ヨーロッパ遠征中の日本代表は25日、フランス北部のルアーブルで「JAPAN XV」としてフレンチ・バーバリアンズと対戦した。JAPAN XVは試合開始直後のWTB小野澤宏時のトライなど6トライを奪うアタック力を見せた一方で9トライを献上、41-65で敗れて6月に東京で2敗したリベンジは果たせなかった。欧州で初のテストマッチ2勝を達成した日本代表は、27日夜に帰国する予定だ。

(text by Kenji Demura)

 PRジャンバティスト・プクス(フランス代表42キャップ)やCTBヤニック・ジョジオン(同72キャップ)というビッグネームも加わったフレンチ・バーバリアンズだが、6月の来日時に一緒にプレーした選手がいるとはいえ、寄せ集めチームであることに変わりはない。さらに、選手たちが所属するフランス1部リーグはウインドウマンスで中断中。「バスク選抜も最初は激しく来なかった。スタートが大事になる。日本は最初に20分間にかけていきたい」とLO大野均。敵地で強敵を倒すために必要なのは、立ち上がりにペースをつかむこと──。それがチームの共通認識だった。

ジョーンズHCは試合後の円陣で「あの10分間を絶対に忘れないようにしよう」と選手に語った
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 JAPAN XVは今遠征の4試合の中で最高の試合の入りを見せた。開始のキックオフで相手陣に入ると防御でプレッシャーをかけ、相手にパスミスを起こさせる。WTB小野澤宏時がこぼれたボールを足にかけると、相手陣深くで相手選手が処理し損なったボールをインゴールで押さえて、いきなりのノーホイッスルトライ。左隅からの難しいゴールをバイスキャプテンのFB五郎丸歩が決めて、7点のリードを奪った。

 その後、3分にフレンチ・バーバリアンズ、8分に五郎丸がPGを交換。18分にフレンチ・バーバリアンズに相手陣深くからのカウンターアタックでトライを許したものの、23分には相手陣深くのPKからSH田中史朗が判断よく仕掛け、そのままインゴールに飛び込んで再び7点差にするなど、狙い通りの立ち上がりとなった。エディー・ジョーンズ ヘッドコーチが「毎日、スクラムの夢を見るんだ」と冗談めかして口にしたほどスクラムは今遠征の最大の懸案事項だったが、「最初はうまく組めていた」とPR畠山健介。強力なフレンチ・バーバリアンズFWにもJAPAN XVはしっかりと対抗できていた。

 前半は、日本側がボールキープしている時間の方が圧倒的に長かったが、フレンチ・バーバリアンズは6月の来日時に実証したように「ターンオーバーされると、スピードがあるし、オープンプレーでのハンドスキルにも優れているので危険」(ジョーンズ ヘッドコーチ)なチーム。JAPAN XVとしては、しっかりボールキープしながら攻撃を続けたかったが、キックチャージにインターセプトというミスが続いて24、40分とトライを重ねられ、17-22と逆転されてハーフタイムを迎えることになった。

 後半に入ると、ジョーンズ ヘッドコーチが「我々は10分間タックルをやめてしまった」と試合後の記者会見で指摘した時間帯を迎えることになる。後半のキックオフからいきなりノーホイッスルトライのお返しをされた後、いずれも日本が相手陣まで攻めた後のターンオーバーからボールをつながれて、5、7、9分と連続トライを奪われ、一気にリードを31点にまで広げられてしまう。試合後の円陣でジョーンズ ヘッドコーチが「あの10分間を絶対に忘れないようにしよう。2度と繰り返してはいけない」と選手たちに語った時間帯に許した26点で勝敗の行方はほぼ決した。

 それでも、悪夢のような10分間の後は再びJAPAN XVが攻撃的なラグビーで地元の観客を魅了することになる。「あの10分間を除けば、クロスゲームを繰り広げている。70分間は、しっかりと良い種類のラグビーを見せられた。そのことは誇りに思う」とジョーンズ ヘッドコーチも振り返った。15分に相手ゴール前でモールを押し込んだ後、CTB田村優が防御のギャップをついてインゴールに飛び込んで反撃開始。21分に「相手が組み方を変えてきて、うまく対応できなくなっていた」(PR長江有祐)というスクラムでフレンチ・バーバリアンズにペナルティトライを許すが、それ以外は試合終了間際まで日本側が攻め続ける時間帯が続いた。

 JAPAN XVは後半14分にSH田中から日和佐篤、同17分にCTB仙波智裕から有賀剛、同26分に廣瀬から山田章仁に入れ替え。代わって入った選手たちはそれぞれ特徴を出したプレーでチームのアタックを勢いづけた。24分、「とにかくアタックという意識しかなかった」という有賀の突破を起点に、FLヘンドリック・ツイが相手防御を引きつけた後、右隅でパスをもらった山田が走り切ってトライ。28分にはタイミングよく走り込んできた有賀がパスダミーできれいに相手防御を置き去りにしてそのままトライした。さらに33分にはラックから日和佐がタイミングよくボールを持ち出し、大外の山田にパスを通して、一気に41-55の14点差にまで追い上げた。2トライの山田は「時間も少ないし、『自信を持って自分のプレーをしよう』と割り切れたのが良かった」。JAPAN XVのアタックスピードを上げることに貢献していた日和佐は「テンポは通用すると思った」と手応えを口にした。

 フレッシュなメンバーの活躍で2トライ2ゴール差まで追い上げたJAPAN XVに対して、36分、フレンチ・バーバリアンズはなんと勝利を確実なものにしようとPGを選択する。これには公式発表で1万人の観衆から大ブーイングが起きた。試合後、バーバリアンズクラブのシャルベゼネラルディレクターも「常にトライをとりに行くのがフレンチ・バーバリアンズのエスプリ(精神)なのに、最後のPGはいただけない」とおかんむり。残り時間が少ないにも関わらず、日本の追い上げをフレンチ・バーバリアンズが恐れたゆえの選択だったのだろう。「世界ランキングに当てはめれば、10位か11位に位置する」とジョーンズ ヘッドコーチが評価するフレンチ・バーバリアンズをそこまで追い詰めただけに、「後半最初の10分間がなければ」と悔やまれる試合展開だった。

 ジョーンズ ヘッドコーチは今回のヨーロッパ遠征の締めくくりとなった試合を手応えと課題の両面から総括した。「間違いなく、6月から成長したところを見せられた。ただし、フィジカル面では十分に強くはない。スクラムも改善しているとはいえ、十分に良くなってはいない。選手たちの気持ちは素晴らしかった。自分たちのラグビーを信じ切っているというのは疑いがなかった。ただ、あるエリアで日本ラグビーの根本的なところを変えないといけないのも事実。それを考えさせられる試合だった」