スクラムでのペナルティ含む6トライでアメリカ圧倒
逞しく成長した姿を披露して春シーズンの有終の美

6月23日、東京・秩父宮ラグビ―場で『IRBパシフィック・ネーションズカップ(PNC)2013』日本―アメリカ戦が行われ、日本代表は38―20で快勝。計10試合行われた13年春シーズンの有終の美を飾った。

日本―アメリカ戦に先立って行われたトンガ―フィジー戦に34―21で勝利したフィジーが3勝1敗の勝ち点16で優勝を決めた。
2連敗の後、2連勝の日本代表は勝ち点9で4位となった。

(text by Kenji Demura)

photo by H.Nagaoka
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4月20日のアジア5カ国対抗開幕戦の対フィリピン戦を皮切りに、2ヵ月以上に渡って計10試合戦われてきた春シーズンの総決算とも言えたPNC最終戦。
試合前、エディー・ジョーンズ ヘッドコーチは以下のようにチームに期待していることを語っていた。

「いかに進歩しているかを見たい。チーム 全体が前進しているところを。セットピースに力を入れてきたので、スクラムとラインアウトがしっかりしているか。まだ、流れのいいアタックができない部分もあるのが、ウェールズ戦、カナダ戦の後半はいい流れが見えた。それを80分間続けてほしい」

あるいは、「80分間」という点では、厳しい評価にならざるを得ない面もあったかもしれないが、PNC初の計6トライを挙げての勝利という事実からもわかるとおり、今春10テストマッチ目となったアメリカ戦は、「ジャパンウェイ」の進化を印象づける快勝ぶりとなった。

「アメリカはゲームの入りのところでフィジカルにくると思うので、試合の入りを気をつけたい。受けるのではなく、自分たちで仕掛けて、相手にプレッシャーをかけていきたい。最初の10分間が一番大事」(NO8菊谷崇バイスキャプテン)

そんなふうに、立ち上がりにペースをつかむことが、この日のゲームプランのひとつだったが、その意味ではこの日の日本代表は最高のスタートを切ることに成功する。

キックオフからアメリカ陣に攻め込む時間帯が多かった日本は6分にラインアウトを起点に内側のスペースをしっかり攻めた後、HO堀江翔太→NO8菊谷バイスキャプテン→FB五郎丸歩バイスキャプテン→WTB藤田慶和と素早いパスをつないで、期待のティーンエイジWTBが先制トライ。

FB五郎丸バイスキャプテンのゴールも決まって、早くも7―0とリードする。

「チームのみんながいい感じでボールを回してくれたのと、いい感じで呼べたのは自分としても良かった」(藤田)という若武者の先制トライで一気に勢いに乗っていくかに思われたが、その後の15分間ほどはアメリカにペースを握られる展開に。

5分、20分とアメリカに2トライを奪われて、逆に5点のビハインド。

それでも、「自分たちアタッキングのチームなので、どんどん自分たちでデシジョン・メイキングして、ボールを空いているところに運びながら、みんなでアタックしてトライ取れればいい」というWTB廣瀬俊朗キャプテンの言葉どおりに、あくまでも攻める姿勢を貫き通して、再び流れを引き戻す。

24分に「自分の一番の強みであるボールキャリーのところでチームに貢献できて嬉しい」というCTBマレ・サウが相手DFを引きずったままトライラインを越えてすぐに同点(12―12)。

37分には「何よりもセットプレーが安定しているのが強みになっている」と、FW最年長のLO大野均が胸を張るスクラムを起点にSH田中史朗、途中出場のPR畠山健介(前半35分に山下裕史と交替)、HO堀江翔太などがしっかりゲインラインを超えた後、ラックサイドをFLヘンドリック・ツイが割って逆転。
「前半は良くなかった」(ジョーンズHC)と言いながらも、19―15とリードしてハーフタイムを迎えた。

photo by H.Nagaoka
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「ABs並みのテストマッチ勝率90%を目指す」(ジョーンズHC)

「カナダ戦の最初の30分間、2-3フェイズ目でいくつかのボールをターンオーバーされた点は改善する必要がある。強いチームと対戦した場合、最初の30分間のフィジカル面での優位性によって、15~20点差をつけられる可能性がある。後半、相手が消耗して、力強くフィニッシュするイメージはできている」

アメリカ戦に向けた課題に関して、そんなふうに語っていたジョーンズHC。

後半はジョーンズHCのイメージどおりになる。

3分にCTBサウのブレイクの後、FB五郎丸バイスキャプテンのパスを受けたWTB廣瀬主将が飛び込んだのを皮切りに20分過ぎまでに3トライを重ねて最終スコアは38―20。

後半2つ目のトライは「ペナルティを取れるくらいにならないと、スクラムが強くなったとは言えない」と、スクラム担当のマルク・ダルマゾスポットコーチにハッパをかけられていたFW陣が、ゴール前でスクラムにこだわり続けて、奪ったペナルティトライ。

そして、3つ目のトライは、「いま、日本代表がいい成績を残さないと日本ラグビーが終わってしまう」という危機感を持ち続けたSH田中が好判断でラックサイドをすり抜けたもの。

そんな後半のトライの重ね方こそ、この春の日本代表の進化の象徴と言えるかもしれない。
「後半のスクラムは自分だったら3点を取りにいった。選手たちの自信の表れだと思うし、その自信を持つスクラムでトライを奪ったことにはおめでとうと言いたい。

田中はスーパーラグビーに行って、本当にランニングフィットレベルが上がった。まわりを仕切ることにも長けている。判断力、スキルレベルでは世界でも稀に見るレベルにあるスクラムハーフだ」(ジョーンズHC)

試合前、「最高の80分にしたい」と語っていた廣瀬キャプテンは「タイトなスケジュールの中、3連勝できたことは素直に嬉しく思う。地力がついたのを感じた」と、コンディションも厳しく、内容的にも完璧ではない中で力強く勝ち切ったことに手応えを感じでいる様子だった。

「全体的には正しい方向に進んでいるが、もっと強く、もっと速く、もっとスキルフルにならなくてはいけない。
オールブラックスは50試合のテストマッチで90%という信じられないような勝率を誇っている。我々もそこをターゲットにしていきたい」(ジョーンズHC)

目標の15年に世界のトップ10入りを引き寄せる、大きな成長を見せた、今春の日本代表。

世界トップチームとの対戦が組まれることになりそうな、秋シーズンが待ちきれない。

photo by H.Nagaoka
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