HSBCワールドラグビーセブンズシリーズ 2015-2016 第1戦 ドバイ大会
レビュー
「世界を変える」目前だったフィジー戦はじめ
接戦の連続の末、シールド決勝敗退で大会終了
シールド決勝ではブレイクダウンでプレッシャーをかけてきたカナダに返り討ちに合い14位で大会終了
12月4、5日、アラブ首長国連邦のドバイでHSBCワールドラグビーセブンズシリーズ 2015-2016 第1戦 ドバイ大会が行われ、プール戦でアルゼンチン、フィジーに惜敗した後、カナダに快勝してボウルトーナメントに進出。日本は同準々決勝でケニアにサドンデスの延長戦で惜しくも敗れた後、シールドトーナメント準決勝ではロシアに劇的な逆転勝ち。コアチーム以外の国が優勝を果たすという快挙を成し遂げるべく臨んだ同決勝で再び対戦したカナダに惜敗して、総合順位14位で大会を終えた。
シールド準決勝のロシア戦でも先行を許したが、終了間際の後藤のトライ、副島のゴールで逆転勝ち
再び、日本が世界のラグビーの歴史を変える瞬間に立ち会える。
まさに“砂漠の中のラグビーオアシス”というのに相応しい存在として認識されているドバイのザ・セブンズ競技場にいたファンの多くは、そんな感覚を持ったはずだ。
ドバイセブンズ・プールAセカンドフェイズ、フィジー対日本。
後半7分を過ぎてもスコアボードに残されていた数字はフィジーが14に対して、日本が17。
セブンズワールドシリーズ史上最大のアップセットとなる偉業の達成は、あと一歩のところまで迫っていた。
「一人ひとりのフィジカルレベル、スキルレベルともに格段に良くなっている。戦術的にもブレイクダウンの精度、スペースの見極めも進歩しているし、何より落ち着いてプレーできている点も素晴らしい。新しい有能な選手たちが活躍したことも、明るい材料だろう」
敵将であるフィジーのベン・ライアン監督はそう日本のプレーを絶賛。
ただし、最終的にそれはあくまでも勝者として敗者のパフォーマンスの絶賛という範疇を超えないものだった。
残念ながら、ドバイでの史上最大のアップセットは実現しなかった。
あとワンプレー、それもフィジーゴール前から始まった“セブンズ王者”最後のアタックは、のべ13人がボールを触り100m前進して完結。
なぜ、長年フィジーが世界のトップに君臨できているかを証明するようなラストアタックで、フィジーが日本に逆転勝ちした。
そのフィジー戦を筆頭に、今回のドバイセブンズでの日本の試合はクロスゲームの連続だった。
王者を追い詰めたフィジー戦をはじめ世界の列強とクロスゲームを続けて成長ぶりをアピールした
その事実はチームがこの1年で確実に成長している証拠とも言えるだろう。
それは、単純に1年前のドバイセブンズでの成績と比較しても明らかだ。
今回と1年前のドバイセブンズでの成績をそれぞれ比較すると、以下のようになる。
2015
対アルゼンチン●19—31
対フィジー●17−21
対カナダ○21—7
対ケニア●12—17(12−12の同点からサドンデス延長)
対ロシア○21—19
対カナダ●17—19
2014
対ニュージーランド●0−36
対サモア●12—38
対スコットランド●0-47
対アメリカ●12-14
対カナダ●14−29
ラストワンプレーまで王者をリードも
最後の100mトライで悔しい逆転負け
ただし、今回のドバイセブンズは決して日本が自分たちの持てる力をすべて出せた大会だったわけではない。
前述のフィジー戦にしろ、決してパーフェクトな内容ではなかったし、ほぼ全試合、相手に先行されてから追いかける展開。
それは、前後半7分ずつしかない7人制ラグビーにとしては、致命的な不利な状況が続いたことを意味してもいた。
「フィジーが100の状態だったら、正直勝つチャンスはない。向こうがなんかおかしいなという時にこちらが100で初めて勝つチャンスが出てくる」(瀬川智広ヘッドコーチ)
そういう意味では、いきなり日本のキックオフをキャッチしたフィジーのランナーにそのまま大きくゲインされてノーホイッスルトライを奪われたこのフィジー戦は日本が勝てる条件の試合ではなかったと言ってもいい。
前半2分にもフィジーにトライを加えられて、早くも一方的なゲームになる雰囲気が漂い出す。
ようやくハーフタイム前に日本もチャンスを作り、右サイドを快走したジョセファ・リリダムがフィジーゴール右隅に飛び込むが相手DFに絡まれてグラウンディングできず。
さらに、相手ゴール前のPKから無理に突っ込んだリリダムがノックオンと、結局チャンスを生かせないまま7分間が経過した。
得点にこそつながらなかったが、明らかに日本ペースになっていた流れは後半に入ると決定的なものとなる。
同1分に自陣でのDFで後半途中出場していたジェイミー・ヘンリーがターンオーバー。ボールを持った選手が次々に直線的にゲインしたあと、いったん内側のスペースを突いた後藤駿弥が外に逃がしたボールを拾った豊島翔平がスピードでフィジーDF抜き去り、1トライ目。
同2分にもDFでプレッシャーをかけて密集でフィジーの反則を誘い、PKからヘンリーがそのまま持ち出し、豊島に繋いであっという間に点差は2に。
同5分にはLOから縦に、横に、どんどんボールをつないで、敵陣22m内に入った後、再び大外から後藤が内側に入り、豊島、ヘンリー、トゥキリ ロテ ダウラアコ、リリダムと繋いでとうとう逆転に成功した。
最終的な結末はすでに述べた通りだが、決して上手く戦えたわけではないのに、王者を倒すまで、あと一歩のところまで迫るなど、日本のスタンダードが確実に上がっていることは紛れもない事実だろう。
プール最終戦では昨季東京大会ベスト4のカナダ戦に対して副島のトライなどで21 -7で快勝
続くプール最終戦では昨シーズンの東京大会でニュージーランドを破って4強入りしたカナダに快勝。
サドンデス延長で敗れたボウル準々決勝のケニア戦でも延長戦で先に敵ゴール前まで迫ったのは日本だった。慌てずに攻めていれば、間違いなくボウル準決勝に進む権利は日本に
与えられていた。
「勝てなかったことも含めて、非常に意義のある大会」
瀬川HCはそんなふうに本大会を総括した。
課題と成果に関しては、「課題は大事なところでボールが動かなくなることと、試合の入りの部分。この2つに尽きる。後半、ある程度動けるようになったことディフェンスが大崩れしなくなったことは評価していい」
今回は五輪予選に向けて長い期間、合宿を行ってきた選手の多くが参加できなかったが、そういうメンバー構成でこれだけの戦いができたことは、男子セブンズ代表のベースアップという意味ではポジティブになっていい部分も少なくない。
久しぶりに主将としてチームを引っ張った坂井克行を筆頭に、トゥキリ ロテ ダウラアコ、豊島翔平、後藤駿也、大島佐利、小澤大、後藤駿弥というアジア予選スコッドメンバーが中心になりながら、ジェイミー・ヘンリー、アマナキ・ロトアヘア、ジョセファ・リリダム、副島 亀里 ララボウ ラティアナラという爆発力のある海外出身がチームに勢いを与え、要所で吉田大樹、宇薄岳央のベテランが“らしい働き”を見せる。
「ボール持って前に行く人、リンクする人、コントロールする人。今回はそれぞれがキャラクターを理解していた分、全体的には良かったし、成長を見せられた。ただ、メダルを取りに行くという意味では、世界のトップレベルの選手たちが進歩している中で、今のままではそう簡単に我々の思い描く結果はとれない」(坂井主将)
世界の列強相手に進歩の手応えと課題の双方をしっかり感じとれたドバイセブンズは、照準をアジアから世界に変えていくきっかけとしては最高の舞台となったことは確かだろう。
前半2分までにフィジーに14点をリードされたが、後半、豊島の2トライなどで逆転。あと一歩まで追い詰めた
text by Kenji Demura