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【連載企画】Unsung Hero #3 〜 “コンタクトのない” ラグビーのレフリー 〜

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『ラグビーは危ない』
世間ではそういったイメージ持つ人も多いだろう。コンタクトを伴わない安全性に優れたラグビーがあれば、やってみたいと思う人もいるのではないか。そんな人にお薦めしたいのが「タグラグビー」だ。
日本国内では2005年に初めての全国小学生タグラグビー大会が開催され、チャンピオンシップからフレンドリーマッチへと形を変えながら21回目の大会が熊谷ラグビー場で開催された。日本代表選手や世界トップレベルの選手が集うジャパンラグビーリーグワンの試合が終わってから24時間も経っていない。そんな熱い戦いが繰り広げられたフィールドで、トップ選手に負けない熱い小学生の全国大会が繰り広げられた。
この伝統ある大会に20年以上携わるUnsung Hero、森健(もりたけし)さん。みんなからは「モリケンさん」の愛称で呼ばれ、柔和な笑顔が特徴の小学校教員。そんな”モリケン”さんにタグラグビーの魅力を聞いた。

−ラグビーに関わり始めたきっかけは
「プレーを始めたのは高校生の時からなんです。幼少期に叔父がテレビの前で「これ始めるとやめらないんだよな」とボソッと言ったんですよ。そんなに面白いものが世の中にあるのかと思っていました。それからしばらくして中学3年の時にテレビでラグビーを見た。確かに面白い。そしてラグビーに呼ばれてるような気がしました(笑)。機会があったらやってみたいと思っていたとき、進学した高校にラグビー部があった。そこからラグビーを始めました。ぶつかるのが嫌ではなかったのでスクラムハーフとしてサイドを潜っていったり、大きなフォワードの足元にタックルをしたり。今思うと完全にカード相当でしたね(笑)」
−レフリーに関わり始めたきっかけは
「高校時代から部内のゲームなんかで、レフリーの真似事みたいなことはやっていました。ちゃんとレフリーの勉強を始めたのは25歳ぐらいの時ですかね。県内のクラブチーム中心の社会人リーグでレフリーが足りず、「森、お前やれよ」と言われて。運が良かったのは地元で強豪だった作新学院高校の監督が当時(日本協会公認)A1レフリーとして活動されていた吉羽茂さん(現 栃木県ラグビー協会会長)で、「勉強しに毎週でも来い」と練習ゲームの度に呼んでくださって、それこそ手取り足取り教えていただきました。それがレフリーとしてのスタートです」
− 思い出深い、印象に残ってる試合は
「印象に残っている試合を挙げだすとキリがないですけれども、一つ挙げるとしたら、大学の対抗戦Bの試合ですかね。テレビで放映されるようなゲームではなく、スーパープレイみたいなのはないけれども本当に一生懸命。取りつ、取られつの試合展開で、劣勢を予想されていたチームが最後までリードしていた。残り3分かな。そのチームが逆転トライをされた。その時にインゴールの円陣の中で響く声が聞こえたの。キャプテンなのかな?「残りの3分、俺の4年間で最高の3分間にしてみせるから」って。それを聞いた時、人間ってここまで純粋になれるんだなって。ゲームの内容もそうだけれども、プレイヤーの純な気持ちに触れられたのが、今でもすごく印象に残っています」

(写真2)テストマッチではマッチオフィシャルとして入替を担当した経歴も

−タグラグビーに関わり始めたきっかけは
「この大会が始まる時、もともとは小学校の体育の延長というような位置づけで始まったんですね。そんなこともあって、第1回の時には小学校教員のレフリーが集められて、私も小学校教員ですので、声をかけていただいたというのがきっかけです。この大会にはフル参加なんですよ」
−フルコンタクトのラグビー、タグラグビーの大きく違うなと感じることは
「見た目でコンタクトがある、ないというところがありますし、レフリーとしては微妙に判断の基準などを変えないといけないところもあります。ただ、私は基本的には(ラグビーのレフリーもタグラグビーのレフリーも)大きく変わらないと思います。昨日もレフリー研修をしたのですが、コンタクトのラグビーのどこが変わって、タグラグビーのどの現象になっているかという議論をしました。この要素が「ここ」の部分なんだよね、と整理をしていくと、ラグビーとタグラグビーの共通点が理解しやすい。もちろんレフリングに関してはポジショニングや求められるスキルに違いはありますけれども、大枠で見たときにはそれほど違いはないだろうと。私自身がタグラグビーのレフリーをやっている時も基本はラグビーのレフリーをしているときと意識はそれほど変わらないと思うんです」
−レフリングをするときに一番大事にしていることは
「ゲームの動きを大切にする、ということです。タグラグビーは、競技規則の隙間がものすごく多い、逆に言えばその隙間を楽しむスポーツだと言えます。例えばタグを取られた後、すぐにパスをしなくてはいけない。その「すぐに」っていうのはどれくらいなのか。いつも質問を受けるんだけども、ゲームの流れやランナーのスピードによるところもある。お互いの力量も関わってくる。レフリーがそれを判断してコントロールしていくことでゲームが動いていきます。ですから、私は先の問いには「プレイヤーがプレーをするのに必要な時間」だと答えています。レフリーとプレイヤー・チームとが「よいゲーム=流れのあるゲーム」であるということを共有できていれば、勝っても負けても、終わった後にお互いに心から「ありがとうございました」って言えるかな、と思っています。」

(写真3)グラウンドに常に目を配り、柔和な笑顔で視線を送る

−非常に設計された研修会だと感じたのですが、大会が始まった当初から実施されているのですか
「この大会は手作りの大会で、始まった当初は研修をする余裕もなく、試行錯誤をしている中で私がレフリー全体のまとめを任されるようになりました。せっかく全国から集まってきていただいてのだから、レフリーをやって帰ります、というだけではなく、お土産を持って帰ってほしいなと。皆さんが大会や研修を通じて学んだことを地域で発信していただくということがラグビーの普及につながっていけばいいなと思っています。研修は毎年準備していて、15回ぐらいはやっていますね」
−実際に研修でやったことが全国に伝わっているなと感じたりすることは
「このタグラグビー大会に限って言うと、参加チームが必ずしも協会に登録しているわけではないという特徴があるんですね。オープンな大会なので、どういったチームがエントリーするか明確には分からない。そういう状況で、レフリングに関する情報を参加チームに確実に届けるにはどうしたらよいか。今の枠組みでは、全国大会に参加したレフリーの方々が頼りになります。各地域で研修の内容を広めてくださったおかげで、レフリングに理解あるチームが増えたり、新しいレフリーが大会に参加してくれたりということもあります。こういうとき、研修の意義が広がって良かったなと思います。まだ情報発信が十分とは言えないので、将来的には研修で扱う情報を一元で流していけるようになればいいと思います。」

(写真4)年齢差は53歳。レジェンドの下井レフリーは年齢を感じさせない颯爽とした走りを披露

Q. タグラグビーのレフリーをするためにはスタートレフリーを取得していればチャレンジできるそうですね
「スタートレフリーは文字通りレフリーの入り口、オンラインで受講できるスタートレフリー認定講習は、私たちがレフリーに求める最低限のものが集約されていると理解しています。当初はレフリー資格を取得できるのは18歳以上だったけれど、現在は12歳(中学生)以上が資格を取得することができるようになりました。その結果、若い年代の子どもたちが選手とは違う形でラグビーに関わることができている。この大会にプレイヤーとして参加していた子がレフリーになって今日フィールドに立っている。すごいですよね。20年間続く大会の中で一番の大きな変化ですね。全国的に若い子たちがタグラグビーを通してレフリーに興味を持ってもらえればと思います。また、中にはスタートレフリーのままタグラグビーに関わり続けるレフリーも当然いるわけです。こういった方々の中で全国大会のフィールドに立ってみたいという人にチャレンジしていただければ、これもありがたい話だなというふうに思いますね。」
Q. 将来、どのような大会にしていきたいですか?
「日本協会の私の立場で言うと、これはラグビー普及のための手段です。しかしタグラグビーだけをずっと続けていきたいという人も中にはいる。ラグビーは好きだけれども、怪我が怖いとか体が小さいからフルコンタクトはやりたくない、っていう人も当然いる。そういう人たちもラグビーファミリーとしてつながり続ける上で、やっぱりタグラグビーってすごく重要な位置にいるかな、と考えています。レフリーに関して言えば、タグラグビーはレフリーなしでも試合ができる部分っていうのは確かにあるんだけれども、レフリーが必要な部分というのも当然出てくる。そういうことを理解した上で、プレーをやりながらでもいいし、教えながらでもいい。関わる人たちをハッピーにできるレフリーが一人でも増えてきてくれればいいかなというふうに思っております」
最後に
「今回、下井真介さん(元A級レフリー)のようなベテランから、中学生の和田羽雛さんまで幅広い人たちが同じレフリーとして参加できているというところ、ここが私のこの大会の好きなところ、そして誇りに思っているところなんです。タグラグビーの良さは、全国大会に参加する、そこで勝つことことだけじゃなくて、それぞれの地域でプレイヤーとして、またレフリーとして関わることができること。それが当たり前になってくるような時代が来るといいな、そういう風に思っています」

(写真5)

インタビューの後、この中にはモリケンさんが過去全国大会で担当した試合に出場していたレフリーもいるかも、と尋ねたところ「俺、迷惑をかけたんじゃない?(笑)」との返答が。すると周りのレフリーからは大きな笑いが。
最年少は14歳、最年長は67歳。多様なレフリーがマッチオフィシャルチームとして団結し、ラグビーを楽しみながら、魅力を存分に引き出す。そんな素晴らしいチームのリーダーとして見守るモリケンさんのラグビー愛は、熊谷名物の赤城おろしを感じさせない暖かさを感じた。

 

(参考)
第21回全国小学生タグラグビー大会でレフリーを務めた下井真介さん(元A級レフリー)、中学生の和田羽雛さんにインタビューを実施しました。ぜひご覧ください!
▼インタビュー映像はこちら
https://x.com/JRFU_minna/status/1893903690211443143