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神戸製鋼コベルコスティーラーズ対サントリーサンゴリアス
12月15日(土) 秩父宮ラグビー場

元NZ代表チームのアシスタントコーチを務めていたウェイン・スミスを総監督に迎え、現場ではデーブ・ディロンヘッドコーチが指揮し、さらに、ワールドラグビー年間最優秀選手賞を3回獲得しているダン・カーターを司令塔に迎え今シーズン大きな変革を遂げた神戸製鋼。片や、日本選手権・トップリーグで過去2シーズン連覇しているチャンピオンチームのサントリー。この両者の対決は最後まで手に汗握る接戦になるだろうとの予想を裏切り、神戸製鋼がサントリーを粉砕しての圧勝となった。

試合開始直後、サントリーが自陣でボールを継続していたがFL西川征克から神戸No.8中島イシレリがボールを奪うと、神戸は敵陣ゴール前でフェイズを重ね、LOトム・フランクリン、LO張碩煥がゴール前でラックを作る。ラックから出たボールをSOダン・カーターからWTBアンダーソン フレイザーにパス。アンダーソンはタックルに入ったサントリーNo.8ショーン・マクマーンとWTB尾崎晟也を振り切りそのままインゴールに走り込んだ。このキックオフ後のノーホイッスルトライにカーターのコンバージョンも決まり、開始後3分で早くも神戸が7-0とリードした。さらに12分にも神戸は敵陣でフェイズを重ねた後、SOカーターが右へ展開。ボールを受けたNo.8中島はタックルを受けながらもWTBアンダーソンへバックフリップで右に大きく飛ばしパス。アンダーソンがそのままインゴールへ走り込み、早くも2つ目のトライを取り、神戸としては最高の試合の入りとなった(12-0)。サントリーとしてはラックではターンオーバーを許し、ディフェンスでも肝心なタックルが決まらずに神戸にボールを繋がれるというサントリーらしくないプレーが続いてしまっていた。

しかし、サントリーもすぐに得点力のあるバックスのランプレーを見せてくれた。18分、サントリーが敵陣に入りラインアウトからバックスに展開する。CTB梶村祐介を神戸SOカーターがナイスタックルしてボールをターンオーバーしたが、神戸PR平島久照がノックオン。するとそのボールをつかんだサントリーCTB梶村からボールをもらったWTB尾崎が右タッチライン際を好走、タックルに入ったWTB山下楽平、CTBアダム・アシュリークーパーを振り切ってコーナーフラッグ脇に飛び込んだ。このプレーを久保修平レフリーはTMOにかけた後、トライに認定、サントリーが1トライを返し、これでまだまだ始まったばかりの試合の行方はわからない(12-5)。その後、サントリーは敵陣に攻め込んでも神戸フォワードにターンオーバーされるなどチャンスを生かせないシーンが続く。そのような展開の中、32分、カーターがPGで3点加点し神戸が15-5と着実に点差を広げた。

しかし、サントリーとしてはこれ以上点差を広げられると苦しくなるというこの時間に、神戸に勝負の流れを決定づけるトライが生まれた。37分、サントリーが自陣でのマイボールスクラムからフェイズを重ねていたが、ラックから出たボールをFB松島幸太朗がキックしようとした瞬間に神戸HO有田隆平がキックチャージにするどく飛び込んできた。ナイスチャージでインゴールに転がったボールを有田自身が押さえてトライ、カーターのゴールも決まりスコアを22-5としてハーフタイムとなった。「日本一を狙えるチームでプレーしたい」と今年、コカ・コーラから移籍してきたフッカーにとって記念すべき嬉しいトライになった。

ハーフタイムにサントリー沢木敬介監督は選手に「当たり前のことを平常心でできていない。前半までにサントリーがやるべきことの10%しかできていない。後半にあと90%を出し切れ」と指示を出したそうだが、後半、サントリーのフィフティーンはこの指示通りのプレー修正はできなかった。

後半6分、サントリーは自陣でのスクラムから右ラインに回したが、FB松島に神戸CTBアシュリークーパーがナイスタックル。神戸がターンオーバーするとゴール前でフェイズを継続しLOフランクリンが作ったラックから出たボールがいいスピードで走り込んできたCTBアシュリークーパーに渡り、トライ。ターンオーバーから神戸がトライにつなげるというプレーが前半と同じように生まれた。サントリーにとっては攻めてはボールをターンオーバーされ、ディフェンスでも倒しきれないという悪いかたちをその後も修正できず、8分にFB山中、14分にはLOフランクリン、17分FLグラント・ハッティングと続けてトライを許し(48-5)、勝敗の行方ははっきりしてしまった。選手の足が止まってきた後半20分頃からサントリーもリザーブ選手のフレッシュレッグスを積極的に入替えで投入したが、試合の流れは変えられず、神戸は38分にもFB山中がトライを追加して最終スコアを55-5の大差としてノーサイドとなった。

今年の神戸製鋼は、もちろん、ダン・カーターが司令塔となってバックスラインでの得点力が上がったことでチームが大きく成長したのだが、この日はハッティング、橋本大輝、中島の第3列がナイスタックルしボールのターンオーバーを続け、カーターがそのボールをバックスに良い判断で展開したことが大きく勝利につながった。シーズンを通じてフォワード、バックスが一体となったことが優勝を勝ち取ることにつながったようだ。

神戸製鋼は日本選手権では2001年2月のサントリーとの引き分けでの両者優勝から18年、トップリーグでは2003-2004年度のトップリーグ初代チャンピオンから15年と、久しく日本一の座から離れていて、ここ数年はなかなか優勝に絡むこともできなかったが、嬉しい久しぶりの優勝を勝ち取ることができた。橋本大輝ゲームキャプテンが試合後の記者会見でコメントしていたが、こういったチームの歴史、また110年以上になる会社の歴史をチームの全員で振り返ったことがこの日のチームの力につながったという。1990年代までのV7時代の神戸製鋼をリードし、その後もチームの精神的支柱となってきた平尾誠二氏は2016年10月に亡くなり、この嬉しい優勝の場にいることができないのは寂しかったが、表彰式での橋本大輝ゲームキャプテンの胸にはしっかりと平尾誠二氏の遺影が抱かれていた。(正野雄一郎)

 

◎サントリーサンゴリアス

○沢木敬介監督
「素晴らしい神戸製鋼というチームと決勝戦で戦うことができ感謝しています。おめでとうと申し上げたいです。前半、特に最初の入りのところからサントリーではないプレーが何度も続いて、自分たちのペースに持ち込むことができなかったことが一番の敗因です。ただ、これまでずっと1年間やってきた選手のハードワーク、スタッフの勤勉な仕事ぶりを誇りに思っています。この負けで、サントリーはまた強くなれると思います。ありがとうございました」

──ハーフタイムでの指示や後半のゲームプランとして描いたものが、後半、上手くいかなかった理由は?
「ファイナルとなるようなゲームでは、当たり前のことをどこまで平常心でできるかですが、2年勝ってわかっているつもりでしたが、3年目のプレッシャーがあったところを、しっかりコントロールできなかったのは全部私の責任です。選手たちは頑張ったと思います。ハーフタイムでは、前半はサントリーのプレーの10パーセントしかできていないので、後半は90パーセントやらないといけないと話しました」

──フィットネス的なところで相手に負けているように見受けられたが?
「フィットネスについては自分たちも自信があったところですが、今日はご指摘のように見る方もいらっしゃるでしょうし、この日に100%のコンディションに持っていけなかった私の責任です」

──試合当日までに選手のコンディションを整えるという、ピーキングの点で悔やまれる点は?
「悔やむ点はありません。若い選手もいますし、今日のようなメンタル的にプレッシャーがかかるような状況を経験できたのはプラスだと思います」

○流大キャプテン
「神戸製鋼におめでとうと申し上げたいと思います。本日、80分間を通して神戸製鋼は強くて、自分たちのラグビーをやらせてもらえませんでした。神戸製鋼という素晴らしい相手にリベンジするつもりで準備してきましたが、それができず残念に思います。選手もスタッフもハードワークし、サントリーというクラブにかかわっているすべての人の思いを背負って戦いましたが、いい形で終えることができませんでした。もう終わったことなので、悔しい思いを持ちつつも、次に向かわないといけないと思っています。2年連続勝ち続けて、勝ち続ける難しさを本当に痛感した1年でしたし、これによってサントリーというクラブはもっと大きく強くなれるよう、努力していきたいと思います。ありがとうございました」


──サントリーのラグビーができなかったことについて、何が一番の理由と思うか?
「ボールを簡単に失うことです。前半トライを取られましたが、すごく良いディフェンスをする時間帯もあって、実際ボールを取り返して、さあ、アタックというところで、ボールキャリーやブレークダウンでミスがありました。リーグ戦で神戸製鋼に負けたときも、自分たちのアタックのときに簡単なエラーでボールを失いましたが、今日も多々あったため自分たちのラグビーができませんでした」

──それは、神戸製鋼のプレッシャーによるものか?
「この1週間、ボールをしっかり保持して大事に扱うことを言い続けてきましたが、どこかに隙もあり、もちろん神戸製鋼のプレッシャーもあったと思います。1年間を通してそのようなミスが多く、言い続けてきたことができなかったことについては私も責任を感じています」

──前半、キックをチャージされトライを与えてしまったときに、チームでどのような話をしたか?
「そのプレーにはふれずに、次のプレーについての話し合いをしていました。その時点で、17点差がついていたので、アタックしてトライを取らないといけないということで、次のキックオフのプレーを確認しました」

──相手方の、例えば、ダン・カーター選手を見すぎて外側やスペースを突かれ、ディフェンスを破られたという感触はあるか?
「そのようなことはありません。彼をマークはしていましたが、コネクションを崩さずにディフェンスすることを意識していました。しかし、相手にブレークダウンで良いボールを出されたときに良いアタックをされてしまいました。神戸製鋼のアタックはもちろん素晴らしく、ブレークダウンでの球出しをもっと遅らせることができれば良かったのかなと思います」

──神戸製鋼のアタックに関し予想していたこととの違いは?
「相手は、分析したとおりのアタックをしてきました。自分たちが我慢しきれなかったことに尽きます。コネクションを崩さずにディフェンスすると言っていましたが、相手が上であったと思います」

 

◎神戸製鋼コベルコスティーラーズ

○デーブ・ディロンヘッドコーチ
「本当にうれしいです。チーム全員のことを誇りに思います。試合に向けた準備も素晴らしかったし、一個一個の小さいことができた結果だと思います。橋本ゲームキャプテンはもちろんのこと、福本チームディレクター、そして平尾さんの想いを代表して戦い、優勝を勝ち取ることができたことは本当に素晴らしいことです」

──カーター、フレイザー、アシュリークーパーなどのワールドクラスの選手たちはチームにどのような影響を与えたか?
「ワールドクラスの選手だけではなく、ジョー・ラッシュ通訳や平島、山下、橋本選手などがチームにいることが、選手たちが学び育てられる環境や文化を作っているものと思います」

──長かった勝てないシーズンを変えるためにしたことは?
「橋本ゲームキャプテンが先に述べたように(後記)、自分たちが何を代表してプレーしているのか、会社の歴史や神戸製鋼ラグビー部の90年の歴史などに立ち返り、自分たちがプレーする意味づけにつなげていきました。また、過去のスチールワーカーたちと自分たちをつなげて、チームはひとつとしてやってきました」

──チームにウェイン・スミス総監督やカーター選手が加入して良かったことは?
「今シーズン、チームには多くの面で変化がありましたが、スミス総監督はその内容をシンプルに伝えてくれますし、そのような総監督の下で働けるのは誇りです。彼が謙虚で思いやりをもってチームに接していく中で、多く成長できたコーチ陣を含めて、チーム全体としても成長できたと感じています。
世界でトップレベルのカーター選手は、さらに成長したいという気持ちをもって神戸製鋼に来てくれました。彼やアンドリュー・エリス選手などの外国人選手や、他の経験豊富な日本人選手も成長したいというマインドセットで今シーズン戦ってきました。その結果が、今日のチームが出来上がった理由と思います」


○橋本大輝ゲームキャプテン
「決勝の舞台に立つのは人生で2回目です。どう表現すればよいかわかりませんが感無量です。試合では相手に気持ちのうえで相手を圧倒できたかと思います。15人だけではなくメンバー外の選手、会社やファンの皆さまの力があって、あのようなゲーム内容になったと思います」

──神戸製鋼は力があると言われ続けていながら、なかなか優勝まで来ることができなかったが、今年は安心してプレーをみることができた。チームとして一番変わったことは何か?
「チームの歴史の重みや、チームに所属しているというプライドの部分が高くなって、ラグビーにも私生活にも良い面が出て、チームの一体感や自信につながったと思います」

──ウェイン・スミス総監督やカータ選手の加入も大きく影響しているか?
「そうですね。チームや会社の歴史を振り返ったことが、一番大きかったのかなと思います。」

──相手にワントライしか許しませんでしたが、ディフェンス面が良かった要因は?
「サントリーの方ではなく、神戸製鋼が自分たちのラグビーを完成できたことが点差になって表れたと思います。いつも通りのことを自分たちはやっただけですが、気持ちの部分がすごく前に出ました。今日のような試合ができるなら毎回やるようにということかもしれませんが、ファイナルという特別な場面で、気迫がすごく出ました」

──サントリーを上回る速いテンポのアタック、ディフェンスができたことについては?
「結果の通り日本一のアタックとディフェンスができ、神戸製鋼のラグビーが体現できたと思います」

──平尾さんの遺影を抱えて壇上に上がられたときの気持ちは?
「平尾さんとは亡くなられる前からずっと優勝を約束していましたので、これ以上のことはないぐらい嬉しかったですし、やり切った気持ちです。今日、チームが目標としていた歴史を作ることができ、この歴史を後輩たちにつなげていきたい」

──スペースを使うアタッキングラグビーを1年の短期間で完成されましたが、その間の苦労と、そのようなラグビースタイルに対する感想は?
「今まで神戸製鋼には能力があると言われてきましたが、スミス総監督、ディロンヘッドコーチやカーター選手などがどうすれば勝てるかの方向性を示してくれました。相手を動かしてラグビーをするのが楽しいです」

──そのためには覚えることがたくさんあったのでは?
「そのようなことはなく、スペースにボールを運ぶというシンプルなラグビーで、昔の神戸製鋼と同じようなラグビーだと思います。ただそれだけです」

──今日やっていて楽しいことは選手間で共有化されていましたか?
「はい、そうです。歴史を作る一人になれたことは、責任もありますが光栄なことであることを選手みんなが思っていました。そのような中でラグビーができて良かったと思います」

 

○ダン・カーター選手
「神戸製鋼にとって今日は特別な試合でした。優勝するまで長い期間が空いていましたが、今回優勝できて嬉しく思います。長くから神戸製鋼にいる橋本、谷口、前川などの選手がいるから優勝したいという強い気持ちをもってプレーしました。今日のチームパフォーマンスは誇りであり、自分のためではなく、長く神戸製鋼にいる人やマネージメント、チームのOB、今日のノンメンバーなども同じです。さきほどのロッカールームでも皆さん笑顔でいっぱいでした」

──チームメイトに最も多くかけた言葉は?
「決勝の週に入ると決勝に勝つための秘訣や何か特別なことをした方が良いのか聞かれました。今までシーズンを通してやってきたハードワークができているから決勝まで来ることができたので、何か特別なことは必要ではなく、基本のことを信じてプレーすることが大事であることを言い続けてきました」

──キックが少なく、試合開始から3分間、ボールをキープし続けたことについては?
「サントリーはボールを持つと危ないチームなので、今日の試合では、ボールをキープすることが重要でした。ボールをキープし、フェーズを重ねていればどこかでチャンスが巡ってくるというゲームプランで今年はやってきました。最初のトライもその結果であることがわかったので嬉しかったです。システムの中でプレーするのが我々の強みです」

──たくさんのトライをした中で、どのトライが勝負を決めるうえで効果的であると思ったか?
「前半の得点はサントリーより我々の方が上だったため、後半はサントリーはどこからでも勝負してくるはずだから、後半開始の最初の10分が大事であるとハーフタイムの時に話しました。その10分間に味方が2本トライすることができたので、もう少しで勝てると思いました。もし、神戸製鋼がアタックせずにサントリーがアタックしていたら、結果に影響を与えていたと思います」

──来日記者会見のときに、神戸製鋼の優勝に貢献したいと言っていたが、それがかなった瞬間の気持ちは?
「私が日本に来てすぐに神戸製鋼がハードワークをしていることはわかりましたので、自分が何か新しいことや違ったことをしようとは思いませんでした。チームができているところに自分が合わせながら、リーダーシップや若手選手の教育など自分の貢献できることをみつけていこうと思いました。ただ、自分がいたからではなく、一つの特別なチームとして全員が貢献した結果であり、皆さんの前に座ってお話ができるのもそのお陰です」

──日和佐選手とのコンビは良かったですが、普段、どのようなコミュニケーションをとっているか?
「彼は英語が上手なので仕事がやりやすかったです。グラウンドだけではなく、グラウンド外でコーヒーを飲みながら試合のこともたくさん話しています。そんなつきあいができているので、どのような状況になっても同じ知識をもってお互いを理解しているつもりです。どのチームでも9番と10番のコンビは重要です。神戸製鋼に来ても多くのプレーの状況の話をしているので、どのエリアにいても彼は私のことを理解していると思います。」

──スミス総監督の貢献については?
「彼は、私が来日した2カ月前からチームにニュージーランド的なストラクチャーの導入を始めていました。それはスキルの基本部分を良くすることを教えるものです。また、声をしっかり出すことにチャレンジしていました。日本人選手は一般的に静かで間違ったことは言いたくないので、正しい、正しくないにかかわらず少しでもしゃべって意見を言ってもらうことに取り組んでいました。彼が厳しく選手に話をすることもありますが、それは選手の成長やチームのことをケアしているためで、彼の貢献度は大きい。彼とは、2004年以来のつきあいですが、世界で一番良いコーチであり、我々のところにいてくれるのはラッキーだと思います。」