SO松田力也が相手ディフェンスに囲まれて立ち往生する場面があった。学生随一の両WTBである尾崎晟也や竹山晃暉も、その快走を中断される目にあった。また、相手の好ランナー達に再三のラインブレイクを許しもした。それでもしかし、帝京大学は一度もリードを奪われる事なく快勝した。6連覇中だが、決勝進出は実に8年連続である。

まだ岩出監督就任前の80年代。現在の選手が生まれる前の話だが、関東大学対抗戦グループ加盟間もない帝京は、“赤い旋風”を巻き起こしていた。集散の早いFWと極端に狭くフラットなラインを敷いたBKが早い展開で、対抗戦では早稲田大学や明治大学から初勝利を挙げていった時期だ。しかし2年連続(1983-1984年度)で出場した大学選手権では、2大会とも1回戦で当時の学生王者同志社大学に跳ね返されていた。そして現在、押しも押されもせぬ存在となった帝京は、パワフルかつ勤勉なFWとダイナミックにボールを動かすBKが流れるような展開を見せる、オールマイティで洗練されたラグビーへと進化している。

この日の帝京には不安要素もあった。HO坂手淳史主将がセカンドステージ最終戦の負傷で欠場となってしまった事だが、その不安を打ち消すかのように、キックオフ直後、坂手に代わってフッカーに入った堀越康介がトライを上げた。さらに6分、帝京はスクラムでも圧倒的に優位である事を示すプッシュオーバートライ。前半最後の6トライ目、左サイドのラックで相手ボールをターンオーバー、そこから右サイドにいた竹山までバックスがストレートに走り込みながら素早いモーションで正確なパスを繋いでいくプレーは、現在の帝京ラグビーの真骨頂とも言えるもの。後半は相手の粗放な攻めの前にややもたついた感もあったが、それでもFW、BK一体となった攻めで4トライをあげた。10トライ中9ゴールを決めた松田とFB森谷圭介の正確なキックも効いていた。

一方敗れた大東文化大は、前半14分のCTB戸室達貴に続き、NO8アマト・ファカタヴァが2つと前半で3トライを挙げ(全てゴール成功)、12点差で喰らいついていた。帝京を破るのは、帝京に勝る個の力かと思わせるに充分な時間帯だった。後半LO長谷川峻太がゴール前ラックから持ち込み先制するなど期待を繋いだが、その後は帝京にボールを支配され、セカンドステージ筑波大学戦勝利の立役者WTBラトゥ クルーガーによいボールを回す事ができなかった。試合終了のホーンが鳴る中、自陣深くから大きくボールを動かし、アマト・ファカタヴァが右ライン際を疾走。チーム5トライ目となった大東のプレーに、秩父宮のファンは一際高い歓声を送った。この日も随所に鋭い突破を見せていたSH小山大輝、SO川向瑛のハーフ団や戸室、またファカタヴァ兄弟やラトゥら含め、主力に3年生以下が多い大東は来季以降も楽しみな存在である。(米田太郎)


 

■大東文化大学

○青柳勝彦監督

「本日はありがとうございました。今日は本当に帝京大学さんに勝ちに行くことを意識して戦いました。結果、負けましたが、攻撃したら得点は取れると、選手たちの自信になったと思います。攻撃的デイフェンスをやろうとしたが、帝京大学さんの一人一人の強さに、ゲインラインを越えられたのは、まだまだ練習不足でした。しかし、選手たちは良くやってくれたと思います」

——今年は淡白ではなくなったが?

「練習の時間的には変わっていないが、細かいノットロールアウェイやラインオフサイドなどを練習してきました。今日は帝京大学さんの圧力がすごくて出せませんでしたが、ベスト4に行けました。選手たちは自信を付けたし、その上を狙えるという気持ちになれたと思います」
——前半、最後にトライを獲りに行ったが?

「試合前はとにかく、アグレッシブに攻撃的に行こうと言いました。選手たちはトライを獲りに行って、どれが正解はないですし、選手たちが選択して行ったのだったら、それを貫き通して良かったと思います」

——一番成長を感じることは?

「一番はデイフェンスです。前へ出てしっかりと止め切るデイフェンスができるようになりました」

○本間優キャプテン

「自分たちは帝京大学さんに勝ちに行くという気持ちをぶつけたんですけど、負けて、今、とても悔しいです。前でもっとプレッシャーをかけてデイフェンスして行こうと言っていたのですが、そこの部分は心残りです。ただ、今シーズン、順調にここまで来て、悔いはないです。今日の結果は残念ですが」

―― 前半、最後にトライを獲りに行ったが?

「自分も焦っていましたし、自分たちも最後まで強気で攻めるという気持ちでやって、1本でも多く獲ろうとしていました」

――成長したと感じることは?

「リーグ戦が終わった時点でデイフェンスが課題であることは明白でしたので、選手権までに自分たちで練習を重ねて、結果を出してきました。筑波大学戦でやりたいことができて、自信が付きました」

――焦りはなかった?

「前半、3トライ、すぐに獲られましたが、早い時間でもあったし、一旦落ち着いて、自分たちのラグビーを出しに来たんでしょうと言って、もう一度集中してできました」

――結果的に10トライされたが?

「接点ですかね。接点で1対1でタックルして止めれば、相手のテンポを止められたと思います」

――リーグ戦4位からの快挙だが?

「自分たちが練習してきたものを出せればできることが分かりました。今シーズンの勝ちの喜びを来シーズンにもつなげてもらって、後輩たちがやってくれると思います。正月に残ったのは嬉しかったです。大晦日はテレビをみんなで観て過ぎましたが」

■帝京大学

○岩出雅之監督

「大東文化大学さんが、リーグ戦と選手権でどこが違うのか分析して作戦を立てました。ディフェンスの違いでした。青柳さんの人柄が出て、とても真面目にプレーされていました。丁寧に作られている感じでした。それと、外国人選手の存在、パナソニックさんのようなストラクチャー。本当に油断できない相手と思っていました。こちらも、要所要所で良いプレーが出ましたし、しっかり準備して、内容も濃いものにして成長する中で決勝戦に臨みたいと思います。8年、決勝戦に進むことができて、選手、部員一同嬉しく思っています。この1年間、カウントダウンして学生と積み上げてきました。今シーズンは、対抗戦最後の負けとか、キャプテンの怪我とか、すべてが次の決勝戦へのチャンスファクターだと思っています。学生の力を信じながら、決勝戦に臨みたいと思います」

――キャプテンの怪我は?
「決勝戦の舞台に出ることを前提に、日に日に良くなっています。万全ではないが、彼がいることによるプラスもあるし、状況判断しながら優勝を目指します。学生スポーツの、1年間やって来て選手たちが成長する良い姿を見せることを期待しています」

――5トライもされてしまったが?

「全然大丈夫です。来年度に向けての反省材料として、学生には感じることが一杯あると思います」

――東海大学に対して?

「期待を込めて、最後に強い明治大学さんと決着を付けたいと思っていたので、ビックリしています。田村君の怪我がとても痛かったのでしょう。残念です。東海大学さんの試合はじっくり見ていないので、帰ってしっかり見直したいと思います」

――7連覇は?

「学生スポーツですから、1年間で鍛えて、4年間の中で味が出て来ます。その噛み合わせは意識しています。筑波大学戦で決して気合が入っていない訳ではないのに、負けました。エアコンで言うとベストな温度だったので、人間はピンチにならないと上がらないし、心地良いと動かないものです。筑波大学さんが切ってくれて、後半のモチベーションになりました。4年間と1年間、状況の中での寄り添い方がコーチングだと思います。学生はモチベーションを維持する、上げるのは青年期ですから、普通に言って難しい。ここから勢いよく行くことも、錆びつきもあります。特に4年生の出られないメンバーの悔しさは空調感みたいなもので、技術的なものではないのです。僕は学生たちを信頼できるのは、信じ合う心の力を感じるからです。帝京にはお互いに妥協しない熱気があふれています」

○金田瑛司バイスキャプテン

「今日の試合は、最初から帝京の厳しさ、激しさを出そうと臨みました。しかし、大東文化大学さんの力、スピードに負ける部分があったと思います。しかし、この試合に掛ける仲間の思いを受け止めて、決勝戦に臨めるのは嬉しいです。決勝では、1年間やって来たものをしっかり出して、ベストなパフォーマンスをお見せしたいと思います」

――キャプテンの怪我は?

「このチームが始動して、様々な経験を積み重ねたが、先頭に立ってチームを引っ張っていたのがキャプテンです。しっかり、決勝戦の勝利スピーチに連れて行ってあげたいとの思いで戦いました。坂手からは一言だけ、頼むぞと言われました」

――東海大学は?

「サイズのあるFWが前へ出て、バック3にランナーがいるという印象です。そのランナーを走らせないことだと思います」