今年のラグビーシーズンのファイナルマッチは、準決勝でサントリーを1点差で破り勢いに乗る東芝ブレイブルーパスと、トップリーグ・プレーオフに続いて頂点を目指すパナソニック ワイルドナイツの対戦となった。この日、晴天の国立競技場には19,571人の観衆が集まり、微妙に風向きが変わる中、今季最高のゲームが期待された。
前半はパナソニックSOべリック・バーンズの高々と蹴りあげられたキックでスタート。このボールを東芝FLリーチ マイケルがキャッチして、真っ直ぐ激しく前進。このプレーがこの日のゲームを象徴するかのようにボールが縦に大きく動き出す。
両チームのゲームプラン通りなのか、SOバーンズと東芝SOデイビッド・ヒルがロングキックを繰り返してエリアを奪い合う。そして、互いのキックが少しでも浅いとその隙をついて一気にカウンターアタック。そこから繰り広げられるブレイクダウンの攻防は、今季最も激しい戦い。相手のクイックアタックを抑えるためのタックル、2人目のボールへの執念が試合序盤から激しくぶつかり合う。
前半4分、パナソニックはSOバーンズのPGでまず先制。
しかし、東芝はSOヒルのキックから相手陣内に確実に前進し、そこからFWが激しく前にドライブ。BKの横にFWがランナーとして、SH小川のアタックにはフロントロー、LOが素早くサポートし縦にギャップをこじ開ける。
ついに19分、スクラムサイドをSH小川、FLリーチで崩し、FLスティーブン・ベイツが突破。そのボールを左に展開し、WTB大島がトライ。(7-3)
30分に今度はパナソニックが得点を奪う。互いのFWがショートサイドで身体をぶつけ、一歩も引かないブレイクダウンの攻防。そこにある一瞬のすきをパナソニックSH田中は見逃さなかった。順目、順目にチームを走らせ、東芝ディフェンスが後追いになったフェイズで、今度は咄嗟に逆サイドに走る。遅れたディフェンスのギャップに入り込み、タックラーをおびき寄せると外側のサポートプレーヤーへパス。そこにタイミング良くWTB山田が走りこんで逆転トライ。(7-10)
次はまたも東芝が攻める。SOヒルを起点にFWが縦に走りこんで前に出ると、パナソニックディフェンスが内側に集まる。薄くなった外側で待つNO8望月にボールが渡ると強烈なハンドオフでタックラーを跳ね飛ばし、一気にゴールラインまで走り込んでトライ。(14-10)
東芝15人の痛みを忘れた激しいヒットが、この前半はパナソニックの闘志を上回った。
ハーフタイムのロッカーから、先にグラウンドに現れたのはブルーのジャージ。残り40分をどう戦うか、グラウンドへ戻るパナソニック ワイルドナイツはまるで後半を待ちきれないかのような集中を感じさせる。
そのパナソニックは、後半開始直後から攻撃を開始。グラウンド中央をNO8ホラニ龍コリニアシが突破すると、そのラックサイドをSH田中が素早く攻める。WTB北川、FL西原がスピード良く走りこんで一気にゴール前へ。最後はオープンに展開し、SOバーンズのラインブレイクからオフロードパスでCTB林が再逆転のトライ。(14-17)
ここで迷わず東芝ブレイブルーパスは動いた。7分、SOヒルに替えてリチャード・カフイが登場。SOには廣瀬が入り、外側でランプレーに強い布陣を敷いた。東芝はSO廣瀬を軸にラインアタックから素早い球出しで展開し、一気にゲームのスピードアップを図る。SH小川も相手タックラーとの間合いを奪い、自らの身体を盾に空いたスペースにFWを走らせる。東芝のもう一つのオプションが計画通りに展開されたかに見えた。
しかし、パナソニックは16分にPG。(14-20)
その後も、スローボールになった東芝のラックからSH小川のキックが多くなると、狙い澄ましたパナソニックのディフェンスがチャージ、タックルと襲いかかった。21分には、ここで奪ったボールを展開して途中出場のJP・ピーターセンがこぼれ球を抑えてトライ。(14-27)
ここで勝負は一度決まったかに見えた。が、ここでこの日圧巻のプレーが起こる。この直後のキックオフで東芝FWが強烈な前進を見せた。一つの熱い塊となった東芝の執念がパナソニックのディフェンスを破壊して、キャプテンのリーチ マイケルがポスト下にノーホイッスルトライ。(21-27)
まだわからない。東芝の執念に国立競技場の空気が凍りつく。やはりこれが決勝戦。互いに譲らぬ攻防。ミスは許されない。
そして、ゲームは最後に思わぬ形で決まっていく。準決勝のサントリー戦ではスクラムを押し切って勝利を奪った東芝だが、この日はこのスクラム周辺でリズムが合わない。パナソニックFWのプレッシャーとSH田中の鋭い出足に屈し、34分、痛恨のペナルティを献上。50m近いこの距離をパナソニックSOバーンズの正確なショットが決まり勝負は終わった。(21-30)
東芝は攻めに攻めた。しかし、パナソニックのディフェンスは固く、アタックのバランスも含め日本一にふさわしいチームだった。今年のラストゲームとして、互いが持ち味を出し切って、攻撃満載の魅力溢れるゲームだったと思えた。(照沼康彦) |