IRBパシフィック・ネーションズカップ

text by Kenji Demura

今季のパシフィック・ネーションズカップは第2節終了時点で4カ国が1勝1敗で並ぶ大混戦。
第2節の2試合が行われたスバ国立競技場から試合会場をラウトカ・チャーチルパークに移して行われた第3節。先にキックオフされたトンガ対サモア戦では、トンガが競り勝って勝ち点を10に伸ばしていた。
一方、第2節終了時点での日本の勝ち点は5で、トンガとの差は5。4トライを挙げてボーナスポイントを奪ってフィジーに勝利すれば、直接対決でトンガに勝っている日本が優勝を果たす──。そんな条件の下、行われたフィジー対日本戦は、2枚のレッドカードと3枚のイエローカードが出される大荒れの試合となった。
しかも、その5枚のカードが出されたのは、すべてフィジーの選手に対して。
当然ながら、その異常な状況は、試合に大きな影響を与えることになった。

日本代表 24-13 フィジー代表   日本代表 24-13 フィジー代表   日本代表 24-13 フィジー代表   日本代表 24-13 フィジー代表

いきなり試合のペースをつかんだのはフィジー。
「いままでの相手とは次元が全く違った。最初に受けたコンタクトの強さはずっと忘れられないものになる」
そんなふうに、フィジーのフィジカルの強さを表現したのは、この試合が初のPNC出場となったPR藤田望。
ただし、それは若手だけが抱いた印象ではなかった。
毎年のように、南太平洋の島国に遠征して、大男たちとのアウェー戦を経験してきたLO北川俊澄でさえ「今年のフィジーはマジ、エグかった」と表現するほど。
そんなふうに、例年以上にフィジカルな戦いを挑んできたフィジーに、立ち上がりのジャパンはタジタジになる。

いきなり、深い位置にキックオフを蹴り込んでラッシュをかけてきたフィジーの圧力にズルズルと後退して、1分にPGで先制され、6分にはセンターライン付近のFKから直接的に仕掛けて来たフィジーの力強い走りを止められずに、ワン・オン・ワンタックルでミスを連発。あっさり、フィジーWTBナポリオニ・ナランガにトライを許して、早くも8点差をつけられる。
サモア戦で敗因となり、トンガ戦で修正されたように思えた「試合の入り」にまた失敗したかっこうでもあったのだが、前述のPR藤田をはじめ、この日の先発はトンガ戦から9人が入れ替わっていた。
その多くが、初のPNC出場であり、より経験のあるメンバーが揃っていたサモア戦でも、アジア五カ国対抗からのレベルの差を埋めるのに時間がかかったことを考えてみても、若手が「フィジカル的には世界最強」(ジョン・カーワンヘッドコーチ)と評価されるPNCでの戦いに、最初戸惑うのは致し方ない面もある。

日本代表 24-13 フィジー代表   日本代表 24-13 フィジー代表   日本代表 24-13 フィジー代表   日本代表 24-13 フィジー代表

正直言えば、8分にトライを奪われた段階では、「いったい何トライ取られるんだろう」という思いさえ浮かんでくるような内容だったが、実際のところ、前半の失点はこの8点だけにとどまることになる。
「80分間通して自分たちのゲームプランどおりのプレーをしようと心がけて、相手のプレーや自分たちのミスにも一喜一憂しないようにした。我慢してDFしていれば、いずれ自分たちの流れがくると思っていた」
試合後、前半の苦しい時間帯に関してそう語ったのは、この日はNO8として試されていた菊谷崇主将。

確かに、時間の経過とともにフィジーの激しいプレーに若手が対応できるようになっていったのは事実だし、冒頭で紹介したとおり、フィジーの規律のないプレーぶりが、結果的に日本にプラスに作用した面も間違いなくあった。
前半18分のイエローカードはテクニカルファウルによるものだったが、20分にはNO8シサ・コヤマインボレが危険なタックルでレッドカード。
後半に入っても、19分のレッドカードに、1分、39分にはイエローカード。
最後は15人対12人で戦うという前代未聞の状況となったのだが、そんな数的優位さも生かすかたちで、後半の日本はしっかりチャンスをものにしていくことになる。

日本代表 24-13 フィジー代表   日本代表 24-13 フィジー代表   日本代表 24-13 フィジー代表   日本代表 24-13 フィジー代表

4分にCTBライアン・ニコラスが自ら上げたショートパントをキャッチしてチャンスをつくり、NO8ホラニ龍コリニアシがフォローした後、右展開してFB有賀剛がトライ(5-8)。
続く8分にはフィジーにトライを許したものの、18分にCTBニコラス、23分には途中出場していたHO堀江翔太と、トライを重ねて逆転(17-13)。
「リザーブだったのでインパクトがあった方がいいかなと思って、チームの流れが良くなるようなプレーを心がけた」という堀江のトライでジャパンのトライは3トライ目。
あと1トライを加え、ボーナスポイントを獲得した上で勝利をものにすれば、トンガと勝ち点で並ぶことになり、直接対決でトンガに勝っている日本の優勝が決まる。
すでに、フィジーに2枚目のレッドカードが出されており、日本が2人多い状況。最終的には、39分にこの日3枚目となるイエローカードも飛び出し、グラウンド上の人数は日本の「+3」となった。

それでも、リードしたことで逆に消極的になった面もあったのか、逆転してからの20分ほどは、なかなか攻めきれない、焦らされるような時間帯が続く。
「もっとFWにこだわって良かった。そういうのもスマートな戦い方だと思う」(PR畠山健介)
フィジーのカウンターアタックを警戒して、FWのモールでトライを取りに行くが押し切れず、とうとう試合はラストワンプレーに。
敵陣深くでのフィジーボールのスクラムにプレッシャーをかけてボールを奪い、NO8菊谷主将がサイドを突いた後、右展開してタテに入ってきたCTB今村雄太がフィジーゴールに駆け抜けた。
ヒーローとなった今村自身は「自分のトライで優勝が決まるとはわかっていなかった」というが、タイムキープしない時計はすでに48分を指していた、まさにギリギリの状態で生まれた値千金の4トライ目で、日本のPNC初優勝が決まった。

日本代表 24-13 フィジー代表   日本代表 24-13 フィジー代表

「一番、伸びたのは試合中の修正能力」(カーワンHC)
確かに、またも「試合の入り」の部分で失敗しながらも、最終的にはしっかりボーナスポイントを獲得して、勝ち切ってみせた逞しさは過去のジャパンにはなかったものと言っていいだろう。
「6年目にして、ようやくフィジーに勝って優勝できた。毎年、叩きのめされていたことを考えると、正直、こみ上げてくるものがあった」(LO大野均)
この日、初めてPNCでプレーしたような若手も多かったが、ここまで毎年、毎年厳しい戦いを積み重ねてきたからこそ、6年目にしての初の太平洋王者にたどり着けたことも間違いない。

もちろん、W杯イヤーの今年は歓喜の余韻にひたっている余裕はないし、実際のところ、前述どおり「試合の入り」や「絶対的なチャンスをものにできない」部分など、課題も多い。
「とにかく、勝って反省できる。それが一番大きい」(WTB小野澤宏時)
2ヵ月後の大目標に向けて、前向きになれるPNC初制覇の快挙だった。