IRBパシフィック・ネーションズカップ
text by Kenji Demura

開催場所が東京でなくなったのは残念で仕方ないが、それでもこの夏、日本のファンが最も注目していたカーワジャパンの一戦。それが、7月9日にフィジー・スヴァで行われたパシフィック・ネーションズカップ(PNC)、対トンガ戦だっただろう。

日本代表 28-27 トンガ代表   日本代表 28-27 トンガ代表   日本代表 28-27 トンガ代表   日本代表 28-27 トンガ代表

2ヵ月後に控えるニュージーランドW杯の予選プールA組で直接対決するライバル国。ここのところのPNCでトンガ代表相手に4連勝中だったとはいえ、トンガ代表は海外でプレーする選手がほとんどであり、毎年、なかなかベストメンバーを組めない事情もある。

W杯まで2ヵ月に迫った時点での貴重な実戦の場とはいえ、今回のメンバーに関してもイシトロ・マカ監督(元NZ代表で、福岡サニックスでプレーした経験も)は、「あと5人ほど、NZやイングランドから呼べなかった選手がいる」と、ベストではないと強調。それでも、やはりかつて三洋電機、そして日本代表としてもプレーした経験を持つシオネ・ラトゥ団長が「この中で来年も代表にいられるのは8人くらい」と語っていた昨年のPNC時のメンバーと比べるなら、かなりベストに近かったことは間違いないだろう。

それは、昨年のトンガ戦でスクラムを押し切って勝利を手にする立役者となったPR畠山健介の証言が物語ってもいる。

「トンガはセットも安定していたし、これまでよりもアグレッシブだった」

しかも、1週間前に行われたフィジー戦で、トンガは3年ぶりとなるPNC勝利を収めてもいた。しかも、45-21というスコアでの快勝。もう少し遡れば、6月のチャーチル杯では米国にも大勝している。

そんなふうに戦力もかなり充実して、勢いにも乗っているトンガ(※対戦前の時点では世界ランキングでもトンガが日本の15位を上回る12位につけていた)に対して、日本としてはまずはサモア戦と同じ轍を踏まない──つまり立ち上がりのワン・オン・ワン・タックルで失敗しないことが最大の課題と言えた。

結論から言うなら、「1対1のタックルもそうだし、組織で崩されるところもなかった」と、FL菊谷崇主将が語ったとおり、サモア戦のように立ち上がりに致命的なタックルミスが出ることはなかった。

日本代表 28-27 トンガ代表   日本代表 28-27 トンガ代表   日本代表 28-27 トンガ代表   日本代表 28-27 トンガ代表

試合開始4分に相手ゴール前で得たFKからNO8ホラニ龍コリニアシが突っ込んで、そのままトライ。サモア戦から一転、日本は立ち上がりから主導権を握ることに成功する。

ボールキープでもテリトリーでも日本が上回っていたが、7分にトンガにPGを返された後、23分、28分と、自分たちのひとつのミスから相手にトライを許す悪いところが出て、逆転を許す悪いクセが顔を出す。

いずれも、この日、4試合ぶりに指令塔に復帰したSOジェームス・アレジのプレーに由来するもの(キックチャージとパスインターセプト)だったが、「FWのフィットネスが足りなかったのと、コミュニケーションのなさが原因で、ジミー(アレジ)は悪くない」(SH田中史朗)。

そんな意識がチーム全体に浸透していたからでもあるのだろうが、33分には逆に相手のミスに乗じてWTB遠藤幸佑がこぼれ球を押さえてトライ。難しい角度からのコンバージョンをアレジが決めて、14-17の3点差で前半を折り返すことになった。

「前半はたくさんチャンスがあったけど、生かし切れてなかった。慌てずにラックをあと1回つくって攻めるように」(カーワンHC)

ハーフタイムにそんな指示を受けて、スヴァ・ナショナルスタジアムのピッチ上に戻ってきたジャパンは、後半、一気にペースを掴むことに成功する。

7分にモールサイドを潜り込んだSH田中の動きに反応したFL菊谷主将が逆転トライを決めた後、11分にはこの日のベストトライと言って間違いない連続攻撃が飛び出す。

左タッチライン際をWTB小野澤宏時が好走。いつも通りに、タックルを受けながらもボールを生かす身のこなしでできたラックからNO8ホラニがいったんタテを突いた後、SH田中がスペースを見つけて走り出すと、その動きに反応した途中出場のHO堀江翔太、LOジャスティン・アイブスが確実にゲインを切って、最後は右展開してライアン・ニコラス、平浩二のCTBコンビが仕上げ。カーワンジャパンの歴史をひも解いても、ベストトライのひとつに数えられるようなアタックは完結した。

SOアレジがこの日4本目となるコンバージョンを決めて28-17。

「後半2トライ目の後に、あと1トライ決められていれば、そこでトンガは諦めていた」

試合後、カーワンHCはそう振り返っていたが、確かに仕留めるチャンスはあったが、攻めながらもミスが出て、結局、日本の得点は28点止まり。

逆に、終盤ボールキープで優勢に立ち、とにかく近場をピック&ゴーで攻め続けたトンガに1トライ&ゴール、そして1PGを決められ、28-27。

それでも、最後まで組織DFが崩れなかったことが効いて、W杯前哨戦を1点差でものにすることに成功した。

日本代表 28-27 トンガ代表   日本代表 28-27 トンガ代表   日本代表 28-27 トンガ代表   日本代表 28-27 トンガ代表

「今日はみんな100%出し切った」と、カーワンHCはトンガの猛攻を凌いだ選手たちを賞賛。確かに、カーワンHCが言い続けている「我慢」という要素が結果として表れた試合になったことは間違いないし、ここのところ4連勝中だったトンガに前哨戦でも勝ってW杯本番に臨めることは心理的に大きいはずだ。

とはいえ、前述のとおりトンガはまだベストメンバーではないし、「W杯でも今日のようなクロスゲームになる」(カーワンHC)ことが予想される中、いまのままでは勝敗が引っくり返される可能性だって十分ある。

「もっとテンポを上げて、自分たちの強味を80分間出し続けられるようにする必要がある」(菊谷主将)

そう。ジャパンにとって、目標であるW杯2勝を確かなものにするためには、さらなる進化が必要なのは、選手たちが一番良くわかっていることでもあるのだ。