エディージャパン、大勝発進――。
28日、アジア5カ国対抗初戦のカザフスタン戦がアルマティで行われ、前半1分のCTB田村優の先制トライを皮切りに計13トライを奪った日本が87-0で圧勝。エディー・ジョーンズヘッドコーチ体制での初陣はポジティブなスタートとなった。

87-0での大勝に、思わず笑みをこぼすジョーンズHC。「7点満点で4点」というのが選手たちへの評価だった
photo by Kenji Demura (RJP)

 計13トライを奪って 87-0の大勝。
 1年前に、中立地タイ・バンコクで行われた、同じ相手との対戦時のスコアが61-0だったことを考えても、まずは順調なスタートを切ったと言っていいだろう。
「点数をつけるなら7点満点の4点」(エディー・ジョーンズヘッドコーチ)
「まあまあの内容」(WTB廣瀬俊朗主将)
 2015年のワールドカップでトップ10入りを目指すエディージャパンにとって、まさに最初の一歩となったカザフスタン戦。
 試合後に日本代表周辺を包み込んでいたのは、ポジティブな雰囲気に満ち溢れた安堵感だった。

 選手たちのコンディション自体は決して良くはなかった。
 4月3-7日の静岡・ヤマハリゾートつま恋、そして同18-25日の大阪・J-GREEN堺と約2週間に渡ったハードな合宿を経て、間違いなく選手たちには疲労がたまっていた。
 しかも、大阪からソウルを経由しての9時間の飛行時間の末に、アルマティ入りしたのは試合開始45時間前。
 アルマティは標高800mほどの高地にあり、前日練習時には、廣瀬主将は「みんな最初は体が重い感じだった」とも。
 ただし、そんな悪条件を乗り越えるだけの勢いが、新生ジャパンに満ち溢れていたのも紛れもない事実だった。
「一番良かったのは、自分たちのラグビーをやり抜こうとした姿勢」(ジョーンズHC)
 試合後、ジョーンズHCがそう評価することになる、ジャパンの積極性は試合開始直後から明らかだった。


試合後、観客の声援に応えるエディージャパンのメンバー。次戦は福岡での対UAE戦となる
photo by Kenji Demura (RJP)

87-0で試合終了。「まあまあの内容」(廣瀬主将)での大勝にホッとした表情が広がった
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 開始1分。いきなり7次攻撃までフェイズを重ねたジャパンは、タテに抜けたFLマイケル・リーチから、フォローしたCTB田村優にパスが通って、早くも先制トライ。
「全く緊張もないし、チームのファーストトライを狙っていた」と、いきなり強心臓ぶりを見せつけた田村。
 そんな田村をはじめ、この日のカザフスタン戦が代表デビューとなったのは計6人。1年前のカザフスタン戦でプレーした選手は3人しかいない。
「レボリューションが起きている」(ジョーンズHC)というジャパンの変革を象徴するような、勢いを感じさせる立ち上がりとなった。

 ただし、「最初にうまく取れ過ぎちゃうと、メンタル的に緩んでしまう面もある」と廣瀬主将が振り返ったとおり、その後はやや停滞する時間が続いた。
 日本に2トライ目が生まれたのは13分(連続攻撃の後、ゴール前のラックからSO小野晃征が抜け出す)。
 最終的に13トライを重ねたジャパンだが、この1トライから2トライまでの間隔がトライのない時間帯としては最長となった。
「最初の20分間というのは、どんな試合でも難しい。一番の修正点はブレイクダウンでのサポートの遅さ。アタックでもディフェンスでも2人目の寄りが課題。サポートが遅れた理由としては疲れもあるだろうし、全員がボールを持ってプレーすることを意識し過ぎた面もある。ボールを持つことを意識しなければ、もっと早くコンタクトに入れる」(ジョーンズHC)
 チームとして練習したのはたったの2週間。このカザフスタン戦が初戦ということを考えても、まだまだチグハグな面があるのは当然のことだろう。

 それでも、試合後、ジョーンズHCが「ブレイクダウンのところも後半はだいぶよくなった」と認めていたとおり、時間の経過とともに、序盤で浮き彫りになった課題が修正されていったのも間違いなかった。
 ただ単に13トライを重ねただけではなく、試合の中で、「ジャパンウェイ」という自分たちが目指すラグビーをどんどん進化させていける感触をつかんだからこそ、試合後メンバーにもコーチングスタッフにもポジティブな安堵感が広がっていたのだ。

「すでにチームがひとつになっている」(ジョーンズHC)


記念すべきエディージャパンの初トライを記録したのは初代表のCTB田村。「チーム初トライを狙っていた」という大物ぶり
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指令塔を務めたSO小野にとっては5年ぶりの代表戦。「試合を重ねれば、もっと良くなる」とチームの可能性を感じている様子だった
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先発の小野に代わって後半15分から指令塔を務めたSO立川もBKラインをうまくリードした
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FL佐々木副将は攻守にひたむきなプレーでFW陣をリードした
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「サントリーでの最初の試合(2010年のトヨタ自動車戦)より全然いい。あの時、サントリーは自分たちのやろうとしてい
ることに疑心暗鬼だったけど、今日はみんな自分たちを信じてプレーしていた。もちろん、信じてはいても試合の中で『どうしたらいいんだ』という場面もあるけど、試合を重ねていけば、誰がどの役割を果たしていくのか身に付いていくようになる」
 サントリーで過去2年間、ジョーンズHCによるチームづくりを経験したLO真壁伸弥は、そんなふうに初戦に関する手応えを語った。

 一方、この日、3トライを記録して、通算テストマッチトライ数を世界6位タイの64にまで伸ばしたWTB小野澤宏時も「ディフェンスもアタックもやり切るということが大事。もちろん、まだまだなんですけど、みんなで追求する意思は見られた」と、チームが進化している可能性を感じているようだった。
「ハーフタイムの時にリーダーたちの話を聞いていたら、コーチが気づいたことを全部言ってくれていた。2週間だけしか一緒にいないのに、なかなかできないこと。実際に、後半の戦い方はハーフタイムで出た課題が修正できていたし、すでにチームがひとつになっているのを感じた」(ジョーンズHC)

 もちろん、ブレイクダウンでのサポート以外にも課題は多い。
 指令塔のSO小野が「みんなの幅と深さがまだ合っていない」と言うとおり、ディフェンスでもアタックでもエディージャパンのベースとも言えるシェイプの部分での統一感もまだまだ物足りないのは間違いないだろう。
 小野にしろ、第2SOと言っていいCTB田村にしろ、「ナチュラルに深いポジションを取ってしまう」(ジョーンズHC)場面も多々見受けられた。
 それでも、小野自身が「2人のSOのよる80分間のパフォーマンスということを考えている」というように、前半から後半最初の時間帯は小野を中心にしつこく内側のスペースを狙った後、後半15分からSOのポジションに入った立川理道がうまく外のスペースを使ってトライを量産したあたりにも、チームのポテンシャルが高いことはうかがえた。

「とりあえず、まずは1試合というのがあったんで、ホッとしました。スタートの場所もアジアの奥地って感じで、良かった」(廣瀬主将)
 日本から9時間の飛行時間を経てたどり着いた「アジアの奥地」でポジティブな第1歩を踏み出したエディージャパン。チーム全体に漂った安堵感は日本のファンの期待感につながるものなのか──5月5日に福岡で行われるアジア5カ国対抗第2戦の対UAE戦でその一端は明らかになる。

text by Kenji Demura


SH藤井同様、29歳で初キャップを獲得したCTB仙波は前半終了間際にトライを奪うなど、攻守に手を抜かないプレーを80分間続けた
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この日、ハットトリックを達成したWTB小野澤はテストマッチ通算トライ数を46に伸ばし、世界6位タイとした
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試合前は高ぶった表情も見せていた初キャップのPR長江だが、試合中は終始落ち着いてプレーしていた
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フィジカル面で自信を持つカザフスタンFWと真っ向からぶつかり合うFLリーチとHO有田。「一番の課題はフィジカル面」(リーチ)
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29歳で日本代表初キャップとなったSH藤井は落ち着いたプレーぶりが光っていた
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タックルを受けながら前進をはかるLO真壁。エディージャパンの船出を「サントリーの時より全然いい」とも
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副将に指名されたFB五郎丸は2トライ、11ゴールの計32点をひとりで叩き出す活躍ぶりを見せた
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試合前の国歌斉唱時に整列するエディージャパンの22人。昨年の61-0を上回る87-0という大勝で幸先のいいスタートとなった
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