5月31日、初めての試みである「ラグビー・エンパワメント・プロジェクト」(REP)の、大人版1dayセッション体験会がオンラインで開催され、10代から60代まで幅広い年齢層の23名が参加。熱心に講師の話に耳を傾けました。
REPは高校生を対象にした次世代のリーダー育成事業。今期で5年目を迎えました。今回のセッションは対象を高校生以外にも拡大し、広くREPの活動内容を知ってもらう目的で開かれました。
この日のゴールは「REPへの理解を深め、ラグビーを通した多様な価値観に触れよう」。過去のREPで講師を務めてくださった杉山眞一さんと森岡早紀さんのお二人が、キャリア講義を行いました。
杉山さんは、高校・大学時代にラグビーをプレー。現在は済生会熊本病院 救急総合診療センターに勤務しています。ドクターとして多忙な毎日を送る一方、熊本県ラグビー協会理事/書記長、レフリーなどの資格も持ち、週末は熊本ラグビースクールで子供たちにラグビーを教えるなど、多方面で活躍されています。
この日の講義のテーマは「スペシャリストとジェネラリスト」。杉山さんは肝胆膵外科医(スペシャリスト)として1997年から20年間、第一線で活躍してきました。数時間に及ぶ肝臓がんの難しい手術を手掛け、実績も知名度も高かった杉山さんでしたが、2017年に総合診療科医(ジェネラリスト)に転身しました。総合診療科医は外科だけでなく、内科の知識も必要とされ、外科医からの転身はほぼ例がないと言われています。杉山さんはこの先50代、60代を迎えて体力的に長時間の手術を続けられるのか、若い人たちに自分の立場を譲ったほうが組織が活性化するのではなど、様々なことを考えての判断でしたが、「いい選択でした」。
「立つ位置を変えることで、見方も変わります。出会った人によって価値観は変わりうる。変動する価値観こそ、自分のアイデンティティ」。
2020年からは指導者として、30人の研修医の世話も引き受けていますが「教えることは学ぶこと」。病院で出会う患者さん、ラグビースクールの子供たちからも、学ぶことはたくさんあるとのこと。今ある立場に満足せず、こだわりすぎず「心踊る方を選ぶのが大事」と杉山さん。過去にとらわれず、常に新しい自分を作り出していく生き方は、あらゆる世代にとって刺激となるものでした。
続いてのキャリア講義は株式会社ゴールドウイン カンタベリー事業部 事業グループで同ブランドのブランディング、マーケティング、商品開発を担う森岡早紀さん。テーマは「カンタベリーとラグビーの関わり、ラグビーの価値観について」。小さい頃、バレリーナを目指していた森岡さんでしたが、15歳の時にケガで断念。その後、ダブルダッチを始めて大学時代に全国大会に出場を果たします。就職にあたって自己を振り返った際、衣服に支えられていたことに気づき、繊維商社に入社。アパレルに関する知識を学び、25歳で今の会社に転職します。そこで出会ったのが、ラグビー選手だった亡き父親が長年愛用していたカンタベリーの製品でした。同社は1904年、NZで生まれました。選手が着用するジャージーだけでなく、「ラグビーに関わる全ての人に寄り添う」のがコンセプト。カンタベリーが生み出す製品が「ラグビーを取り巻く愛とリスペクトの循環」(森岡さん)であると気付き「魅力を広く発信したい」と決意。SNSで様々な情報を発信したり、日本代表が2023年のワールドカップで着用した代表ジャージーの開発、宣伝にも携わりました。
森岡さんが人生選択の指針としてきたのは「自分の好きを因数分解してみる」こと。自分が得意と思うこと、好きと思うことのどんなところが好きか得意か分析。「動詞」で分解します。その「好き」 「得意」を中心にキャリアに向かって行動を起こす。これまで壁にもぶつかりましたが、「それは“点”であり、長い道のりの“線”への過程」と森岡さん。参加者にとってもカンタベリー社のウエアはおなじみ。その製品を送り出す側の話は、さらに同社への理解と愛着を深めるものでした。
今回、全く違うキャリアを持つお二人の講義でしたが、「心踊る方を選ぶ」(杉山さん)、「自分の好きを因数分解する」(森岡さん)と、相通ずるものがありました。
自分自身としっかり向き合い人生を選択してきたお二人の講義は、世代を超えて多くの人の共感を呼びました。最後、参加者がいくつかのグループに分かれて振り返りを行いましたが、社会に出ているからこそ、お二人の話に共鳴する部分もあり、それぞれに感想を語りあっていました。
今回、初めて開催した高校生以上のセッションは好評のうちに終了。今回、参加できなかった方、新たにREPに興味を持たれた方は、是非次回のセッション(開催時期未定)にご参加ください。