マッチリポート
「第52回 日本ラグビーフットボール選手権大会」

帝京大学 31-25 NECグリーンロケッツ

【1回戦/2015年2月8日(日) /東京・秩父宮ラグビー場】
帝京大学、NECとの接戦を制し、大きな目標である対トップリーグ勝利を達成

冷たい雨が降り続く中、時計は後半35分になっていた。帝京大学がNECに対して一歩も譲らず、スコアは23-20と帝京大がリードしているが、NECの勝負強さを考えると勝負はどうなるかは全く分からない。帝京大はSO松田力也がうまくキックを織り交ぜてエリアをとり、NEC陣へ進めるが、NECもしっかりディフェンスしてなかなか帝京大にトライを許さない。しかし、NEC陣でマイボールのスクラムを得た帝京大は、SH流大とSO松田のハーフ団がよくボールを動かし、流からボールを受けたFLマルジーン・イラウアがラックサイドを突破。イラウアはNECディフェンスに捕まったが、ラックからすばやく出たボールをSH流が裏のスペースをよく見てインゴールにグラバーキックを蹴る。するとWTB尾崎晟也が右のタッチライン際から走り込んできてインゴールでボールを押さてトライ。SO松田のゴールキックはポストに届かなかったが、残り4分でスコアは28-20。帝京大の勝利がようやく見えてきた。
しかし、トップリーグの試合では最後の数分での大逆転劇も経験してきたNECは残り4分での逆転を狙った。帝京大陣に攻め込み、帝京大のオフサイドを誘うと、NECはSO田村優からボールを受けたNo.8ニリ・ラトゥが突進する。次には主将のPR滝澤直が続いて突進、ラックから出たボールをSH櫻井朋広が素早くさばく。SO田村が右に大きく投げた飛ばしパスをFB吉廣広征が受け、ゴールに飛び込み、39分に28-25とワンチャンスで逆転できる点差に詰めた。ノーサイドのホーンが鳴る前に蹴ったゴールキックは入らなかったが、NECにとってはまだワンプレーの時間はある。キックオフからのボールをNECは自陣からボールをよく継続してアタックした。自陣ゴール前付近でボールを受けたCTBニール・ブリューに帝京大で後半途中からCTBに入っている前原巧がナイスタックルを浴びせる。さらにNECはボールを継続したが、帝京大の前に出るディフェンスにたまらずノットリリースザボールの反則を犯し、帝京大が最後のロスタイムにPGでの3点を加点して、31-25のスコアでの勝利を勝ち取った。

試合前半は、雨が降りコンディションの悪いグラウンドで、帝京大FWはスクラムで再三コラプシングを取られるなど苦戦した。6分にはNECがラインアウトからのボールを、BKラインにポジショニングしていたNo.8ラトゥがもらいタテに切り込みトライ(ゴール成功)して先制したが、帝京大も10分にNECボールのラインアウトでボールをスティールするとHO坂手淳史、SO松田がゴール前に攻め込み、最後はSO松田が突破してトライ(ゴール成功)を返し、7-7の同点。NECもすかさずNo.8ラトゥ、WTBネマニ・ナドロの突進でゴール前に大きくゲインするとSO田村のWTB宮前勇規へのキックパスが決まり、再び7-14とNECがリード。帝京大も一歩も譲らず29分にラインアウトからのモールを押し、ゴール前でのフェイズを重ねた攻撃から最後にはNo.8河口駿がトライ(ゴール成功)と、17-17の同点でハーフタイムとなった。
後半に入ってもFWのセットプレーではNECが優位を保っていたが、帝京大も良くディフェンスしてトライを許さず、この「接戦での戦いを楽しむ余裕を持っていた」(流大主将)のは最後まで疲れを見せずに走り勝った帝京大だった。帝京大は後半に入り、順次リザーブの選手を入替出場させたが、選手が替わってもプレーのレベルは落ちずに、疲れのない分、むしろプラスになっていた。大学チームでのこの選手層の厚みこそが帝京大の強さと思わせる試合だった。2回戦で当たる東芝ブレイブルーパスは、さらにFWのセットプレーが強いチーム。帝京大の次のチャレンジが楽しみだ。

(正野雄一郎)
会見リポート
 

帝京大学の岩出監督と流キャプテン

帝京大学

○岩出雅之監督

「第一声としては、多くの皆様に感謝したいと思います。学生がこれだけ成長できたのは、トップリーグの感触を教えて頂いたサントリーさん、パナソニックさんをはじめ、多くのチームがサポートしてくださったおかげです。重ねて感謝申し上げます。NECさんの強みはディフェンスなので、そこにはまらないで、しっかり我々のゲームプランで試合をすることが大切でした。クロスゲームを最初から想定していて、気持ちの余裕をもって少しでも正確にプレーし、ミスが出ても次のプレーに期待しようと、昨日のミーティングでも話しました。試合が終わってすぐは動きを見られないので、帰ってからビデオを見ることを楽しみにしようと、メンタル面の充実を図りました。これまでの日本選手権での敗戦では、受けに回っていたので、チームがそうならないように臨みました。ゲームポイントは、ラトゥ選手とナドロ選手で、その選手に勇気をもってタックルしていこうとしました。最初はラトゥ選手にうまく走られましたが、トータル的にクロスゲームになれば、我々のパワーが炸裂するというシナリオどおりに上手くできました。NECさんが学生相手にファイトしてくれたことに感謝するとともに、大学選手権ではあまり言ったことがありませんが、選手を誇りに思います」

──前年のトヨタ自動車戦と比べて?

「去年、ゲームを壊したのは、セットプレー、特にスクラムでした。学生が様子をうかがうようなメンタリティで臨んでいました。3月にサントリーさんと練習試合をして、40分かかって、後半から良い試合になりました。先週はサントリーさんとやって10分でマインドセットできました。それをファーストプレーからやろうと。負け犬になって、戦わないで尻尾を巻いて逃げるのでなく、行って、結果として力の差を感じてもいいじゃないかと言いました。ファーストコンタクトからスイッチを入れて、無駄な時間をなくそうと。そこが成長できたところです」

(最後にマイクを握って)「NECさんに感謝しております。僕もNECの監督だったら、学生はなかなかやりにくい相手です。力だけでなく、コンディションの問題もあり、ミスマッチをどうコントロールするか、難しいと思います。相澤総監督は学生をリスペクトしてくださって、感謝に堪えません。NECさんの分も次のゲーム、次の次のゲームに向かっていきたいと思います」

○流 大 キャプテン

「トップリーグを倒すことを掲げて、それを達成できて嬉しく思います。多くのサポートと、今週も練習してくださった社会人の皆様に感謝申し上げます。来週、試合できることを本当に嬉しく思って、しっかり準備したいと思います。練習試合で社会人と身体を当てた感触はやれるという感触で、春から厳しいトレーニングをやってきたことと合わせ、本当に期待をもって臨んだ80分でした。特に自分たちは相手陣でプレーをするかを考えて、バックスはいかにゲインするかを考えました。ラインアウトは少し苦しみましたが、取られても、ディフェンスでしっかりボールを取り返すようマインドチェンジしました。クロスゲームになって、楽しい時間帯だと声を掛け続け、選手も返してくれて、達成感のある80分でした」

──最後のディフェンスは?

「最後の場面は、きっとキックは蹴ってこないので、しっかりボールを取り返すことを考えていました。練習でも、ギリギリの想定をしていたので、やる気を感じてディフェンスしていました。結果として、ボールを取り返して自分たちの良さが出た勝負でした。試合に出たメンバーも、142人の部員全員も試合にフォーカスしてくれて、感謝するとともに誇りに思います」

──前半の同点でハーフタイムは?

「プランどおりで、自分たちにはクロスゲームを想定し、同点で折り返したのはプラスだと。後半、出し惜しみすることなく、最初のプレーから出し切ろうと言いました」

 

NECグリーンロケッツの相澤総監督と瀧澤キャプテン

NECグリーンロケッツ

 

○相澤輝雄総監督

「トップリーグの代表として、NECのプライドを掛けて臨んだ試合でしたが、力及ばず、残念な結果となりました。多くの皆様に応援していただいたのに残念です」

──帝京が勝つことをメディアも書いて、やりにくかったのでは?

「トップリーグの毎回の試合もそうでしたが、しっかり相手を研究して、弱みを見つけて対策を練ってきました。今回も我々としては、トップリーグと同じ戦い方をしました。一つの強いチームとして研究し、実際に勝てなかったゲームでした」

──予想どおりの部分は?

「ブレイクダウンもランナーも予想どおりでした。こういう天気で思うようにボールコントロールできないし、レフリングでもノットロールアウェイをずいぶん取られました。試合前に注意したが、ずいぶん多く、相手に流れを渡したと思います」

──ナドロ選手を交代させたのは?

「ここは多分私の失敗です。前半はウィングまでボールが回らず、ナドロは真っ白なジャージのままでした。もう一人のウィングも故障して、決断が遅れました。最終的には、全員の運動量で対抗しようと交代させました」

○瀧澤直キャプテン

「試合のことは、もう、どんな言葉を並べても、負けてしまったことは変えられないので、内容はいろいろありましたが、NECが負けて帝京さんが勝った、そういう試合だったと思います」

──流れが変わったのは?

「まだ、試合が終わってすぐですので、細かいところは分かりませんが、帝京さんの速いランナーを走らせてしまったのは、もしかしたらFWの責任かもしれません。後半の中盤から帝京さんのやりたいラグビーをされているなあと感じました。我々の流れになりかけた時に、ペナルティを取られて、流れを持って行かれたところもありました」

──3点差のところでトライを狙わず同点のPGを選択したが?

「それがNECのラグビーと僕は思っています。セットピースからのモールも持っていますが、あの場面で同点にするのはトップリーグのワイルドカードでもやってきて、勝ってきたプレーです。大学生相手だから、モール、スクラムという考え方もあるかもしれませんが、僕は、反省点はないと思います」

──トップリーグと比べて大学生は?

「他の大学とあまりやっていないので、比べることはできませんが、やはり、試合で身体を当ててみて、最後のシチュエーションもそうでしたが、ブレイクダウンでプレッシャーが掛かっていたところがあるのかもしれません」

──スクラムは?

「ことスクラムに関しては、足場が悪く、相手も自分たちも何本かペナルティのある試合でした。総じてコントロールできていたんじゃないかと思います」

──悔やまれる部分は?

「まあ、特にここという部分はありませんが、全体として相手の時間が多かったと思います」

──フィジカル的にトップリーグとどう違ったか?

「我々もフィジカルでやられたシチュエーションがありましたので、トップリーグとそん色ないレベルだったと思います」