今年度で5期目を迎える「ラグビー・エンパワメント・プロジェクト」(REP)。1day セッションが5月24日、30日の2回に分けて開催されました。
5月24日のセッションは日本協会で行われ、12名が参加しました。この日、インタビュー講義を行ったのは元日本代表の二人。男子日本代表でCTBとして活躍、2003年のワールドカップにも出場したトヨタ自動車勤務の難波英樹さんと、女子7人制と女子15人制両代表でプレー、2016年にはリオ五輪出場を果たし、現在は早稲田大学ラグビー蹴球部女子部のヘッドコーチを務める横尾千里さん。
この日のテーマは「ラグビーの価値、得たもの、現在の自分」。横尾さんは祖父の影響でラグビーを始め、國學院久我山高時代は男子選手にまじって「なんとなく好きなフリで」プレーしていたのが、その後、女子チームに所属したことで、改めてラグビーに引き込まれ、トップを目指すことを決意。たびたび大けがを負い、時には「もうできない」といったんラグビーから離れながらもプレーを続け、2021年に現役を引退。現在は母校である早大に創設された女子部のHCに就任。全日本空輸(ANA)に勤務しながら、指導者として日々グラウンドに通っています。
難波さんは神奈川県出身。中学時代は野球部に所属していましたが、先生の勧めで相模台工業高に進学してラグビー部に入部。同校は当時、全国大会強豪も、難波さんの代は「史上最弱」と呼ばれた学年でした。そこから努力を重ねて高2、3年と全国大会で連覇。難波さんは3年時にキャプテンを務めました。現役引退後もトヨタ自動車ヴェルブリッツ(当時)でコーチを務めたり、日本協会に出向してラグビー普及業務に携わるなど、「なんだか分からないけどラグビーに呼ばれてます」(笑)
ケガや挫折を乗り越えてトップレベルで活躍した2人には、参加者から多くの質問が飛びました。この日は競技者も多く参加、ウエイトの実際の数値や、最もつらかった練習など、選手ならではの問いもありました。
キャプテンとして心掛けていたこと、との質問に難波さんは「一人で出来ることは限られている。抱え込まないこと」。横尾さんは「ぶれないこと。最初は取り繕っていたところもあったけど、この私を知って(キャプテンに)選んでくれたのなら、自分を偽るのは違う」。「強豪ではないチームのキャプテンとして仲間に声をかけるとしたら」という問いに難波さんは「まずゴールを決めること。そして少しずつ仲間を増やしていくこと」。横尾さんは「チームとして何を成し遂げたいのか、常に確認してチームの軸を見せておく」。トップを極めた2人の回答は参加者にとっても、すぐに役立つものでした。
5月30日にオンラインで開催された2回目のセッションは16名が参加。日本協会の香川あかねさんが講師を務めました。香川さんは日本から3名選出されているワールドラグビーの理事の一人。2000年から日本協会に勤務。2010年からは10年間、女子7人制日本代表のチームマネジャーを務め、2016年リオ、2020年東京五輪にスタッフで帯同。現在は女子ラグビーの事業遂行責任者として、日本国内の女子ラグビーの普及に従事しています。
講義のテーマは「見る前に跳べ」。香川さんは小学生の頃から海外に興味を持ち、高校時代にアメリカ留学、大学時代には「日本中東学生会議」の一員として、イスラエル、エジプト、ガザ地区などを訪れました。「世界平和に貢献したい」と希望を抱いていた香川さんでしたが、訪問先で簡単に答えの出せない現実に直面。「真実と向き合うためには、真の自分に戻り、まずは自分の人生と向き合うこと」と、生き方を見つめ直すきっかけに。その後、父親がラグビー好きだったことから、日本協会へ。海外で知見を広げてラグビーの世界に入った香川さんは参加者に「脳が発達するのは35歳まで。どんどん挑戦してほしい」と、まさに「見る前に跳ぶ」大切さを伝えました。様々な人との出会いの大切さ、継続することが成功への近道ということも。「日常ではないところの出会いで、自分が救われることもあります」。
質疑応答で、ラグビー部のマネジャーをしている参加者から「心掛けていること」を聞かれた香川さんの回答は「マネジャーとして意志を持たないこと」。「スタッフと選手がどれだけパフォーマンスを高められるかが、マネジャーの仕事」。長年、裏方として黒子に徹してきた人間ならではの答えでした。
高校生を対象に2回にわけて開催された1dayセッション。8月から始動したREPの本講座でも、ラグビーで人生を築いてきた様々な先輩たちが講師として登場します。本プロジェクトの様子も、今後レポート予定。皆さん楽しみにしていてください。