「世界のセブンズシーンと日本の現在地」
岩渕GMと浅見HCが語る女子ラグビー

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と日本ラグビー協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」の第46回が7月17日、東京都・港区の麻布区民センター区民ホールで開催された。今回はラグビー日本代表ゼネラルマネージャー(GM)の岩渕健輔氏、女子セブンズ日本代表ヘッドコーチ(HC)の浅見敬子氏を迎え、「世界のセブンズシーンと日本の現在地」をテーマに講義が行われた。

2016年リオデジャネイロ五輪の種目に採用されたことで、注目を集めるセブンズ(7人制ラグビー)。15人制のラグビーとはやや異なる世界の勢力図の中で、日本はどのような位置にいるのか。特に女子日本代表(サクラセブンズ)に焦点を当て、岩渕氏、浅見氏がそれぞれの見解を語った。

■セブンズの勢力図とは?

浅見敬子氏、岩渕健輔氏
浅見敬子氏、岩渕健輔氏

第1部の冒頭、岩渕氏がセブンズはリオデジャネイロ五輪に向けてどのような強化を行っているのか、そして強化についての長期的な展望を説明した。

男子は13年3月に行われた香港セブンズで、IRB(国際ラグビーボード)のワールドシリーズ2014-15のコアチームに入ることが決定。女子は14年9月に香港で行われる昇格決定大会に参加する。そこで参加12チーム中、上位4チームに入れば、コアチームに昇格し、ワールドシリーズにすべて参戦することができる。ワールドシリーズは、世界の上位15チーム(男子は16チーム、女子は12チーム)が参加する大会で、参加すれば日本は男女ともに年間のシリーズ(9戦)(女子は5-6大会)を通して戦うのは初めての経験となる。日本のセブンズはここ3年で大きく変わってきており、世界の上位と戦えるレベルにまで達していることを紹介した。

男子は昨シーズンの世界ランキングが16位。男子はトップ6(ニュージーランド、南アフリカ、フィジー、イングランド、オーストラリア、カナダ)が強く、日本はほとんど勝つことができていない。7位以下のチーム(サモアやアルゼンチンなど)であれば、日本も勝ったことがあるというのが現状。14-15シーズンはトップ10に入り、ワールドシリーズ残留を目指す。一方の女子は昨シーズン、ワールドシリーズに5大会中2大会に参加し、11位タイの成績を残している。9月の昇格決定戦では、フィジーやオランダ、香港などを警戒しながらも、「必ず上位4チームに入る」と浅見HCは昇格への決意を語っていた。

■女子が取り組んでいる強化

次に女子のセブンズは、具体的にどのような強化に取り組んでいるのかについて。現在、女子セブンズは週5日、年間200日集まってトレーニングを行っている。その中で浅見氏は運動量、フィットネスをベースにしながら、海外選手との差が大きいストレングス(筋力)の強化に力を入れているという。浅見氏がHCに就任した当初(11年)は、基礎練習ばかりをやっていた。

基礎が多かった理由を岩渕GMは、「セブンズがリオ五輪の種目に決まってから、世界でフィジカルの強さが飛躍的に変わってきている。このままやっていたら絶対にけがをするという状況になってしまった」と説明した。実際に選手たちの能力は上がっており、選手のけがが減るなど一定の成果を挙げている。現在は、選手の状態を個別に見極め、ストレングスでも何を伸ばすべきなのかを考えてトレーニングを行っている。

今年はさらにニュージーランドのコーチを呼んでトレーニングを実施。日本と女子の世界トップ3(ニュージーランド、オーストラリア、カナダ)では差があるというスピードの強化を行っている。相手にスペースを与えるとすぐに走られてしまうなど、スピードの差は大きく、強化には時間が掛かるため簡単には縮まらない。スピード強化と合わせて、「フライングスタート(動き出しの速さ)」を意識し、その差に対応していく。

■サクラセブンズが世界で勝つ可能性

セブンズがリオ五輪の種目になったことについては、他競技から転向してくる選手たちに大きな影響を与えている。「五輪に出たいがために、転向してくる人がほとんど」だと言う。他競技からの転向は世界中で起こっており、日本は今後も、他競技からの転向を歓迎している。浅見氏は特に「スピードのある選手が欲しい」と希望を語った。

女子セブンズの可能性について、岩渕氏はトップ6の壁が厚い男子に比べ、トップ3が強い女子のほうが上位に進出するチャンスがあると話す。さらに、「身体能力の差は大きいが、スキルのレベルは世界でもそれほど高くない。攻撃側がミスをするケースが多いので、日本が違う部分で勝負できればチャンスがある」と補足した。

また、女子セブンズのレベルは3年前と比べて上がっているものの、代表選手とそれ以外の差が広がってきているという課題を挙げ、第1部を締めくくった。

■15人制と7人制で資質が異なる

休憩を挟んで行われた第2部では、第1部の講義に関する質疑応答を行い、15人制ラグビーとセブンズの違い、女子選手の強化について議論を深めた。

──半数くらいの方がこの質問だったのですが、15人制と7人制とで選手の棲み分けはどうするのでしょうか。岩渕さん。

岩渕GM「15人制と7人制に関してはいろいろな見方があると思いますが、1つの見方として、7人制はかなり専門性が高くなってきています。15人制の選手とはかなり体重が違ってきている。そうすると、プレーに求められる能力も違ってきます。一方で、日本が結果を残すためには、15人制に出ている選手をどうやって7人制でも使っていくのかは考えなければならない問題だと思います」

──20年の東京五輪に向けて、指導者は子どものうちに何をやらせておけばいいですか?

浅見HC「ストレングスは、女子は思春期を迎えたところでだいぶ変わってきますので、そこはしっかり切り替えることが大切になる。しっかりトレーニングができる環境があって、年代に応じたトレーニングができているかというのは非常に大事だと思います」

──強化費捻出のためにもセブンズをメジャーにする必要があります。マスコミ対策、スポンサーへのアプローチで考えはありますか?

岩渕GM「セブンズが五輪種目になって非常に注目をいただいています。特に女子は男子よりも、あるいは男子の15人制ラグビーよりもおそらく映像メディアに載せていただく機会が多くなっている。そういう意味では女子が昇格大会で勝って、アジア大会で勝ってシリーズを回ってという循環を作ることが、ラグビー界にとっての大きなポイントだと思っています。スポンサーに関しては、そういう流れの中で興味を持っていただいているところもたくさんあるという状況です」

■女子選手の指導で気をつけること

──女子選手を指導する上で、気をつけていることはありますか?

浅見HC「私自身も選手でしたので、そこのところは男性がどう思われるか分かりませんけど、平等とかそういうところは割と女子選手の方が敏感かなと思います。距離感は、私がヘッドコーチになってからは少し気をつけるようにしています」

──技術的なことで気をつけていることは?

浅見HC「私は男子を指導したことがないので難しいところですが、おそらく男子の選手と比べると、状況を把握するのに時間がかかってしまう。もちろん他競技から転向した選手も多いので、すぐに飲み込んでパッとやれる選手はまだ足りないというのはある。そこを気を付けています」

──女子の世界大会は日本で開催できないのでしょうか?

岩渕GM「これはやらないといけないことですね。考えていることはあるので……はい、動いています(笑)」

──リオ五輪出場の可能性は? 絶対に行けるのか。それとも少し厳しいのか。

岩渕GM「絶対に行きます」

──男子は間違いなく行く?

岩渕GM「はい。それ以外の答えなくないですか(笑)」

──女子はどうでしょうか?

浅見HC「そのために私がHCにいますので、絶対に行きます」

──浅見さんから女子ラグビーについて最後に一言。

浅見HC「9月にまた大切な大会がありますので、ぜひ皆様の応援を力にしっかりと結果を出していきたいと思います。引き続きよろしくお願いします」

浅見さんにとってセブンズとは?

「セブンズがなかったら、いわゆる職業として成り立つことがなかったので、そこの部分では私にとっては本当に夢のような職業ですね。
セブンズで世界に勝つために、やることはたくさんあるのですが、自分たちのやってきたことをどれだけ信じてやれるか、やりきれるかということだと思います。スピードもストレングスの部分でも世界とは差がある。何で勝つのかというと、“粘り強さ”だと思います。日本の女子サッカーや女子バレーを見ていても、“粘り強さ”は本当に精神的、肉体的な部分でもすごく強みになると思っていますので、自分たちがそれを強みだと思ってやり切れるかどうかっていうところはあると思いますね」