ロシア戦の教訓を生かし、前半着実にPG加点
後半4トライを重ねて欧州ツアーの有終の美

リポビタンDツアー2013欧州遠征中の日本代表が23日(日本時間24日未明)、マドリードでスペイン代表とテストマッチを戦い、40―7で快勝した。

遠征初戦のスコットランド戦(9日)、第2戦のグロスター戦(12日=ジャパンXVとして対戦)で連敗した後、ロシア(15日)、スペインと、昨年に続き欧州でのテストマッチで2連勝。遠征の有終の美を飾り、24日に帰国の途に着くことになった。

(text by Kenji Demura)

photo by RJP Kenji Demura
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8日前のロシア戦。
最終的には5トライを重ねて40―13で快勝したものの、前半はやや軽率と言っていいプレーからのミスや、得点を重ねるべきところでPGを狙わなかったことなどが響いて苦戦。
13―13の同点で折り返した後のハーフタイムには、スティーブ・ボーズウィックスポットコーチから厳しく叱責される場面もあるなど、結果的にややリスペクトを欠いていたと言われても仕方のない戦い方をしてしまった面もあった日本代表。
この日は日本から約1万km離れた地でのアウェー戦にもかかわらず、前の試合で出た反省を生かして、立ち上がりからしっかりと落ち着いた試合運びを見せた。

「タフゲームになるとは思っていた。前半はアームレスリング。最初の10分、20分で勝負がつくテストマッチはない。スペインチームの多くの選手がフランスでプレーしていて、スペインリーグもタフ。そういう状況では、3点ずつ取っていくのがベストだった」
試合後の記者会見でそう振り返ったのは、スコット・ワイズマンテルヘッドコーチ代行。確かにひとつひとつのプレーで日本が上回っていることは立ち上がりから明らかだったが、反則をしてでもブレイクダウンでしつこく絡んでこようとするスペインとそれを放置するレフリング。ペナルティキックからの素早いリスタートさえ認められない状況でもあったため、前半は狙える地点からのPKは全てPGを選択。
前半3、7、9、23分にFB五郎丸歩が確実に決めて主導権を握ったが、37分にスペインにショートサイドを突破されて1トライ(1ゴール)を奪われ、12-7に点差を詰められた。

そして、あるいはこの1戦で最も象徴的だったかもしれないのが、その直後のプレー(選択)。
スペインにトライを奪われた直後に敵陣ゴール前で得たPKでもWTB廣瀬俊朗キャプテンは冷静にPGをチョイスしたのだ。
「焦ってトライを狙いに行くことが、自分たちの今日やろうとしていることを崩してしまうという判断もあったし、そんなに自分たちがテンポよく攻めている感じではなかったので、とにかく点数を積み重ねたいという思いからショットを選択した」(同キャプテン)
少しでも冷静さを失っていたなら、「(トライを)取られたら、すぐに取り返す」という衝動にかられてもおかしくなかった場面。

ここでしっかり3点を刻んで、リードを広げて後半を迎えられた点に、チームの成長は感じられた。

「ショットで点数を稼いでいくというのは決めていたこと。前回ロシアでスクラム選択したりして、点数取れずに前半ドローで折り返してしまっているので、そこはしっかり決めていこう、と。これがある意味テストマッチのラグビ―だし、勝つための方法ではある」

8年前のスペイン戦での日本代表デビュー以来、数々の修羅場を経験してきたNO8菊谷崇が代弁してくれたとおり、ロシア戦で出た課題をしっかり修正しようとした姿勢を前面に出した戦いで、前半を終えて15―7。

「前半から『攻めてもいける』という感覚はあった」(HO堀江翔太)ものの、冷静に、冷静に相手へのリスペクトを忘れずに戦い、8点リードハーフタイムを迎えた。

この前半終了時点で、あるいはこの日一番重要だったミッションは成し遂げられていたのかもしれなかった。

photo by RJP Kenji Demura
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「選手ひとりひとりが大人になった兆しが見える気がする」(廣瀬主将)

前半、冷静さを失った面もあったロシア戦でも、後半はしっかり4トライを取ってみせたように、スペインに対してもサイドが入れ替わった後は、日本が一方的に攻める展開に。
「前半は停滞するケースが多かったので、そういう状態をストップさせたかった。ハーフタイムにはもっとテンポを上げよう、もっとボールを持ってプレーする時間を長くしよう、と指示を出した」

そんなワイズマンテルHC代行の言葉どおりに、後半6分にFLヘンドリック・ツイの突破からHO堀江が左隅に飛び込んで初トライ。

さらに、後半8分、この秋のテストマッチでは最も早いタイミングでSHが田中史朗から日和佐篤に交代すると、日本の攻撃テンポはさらによくなる。

それは、「日和佐でテンポ上がってトライ取れてたんで、戦術的には良かった」と、ベンチに下がった田中が冷静に振り返るほど。

逆に日和佐自身は「前半、出ていた選手たちがみんなすごく頑張ってくれて、それがボディブローになって効いて、後半は相手の足が止まっていた。入った時点で相手はずいぶん疲れていた」と、前半のがんばりが後半のテンポアップつながったと指摘した。

後半13分に五郎丸がPGを加えた後、18分、24分と共にラインアウトを起点にFLマイケル・ブロードハーストが連続トライ。

後は途中出場していたPR三上正貴が「スクラムトライ」と主張したとおり、相手ゴール前で完全にスクラムで押し勝った後、廣瀬主将が余裕を持ってスペインインゴールで押さえて4トライ目(29分=40―7)。
この“スクラムトライ”時のPR陣は三上と畠山健介の途中出場組だったが、これも平島久照、山下裕史の先発組が「前半すぐにはでは圧倒できないと思うが、徐々に削っていって、いいバトンを渡せれば」と、試合前に山下が語っていたとおりの仕事をしてくれていたからでもあるだろう。

「ロシア戦で学んだとおり、ポイントできるところはしっかりポイント取っていくのは当然で、後半しっかり突き放すことができたのは良かった。テストマッチということをどう戦うかということに関しては成長した」と言うのは自らの右足で計20点を叩き出したFB五郎丸。

廣瀬キャプテンは、エディー・ジョーンズヘッドコーチ不在ながら、欧州でテストマッチに連勝できたことの意義に関しても噛み締めるように、以下のとおり語ってくれた。
「今まではエディーを信頼して試合に臨めていた。『こうやったらいける』と彼が提示してくれたことをやって、確かにできて自信になる。今回はそこがなかったから、自分の中の自信をどう作るというところを選手ひとりひとりが考えないといけなかった。エディーがいない状況でいろいろ考えたことは、今度エディーが戻ってきた時に、チームにとっては大きなプラスになると思う。選手ひとりひとりが大人になる兆しが見えた気がする」

ジョーンズHCに代わって、今秋、日本代表を率いたワイズマンテルHC代行は、今回の遠征での一番の収穫を「ゲームマネージメント」だと総括した。そして、「エディーも今回の結果に関してハッピーだと考えている思う」とも。
「もちろん、(ジョーンズHCと)新たなスタンダードをセットしながら向上を続けることが必要であるということを確認し合うことになる」

スコットランドを破ることこそできなかったものの、「トップ10のチームはチャンスのところでは必ず得点して帰るし、ミスも最小限。学ぶことは非常に多かった」(五郎丸)と実感できたことも含め、2年後のラグビ―ワールドカップでトップ10入りするために必要なことは何なのか、選手ひとりひとりが実感できた欧州遠征になったことは間違いないだろう。

photo by RJP Kenji Demura
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