ラグビー憲章で掲げる
5つのコアバリュー

はじめに
~ラグビーの「5つのコアバリュー」考える~

ラグビーの5つのコアバリュー

  • 品位

    品位

    Integrity
  • 情熱

    情熱

    Passion
  • 結束

    結束

    Solidarity
  • 規律

    規律

    Discipline
  • 尊重

    尊重

    Respect

2009年、ワールドラグビーのメンバー協会では、ラグビーが持つ人間形成に資する特徴として「品位、情熱、結束、規律、尊重」を示しました。これらの特徴は、いまでは総じて「World Rugby Value(ワールドラグビー・バリュー)」と呼ばれており、ラグビー独自の特性と理念をフィールドオブプレーの中でも外でも守っていくための手引きである「ワールドラグビー・ラグビー憲章(The World Rugby Playing Charter)」の一部を構成するものとなっています。

ラグビー憲章において、「ゲームの原則」と「競技規則の原則」に加えて、ラグビーの5つのコアバリューとして紹介されている「品位・情熱・結束・規律・尊重」、それぞれについて、考えてみたいと思います。

「品位・情熱・結束・規律・尊重」の5つの言葉は、選手、指導者、トレーナー、メディカル、レフリー、スタッフ、関係者、ファンなど、ラグビーに関わる全ての人々に共有してほしい価値観です。全員が心を一つに一体感を持つ、すなわちOne Teamとなるための最も基本となる考え方、価値観です。
これらの5つの言葉とそれぞれの持つ意味をしっかり考えてみてください。一つ一つの言葉を心に刻んでください。そして、日々のラグビー活動において、実践して、体現して、ラグビーに携わる仲間に影響を与えてこそ、初めて価値が生まれるものだと思います。
日本ラグビーフットボール協会としては、ラグビーの価値を高めていくため、ラグビー憲章で示されている5つのコアバリュー「品位・情熱・結束・規律・尊重」を真摯に学ぶ必要があると考えました。継続的に学び、一つ一つ実践してみてください。

5つのコアバリューとは?

品位

品位

Integrity

品位とは、ラグビーをつくるものの中心であり、誠実さとフェアプレーから生まれる。

品位とは、礼儀や節度、人徳、気高さに富むさまを言います。作法やマナーは国や習慣、文化などによって違いはありますが、ラグビーと言う競技全体の基盤を成すものです。

ラグビーは格闘技のように、力と力がぶつかり合います。互いにルールを守った中で繰り広げられる激しいプレイを推奨していますが、感情を抑えきれなくなってのラフプレーはいかなる状況であっても許されることではありません。

社会的に問題となるような行動を行わないこと、コンプライアンスを遵守することは当然のことです。これにフェアプレーの精神と私利私欲に走らない誠実さが加わって、高潔で品位にあふれた人間性が育まれるのです。

情熱

情熱

Passion

ラグビーに関わる人々は、ラグビーに対する熱い情熱を持っている。ラグビーは、感動を与え、思い入れをもたらし、そして、世界のラグビーファミリーへの帰属意識を生む。

ラグビーには、感動があります。試合前のロッカールームで円陣を組む選手、ピッチで国歌を斉唱する代表選手、彼らは、何としてもこの試合に勝ちたい、試合に出られない仲間のため、スタンドのファンのため、支えてくれた家族のため、そんな思いが重なって、涙を流していることも少なくありません。

日々の練習でも、指導者は深い愛情をもって指導します。感情的になるのとは少し意味が違います。近年、ラグビーの練習は極めて計画的かつ効率的に行われるようになり、さらにそれにかける熱量は高まっているのではないでしょうか。より高い成果が得られるよう、最大限の情熱を込めて、最高に熱い練習が行われていると思います。

選手や指導者だけでなく、ファンも情熱的です。2019年ラグビーワールドカップでの日本代表チームの活躍には、日本中が熱狂し、それまでラグビーを知らなかった人も含めてOne Teamとなりました。

「ラグビーは、少年をいちはやく大人にし、大人にいつまでも少年の心を抱かせる」(仏代表元主将のジャン・ピエール・リーブ)とも言われます。それは、誰もが心の奥底に持っている闘争心、熱い思いを掻き立ててくれる競技であることが一つの理由だと言えます。

結束

結束

Solidarity

ラグビーは、生涯続く友情、仲間、チームワークそして、文化的、地理的、政治的、あるいは、宗教的な垣根を越えた忠実さへと通じる、一つとなった精神をもたらしてくれる。

ラグビーは集団競技です。自分一人の力では何もできません。いつ・どんな場面でも仲間の力が必要です。ラグビーは体と体がぶつかり合う激しい球技です。肉体的にも精神的にもきつい、だからこそ、同じ時間を共有した大切な仲間との結束は非常に固いものになります。

この仲間との結束は、チームに属している間だけではありません。卒業後も引退後もその関係が続いて、さらに結束が固くなって、高校時代のラグビー部のチームメイトが生涯の友、そんな人も少なくありません。

選手だけでなく、指導者やスタッフ、保護者、関係者も強い絆で結ばれます。ラグビースクールも各々の地域における立派なコミュニティ活動です。2019年ラグビーワールドカップの試合会場では、見知らぬファン同士や、海外からの来場者とお互いの健闘を称え合ってハイタッチをするような場面も数多くみられました。この国境を越えた、心と心を繋ぐ結束力は無限大です。

規律

規律

Discipline

規律とは、ラグビーにとってフィールドの内外で不可欠なものであり、競技規則、競技に関する規定、そして、ラグビーのコアバリューの遵守によって示される。

スポーツ競技はいくつもの規則によって成り立っています。規律は、ルールだけでなく、人としての定め、集団の秩序なども含みます。

ラグビーでは広いピッチ上に30人の選手がいますが、レフリーが常に選手全員に目が届いているわけではありません。それでも選手は高い意識をもって、ルールを含む規律を遵守しています。動きのある競技ゆえ、どうしても反則は発生してしまいますが、見つからなければいいというものではありません。

大会会場で使用するロッカールーム、禁煙や土足厳禁の貼り紙があります。これを守るのは当然です。それだけでなく、選手たちは自分たちが来た時より綺麗にして帰ろうと、試合後には、清掃用具を借りて掃除します。大会運営を支えて下さった関係者、応援してくれた仲間への感謝の気持ちを表します。

規律を守るのは選手だけではありません。指導者は誰よりも模範となるよう率先して規律を守ります。トライ後にゴールを狙う時は、相手チームのファンも、声を出さず、静かに見守ります。

尊重

尊重

Respect

チームメイト、相手、レフリー、および、ラグビーに関わる人々を尊重することは、最も優先すべきことである。

自分がトライをしたケース、そのトライは自分の力だけではなく、仲間の努力が結集したものです。それゆえ、ボールを奪い、パスをつないでくれた仲間を尊重します。それだけでなく、悔しい思いをしている相手選手をおもんばかる気持ちから、相手選手に対して喜びをアピールしたり、過度に喜ぶような行為は慎んでいます。

試合中には、仲間を支え合ったり鼓舞し合うような声掛けをします。仲間のミスを責めたり、相手チームをけなしたり、レフリーを批判するような言葉は、発しません。負傷者が発生した場合には、それが相手チームの選手であっても、レフリーに知らせたり、救護したりすることがあります。

どのような試合でも勝てば嬉しいし、負ければ悔しいです。しかし、ラグビーの試合終了はノーサイドです。ノーサイドの笛が吹かれた瞬間、敵味方はなくなり、互いの頑張りを称え合います。

参考:WORLD RUGBY競技規則 (2021)
※ラグビー憲章含む

まとめ

今やラグビーは、誰もが楽しめるスポーツになりました。チームワーク、相手への理解、協力、仲間への尊重といったものが築かれてきました。双方の選手たちがピッチを離れた後も、互いに交流を楽しむという伝統は、ラグビーという競技の象徴となっています。

ラグビーは、プロフェッショナルの時代に入りましたが、一方では、レクリエーションゲームとしての精神も持ち続けています。高い水準のスポーツマンシップ、倫理的な行動、そして、フェアプレイを維持することができていることに、ラグビーは誇りを持っています。

ラグビー憲章は、先人たちの努力により、大切に守られてきたラグビーの価値を一層強いものにしていくためのものです。

ラグビー憲章に掲げられている5つのコアバリューは、単なる標語、掛け声ではありません。選手、指導者、関係者、ファン、年月を経れば、立場が変われば、ラグビーとの向き合い方も変わるかも知れません。すると、この5つのコアバリューの見え方、聞こえ方、感じ方も変わるかも知れません。一人のラグビー人として、その都度、5つのコアバリューと真摯に向き合ってください。

真摯に受け入れ、考え、心に刻むことが大切です。その上で、具体的な行動として、実践できるよう、体現できるよう、そのための努力を続けてください。きっと、その行動は周囲の仲間に影響を与えるようになり、共通の価値観として浸透、定着するでしょう。

ルールや戦術は変わっても、ラグビー憲章の5つのコアバリューは変わりません。ラグビー憲章と接すること、考えることを通して、皆さん一人一人にとってのラグビー憲章を育んでください。ラグビー憲章を磨いてください。それはきっと、皆さん一人一人の「人」としての成長につながり、いつの日か、この成果を実感できると思います。