今年度のラグビー・エンパワメント・プロジェクト(REP)の第3回研修が9月21日に行われました。今回のテーマは「視野を広げる」。スポーツと社会の関わり、ラグビーと社会のつながりを考えるため、お二人を講師に迎えました。
◎鈴木貴士さん(現:男女7人制コーチングディレクター)の講義レポート
一人目の講師は鈴木貴士さん(現:男女7人制コーチングディレクター)。7月に開催されたパリオリンピックでヘッドコーチとして女子7人制代表を率い、過去最高の9位の成績を収めた「時の人」です。
鈴木さんは現在43歳。小学校1年のとき、市川りとるキングラグビー少年団でラグビーを始め、保善高校、中央大学、セコム、クボタでラグビーを続けました。
現役時代のポジションはSHとWTB。セブンズ日本代表、15人制のA代表にも選ばれています。2017年に現役を引退し、男子セブンズ代表のコーチに就任。2019年にはユニバーシアード男子日本代表HCを務めて優勝、ジャパンラグビーコーチングアワードの特別賞を受賞しました。2021年に男子セブンズ代表コーチとして東京オリンピックを戦い、その後、女子のHCに就任、パリオリンピックを最後に退任されました(10月1日に男女7人制コーチングディレクターに就任)。
鈴木さんの話は分かりやすく始まりました。「7人制ラグビーとはどんな競技でしょうか」。短時間に広いスペースを使って勝負をするだけに、より密なコミュニケーションが必要です。そのためにチームに必要とされるものは何か。リーダーシップ、チームワーク、コミュニケーション能力、問題解決能力。そして勝つことだけではなく、チャリティ活動や地域との連携、国際交流も大切と、話は進んでいきました。
「ヘッドコーチの役割とは」
「目的と目標の違いは」
よく耳にしていても、実際に聞かれると、すぐに言葉にするのは難しい質問も鈴木さんは、たびたびオンラインを通じて参加者に問いかけ、答えを引き出していきます。コミュニケーションを大切にしてチームを作ってきたことが講義からも伝わりました。
講義終了後の質疑応答では、選手からヘッドコーチに立場が変わって気づいた点や、指導者と選手とのコミュニケーション方法など、具体的な質問が続きました。参加者は現役選手も多く、実際に大舞台で結果を出した鈴木さんの話は、より興味を持って受け止められたのではないでしょうか。
◎参加者の声(一部抜粋)
・ 「ヘッドコーチのお仕事がとても多くて驚きました。(中略)自分が部活をしていたときは、とにかく自分がレベルアップしないと、と思っていましたが、今回、自分だけが頑張ってもチームは強くならないのだということを聞き、当時それに気づければ良かったのにな、と思いました」
・ 「ラグビーを通して、リーダーシップやチームワーク(協調性)、多様なコミュニケーション方法、問題解決能力などの社会生活に必要不可欠なスキルを身に付けられるということを改めて学ぶことが出来ました」
・ 「“目的”と“目標”についてあまり考えたことがなかったため、今回理解できたと感じています。また、私はまだプレーヤーとしての立場でしか経験していないので、その他の考え方なども学んでいきながら、プレーヤーとして成長していきたいと思いました」
二人目の講師は、株式会社ゴールドウイン カンタベリー事業部デザイナーの森岡早紀さん。カンタベリーと言えば、選手やファンにとって、最も身近なラグビーのウエア。森岡さんは同社製品に関わる全てのマーケティングを担当しています。
4歳でクラシックバレエを始め、バレリーナが夢だった森岡さん。15歳のとき、足首を痛めてバレエを断念し、17歳でバトントワリングの道へ。大学からはダブルタッチ(2本の縄を使って跳ぶ縄跳び)に挑戦、全国大会に出場します。就職にあたり、それまでの自分のキャリアを振り返ったとき、衣装が「戦闘着」であったに気づき、戦闘着をまとって戦う人たちの力になりたいと、繊維商社に就職。入社後、さらに「自分の好きを因数分解」(森岡さん)。最も自分が携わりたいことは「ブランドが目指す方向をくみ取って思いを伝えること」と職種を見つけ、現在の会社に転職しました。
時を前後して森岡さんの父親が他界。元ラグビー選手のお父様は、生涯ラグビーを愛し続け、遺品の8割をカンタベリー製のウエアが占めました。小さい頃はラグビーが苦手だったという森岡さんですが、改めてカンタベリーは「ラグビーという競技と強く結びついている唯一無二のブランドである」と思いを新たにし、自身の針路を決めたのでした。
ラグビー日本代表のオフィシャルサプライヤーを務める同社。昨年開催されたラグビーワールドカップで、日本代表が着用したジャージーの開発プロモーションは、3年半前から準備が始まりました。森岡さんも生地開発の段階からプロモーションに携わりました。試行錯誤を経て完成したW杯の「戦闘服」であるジャージー。昨夏の新ジャージー発表会、そしてフランスで開催されたW杯も現地で観戦。「ずっと見たかった風景を目にすることができました」と森岡さん。
最初に登場した鈴木さん同様、質疑応答には参加者から積極的に手があがりました。
「やりたいことが見つかる瞬間は」という問いには、「心が動いたときを理解すること、あとは書くこと」とアドバイス。
「起こることはすべてが必然」
「谷にも意味がある」
「自分のやりたいことを因数分解してみる」…
胸に刻んでおきたい言葉がいくつも発せられました。
「中学、高校、大学と一番悩みました」と語る森岡さんの体験談は、これから進路を定めていく参加者のこれから先を照らす灯りになったのではないでしょうか。
◎参加者の声(一部抜粋)
・ 「カンタベリーと日本代表との関わりが知れてよかった。起こることには全て意味があり今に繋がっているという言葉がすごく心に響いた。失敗も意味があるという捉え方をチームにも伝えていきたいと思った」
・ 「自分の中の得意分野や、興味関心を因数分解していくという話が心に残った。自分は割と将来の夢や人生設計を使っている方だが、自分のことを因数分解していくやり方は何か選択・決断をするときに使ってみたい考え方だと思った」
・ 「どんな小さなことからでも、社会とのつながりを考えて活動していくことが大切だと感じた。また、それが人々の思いのつながりになることを知った」
今回も、参加者にとって非常に有意義な時間となりました。REPは第3回研修を終えて、早くも折り返し。次回は10月19日に開かれます。
(森本優子)