伊藤華英さんもハマるラグビーの魅力
初心者でも楽しめる観戦ポイントを解説

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム ラグビーワールドカップ(W杯)2019に向けて」の第63回が5月20日、東京都港区の高輪区民センター区民ホールで開催された。この日はゲストに元競泳日本代表で、08年北京五輪、12年ロンドン五輪に出場した伊藤華英さんを招き、講師として日本ラグビー協会トップリーグ委員長の太田治が登壇、「初心者のためのラグビー楽しみ方講座」というテーマで講演が行われた。

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■選手がレフェリーに謝るのはラグビーだけ

ラグビー初心者の代表として登壇した伊藤さんだったが、実はラグビー観戦は09年からという「ラグビー通」。当時、けがのリハビリをともにしていた茂木大輔(現・日野自動車)と知り合ったのがきっかけという。初めはラグビー観戦にハードルの高さを感じていたというが、「こんなに男らしく、楽しく観られるスポーツは初めてで、私は『(スポーツを)観る』ことに関してあまり重要視していなかったので、初めてスポーツを観て楽しいと思いました」と感動した。今では、スーパーラグビー・ワラタスの大ファンで、オーストラリアにまでラグビーを観に行くほどのハマリ具合だ。

講演は、ラグビー初心者のために作った競技紹介のアニメーション映像を見ながら進行した。まずポジションを紹介する映像が上映されると、伊藤さんは「前線でボールを動かす役割もあるし、力持ちかつ技術も必要なフッカーが好きです」と話して賛同を集めた。元日本代表プロップでもある太田氏は「プロップは同じチームよりも相手のチームと仲良くなる」など、各ポジションごとの行動や性格に関する秘話も披露し、会場を沸かした。もし「どのポジションが好き?」と聞かれたら、「縁の下で体を張り、性格も優しいフォワードのポジションを言った方がいい」(伊藤さん)とまとめた。

続いて、ラグビー初心者がつまずくルールに話題が移る。伊藤さんがラグビーを観ていて驚いたことの1つが、選手がレフェリーに謝るということだという。いろいろな競技に接してきた伊藤さんでも、「選手がレフェリーに謝るのはラグビーだけ」と感銘を受けた。進行を務めるラグビージャーナリストの村上晃一氏によると、もともとラグビーはレフェリーがいなかったため、自分たちが信頼している人に見てもらうようになったことからレフェリーが誕生。そのため、「信頼している人に文句は言わないのが基本的な考え」であることを明かし、伊藤さんも納得の様子だった。

その後、分かりづらいルールとしてオフサイドやアドバンテージについて、太田氏が解説。オフサイドについては、実際に太田氏と来場者がスクラムを組んで、ボールの動きやレフェリーがどのような視点で見ているのか、などを実演した。4月23日のスーパーラグビーで、サンウルブズが歴史的初勝利を収めたが、その際もスクラムが安定したことが勝因に挙がった。太田氏は「(サンウルブズは)スクラムのフィットに時間がかかったが、試合を重ねるごとにフィットしていった。スクラムが安定すると非常にいい試合ができる」とスクラムの重要性を説明した。

■人間性や一生懸命さなど魅力が多い

競泳という個人競技で日本トップ選手だった伊藤さん。ここで村上氏から「水泳選手とラグビー選手の違いをどんなところで感じますか?」と聞かれ、自分のことだけでなく、周囲のことも考えないと勝てないことと答えた。

「競泳は、1人のためにプールのレーンが1コース用意されて、自分と向き合っていきます。極端な話、私たちは自分だけのことを考えていればいいです。対して、ラグビーは必ずしも自分の思い通りなプレーができなくても前に進んでいく。いろいろな人がぶつかりながら前に進むのが当たり前ということに、固まった脳みそが溶けたというか、私はラグビーを見て救われたんです」

同じフィールド内にさまざまなポジションがあり、それぞれの立場・役割を全うすることが勝利につながる。刻々と変わる状況を判断し、ぶつかり合いのプレッシャーに負けないようにするラグビーに、伊藤さんはのめり込んでいったと強調した。

ルールなど分かりづらい面はあるものの、伊藤さんは「選手の人間性や一生懸命さ、ラグビーを広めようとしている力に心を動かされています。昨年のラグビーワールドカップ(W杯)で、ラグビーの良さが日本中に知れ渡ったと思う反面、もっと改善すべき点、もっと選手が活躍する場面があっていいと思いました。ラグビーはすばらしいジェントルマンのスポーツであると、もっと広めていければと思います」と、さらなるラグビー普及に期待を寄せた。

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■スタンド観戦のお勧めはバックスタンド

講演に続いて、村上氏と会場からの質疑応答が行われた。以下は質疑応答の要旨。

——オフサイドが分かりにくいので、具体的な例を挙げてほしい。

村上「基本的にボールの前でプレーする人は全員オフサイドとなりますね」

太田「スクラムからのオフサイドで言うと、ボールがナンバー・エイトが触らないうちにスクラムハーフがタックルにいくとオフサイドになります。ボールがしっかり(スクラムから)出てからでないとダメですね。味方のバックス選手が5メートル離れて並んでいますが、その5メーターラインをボールが(スクラムから)出る前に(選手が)出ちゃったりすると、それもオフサイドになりますね」

——伊藤さんはラグビーやるとしたらポジションはどこがいいですか?

伊藤「あまりいろいろと考えなければウィングがやりたいですね。トライして称賛されたいですけど、身体的な能力を考えると、フォワードあたり、もしくは10番(スタンドオフ)もやりたいと思います。8番、ナンバー・エイトもやってみたいな。かっこいいじゃないですか!」

——太田さんから観て日本のラグビー史上歴代最強のプロップは?

太田「僕が組んでいて日本人で一番強かったのは、まさに大阪体育大出身の高橋一彰さん(元トヨタ自動車監督)です。彼はすごかったですね。非常に苦手でした。胸板が厚くて」

村上「首が合わないんですよね、胸が厚すぎて」

——スタンドで観戦する際、どの位置から観るのがお勧めですか?

伊藤「やはり観るにはバックスタンドがいいかなと思います。一番応援も激しいですし。前列よりは少し上の方。前列だと、目の前にいる選手の迫力はありますが、あまり全体を観れない。私は全体を観たいので、少し上の方がお勧めです」

太田「私はバックスタンドの中央くらいが観やすいです。場所としては真ん中」

村上「私は22メートルラインのちょっと上くらいです。ちょっと角度つけた方が立体的に見えるので、フォーメーションも分かるし、ディフェンスの穴なんかも見えたりします」

——ラインアウトのサインプレーの駆け引きを知りたい。

太田「現役のときは、例えば大学名を使っていました。『明治大学』と言ったらモールでやりましょうとか。数字を並べる場合は、ジャンパーが2番、4番、6番と数字を振っていて、2番目をキー番号にして、2番目に数字を言われたら自分が跳ぶとかにしていました。でも複雑すぎると分からなくなるので、4桁言って一番最初の数字が多かった。一番最初ならみんな忘れないので」

村上「あとよく聞くのはいろいろなサインを言いながら、試合前に4つ目まで決めていて、相手を惑わす。サインをしなくても決まっていることもあると聞きますね」

太田「そうですね。あとは目配せというか、ウインクで知らせて、サインを言わないで投げたりということもあります」

■リオ五輪ではぜひメダル獲得競争をしてほしい

——ラグビー選手の現役引退後の第二の人生はどうなっているんでしょうか?

太田「基本的にみんな企業に所属しているので、社業に専念するのが8割近くいるんじゃないですかね。2割がプロで、しっかり(引退後の)ビジョンを持った人をプロ選手にしているというチームもあります。例えば、教職をしっかり取った選手はプロ契約をするなど」

伊藤「競泳はプールの先生とか、インストラクター、あと北島康介さんのように会社を経営したり、あと学校の先生とか。教職を取っている選手が多いので、自分の地元に帰って高校の先生をやるなど指導者になる人が多いです。
セカンドキャリアについては、すべてのスポーツの課題だと思っています。ですので、スポーツ庁でしっかりやっていってほしいですね。ラグビー選手は所属チームの会社が大手企業が多いので、恵まれている方だと思います」

——6月18、25日のスコットランド代表戦。昨年のラグビーワールドカップ2015で唯一負けた相手にどう戦えばいいのでしょうか?

太田「セットプレーの安定ですね。そこから良いパスが連続でできるといいと思いますね。あとはディフェンスですね。いかに速く、低く出て相手を止められるかが重要だと思います」

——今夏のリオデジャネイロ五輪に7人制ラグビー代表が出場しますが、雰囲気などアドバイスがあればください。

伊藤「比較的、ラグビー選手はラグビー選手だけで固まって行動することが多いと思うんですけど、選手村にはいろいろな競技、選手がいます。そこで競技間の競争をしてほしいですね。
例えば、前回ロンドン五輪で日本は38個のメダルを取りました。そのうち、競泳は11個、レスリングは7個取りました。ラグビーもぜひその中に入ってほしいなと思います。(五輪は)競技間での競争もありますので、切磋琢磨(せっさたくま)し合っていければいいですね」

■あなたにとってラグビーとは?

伊藤「人生に軸があるとしたら、それを支える葉っぱというか枝というか……水泳は根っこだと思っていて、自分自身が幹だとしたら、それを彩るものがラグビーだと思います。楽しいですし、すごくエキサイティングして、試合を観るとこうスカッとしたりとか、自分に人を尊敬する気持ちを思い出させてくれるというか、本当にラグビーがあるから普段の生活が楽しくなります。自分の気持ちを艶やかにするものだと思います」

太田「生活の中心ですね。なくてはならないものというか、私はラグビーに育てられました。人格や性格を含め、すべてラグビーから教わりましたから」