HSBCアジア五カ国対抗2012(A5N)第4節の日本-香港戦が19日、東京・秩父宮ラグビー場で行われ、日本は開始5分のCTB田村優の先制トライを皮切りに計11トライを奪って67-0で快勝、4戦4勝として大会5連覇を決めた。この試合に先立って行われた女子のテストマッチも日本が香港に61-15で快勝した。

「A5Nで最高のパフォーマンス」で5年連続アジア王者に

5年連続のA5N優勝を果たし、エディージャパンのメンバーは歓喜の雄叫びを上げた
photo by Hiroyuki Nagaoka (RJP)
この日の2トライでテストマッチ通算トライ数を51にのばしたWTB小野澤も自らのトライよりもチームの成長を喜んだ
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1年前の香港戦が代表デビューだったSH日和佐は、テンポのいいプレーと的確な判断で成長した姿を披露した
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常にボールに絡む働きを続けながらラスト20分でさらにギアを入れた走力を見せたFL佐々木だが、「フィットネスはまだ不満」とも
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エディージャパンの6番として定着した感のあるFL望月はこの日もボールをよく前に運ぶ活躍を見せた
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韓国戦ではNO8として満足いく働きを見せられなかったリーチもこの日はボールタッチ回数が増えて突破役として機能
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 「日本は1年前とは全く異なるチームになっていた」。試合後、香港代表のリー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は新生日本代表の印象をこう語った。「異なるチーム」とは新しいメンバーになったという意味だけではなく、「戦い方」の部分も含んでのことだ。「SHがリズムを作り出し、FWがラックエリアから素早くボールを前に運んでいく。エディー(=ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ)はいい仕事をしている。私自身、今後、日本が世界の大男たちに対してどんな戦いをしていくのか楽しみにしている。最大の原動力となるのはチームワークだと思う」

 昨年の香港での対戦時、香港代表は密集周辺でひたすらプレッシャーをかける戦い方を徹底し、後半のスコアでは日本を上回るなど善戦した(最終スコアは45-22で日本が勝利)。今回も「日本のキープレーヤーであるSHにプレッシャーをかけていく」(香港代表FLマーク・ライト=豊田自動織機所属)と同じスタイルに活路を見出そうとしていた。
 しかし、67-0という最終スコアが示す通り、1年前には効果的だった香港スタイルは「世界一のフィットネス」(日本代表ジョーンズHC)を目指し、ブレイクダウンの精度にこだわる日本代表を苦しめることはできなかった。

 試合3日前のメンバー発表記者会見時、冗談めかして「80-0で勝つ。そうしたら7点満点で4点の合格点を与える」と語っていた日本代表ジョーンズHC。「アジア五カ国対抗でのベストパフォーマンス。80-0までいける勢いがあった。チームの成長を嬉しく思う」と、A5Nの総決算としての香港戦の出来に合格点を与えた。まだまだ発展途上であることを前提にしながらも、自らが率いる日本代表の船出となった大会で若いチームが見せた成長ぶりを素直に喜んでいる様子だった。

通算51トライの33歳小野澤に「ピークはこれから」

 「今はスペースを見つけていくことを第一に考えていて、キックというアイデアはない」。日本代表のジョーンズHCが語るとおり、この試合でもキックをほとんど使わないスタイルは貫かれていた。
 立ち上がりの時間帯、ボールキープしながらもなかなか自陣から出られなかった日本だったが、自分たちの攻撃の型を維持した上でブレイクダウンを制圧、フェイズを重ねた。試合開始から5分後、粘り強く攻撃を続けた結果生まれた外側のスペースをWTB小野澤宏時が攻略して一気に敵陣に。韓国戦でもボールを前に運ぶ走りが光っていたCTB田村優とFL望月雄太が内側のスペースを突き破ってゴール前に迫り、最後はラックからSH日和佐篤-WTB廣瀬俊朗-田村とつないで、先制トライを挙げた。

 不安定になりがちな立ち上がりの時間帯に自陣から粘り強く続けた攻撃をトライにつなげたことで、試合は一気に日本ペースとなる。8分にはCTB仙波智裕のラインブレイクからチャンスをつかむと、SO小野晃征がパスダミーで相手防御のギャップを突いてトライラインに迫り、最後はFL佐々木隆道が飛び込んで2トライ目。17分にも、ゴール前ラインブレークから右サイドを攻めた後、左展開すると、香港の防御はまったく対応できず、小野が外側に小野澤を余らせながら余裕をもって3トライ目を奪った。
 さらに、27分に廣瀬、35分には小野澤と両WTBがトライを重ねて、前半だけで5トライ。小野澤のトライは日本代表としてテストマッチ50トライ目となる記念すべきものだった。

 小野澤は後半2分、ゴール前のラックサイドの小さなスペースを走り抜けて51トライ目を記録、テストマッチでのトライ数で世界4位の記録保持者となった。それでも本人は「僕のトライはどうでもいい。(こういうラグビーをしていくという具体的な)イメージが沸いてきている選手が多くなってきている。今までは手探りの部分もあったのが、これからは加速して成長していくのではないか」と、チームが進んでいる方向の確かさを喜んでいた。「まだピークを迎えていない」とジョーンズHCから評されるベテランWTBのこのトライを皮切りに、日本は後半も6トライを重ね、守っては最後まで香港にトライラインを割らせなかった。

 アジアでは勝って当たり前とはいえ、昨年苦戦した相手に完璧な内容で勝利したことに、廣瀬主将は試合後の記者会見で「新しいチーム、新しいヘッドコーチ、新しいキャプテンでチャンレンジしながら、ワンチームになれた結果。アジアチャンピオンになれたことを素直に喜びたい」と、ホッとした表情で語った。試合3日前の練習では集中力を欠いた選手たちにジョーンズHCからカミナリが落ちたが、本番での引き締まったパフォーマンスに主将も手応えを感じたのだろう。

 もちろん、「2015年のワールドカップまで40試合」(ジョーンズHC)という道のりのまだ4試合を終えたばかり。当然ながら、この程度の成長で満足するわけにはいかない。「フィットネスも力強さもまだまだ足りない」。A5Nでは最高のパフォーマンスと評価したジョーンズHCも「世界のトップ10入り」という目標を見据えれば評価は厳しくなる。
 6月にはフィジー、トンガ、サモアという厳しい相手と戦うIRBパシフィック・ネーションズカップ2012(PNC)が控えている。PNCではさらなる成長した戦いぶりを見せて、目標の2年連続優勝を目指すことになる。

text by Kenji Demura

香港戦後の記者会見でのエディー・ジョーンズHCへの一問一答

──今日の試合に関する全体的な印象を。

「アジア五カ国対抗(A5N)でのベストパフォーマンス。ハーフタイムの時点で勝利を決められていた。ディシプリン(規律)とコントロール力のある試合運びができた。もちろん、6月の試合に向けて進歩しなくてはいけない部分も多いが、現時点でのチームの成長ぶりに関しては嬉しく思っている。
 香港は昨年の対戦では、後半のスコアで日本を上回ったチーム。その相手に対して、今日は80-0までいける勢いがあった。
 まだ、スタートしたばかりのチーム。この後、少しだけ休みを挟んだ後、PNC(パシフィック・ネーションズカップ)キャンペーンに向けて再び集まることを楽しみにしている。PNCでのターゲットは優勝ということになる」

──アタックのバリエーションが増えてきたのは、対戦相手のレベルが上がってきているからなのか、それともチームとして過ごす時間が増えた結果なのか。


3試合ぶりの先発復帰となったCTB田村は前半5分に先制トライを奪うなど、期待どおりの活躍ぶりを見せた
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「アタックに関して目指しているのは、相手のディフェンスラインを操作していくこと。ディフェンスの動きを把握しながら、人のいないところにアタックしていく。当然ながら、試合を重ねることでアタックは進化し、バリエーションが増えていくことになる。BKのアタックに関する状況判断をしていくのは、9番、10番、15番。そのキープレーヤーが今日はみんないい働きをしてくれた。日和佐(篤=SH)は今後もっと良くなる可能性を十分に見せてくれて、小野(晃征=SO)、立川(理道=SOとして後半13分からプレー)も成長してくれている。五郎丸(歩=FB)はまだ自分が持っているポテンシャルの60%しか発揮していないが、素晴らしい方向に進んでいる」

──五郎丸を後半途中からアウトサイドCTBのポジションに入れた理由は。

「13番というのは、仙波のように強くて、ボールを前に運べる能力が必要。DFでは状況判断をしていくキーになるポジションでもある。いまはスコッドの深みをつくっていく段階でもあり、必要性が生じた場合、今後、五郎丸を13番で起用する可能性もある」

──廣瀬(俊朗=WTB)主将のキャプテンシーに関して。

「常にいいお手本として、若いチームを本当によくまとめてくれている。我々の目標は世界のトップ10入りすること。もちろん、その実現には、世界で最もハードにトレーニングしていくことが必要になる。それは決して簡単なことではない。だからこそ、チームにおけるリーダーシップが重要になってくる。今日は1トライも決めてくれて、良かった」

──畠山(健介=PR)の1番としての現状は。

「1番として? 全然ダメ(笑)。もちろん、1番と3番はまったく違うポジション。いまはルースヘッド(1番)として学んでいる段階。3年後に、1番でも3番でも問題なくプレーしてくれるようになってくれていればいい。実際に、それができた時、そういうプレーヤーは彼も含めて世界に4、5人しかいないという状況になる。畠山にトライさせていることは、それくらい難しいことなのです。もちろん、スクラム以外の一般的なプレーは、スバ抜けている」

──キックを使わないのは基本スタイルなのか、あるいはPNCなど強い相手との対戦では、キックも使って、ゲームを切っていくような場面も出てくるのか。

「いまの段階ではキックというアイディアはない。『プレー・ザ・ゲーム』ということを第一に考えている。まだ、自分たちの強みがどこにあるのかを探している段階で、まずはスペースを見つけることが重要。たとえば14人がDFラインに入っていたらキックだし、12人がラインにいて、3人が後ろに下がっていたらラン。そういう状況判断も含めたチームとしてのプレーの精度を上げていきたい」

フロントローのワークレートでは圧倒的な存在感を見せるPR畠山。PNCに向けてスクラムの安定もキーになる
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A5Nを通して10番をつけ続けたSO小野。SH日和佐やFW陣とのリンクも格段と良くなった印象
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──スクラムに関して、香港がプレシャーをかけてくるシーンもあったが。

「自分たちが理想としているスクラムとはまだ大きな隔たりがある。薫田(真広アシスタントコーチ)はいい仕事をしてくれているが、ゆっくりとした成長しかしていない部分ではあると思う。基本的に高い組み方になってしまっているが、低いスクラムを組むだけの脚力が足りていないのかもしれない。今後3年間で進歩させていかなければいけない部分だと思う」

──テストマッチ通算トライ数で世界4位となったWTB小野澤(宏時)に関する評価を。

「まだピークには達していない、これからの選手(笑)。均ちゃん(LO大野)同様、チームに対する貢献は素晴らしいものがある。彼らは、歴代日本代表キャップ数2位と4位の選手。ひとりは飲む選手で、もうひとりは飲まない選手。ひとりはトライを取る選手で、もうひとりは取らない選手。ひとりは得意なタックルをしまくる選手で、もうひとりは少しだけやる選手。バランスもいい(笑)」

──香港の監督からはFW第3列への賞賛もあったが。

「(韓国戦に続いてNO8としてプレーした)リーチはだいぶ良くなった。いままでと違うラグビーを学んでいる段階で、今日はチームを勢いづかせる原動力になっていた。佐々木はフィットネスのレベルがとても高い。最後の20分でさらに仕事量が上がるのが凄いところ。望月も6番として、前に出る役割をしっかりこなしてくれていて、とてもバランスがいい」

──A5Nを終えて、成果した点と課題を。

「フィットネスも力強さもまだ足りない。それはひと晩で解決できるものではない。3年間、成長を続けなければいけない部分であり、選手たちもそのことは理解している。その一方で、この6週間での選手たちに起こった変化は著しいものがある。筋肉量が増えたり、スピードが上がったり」

──A5Nの間は、試合の一方で鍛える練習も続けていたが、PNCの期間も同じようにトレーニングしていくのか。

「いま、我々の目標は2つある。ひとつはPNCで優勝することで、もうひとつは世界のトップ10入りすること。そのために、ゲームに照準を合わせた調整をしっかりやっていく一方で、ハードなトレーニングを続けていく必要もある。そのバランスが重要になっていく。
 6月のPNCからフレンチバーバリアンズとの『リポビタンDチャンレンジ2012』にかけては、ちょうどワールドカップでの戦いを想定したスケジュールになっている。最初のフィジー戦が5日で、最後となるフレンチバーバリアンズ戦の2試合目が24日。フレンチバーバリアンズ戦のうち1試合は若手中心のメンバーで臨むことになると思うが、それ以外の4試合を19日間で戦うことになる。ワールドカップのプール戦と似た状況をどう乗り切っていくかとてもいい機会となる一方で、しっかり進歩していく必要もある。
 ここまでの選手たちの取り組みは本当に素晴らしい。ハードなトレーニングを続けて、短時間でいろんなことを吸収している。PNC期間中もハードワーキングを続けながら、結果を出すことを目指すことになる」

──A5Nで起用する選手をある程度、絞った理由は。

「シンプルに勝ちたかったから。桜のエンブレムというのは、日本のラグビーで最も重みがあるもの。いまのスコッドには間違いなくポテンシャルの高いメンバーが揃っている。それでも、彼らがしっかり日本代表ジャージを着るにふさわしく成長するまでは、日本代表として試合には出られない」

──PNCに向けてのメンバー選考に関して。

「そう大きな変化はない。ただ、チームを強くしていくプロセスで、スコッド全体の強化は考えていかなくてならないこと。スコッドの中でメンバーに入れない選手のリアクションは素晴らしいものがある。よりフィットして、より強くなって、より速くなるという姿勢が前面に表れている。
 新たに外国人選手が入ってくる可能性は非常に低い。新しいプレーヤーが入ってくるとしても、あくまでも『ジャパン・ウェイ』に相応しい選手というのが条件となる」



女子代表も会心の試合内容で香港に快勝(61-15)。アウトサイドCTBに入った鈴木彩の冷静なプレーも光っていた
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