個々の成長と課題を実感しながら世界最高峰での戦い再開

チームとしての勝利につなげる場は来年1月のシドニーへ

 

11月30日、12月1日の2日間に渡って、アラブ首長国連邦のドバイでHSBCワールドラグビー女子セブンズシリーズ(以下ワールドシリーズ)第1戦のドバイ大会が行われ、日本は今大会で優勝することになるオーストラリアとのプール初戦で0−27、続く同3位のロシアには0−36と、いきなり大差での完封負けが続く苦しいスタートとなったが、3戦目のイングランドには後半2トライの他、試合後レフリーが誤審を謝罪した中村知春主将の“幻のトライ”もあり、善戦も見せたが14—26で敗戦。

大会2日目もチャレンジトロフィー準決勝でアイルランドに5—38、11位決定戦でフィジーにも15—17で敗れ、大会12位でコアチームとして臨むワールドシリーズ初戦の戦いを終えた。

 

コアチームとしてドバイに戻ってきたサクラセブンズ。勝ち星は挙げられなかったが貴重な経験となった
photo by Kenji Demura

 

2年ぶりに戻ってきた、セブンズにとって特別な場所ドバイ。

3月の昇格大会を制して1年でコアチームへの再昇格を果たし、10月にはスリランカでの田んぼのような泥々のグラウンドという最悪と言ってもいい悪条件での大会もあったアジアセブンズシリーズを完全制覇して、来年7月にサンフランシスコで行われるワールドカップ切符も勝ち取った。

2020年の地元開催オリンピックに向けての再出発イヤーに位置づけられた2017年。着実に成果を上げてきたと言っていいサクラセブンズだったが、その締めくくりとなる今季のワールドシリーズ初戦のドバイセブンズは厳しい現実を突きつけられる大会となった。

 

2年前に、コアチームとして史上初めてワールドシリーズを戦った時のことを知っているメンバーは12人中わずか4人のみ。

高校生2人も含む20歳以下の選手が過半数を占めるという、若く、新しいチームとして砂漠の中の7人制の聖地”ザ・セブンズ”に立つことになったサクラセブンズは、いきなり、最終的には今大会を制することになるオーストラリアに対して、一方的に5トライを重ねられての完敗。

キックチェイスした堤ほの花のタックルからチャンスをつかんだ場面や平野優芽のラインブレイクなどの好プレーもあったものの、全体的には「雰囲気にのまれ、消極的な試合」(稲田仁ヘッドコーチ)となってしまう。

 

続くロシア戦では、アタックする場面こそ増えたものの、自分たちのミスやブレイクダウンでのターンオーバーで失ったボールをロシアにトライまで持っていかれるパターンでオーストラリア戦を上回る6トライを奪われた。

 

プール最終戦のイングランド戦では「尻上がりによくなってきている」という中村主将の言葉どおりに前半2トライを奪われたあと、前半6分に清水麻有のキックしたボールを中村キャプテン自身がイングランドインゴール内で押さえたかに思われたが、ノートライの判定。

このプレーに関しては、試合後、レフリーから謝罪があったほどの際どい判定だったが、さらに悪いことにその後のプレーで日本が攻めきれず、逆にイングランドに独走トライを奪われて前半終了時点で0—19。

後半、イングランドに4トライ目を取られた後、「チームの中でも一番、身長も体重もある。自分が仕掛けて、前に出て、トライのきっかけになればなとは思っていた」という小笹知美が力強い走りでイングランドDFを振り切って、トライを返し、さらに終了間際にも「(トライの瞬間は)キツかったという気持ち。取らなきゃと思っていたので、取れて良かった」という長田いろはが日本のアタックを締めるかたちで2トライ目を上げたが、惜しくも14—26で敗れ3連敗。

 

この結果、日本は目標だったベスト8入りを果たせず、大会2日目はチャレンジトロフィー戦に回り、9位を目指すことになった。

 

2年前と同じく主将としてチームを引っ張ったのは中村主将。自分自身の成長も感じている
photo by Kenji Demura

「フィジカルを強化してきた部分などに関しては一定の評価。

ここから変わって、いかに成長していくかが重要」(稲田HC)

 

 

「チーム一人ひとりに自信をもたせながら、必ず勝てるということを言い続けて、ブレイクスルーしたい。必ず9位になるという気持ちが大事」(中村キャプテン)

そんな意気込みで臨んだ翌日のチャレンジトロフィー準決勝のアイルランド戦だったが、「アップから雰囲気が悪かった。試合に挑む気持ちがなかった。自分たちのミスから失点。プレーのスキルというよりは気持ちの問題。アジアでは負けなしでメンタル的には高いモチベーションでできていたけど、相手が強くなると負ける試合が続いて、そういう状況になると、メンタルを立て直して戦う力がまだない」と、最年少ながら全試合で先発出場を果たした平野が冷静に分析したとおり、どこかちぐはぐなプレーぶりに終始。

 

前半終了間際に中村主将がペナルティから強引に自分で持ち込んで1トライを決めたものの、アイルランドに6トライを重ねられるまさかの展開となり、5—38で敗れ去った。

 

日本のドバイでの最終戦は11位決定戦のフィジー戦。フィジーは招待チームであり、コアチームに再昇格した日本としては絶対に負けられない試合。開始2分にディフェンスでのターンオーバーから平野が快走。最後は中村キャプテンがフィジーゴールに飛び込んで先制。

ところが、格下と言っていいフィジーに対しても、自分たちのミスでボールを渡すとパワフルなランが止められず、最年少・平野が吹き飛ばされるシーンなどもあり、フィジーに3トライを許し、日本も「ラインに入った時に、落ち着いて判断して、自分で行く時と、仲間に行ってもらう時、そういうプレーをする役。

自分でもわかってきた。」という大黒田裕芽の2トライで試合終了間際には15—17と2点差に迫ったが、最後のコンバージョンを大黒田自身が外して、涙をのんだ。

 

昇格大会でメンバーから外れるなど悔しい思いも経て自分を見つめ直して成長につなげた大黒田
photo by Kenji Demura

 

「この半年間、ワールドシリーズに復活するまで、ケガを治す時間、鍛え直す時間、本当に細かく、何を食べるか、どこの筋肉を使うか、細かく追求して、その成果、フィジカルでいけるなという感覚は個人としてはある」

中村キャプテンがそんなふうに代弁するように、2年前のドバイを知る経験のあるメンバーは、一人ひとりがワールドシリーズで戦うために必要なものを意識しながらトレーニングを積んできた。

 

その一方で、「勢いがある」(桑井亜乃)という若手も昇格大会やアジアシリーズでつかんだ自信も自分のものにしながら、ワールドシリーズの中でも「すべてが贅沢」(稲田HC)というドバイの特別な舞台にチャレンジした。

 

「緊張するよりは、出た時は楽しくプレーできた。アジアはあまり出られないことが多かった。今回は出してもらって、自分のできるプレーもわかってきた。フィジカルをもっと強くして、フィットネスも鍛えて運動量を増やす。いいサポート、いいアタック。ディフェンスでは1対1で止めきる」(田中笑伊)

 

「こんなに人がいる中でプレーしたのは初めて。お祭りみたいで楽しかった。

アタックは通用。前にゲインできている。でもディフェンスになると、相手にふられたり、倒しきれなかったり。サポートでも相手は湧き出てくるのに、日本は薄い」(鈴木彩夏)

 

「外で空いている時に、呼び込めていなかった。欲しい時に声をかけて、コミュニケーションをとって、大外にいるからもっと落ち着いたプレーをできるようにしなきゃいけなかった。このレベルは感じるだけでも楽しい。そこはプラスに考えて。もっとこのレベルでしっかり戦えるようにしていきたい」(堤ほの花)

 

最年少ながら、随所に世界レベルでも十分通用する素材であることをアピールした平野。さらなる成長が楽しみだ
photo by Kenji Demura

 

それぞれが手応えと世界の壁も感じながらプレーしたが、残念ながら今回はまだ個々のプレーをチームとしての勝利にはつなげられなかった。

 

「やってきた成果が出た部分とうまくいかなかったことが両方あった。フィジカルを強化してきた部分に関しては一定の評価。いまの力がわかった。練習の強度とか質とか高めてきたつもりだったけど、ここで戦うためには足りてなかった。ここから変わって、いかに成長していくか重要。

目標は世界8位。『簡単じゃないけど、絶対に入れる』という話は選手たちにもした。体力がない選手。いっぱい走らなければいけない選手、ウェイトをやらなければいけない選手。これからはその選手に何が必要かプログラムを考えながら、それぞれに本当に必要なことを高い質でやっていく」(稲田HC)

 

個々の成長を世界最高峰でのチームの勝利につなげていく努力が実を結ぶ次なるチャンスは来年1月のシドニーとなる。

 

 

text by Kenji demura