2023年7月29日 東大阪市花園ラグビー場
リポビタンDチャレンジカップ2023
パシフィックネーションズシリーズ
日本代表 21-19 トンガ代表
殊勲の松島幸太朗を称えるセミシ・マシレワ(右)と坂手淳史(左)
“西の聖地”・東大阪市花園ラグビー場に集った21,138人の観衆の前で、リポビタンDチャレンジカップにおいて3連敗中だった桜の戦士たちが、ついにラグビーワールドカップイヤーの初勝利を手にした。
日本代表は前半20分にジョネ・ナイカブラのトライで先手を取りながらも、トンガ代表の粘りの前に拮抗した展開が続いたが、最大のピンチは「あそこで負けていたかもしれない」とジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチが試合後の会見で口にした後半39分のワンプレーだった。
スコアは21対16。ダメ押しのトライを奪うべく、右サイドを駆け上がったセミシ・マシレワのランにトライを期待する観衆は大きく沸いたが、内側に送ったパスをトンガ代表のアフシパ・タウモエペアウがインターセプト。観衆が一転、悲鳴にも似た声を上げたのは無理もない。独走トライを許せば、同点に追いつかれる上に、痛恨の逆転負けを喫する可能性もあったのだから…。
勢いに乗って左サイドのタッチライン沿いを独走するアフシパ・タウモエペアウの行手を阻めるのは、直前のプレーでタックルを受け、ピッチに倒れていた松島幸太朗ただ一人。「ファンのみなさんのおかげです。前を向いたら(相手が)来ていた。僕しかいなかったので、行くしかなかったです」。日本が誇るトライゲッターは、後方から足首にタックル。攻撃でファンを魅了してきた男の守備で、万事休すと思われた場面を耐え凌いだ。
「マツ(松島幸太朗)が最後に立ち上がってあのタックルをしたり、ロックの(アマト・)ファカタヴァが最後まで動き続けたりしたことは本当に今後につながる」と名指しでジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチは称賛。ゲームキャプテンを務めた姫野和樹も「最後のマツもそうですけど、チームの絆というものを感じたシーンだなと思う」と途中出場で殊勲のプレーを見せた松島を称えた。
2019年のラグビーワールドカップで日本代表初のベスト8進出に貢献した松島は、試合前から世界ランクでは日本より格下となるトンガ代表戦が難しいものになることを予想していたという。
「トンガ代表にはクオリティーの高い選手がいる。ルールが変わったおかげで違う国の選手が代表になれる。本当にラクな試合はないので」(松島)
世界で勝つ喜びと難しさを知り尽くす松島だが、待望の初勝利には手ごたえも感じている。
「チームはいい方向に行っているし、負けるのと勝つのとでは精神的に違う」
値千金のタックルでチームを救った30歳のベテランの頼もしさが光った一夜だった。
(下薗昌記)