「第51回 日本ラグビーフットボール選手権大会」
マッチリポート

東芝ブレイブルーパス 24-21 トヨタ自動車ヴェルブリッツ

【2回戦/2014年2月23日(日) /東京・秩父宮ラグビー場】
東芝、ヒルのドロップ・ゴールで3点差辛勝、準決勝へ。

両チームともフィジカルの強さが魅力の東芝対トヨタ。トップリーグのセカンドステージでは東芝が27-12で完勝している。しかし、それまでのシーズン中は試合により出来不出来の波があったトヨタは、セカンドステージ終盤の3試合、ワイルドカード2試合、そして日本選手権1回戦の対帝京大戦と6連勝中と絶好調である。トヨタがトップ4の東芝に勝ち、4季ぶりに日本選手権の4強入りとなるかどうかに興味が持てる試合だ。

前半は両チームとも決め手に欠いた。前半10分、東芝SH小川高廣が、また11分にはトヨタSO文字隆也がPGを決め、3-3。さらに21分東芝、30分にもトヨタがPGで加点して6-6となった。東芝はフィフティーンがよく動き、攻め込むが、トヨタもディフェンスがよく、また、トヨタはFWがボールを獲得してもSO文字のエリアをとるわけでもない距離のないキックで、東芝にボールを渡して逆にカウンターされるシーンも多く、両チームともトライが取れない。
試合が動いたのは、前半の最後の5分からだった。前半37分、東芝に攻め込まれたトヨタが自陣でノット・リリース・ザ・ボールの反則。これで得た中央20mのPGを東芝SH小川がしっかり得点し、9-6とリードした。しかし、その直後のキックオフ・ボールをトヨタが確保して、フェイズを重ねたアタックをすると、好突進したCTBタウモエピアウ・シリベヌシィからオフロード・パスをもらったFLヘーデン・ホップグッドがそのままインゴールへトライ、ゴールも成功し、トヨタが9-13と逆転してハーフタイムとなった。

後半9分、敵陣でのラインアウトからモールを押し込んだ東芝は、ラックからSH小川がギャップを突くと、FLリーチ マイケルがゴール直前に迫り、そのラックからHO湯原祐希がインゴールにボールを押さえトライ、ゴールも成功し、東芝が16-13と逆転した。
しかし、その直後の後半12分、トヨタがキックオフのボールを確保すると、SO文字が内側に走り込んだWTB彦坂匡克にパス。そのボールをもらったCTB山内貴之が前進してラック、リズムよくSH滑川-SO文字から再び、内側にパス。後半から交替出場しているPR佐藤一斗がパスを受けゴール前に走りこむと、最後はCTBタウモエピアウが腕を伸ばしてゴールライン上にトライ(ゴール不成功)。トヨタが16-18と再逆転、シーソーゲームとなった。
東芝は後半から出場しているFLスティーブン・ベイツが攻守にいいところで活躍してチャンスを作る。それに対し、トヨタはケガをしたPR中村、HO上野からFW第一列を佐藤、彦坂圭克に入替えし、若手の第一列となったが、スクラムで東芝の熟練した第一列にコラプシングをとられるようなこともあり、微妙に後半の試合の流れに影響したようだ。
東芝がトヨタ陣ゴール前に攻め込みゴール前でフェイズを重ね、トヨタもよくタックルして防いでいたが、東芝のプレッシャーが強く、何度か反則を誘われ、後半19分、FLホップグッドのオフサイドが「チームの反則の繰り返し」として、シンビン、10分間の退場となった。
2点差を追う東芝としては、この10分間に是非トライをとり逆転したい。
東芝は22分にデイビッド・ヒルを投入、廣瀬をWTBに下げたが、ヒルは廣瀬とは対照的に効果的なキックでエリアをとるゲームメイクで敵陣に攻め込む。
しかし東芝後半15分、25分のPGチャンスに小川がPGをはずし、シンビンの10分間に逆転できない。逆に、シンビンの10分間を終える直前の30分に、トヨタの文字が45mの長いPGをしっかり決め、16-21とリードを広げた。

しかし32分、東芝にようやくトライチャンスが訪れた。トヨタが自陣から攻めていたが、オーバー・ザ・トップでペナルティ。そのPKから東芝がクイック・アタック。ラックから出たボールをSOヒル-FLベイツからWTB大島脩平に左にすばやくつなぎトライ。21-21と同点に追いついた。大島が中央に回り込まずにトライをしたこともあり、勝ち越しとなるコンバージョンをSH小川が外し、残り8分で21-21となると、引き分けの時の大会規定が気になり始めた。大会規定では同点の時は[1]トライ数、[2]トライ後のゴール数、[3]抽選となっているが、ここまで両チームとも2T、1G、3PGと全く同じ得点パターンだ。ピッチ上の選手たちが細かな大会規定を知っているかどうかわからないが、どちらのチームの選手も次の得点が決勝点になることは理解している。
試合を決めたのは経験豊かなSOヒルだった。トヨタのノックオンからボールをターン・オーバーした東芝はトヨタゴール前に迫り、ラックサイドを、ベイツ、リーチ、望月、大野らが次々と核になりフェイズを重ねる。38分、ラックのポイントがゴール・ポスト前の中央になった時、SOヒルがラックの真後ろで小川のパスを受け、ドロップゴールがきれいに決まり24-21と勝ち越し、そのままノーサイドとなった。

東芝は、フィジカルの激しい試合でFWがボールをしっかり獲得し、後半に投入したFLベイツ、SOヒルがしっかり役目を果たし、勝利に貢献。次の準決勝、サントリーサンゴリアス戦に駒を進めた。(正野雄一郎)

会見リポート
 

東芝ブレイブルーパスの和田監督とリーチキャプテン

東芝ブレイブルーパス

○和田賢一監督

「本日は多くの方々においでいただき、天覧試合ともなって、光栄です。関係の皆様に感謝したいと思います。見てのとおりの辛勝で、うまく行きませんでした。トヨタ自動車さんの圧力を受け、一歩一歩食い込まれたのが、この結果につながったと思います。次のサントリー戦にはしっかり準備して臨みたいと思います」

──ラインアウトは研究されていたのでは?

「研究された以外に、アンダープレッシャーの下、正確性に欠けていました。トヨタ自動車さんのラインアウトからのモールで、前に出られたのを止められませんでした。しっかり準備したが、前へ出られなかったので、検証したいと思います」

──ディフェンスでトヨタ自動車にゲインされたが?

「インサイドのプレーヤーが上がり続けず、ほとんどトヨタ自動車さんがカットインでブレイクしてきました」

──小川選手が大事なところで決められなかったが?

「本来の彼なら、十分決められるゴールです。ゴールキックは難しいのはよく分かっています。しかし、彼はディフェンスを突破するところはよくやってくれたと思います」

──大野、ベイツ、ヒル選手の交代のタイミングは?

「戦術です。広いスペースのバックスで勝負したいということもあり、大野はラスト30分で、一番徹底的にハードワークする選手です。ヒルはラスト10分間、ゲームを安定させるプレーができるということで出しました」

──ドロップゴールは?

「あの場面では、継続すればペナルティがもらえるかと。トヨタ自動車さんのディフェンスはタイトでしたが、ヒルのドロップゴールはオプションとしてあるなとも思っていましたが、実際に決まって、非常によく考えているなと思いました」

──サントリー戦は?

「サントリーさんはクイックラグビーですので、ディフェンスで、いかに一つの接点で食い込ませるか、逆にアタックでは、接点で食い込ませながら、こちらのプレーヤーが、このボールをいかに運ぶのか考えていくことです」

○リーチマイケルキャプテン

「本日は多くの方々に来ていただいてありがとうございました。トヨタ自動車さんは予想どおり、ブレイクダウンが強くフィジカルに戦ってきたため、自分たちのリズムを崩されたと思います。今日の試合は、勝って嬉しいです。準決勝では、自分たちにフォーカスして頑張りたいと思います」

──残り時間がないところでのドロップゴールだったが?

「もちろん、同点になって、中居コーチから、「同点だと東芝が負ける」と聞いて、徹底して攻めて、向こうの陣地で3点取ろうと思っていました」

──サントリー戦に向けて?

「シーズン後半になって、自分たちのやっていることのレベルを上げていくことです。もちろん修正もあるが、スタンディングラグビーを信じてやっていくしかありません」

 

トヨタ自動車ヴェルブリッツの廣瀬監督と上野キャプテン

トヨタ自動車ヴェルブリッツ

 

○廣瀬佳司監督

「本日はありがとうございます。トップリーグの順位からいうと、我々はチャレンジャーとして東芝さんに臨みました。東芝さんはフィジカルなチームですので、いつも東芝さんとやるとガチガチの試合になります。それに負けないようにと、先週の練習は選手がよくやってくれました。これでシーズンが終わりますが、来年につながるトヨタ自動車のスピリットが見せられたことには満足しています」

──もう少し、2ndステージで良い位置につけば、このようなタフな戦い方にならなかったのでは?

「この質問は、良く受けます。2ndステージ4連敗からだったが、悲観せず、自分たちのラグビーをどのチームにも同じようにやろうと意思統一はできていました。特に何かを変えたということもありません。これがトヨタ自動車のラグビーだと、リーダーが中心になり、まとまって、良く選手がやってくれたと思います」

──後半、半ばから勢いがなくなったが?

「それはアグレッシブにコンタクトに行ったが、シンビンになったこともありますが、前半に上野と中村が負傷して、スクラムがコントロールできず、シンビン明けに出した吉田がワンプレーで負傷したこともあります。黒宮をフランカーに入れざるを得ないことになりました。何とか、5分頑張ってくれと思ったが、力尽きて、これもチーム力だと痛感しました。しかし、こういう条件の中で、出た選手はよくやってくれました」

──連戦の疲れを引きずったのでは?

「トップリーグ終盤から連戦、連戦で、正直、疲労はありました」

○上野隆太キャプテン

「お疲れ様です。今日は監督も言われたように、チャレンジャーとして臨んだ一戦で、随所にトヨタ自動車らしいラグを見せることができました。選手、スタッフを誇りに思います。ただ、試合は3点差で負けてしまい、悔しくて、今は何も思い浮かびません。しっかり準備して、トヨタ自動車のラグビーができたのは良かったと思います」

──3点差の負けの理由は?

「理由は一つではないと思いますが、最後に敵陣に入って、決めた東芝さんが勝ったということしか思い浮かびません」

──東芝に負けていたので?

「もちろん、2ndステージで敗退している相手ですので、やり返したい気持ちはありました。その時はセットピースを崩されましたが、今日は、セットピースは安定していたので良かったと思います」