ラグビーのマッチオフィシャルの中には、名前は会場やテレビ上でも紹介されたり、声は聞いたりすることがあるものの、その姿を目のあたりにすることはない。そんな役割の方々がいる。
そう。
TMO(テレビジョンマッチオフィシャル)である。
その実態は多くの人はご存知ないことであろう。
時には試合を決めるような大きな判断をレフリーとともにしなければならない非常に難しい役割である。
スクリーンの前で試合を見つめ、必要があればレフリーとコミュニケーションをとり、そして判定を導き出す。
システムを操作するオペレーターの方との協働も必須だ。
写真の右側がオペレーター席・左側がTMO席。中央下にあるタブレットはFPRO(ファールプレーレビューオフィサー用)
今回は決して人前に出ることはない。まさにマッチオフィシャル界のUnsung HeroであるTMOについて、リーグワンでもその役割を務める小山知洋さんにお話をうかがった。
TMOを務める小山さん(右)とTMOオペレーターの板橋さん(左)
− なぜTMOを始めたのですか?
トップリーグ(リーグワンの前身)でTMOが始まった時にお声かけいただいたのがきっかけです。元々、ラグビーの映像を見たりクリップしたり、ということは好きでした。
― ご自身もレフリーをされていた?
はい。高校までは野球少年でした。大学に入りラグビーを始めてからはずっとプレーをしていたのですが、36歳の時に怪我が原因でプレーすることが難しくなりました。ラグビーとの接点が欲しいというところでレフリーに出会い、笛を吹き始めました。その後、仲間にも恵まれ、幸運にも九州の様々な試合や全国中学生大会などもレフリー担当することができました。
ー レフリーとTMOでは試合に望むにあたりどちらが緊張しますか?
当然TMOを担当している時の方が緊張します。レフリーは笛を持っているので自分が思ったところで試合を止めることもできます。しかし、TMOはレフリーが何を求めているのかまでも考えなければなりません。近年、ゲームのスピードが格段に上がり複数のことを短時間で確認しなければなくなってきています。
また、一般的には映像を見ているので「正しい判定をサポートが出来るのは当たり前」と思われています。これは結構なプレッシャーです。白黒がはっきりしていればいいですが、そもそもTMO判定をする場面は難しい(はっきりしない)場面がほとんど。それを様々なアングルの映像を使い最も妥当な判定を導き出さなければなりません。
さらにそこに「時間との闘い」があります。「できるだけ短い時間で正しい結果を導き出す」いつもプレッシャーとの戦いです。
試合後のレビューでは見落としもあったりします。中にはTMOやレフリーの中でも意見が割れる事象もたくさんあります。重圧はいつも感じています。
ー TMOとしてのやりがいは?
スキルやデジタル化が進み高度化している現代ラグビーでレフリーにかかる負担は多大なものです。そこで正しい結果を出すためにTMOはあると考えています。その難しい判断を迫られるレフリーのサポートが出来ることはこの上ないやり甲斐です。
また、プロフェッショナル化されたこのリーグでTMOという立場で試合に関わっていくことができているというのもやりがいの一つですね。
− シーズン中の生活は?
週末はほとんど試合会場に行っています。平日は会社員なので昼間は仕事をしています。毎朝5:30から7:00まで、そして帰宅後の19:30から22:30までをラグビーの時間として、前の試合の振り返りや次の試合の準備に充てています。
リーグワンのない週末は九州協会や福岡県のゲームを見に行ってレフリー育成にも関わっています。ラグビーがどうしてもない時は大事なパートナーと時間を過ごすように心がけています。
− これからレフリーを目指す人へ一言お願いします
ラグビーは難しいスポーツです。白か黒かの単純なスポーツではありません。ですからラグビーのレフリーは重要であり責任も大きいです。そう言うと、厳しいなーと思うかもしれません。
ただ、レフリーは決して1人ではなく、アシスタントレフリーやその他のマッチオフィシャル、そしてチームの選手やコーチまでを含めてゲームを成立させていくのです。当然ながらラグビー、レフリーを通じて新たな人のつながりや自身の人間形成に自然と繋がっていきます。
もしラグビーが好きで現在遠ざかっている人がいればレフリーから始めてみませんか?プレーヤーと同じグラウンドに立ち一緒にゲームを楽しみましょう!
彼らはその判断を非難されることはあろうとも、決して褒められることも賞賛されることもない。ただひたすらレフリーのサポートに徹してその職務を遂行する。
決して姿を見せることのないマッチオフィシャル界のUnsung Heroにも熱い応援をいただけるとありがたい。
リーグワンの会場でタイにジャケットでスタジアム周辺を歩く人がいたら、ひょっとしたらその試合のTMOかもしれない。
(おまけ)
この日の試合のゲストは「クールポコ」さん。じっとネタを見つめていた小山さんが一句。
『あの〜、ラグビーのTMOで取材を受けている人がいて普段言わない言葉でカッコつけてたんですよー。
な〜〜〜に〜〜〜〜〜! やっちまったなぁ〜〜〜!
TMOは黙って振り返り!TMOは黙って振り返り! 小山知洋』