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最高気温12℃、ほぼ無風と、1月下旬としては穏やかな天候となったこの日、秩父宮は20,196人の観客で満員となった。
試合前には、多くの観客は、サントリーサンゴリアスが”アグレッシブ・アタッキング・ラグビー”でフェイズを重ね、最後はトップリーグ トライ王のWTB中靏隆彰がトライをとるのか?あるいは、パナソニック ワイルドナイツがサントリーのアタックを守り切りカウンターから、WTB福岡堅樹、山田章仁らのトライに結び付けるのか?と、期待していただろう。
しかし、試合は「予定していたアタッキングラグビーはできなかったが、よく我慢して守り切った(沢木監督)」サントリーが、ノートライながらも勝利。
「1年間、ハードトレーニングをしてきた(流主将)」サントリーが、トップリーグチャンピオンに加え日本選手権も制覇してダブル日本一獲得という大きな結果を出した。

試合序盤はキックの応酬の堅い試合運びとなった。SOの小野晃征、山沢拓也がそれぞれロングキックでしっかりエリアをとるが、両チームとも落球もキックミスもなく、緊張感のある時間が続いた。
前半17分、WTB中靏隆彰がHO堀江翔太とWTB福岡のタックルをかわし中央を抜け、敵陣に入る。するとラックでパナソニックの反則を誘い、SO小野晃征がPGを決める。20分にはパナソニックもSO山沢拓也が40m近いPGをしっかり決めて、すぐに3-3の同点とした。27分にはSO山沢がパントキックを自らキャッチして中央を突破して、さらにグラバーキックでゴールライン付近まで攻め込み、パナソニックがゴール前で5mスクラムを獲得。パナソニックは大きな得点チャンスを得たが、サントリーはこのピンチにもトライを許さず、3-3のスコアのままハーフタイムを迎えた。

後半4分、パナソニックは再び大きなトライチャンスを得た。前半途中から交替でFBに入っている森谷圭介が中盤のラインアウトからのアタックで抜けると、WTB福岡につなぎ敵陣22mの内側に入る。ラックからSH田中史朗の素早いパスを受けたLOヒーナン ダニエルがLO矢田部洸太郎へオフロード。矢田部がゴールラインに飛び込んだ。観客席から見るとトライかとも思われたが、TMOの結果、グラウンディング直前に矢田部がノックオンをしていたと判定され、ノートライ。サントリーCTB村田大志のしぶといディフェンスがパナソニックのトライを防いだ。
後半9分、15分と小野がPGを決め、9-3とサントリーがリードするが、その直後の16分、パナソニックがこの試合唯一のトライを取った。キックオフからのプレーで、SH流のボックスキックにパナソニックLOヒーナンとWTB福岡がチャージ。ヒーナンがインゴールに持ち込み、9-10とパナソニックが逆転した。
しかし、サントリーは、20分、25分のPGチャンスをSO小野が確実に決め、15-10と再逆転。ノーサイドまで15分。この5点差を追いアタックを続けるパナソニックは、後半33分にSO山沢がWTB福岡の待つ左タッチライン際に大きくキックパス。これを福岡がキャッチすれば試合を決めるトライだと観客が沸いた瞬間、走り込んできたサントリーFB松島幸太朗が大きくジャンプしてキャッチ。再び、サントリーの好ディフェンスがパナソニックのトライを防いだ。サントリーがこのまま5点差を守り切って試合終了。

勝利チームにはトライがない80分間ではあったが、まさに世界トップレベルのフランカー ジョージ・スミスとデービッド・ポーコックは再三マッチアップを見せてくれ、選手たちは激しいブレイクダウンを80分間続けてくれた。

当時エディー・ジョーンズ監督の下、アタックシェイプを基本としたアタッキングラグビーで2011~2013年、日本選手権を3連覇したチームから、成績不振の昨年度を乗り越え、選手達がラグビーの理解度を大きくアップ。試合中には型にはまることなく選手の判断によるプレーを続け、この日はアタッキングラグビーに代わり我慢のディフェンスが勝利を導いた。リスクを恐れずチャレンジする、会社創業者の「やってみなはれ」精神がチームを更に強くしたようだ。

(文責:正野雄一郎)


■パナソニック ワイルドナイツ

○ロビー・ディーンズ監督

「まず、決勝の舞台に立てたことを嬉しく思うと共に、選手たちのパフォーマンスを誇りに思います。同じメンバーで素晴らしい試合をすることができて良かったと思います。ゲームの流れで大切なところがこちらに来なかった試合でした。サントリーさんにはそういう部分を引き寄せる経験と賢さがありました」

——サントリーの予想していたパフォーマンスとの違いは?

「正直、そこまでの違いは感じていません。ラインアウトからのスタートプレーぐらいでしょうか。ゲームはとても面白かったですし、我々のディフェンス分析からもそれ以外は予想どおりでした。ラグビーをたくさんしたけれど、我々が獲ったトライのみで、お互い、素晴らしいディフェンスをしたと思います」

——ヒーナン選手の負傷退場の影響は?

「ヒーナン選手に限らず 、怪我人が出たことで、代わりの選手がもっとチャレンジングにプレッシャーを掛けることができませんでした。ラインブレイクしてトライに迫った時の誤算でした」

——ノートライに抑えた点は?

「サントリーさんのようなボールをキープするグッドアタッキングなチームをノートライに抑えたのは素晴らしいです。ただ、試合に負けてしまったので、何にも言うべきことはありません。アタックの ベースの部分でトライを獲り切れなかったのが響きました」

○布巻峻介ゲームキャプテン

「まあ、結果は残念ですが、ロビーが言ったようにサントリーさんのような素晴らしいチームと戦えて誇りに思います。ほんのちょっとのことが勝敗を分けたと思いますし、それがファイナルです。そのちょっとしたこととは今はわかりませんが、しっかり何かを見つけて、来シーズンに活かしていきたいと思います」


■サントリーサンゴリアス

○沢木敬介監督

「皆さん、お疲れ様です。素晴らしいパナソニックさんのディフェンスに対して、予定したアタックができなかったのですが、それがラグビーです。上手くいかない時どうするか、何をするか、コミュニケーションを選手同士が取ってくれて勝つことができたと思います」

——想定外のことは?

「ブレイクダウンで、なかなか計画どおりボールを動かすことができませんでした。しかし、しっかり対応してスコアまで持っていった選手たちの判断が良かったと思います」

——勝敗を分けたプレーは?

「スコアした後のキックオフを、しっかり自分たちのボールにしたプレーですね。一人、チャージされた人(流キャプテン)もいますが(笑)。上手くいかない時にあのプレーで流れが来ました」

——ジョージ・スミス選手の評価は?

「皆さん、知っての通り、経験ある選手で、どうするかしっかり一貫性のある素晴らしい選手です」

——表彰式を見て、選手の評価は?

「今日のゲームの出来から見たらまだまだですよ。ただ、今シーズン、一番変わったのは、選手たちがしっかり自分たちの意思をもってハードトレーニングをしたことです。やらされるより、勝ちたい気持ちでマインドチェンジしてくれました。本当に成長したと思います」

○流大キャプテン

「ゲームプランとして予定していなかったことになりましたが、ファイナルは1点差でも勝つことを目指して、3点を積み重ねる我慢をしたことが良かったと思います。春から意思を持ってトレーニングして、沢山経験を積んで勝利することができたと思います」

——コミュニケーションが良かったところは?

「後半はほとんどパナソニックさんにはラインブレイクされなかったと思います。ノーペナルティーで守った部分ですね。冷静にゲームプランを変えながらコミュニケーションできたと思います」

——どのシーンが良かったか?

「ハーフタイムからしっかり我慢しようと声が出ていた点と、僕のミスでトライを獲られても1点差だから、我慢すればスコアできると皆が言ってくれたシーンです」

——自分たちで切り替えた点は?

「パナソニックさんのディフェンスは広くてワイドなのですが、そこで逃げずにダイレクトプレーを続けました。でも、ラインブレイク後のブレイクダウンがちょっと上手くいかなかったので、しっかりキックを使って継続に切り替えました」

——松島選手が素晴らしいキャッチを見せたが?

「最後のシーンは何も心配なく、ああ、取るなあ、マークになるだろうなと見ていました。キックパスへの対処として理想の形でした」

——ノーサイドの瞬間は?

「いろんなことがあった1年で、僕も学んで、たくさん失敗しながら育てていただきました。ノーサイドの瞬間はわからないくらい嬉しくて、スタッフも練習時間の何倍もの時間をかけて準備してくれて、ノンメンバーも仮想パナソニックとしてやってくれたことが浮かびました。全メンバーに感謝したいと思います」

——ディフェンスが良かったところは?

「パナソニックさんはカウンターからのアタックが 持ち味ですから、リアクションは意識していました。タックルしてすぐに起き上がることができました。選手は皆が立ってハードワークしていました」

——キックチャージされた時は?

「それまでも、キックオフからと、自陣からは僕のキックで組み立てていたので、もっとチャージを警戒しなければいけませんでした。ヒーナン選手が来ているのが見えず、僕のミスでした。でも、インゴールに行った瞬間、皆の表情が良くて、次はミスしないでディシプリンだと言っていました。松島選手がこれはチームのミスだと言ってくれて救われました。ちょっとだけ、ヤバイかなと思っていた不安がなくなりました」

(記事:須藤太郎)