach.

<日本スタイルの骨子>
世界一のスピードを有し
「敵よりはやく低く激しく、走り勝つ」
4H(はやく、ひくく、はげしく、はしりかつ)

一貫指導体制の構築、日本のスタイルの確立に関する今後の予定としては、以下となります。本活動の初年度しては、まず、上記の哲学の浸透を徹底的に図っていきたいと考えております。その後、来年度に戦術戦略の具体化を計画しています。

一貫指導体制構築プラン(案)

次に、コーチ育成活動の概要を説明しました。現在、様々な指導者育成活動が行われています。その中でも、指導者講習会は、核心的な活動であり、高校生の指導者を中心に全国9ブロックで実施されています。また、夏時期には、中学生の指導者、トップチームコーチらにも、コーチングディレクター主導の研修会を受けていただきました。今後は、小学生、クラブ、大学チームの指導者の方々にも、研修会の機会を増やしていきたいと思います。

また、この夏時期から代表関連コーチに対してのコーチアセスメント(評価)を開始しました。「評価」という行為に対して比較的ネガティブな日本の文化の中で、育成ツールとしての評価活動をよりなじみのものにできるよう、今後も継続的に進めていきたいと思います。
さらに、企画中ですが、ラグビー指導者実態調査やコーチカンファレンスなどを検討しています。

最後に、日本ラグビーの強化を進めるために、レフリーサイドとコーチサイドがワンチームとして連携して、どのような取り組みができるかを提案しました。

レフリーとコーチの交流
・情報共有
   ──ルールの解釈、変更点への対応など
・意見交換
   ──セットプレイ、チームコミュニケーション方法など
・共同作業
   ──例:練習メニュー開発、コーチング、レフリング
・コミュニティの創出
   ──例:マンデーミーティング(例:関東)の発展、コーチ研修会での参加

レフリー側からコーチ側への要望
   ──練習中における指導についての要望(例:プリベント)
   ──コーチ側からレフリー側への意見依頼(要望、意見、質問)

例えば、レフリーとコーチの交流の一つとして、情報共有があります。ルールの解釈やルーリングの変更点、レフリングの傾向などを定期的に議論する場が持てれば、両者にとって、価値があるものと考えられます。研修会のようなオフィシャルな場でなくても、試合会場での10分間程度のちょっとしたコミュニケーションだけでも有効です。
現在、9ブロックで進めている指導者研修会では、日本協会としては、コーチは必ず試合前後にゲームとレフリングについて、「レフリーコミュニケーション」を取るように指導をしています。公式試合や練習ゲームの前後に、コーチ側からレフリー側に、その試合の意図やチーム方針や意見交換等を図るように施しています。例えば、そのゲームの位置づけが、セレクションマッチなのか、強化試合なのかで、コーチが見たいポイントが変わります。そうした意図を共有することで、コーチングやレフリングのメリットだけでなく、選手にとってもより多くのハイパフォーマンスのプレイが生まれます。もちろん、チーム側からの一方通行ではなく、レフリー側からコーチ側への注意点の提示をいかに効率よく行えるかを議論していく必要もあります。

  対面の交流、情報・意見交換によるワンチームの意識向上
対面の交流、情報・意見交換によるワンチームの意識向上

レフリーサイドおよびコーチサイドの両者とも、どのように意図を伝えるべきか、そのためには、どのようなコミュニーションの段取りや仕組みが必要なのか。まだまだ検討の余地はありそうです。
また、今後の期待する連携の一つに、練習メニューの開発があります。特に、ブレイクダウンでのペナルティの反則は、通常の練習時から意識しておかなければ、なかなか改善されません。だからこそ、指導を仕切っているコーチが、レフリーと同じポジショニング、同じルーリングの基準、同じプリベントコールで対応できれば、よりクリーンなプレーが生まれると思います。
その他、レフリー委員会は、今度年度より、ウィークデイミーティング(例:関東/月、関西/月・水、九州:水)を開始しました。そうした研修会にコーチが出席したり、逆に、コーチ研修の際に、レフリーの方々にきていただくことも、お互いにとって有意義だと思います。その他、コーチ側からの意見、要望、情報収集等をうまく吸い上げる仕組みも今後は必須だと言えます。

誤解をさけるために申し上げますが、レフリーサイドとコーチサイドが完全に交わることを勧めているわけでありません。それぞれの役割、責任を意識して、専門分野はプロフェッショナルとして活躍していただき、お互いが同じ仲間のメンバーとして、日本ラグビーの発展に寄与していただければ幸いです。
第4節から再スタートするトップリーグ。これを機に、レフリーの方々がコーチング、指導者の方々がレフリングについて、より興味を持っていただければ幸いです。

2010年度 第3回 JRFU トップレフリー研修会(概要)

1.日 程 2010年9月20日(日) 11:00 ~ 16:00
2.場 所 日本協会 会議室
3.研修時程及び項目
11:00 集合・開始
11:00 岸川委員長 審判委員会 活動進捗状況説明
11:10 中竹コーチングディレクター 「日本ラグビーの発展にむけたコーチ育成について」
12:00 トップリーグ3節までのレフリングについて(コーチ部会&テクニカル部会)
1 2010年レフリング指針実施状況
2 レフリングの課題確認
12:30 昼 食
13:00 研修1
シーン検証及びレフリングへの反映調整
「スクラム」、「タックル」、「オブストラクション」、「オフサイド」、「10条関連」
*6名程度のグループに分かれてレフリングの課題・改善検討を実施する。
15:00 研修2
レフリーとコーチが分かれて自由ディスカッション
【レフリー】レフリーミーティング実施状況・トピックス紹介
【レフリーコーチ】レフリー指導育成の問題点と改善について
15:40 まとめ、質疑応答、連絡事項他
16:00 終 了