10月27日に開催された、東京都港区と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」は、特別企画としてW杯を振り返るトークイベント方式で行われた。

パネリストに日本代表の太田治GM、日本ラグビー協会事業企画・プロモーション委員会の稲垣純一委員長、J SPORTSの室口裕氏(総合制作部部長)、日本テレビの北川俊介氏(スポーツ局プロデューサー、ラグビー担当)、総合司会にラグビージャーナリストの村上晃一氏を迎え、W杯の振り返りと、今後の展望について語っていただいた。

──W杯、日本代表を振り返ってください。

太田氏 稲垣氏
太田氏

稲垣氏


稲垣純一委員長

「まずは、この度のワールドカップの日本代表の結果について、皆様の期待や夢にこたえることができなかったこと、心よりお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。大変厳しい結果に終わりましたが、この結果を受け止め、バネにして、日本ラグビーはさらに発展しなければならない、日本が世界に勝つための夢をあきらめてはならないと思っています」

太田治GM
「改めて、日本代表のワールドカップの結果について、皆様の期待に沿えることができず誠に申し訳ございませんでした。
僕から見た日本代表の総括のレポートは提出しました。負けたということで全部を悲観することはなくて、通用した部分もあるし、課題もあります。課題を解決するための施策はこういうことが考えられるんじゃないかということを提出しました」

稲垣純一委員長
「(世界8強進出会議での)総括の細かい内容はまだ言えませんが、一言で申し上げると現場のJK(ジョン・カーワンHC)、太田が頑張ったのに勝てなかったということは日本ラグビー界全体に大きな問題があるんじゃないかと。まだまだ日本ラグビーが世界で勝てるレベルではないということから、冷静に謙虚に反省して次に向かっていかなくてはいけないと思っています。
8強会議が本当にJKを充分にサポートできたのかと思っています。会議の回数も少なかった。強い国は協会が常に現場をモニタリングしています。そのような世界で勝つための仕組みができないと、19年に向かっていけないと思っています」

室口裕氏(J SPORTS)
「ラグビーが好きな方や野球が好きな方が見てくれていて、非常に評判が良かったです。
日本代表への期待が高かったので、問い合わせが多かったです。視聴者の方からの要望も多かったですね」

北川俊介氏(日本テレビ)
「日本代表の試合は全て生中継したかったんですけど、難しかったです。フランス戦は土曜日の午後で、勝てば決勝トーナメントに行ける可能性もあるということで生中継が実現しました。
視聴率は片手で足りないほど。ほかのチャンネルで田中将大と斎藤佑樹が投げ合う試合を中継していたので、そこに負けてしまいました。ラグビーと野球はファン層がかぶっているので、その試合がなければ結果も違ったと思います」

太田治GM
「国際ゲームで年間の試合数を増やすということと、20歳前半、大学生レベルの競ったゲームを増やすということをやっていかないと難しいと思いますね。
JKは一生懸命やっていました。ですが、JKをしっかりサポートしたり、時には厳しい意見を言ったりということができていたかと言うと、できていなかったと思います」

──フランス戦については?

太田治GM
「勝つつもりでいました。スクラムで手こずりましたけど修正できましたし、これはいけるんじゃないかと思いましたね。痛かったのはケガ人が出たことです。(NZ戦も)ベストメンバーでいこうという話はしていたんですけど、ケガ人が出たので2勝という目標のために選手起用が変わりました。(ケガ人が出ていなければ)ベストメンバーでいったと思います」

室口氏 北川氏
室口氏

北川氏

──大会運営面などについては?

太田治GM
「フランス大会も行ったんですが、NZは地元の人との付き合いが多くて、毎回ホテルの前で歓迎してくれたり、子どもたちがハカを踊ってくれたりとか、温かいアットホームな感じで迎えてもらえました」

稲垣純一委員長
「非常に温かい雰囲気でした。ファンゾーンという場所には大きなビジョンがあって、お酒を飲みながら楽しんでいました。あの雰囲気は素晴らしい。試合会場ではなくても街全体でW杯を楽しんでいた。19年には日本でもやりたいですね」

村上晃一氏
「地域ごとに応援するチームを決めていましたよね。セカンドチームとして応援するチームを決めて、街やお店ごとにサポートしてくれた。『400万人のスタジアム』という言葉がありましたけど、これは日本も参考にできると思います」

北川俊介氏(日本テレビ)
「得点が入って音楽が鳴るとか、テレビ判定を待っている間にも音楽が流される。ラグビーを分かっている人が考えていると感じました。すぐできることは真似してもいいのかなと思います。
困ったのは取材の規制が厳しかったことです。練習後15分の公開でしたが、グラウンドにやっと入ると選手はストレッチをしている感じでした。ラグビーを視聴者に伝えるいい機会なのに、と歯がゆい気持ちでした」

太田治GM
「(規制の理由は)情報が流れてはいけないということです。過去に撮られて分析されたことがあるのでJKは神経質になっていましたね。
メディア関係はもう少しオープンでもいいかなと思います。スクラムは公開したりしていたんですけど、IRBのルールもありますので……難しいかもしれないですね」

【質疑応答】

──日本代表の監督はいつ決まりますか? また、日本はこれからどういうラグビーを目指していきますか?

稲垣純一委員長
「いつ決まるかについてですが、理事会がどう決めるかなので、時期的にははっきりしていないのが現状です」

太田治GM
「スタイルとしては『はやく、低く、激しく、走り勝つ』の『4H』をやっていこうと。特にスピードを重視したラグビーになると思います。俊敏性など身体的特徴を生かすべきだと思います。
今回は高いタックルをして外されたりしました。練習では厳しくやっても試合でできないのが日本の課題。経験を積むことで改善していくしかありません」

──日本代表よりもラグビー人気を上げるべきでは?

稲垣純一委員長
「ラグビー人気を上げるためにコンテンツが必要で、一番大事なコンテンツはジャパンなんです。だから今回負けてしまうことでみんなが悲しくなる。なでしこジャパンや侍ジャパンは勝ったことで日本中が盛り上がった。日本代表が強くなることがラグビー人気につながると信念を持ってやっていきたいと思います。
ただ、ブレディスローカップ(NZと豪州の対抗戦)もまた日本でやりたいと思いますし、世界のラグビーをみなさんに知ってもらいたいと思っています」

室口裕氏(J SPORTS)
「海外ラグビーの視聴者は増えています。中学生大会を取材してきたんですが、中学生のレベルがすごく上がっていて、彼らは海外ラグビーを見ています。
ただ、逆に指導している方々のほうがどれだけ海外ラグビーを見ているのかなと、思ってしまいます」

村上氏
村上氏

村上晃一氏

「教える側や運営側がラグビーをもっと知らないといけませんね」

──19年W杯を開催することで何を残せますか?

稲垣純一委員長
「W杯をやることだけが重要ではなくて、やることで日本ラグビーがどう変わるか、ラグビーが日本社会にどういう影響を与えるのか、そういうことを目指してやっていかないといけません。
サッカーも例えば鹿島にスタジアムができて地域が活性化して、アントラーズが盛り上がった。日常の出来事の中にサッカーが根付きました。そういったことを目指して我々もやっていかないといけません」

太田治GM
「ラグビーが浸透して競技人口が増えて、県や街ごとに強いチームがあるとか、クラブ同士で対抗戦が増えるとか、全てのカテゴリーで広がっていくことを期待したいですね」

室口裕氏(J SPORTS)
「2003年大会で印象的だったのはホームタウン制があったことです。ただ、今回はホームタウン制になると会場によっては移動距離が増えてしまうため、チームからの要望もあったようでできなかったと聞きました。日本大会ではぜひやってもらいたいです。地域の人々の日常の中に溶け込んでいってほしい。それを通じてラグビーが当たり前のものになることができたらいいのかなと思います」

北川俊介氏(日本テレビ)
「壮行試合では、秩父宮というラグビーの聖地で日本代表を送り出すのに観客が1万人だったことにびっくりしました。
19年は試合は盛り上がると思います。世界からファンが来ますし。でも、終わった後の日本代表の試合にまたお客さんが入らなくなってはいけないと思います」

村上晃一氏
「『ノーサイド』という言葉は日本が大事にしてきたので、それが世界に浸透するようにしたいですね。試合が終われば敵味方がないということですが、世界ではそれほど使われてはいません。しかし、『ノーサイド』という言葉と精神を日本が大事にしてきたことを伝えたいと思います。
また、地域の子どもたちが出場国と交流して、その国に行ってみたいと思えることも大事だと思います。それがW杯だと思うので、できるだけ深く残るようにやっていかないといけません。メディアも協会もファンも、実現できたらすごく感動できると思うので、ひとつずつやれたらと思います」

──太田GMに。「あなたにとってラグビーとは?」

太田治GM

「人生の一部です。なくてはならないものです。ラグビーがなかったらここにもいないですし。人生を豊かにするエッセンスになっています。一人じゃ生きていけない中で仲間に支えられてここまできています。ラグビーがあったから人生、より面白くなったと思っています」

今回のみなとスポーツフォーラムにおいて、参加者からの参加費と、会場での募金額の合計66,451円は、東日本大震災の義援金として日本赤十字社へ寄付させていただきます。

写真提供:スポーツナビ