岩渕GMの心を動かした試合前の光景
「19年にはもっとすごいことを」

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第57回が11月12日、東京都・港区のみなとパーク芝浦内「男女平等参画センター(リーブラ)ホール」で開催された。今回はラグビー日本代表ゼネラルマネージャー(GM)の岩渕健輔氏を招き、ラグビージャーナリストの村上晃一氏の進行のもと、「ラグビーワールドカップ2015レビュー ~日本代表編~」をテーマに講演が行われた。

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◆南アフリカ戦勝利の瞬間は「不思議と冷静でした」

岩渕GMはまず、最大の衝撃となった南アフリカ戦から振り返った。「初戦の南アフリカ戦がすべてのキーでした。その日の朝にエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)と『今日は勝つよ』という話をしました。4月に日本代表が集まった時点で『どうやって南アフリカに勝つか』を選手に提示していたので、チームとしては勝つつもりでした」

進行役の村上氏が「勝つというのは本気で……?」と聞き返して、会場が笑いに包まれるなど、ワールドカップが始まるまでは日本が南アフリカに勝つとはファン、関係者も信じられない状況だった。それでも、岩渕GMは序盤から手応えを感じていた。「最初の10分でボールを持った選手に2人目が寄る速さで勝っていました。ブレイクダウン(密集でのボールの奪い合い)で日本がプレッシャーをかけていたので、いけるかなと思いました」。そして、日本が点差を離されずについていくことで、観客の興奮は日本への応援に変化し、南アフリカには焦りが見え始めた。「南アフリカでもパニックになるんだと驚きました(岩渕GM)」

そして、日本代表はヘスケスのトライで南アフリカを破り、会場は熱狂したが、岩渕GMは冷静だったという。「不思議と冷静でした。泣いたり、ガッツポーズはしなかったです。私は一人で見ていたんですが、周りは本当にすごかったですね。逆に『3日後は大変だな』と思いました」。中3日で迎える次戦は、スコットランドにとっては初戦であり、日本を分析する時間もあった。逆に日本は南アフリカ戦に比べて、分析が十分にできず、スコットランドに敗れた。

◆「これからの5年がその後の50年を決める」

その後はサモア、アメリカに連勝し、3勝1敗の好成績を残したが、勝ち点の差で日本は決勝トーナメント進出を逃した。「このチームは準備をしっかりするチームなので、最後の2試合が地力の勝負だと思っていました。そこで勝ち切れるかどうかという点に、4年間やってきたことが出ると思っていたので、選手が集中して力を出してくれたのはうれしかったです」

そして、日本ラグビーの今後についても話は進んだ。岩渕氏が日本代表GMを続けるかどうかはまだ決まっていないが、強化しなければいけない点は多い。

「今回のワールドカップを永遠に語り継がれるようにしてはいけないと思っています。19年にもっとすごいことが起こせるようにしないといけません。今回は危機的状況を一歩脱け出たように見えますが、代表が勝っただけです。19年のワールドカップ、20年の東京五輪の後の21年からどうやっていくか……、これからの5年がその後の50年を決めると思っています」

◆日本代表、スーパーラグビーの指揮官は?

岩渕GMは国内のレベルを高めるためにトップリーグや大学のシステムを変えることも可能性のひとつと語った。そして来季から参入するスーパーラグビーについては「国としてのレベルを上げるためには日常的にワールドカップレベルを意識してプレーすることが大事です。そういう意味で世界トップのリーグのひとつに入れたのは良いことだと思います」。そして、気になる指揮官については「理想としては日本代表とスーパーラグビーが同じ方向性でやっていくことを考えているので、現段階でもそういうことを考えながら動いています」と話した。

◆ジョーンズ氏復帰の可能性は?

休憩を挟んで行われた第2部では、岩渕氏との質疑応答が行われた。

――日本代表HCにエディー・ジョーンズ氏の復帰はありますか?

「ない」ということはないと思います。一番、彼が言っていたのは「4年間同じところにいると、自分がすごく居心地が良くなってチャレンジできなくなる。だから新たなチャレンジがしたい」ということです。判断にあたっていろいろなポイントがあったと思うんですが、このことは間違いない彼の思いのひとつだと思っています。

――日本代表次期HCの選考のポイントは?

私だけで決めることではないのですが、選考のポイントとしては、世界トップレベルの実績があること、グローバルなネットワークを持っていること、日本のラグビーを知っていること。ここが大きなポイントとなっています。

今回、3勝したので次はそれ以上の成績が求められます。そこに導ける人を考えています。

◆若手有望選手を上のレベルでプレーさせる環境を

――サッカーの特別強化指定制度のように、大学生をトップリーグやスーパーラグビーでプレーさせることはできますか?

日本ラグビーの強化のために大きなところで、レベルの高い選手が少しでも高いレベルでプレーするのは大事なことだと考えています。現在は2チームに所属することができないルールになっていますが、競技力を上げるにはこういうところを変えないといけないと思います。大学リーグの再編もレベルは上がると思いますが、同じ大学生の中でやっていては飛躍的には上がりません。有望な選手はトップリーグや代表でプレーできるようにした方が良いと思います。

――GMの醍醐味は?

実は南アフリカ戦の時にチームの入口がわからなくなってしまって、一人で競技場の周りを何周もしたんですよ(笑)。その時にすれ違った日本から来たファンの方々が、ワクワクしているような、試合を期待してくださっている表情をしていたんです。その時に「今までやってきて良かったな」と思いました。19年になった時に、日本代表に期待してくれる環境が日本中に広がるようにできたら……と思いました。

◆2019年の日本代表に期待すること

今回はベスト8を目標にしていましたが、次のワールドカップの時点での目標に対してファンのみなさんが期待感を持てるチームになってほしいと思います。選手が強い気持ちを持って戦えるチームになることを期待しています。