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JICA海外協力隊ラグビー隊員(マダガスカル)今井明男さんインタビュー

アフリカの離島、マダガスカルの女子代表コーチとして2年間活動した今井明男さん。
マダガスカル史上初となる2022年のワールドカップ・セブンズ出場を果たした女子代表「マキレディース」の指導を中心に2年半にわたる活動を行ってきました。
活動の最後には、女子のユース選手にスポットライトを当て、数年ぶりとなるセブンズの全国大会を開催。自身で地方まで足を延ばし、指導を行いました。大会で優勝したのは、これまで首都での大会には費用や移動手段等の問題で出場が難しかった地方のチーム。「最高の結果」で活動を締めくくった今井さんにお話を伺いました。

▲マキレディースと今井さん

まずはJICA海外協力隊に応募した動機を教えてください。

僕の人生において、バレーボールを8年、そのあと高校からラグビーを始めて東京ガスでもプレーしました。スポーツを長くプレーしており、僕自身のアイデンティティもスポーツでした。

このスポーツの経験を通じて、自分を育ててくれたのは顧問の先生、コーチ、監督、父兄の方、そしてチームメイトでした。多くの方々から応援してもらってスポーツをしてきた自分が、スポーツに何か恩返しできないかと思ったのが28歳の時、東京ガスでラグビーから離れたときです。
選手としてのキャリアを終え、コーチを経験させてもらったのち、会社の仕事に重きが置かれたときに今後何かスポーツでできないだろうかと考えて、頭に浮かんだのが、国際協力の活動でした。

普段はどのような活動をされていたのでしょうか。

主に2つあり、ナショナルチームの強化と普及育成です。

ナショナルチームの強化についてはシニアチームの7人制を中心に、15人制両方を見ており、協力隊活動では女子のチームを見ています。
7人制では、時期にもよりますが全体の練習の一部は僕が任されていました。最初は言語の問題もあり、僕自身もコーチが何をしたいのか様子を見ながら進めていた部分もありましたが、だんだんと任せてもらえるようになりました。

普及育成については、将来マキレディースを目指す選手たちを育てることを目標に指導を行っていました。今、代表チームで起こっている課題は子どもたちにとっても同じなので、指導する内容については、同じような点を意識して教えていました。

ラグビーのコーチングの中で、大切にされていたことはありますか?

自分が特に大切にしていたことが3つあります。
それは、「コミュニケーション」 「ビジョン」 「リアクション」です。これはマダガスカルの選手たちに足りないと感じることです。

“コミュニケーション” については、グラウンド上で無言の選手が多い。でもこの無言というのは前の状況が見えてない、つまり視野 ”ビジョン“ が確保できていないからです。
“リアクション” については、例えばタックルして地面に倒れた後にすぐに立ち上がって次の準備をしなければいけませんよね。これが、マダガスカルの選手たちはとても遅いんです。のんびりしている。なので、ここは徹底的にやりました。

文化や習慣が違う中で、選手の習慣を変えるのは難しいように感じるのですが、何をきっかけに選手たちの行動が変わっていったのでしょうか?

大切な大会で負けたことです。去年の4月にワールドラグビーセブンズチャレンジャーシリーズに出たのですが、そこで負けたことで、ずっと言ってきたことがそこで本当の意味で、選手たちに伝わったと思います。
負けて自分たちで気づいて変わっていく。僕も、負けたときに選手たちが気づけるような取り組みや声掛けを普段から意識しています。

活動するなかで難しかったことはなんですか?

言語ですね。自分でコミュニケーションは大切と言いましたが、マダガスカル語で細かいニュアンスを伝えることは難しかったです。
フランス語も使いますが、やはり現地の人たちにとってはマダガスカル語が大切で、グラウンドではマダガスカル語でのコミュニケーションを心がけていました。

活動を通じて、やりがいを感じるのはどういう場面でしたか?

自分のやってきた練習の成果が出たときですね。うまくいかなかったこともありましたが、ワールドカップの1勝は強く印象に残っています。
キックの練習をずっとしてきたのですが、試合で微妙に難しいところから蹴る場面があって、そこでコンバージョンキックを決めたことで結果的に勝利を手にすることができました。あの2点が入らなかったら、と思うとキックをやってきてよかったなと思ったことを覚えています。

あとは、先日のU18インド洋大会での優勝です。この大会は、本当にいろんなことの成果の集大成となった大会でした。僕が70%くらいの練習を担当していたということもありますが、練習方法から、チームの文化からすべてを変えて取り組みました。コーチ間でのコミュニケーションを増やし、選手にも考えさせる場面を増やす、練習も目的を持って臨むなど、これらすべてが優勝という形になったのですごくうれしかったですね。

▲マキレディースU18のトレーニングの様子

実は、今回のU18のヘッドコーチは女性コーチだったのですが、彼女にとって初めての国際大会でした。その中で、マダガスカル国内でもチームについて不安視する声があったのですが、一生懸命取り組む彼女を自分も支えたいと思っていろいろ取り組んだ結果、優勝という結果につながりました。また、パスポート所持率が極めて低いマダガスカルで、ラグビーを通じて人生初のパスポートを手にし、マダガスカル島の外の世界へ挑戦した選手と素晴らしい結果が残せた事。それが一番の思い出です。

シニアチームは最大の目標であったオリンピック出場を果たせませんでしたが、その後U18のチームに関わってきて、彼女たちが国際大会で優勝したことで、未来に何かを託すことができたかなと思います。

マキレディースU18と今井さん

マダガスカルへのコーチ派遣は今井さんで2代目となりますが、2代目だからこその難しさはあったのでしょうか?

2年間という自分の時間が決まっている中で、ストーリーを作るのは自分なので、来てからは、自分のできることに集中してやろうと思いました。僕の活動でいくとパス、キック、キャッチなどアタックの基本ができていないと思ったので、スキルのベースアップから始めていきました。
もちろん、先代の中野祐貴さん(2017-2020 派遣)とは連絡を取って、状況を教えていただいていたりはしましたし、中野さんがこれまで行われてきたことも尊敬しています。

活動については「結果がすべて」という言葉が自分はしっくり来ています。ラグビー隊員として、特にコーチとして関わっている以上、結果を求めることが必要です。
ただ、「結果がすべて」というのは、あくまで勝つことにフォーカスをしながら、どんなプロセスを歩んできたかを大切にしながら、取り組んできました。

今井さんはこの2年間、いろいろなことに挑戦されてきました。活動の集大成として女子U17の7人制の全国大会を開催されましたが、大会はいかがでしたか?

※大会の様子はこちら

僕は普段は首都のアンタナナリボで活動をしているのですが、この大会に向けて、地方を回って、出場する地方のチームの指導を行ってきました。マダガスカルでは、女子のラグビーリーグもありますが、ほとんどのチームの選手は首都に住んでいます。地方の選手が首都に来るにはお金がかかるし、滞在中の宿泊費用をまかなえない場合がほとんどで、(地方にいると)大会や合宿への参加がなかなか難しいからです。

そんな中、今回の大会で優勝したのは、チュレアールという地方のチームでした。このチームはとても正直な選手が多く、練習後も自分のノートにメモを書いたりして、練習にまじめに取り組んできました。

チュレアールでのトレーニングの様子

そんな彼女たちが今回、この機会に優勝を手にした姿を見て、胸が熱くなりました。目標を持って頑張れば夢はかなうということを体現してくれました。

また、マダガスカルラグビー連盟としてもこういう才能のある選手が地方にいるということが分かったと思うので、今後は彼女たちが大会や代表でプレーする機会をもっとつくるなどに取り組んでほしいです。

ありがとうございます!最後に今後応募を考えている方達へのメッセージをお願いします。

協力隊は、ドラマを作り出せます。
自分自身を表現できる場で、派遣されることで自分のこれまでの経験が必ず生かされると思います。自分自身も、東京ガスでの経験が生きたなと思う場面がフィールドでもその他の場面でもありました。
自分の経験を最大限に生かすには言語、表現、適応力。それが相手に伝わって成果になった瞬間とても感動します。僕もすべてを表現して出し切りました。

応募を検討されている皆さんにも「自分自身を表現する」ことにぜひ挑戦してほしいです。

「勝つことにこそ意味がある」としながらもその過程で、選手の成長や人生に向き合ってきた今井さん。
今井さんと一緒に活動したDina RazafindratsaraさんはGallagher High Performance Academy WXV 2024に選出。世界中の女性ハイパフォーマンスコーチが集まるアカデミーメンバーの一人として選ばれ、ワールドラグビーのアカデミーに参加します。
https://www.women.rugby/high-performance-academy/razafindratsara

ここで、Razafindratsaraさんは以下のようにコメントしています。「どう人とコミュニケーションするか、計画の仕方や、人々にどう学ばせ、成長させるか。明男は私のコーチとしてのロールモデルになっています。」

ワールドカップという競技の最高峰をはじめとした、様々な国際大会でマダガスカルの女子選手を勝利へ導いただけでなく、2年半で取り組んできたラグビーを通じた人材育成や教育の活動は、今後のマダガスカルのラグビー界の未来につながっていきます。

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