「第51回 日本ラグビーフットボール選手権大会」
マッチリポート

東芝ブレイブルーパス 21-30 パナソニック ワイルドナイツ

【決勝/2014年3月9日(日) /東京・国立競技場】
今年のラグビーシーズンのファイナルマッチは、準決勝でサントリーを1点差で破り勢いに乗る東芝ブレイブルーパスと、トップリーグ・プレーオフに続いて頂点を目指すパナソニック ワイルドナイツの対戦となった。この日、晴天の国立競技場には19,571人の観衆が集まり、微妙に風向きが変わる中、今季最高のゲームが期待された。
前半はパナソニックSOべリック・バーンズの高々と蹴りあげられたキックでスタート。このボールを東芝FLリーチ マイケルがキャッチして、真っ直ぐ激しく前進。このプレーがこの日のゲームを象徴するかのようにボールが縦に大きく動き出す。
両チームのゲームプラン通りなのか、SOバーンズと東芝SOデイビッド・ヒルがロングキックを繰り返してエリアを奪い合う。そして、互いのキックが少しでも浅いとその隙をついて一気にカウンターアタック。そこから繰り広げられるブレイクダウンの攻防は、今季最も激しい戦い。相手のクイックアタックを抑えるためのタックル、2人目のボールへの執念が試合序盤から激しくぶつかり合う。

前半4分、パナソニックはSOバーンズのPGでまず先制。

しかし、東芝はSOヒルのキックから相手陣内に確実に前進し、そこからFWが激しく前にドライブ。BKの横にFWがランナーとして、SH小川のアタックにはフロントロー、LOが素早くサポートし縦にギャップをこじ開ける。
ついに19分、スクラムサイドをSH小川、FLリーチで崩し、FLスティーブン・ベイツが突破。そのボールを左に展開し、WTB大島がトライ。(7-3)

30分に今度はパナソニックが得点を奪う。互いのFWがショートサイドで身体をぶつけ、一歩も引かないブレイクダウンの攻防。そこにある一瞬のすきをパナソニックSH田中は見逃さなかった。順目、順目にチームを走らせ、東芝ディフェンスが後追いになったフェイズで、今度は咄嗟に逆サイドに走る。遅れたディフェンスのギャップに入り込み、タックラーをおびき寄せると外側のサポートプレーヤーへパス。そこにタイミング良くWTB山田が走りこんで逆転トライ。(7-10)

次はまたも東芝が攻める。SOヒルを起点にFWが縦に走りこんで前に出ると、パナソニックディフェンスが内側に集まる。薄くなった外側で待つNO8望月にボールが渡ると強烈なハンドオフでタックラーを跳ね飛ばし、一気にゴールラインまで走り込んでトライ。(14-10)

東芝15人の痛みを忘れた激しいヒットが、この前半はパナソニックの闘志を上回った。

ハーフタイムのロッカーから、先にグラウンドに現れたのはブルーのジャージ。残り40分をどう戦うか、グラウンドへ戻るパナソニック ワイルドナイツはまるで後半を待ちきれないかのような集中を感じさせる。

そのパナソニックは、後半開始直後から攻撃を開始。グラウンド中央をNO8ホラニ龍コリニアシが突破すると、そのラックサイドをSH田中が素早く攻める。WTB北川、FL西原がスピード良く走りこんで一気にゴール前へ。最後はオープンに展開し、SOバーンズのラインブレイクからオフロードパスでCTB林が再逆転のトライ。(14-17)
ここで迷わず東芝ブレイブルーパスは動いた。7分、SOヒルに替えてリチャード・カフイが登場。SOには廣瀬が入り、外側でランプレーに強い布陣を敷いた。東芝はSO廣瀬を軸にラインアタックから素早い球出しで展開し、一気にゲームのスピードアップを図る。SH小川も相手タックラーとの間合いを奪い、自らの身体を盾に空いたスペースにFWを走らせる。東芝のもう一つのオプションが計画通りに展開されたかに見えた。
しかし、パナソニックは16分にPG。(14-20)
その後も、スローボールになった東芝のラックからSH小川のキックが多くなると、狙い澄ましたパナソニックのディフェンスがチャージ、タックルと襲いかかった。21分には、ここで奪ったボールを展開して途中出場のJP・ピーターセンがこぼれ球を抑えてトライ。(14-27)

ここで勝負は一度決まったかに見えた。が、ここでこの日圧巻のプレーが起こる。この直後のキックオフで東芝FWが強烈な前進を見せた。一つの熱い塊となった東芝の執念がパナソニックのディフェンスを破壊して、キャプテンのリーチ マイケルがポスト下にノーホイッスルトライ。(21-27)

まだわからない。東芝の執念に国立競技場の空気が凍りつく。やはりこれが決勝戦。互いに譲らぬ攻防。ミスは許されない。

そして、ゲームは最後に思わぬ形で決まっていく。準決勝のサントリー戦ではスクラムを押し切って勝利を奪った東芝だが、この日はこのスクラム周辺でリズムが合わない。パナソニックFWのプレッシャーとSH田中の鋭い出足に屈し、34分、痛恨のペナルティを献上。50m近いこの距離をパナソニックSOバーンズの正確なショットが決まり勝負は終わった。(21-30)

東芝は攻めに攻めた。しかし、パナソニックのディフェンスは固く、アタックのバランスも含め日本一にふさわしいチームだった。今年のラストゲームとして、互いが持ち味を出し切って、攻撃満載の魅力溢れるゲームだったと思えた。(照沼康彦)

会見リポート
 

東芝ブレイブルーパスの和田監督とリーチキャプテン

東芝ブレイブルーパス

○和田賢一監督

「本日は日本国内最後の公式戦として、数多くのお客様に観戦していただき、感謝申し上げます。試合結果は、本当に、非常に悔しい。私自身の力不足を感じています。パナソニック ワイルドナイツさんは組織的な防御が素晴らしいが、それをどう下げさせるか、選手は、やりきってくれました。しかし、私たちのミスから得点され、まだまだチャンピオンにはなれませんでした。来年も続けてチャンピオンになるチャンスを得たいと思います。結果は負けたが、選手はよくやってくれました。会社をはじめ、支援して下さった皆様に感謝申し上げます」

──できたことと、できなかったことは?

「アタックは、前半序盤から少ないキックで相手を下げることができました。膠着した部分で、相手にもっていかれたところがありました。さすがにトップリーグチャンピオンです」

──トライ数は同じでPG差だったが?

「私はそうはとらえていません。先方の得点のうち、10点は、こちらがプレーの正確さに負けて献上した点です。気負った中で、22mから出せなかったり、チャージされたりで、ゲームの流れを引き寄せるプレーができなかったのが、この点差に表れたと思います」

──小川選手の出来は?

「今年、非常に伸びたうちの一人です。彼で得点することもあり、試合では彼で失点することもあり、彼には、もっと要求を高くしていきます。今日の結果は、彼自身、悔しい思いをしたゲームだろうし、生涯忘れずに努力していってほしいと思います」

○リーチ マイケルキャプテン

「本日は多くのファンの方、記者の皆さんが会場まで来てくれて、ありがとうございました。僕もすごく悔しいです。今日までやってきたことをブレずに出せましたが、結果、負けてすごく悔しいです。相手のアタックは我慢できたが、東芝はこれからというときにミスが出て、やり切れませんでした。チームの力は、まだまだ強くなれると思います。明日から準備して、来年、日本一になれるようにしたいです。パナソニック ワイルドナイツさんは、2冠を取られて、おめでとうございます。来年、同じ2位を取らないよう、東芝は頑張っていきます」

──前半はコンタクトで勝っていたが?

「パナソニックさんのプレースタイルは、ワイド・ワイドなので、こちらが疲れた部分があったと思います。パナソニックさんの攻撃をスローダウンさせられず、良いゲインをされました。ラックでもう少しスローダウンさせて、ディフェンスに人を並べられたら良かったのですが」

──できたことと、できなかったことは?

「前半はFWが近場で前へボールを運べました。後半は、スクラムトライなど、ちょっと良い味が出せなかったことです」

──すごいキャプテンのトライだったが?

「いつも、あのプレーを目指しているが、なかなか、今シーズンはできませんでした。今日は、相手ディフェンスから少しずれたので、たまたま行けました」

 

パナソニック ワイルドナイツの中嶋監督と北川バイスキャプテン

パナソニック ワイルドナイツ

 

○中嶋則文監督

「どうも、お疲れ様です。国内最後の公式戦と言うことで、ファンの方がたくさん見に来られて、その中で優勝できて光栄に思います。キャプテンがスーパーラグビーに行っている間に勝つことができたのは、選手が絶対勝つと、最後の80分すべてを出し尽くしてくれたからです。東芝さんも、ここまで立て直して、最後の国立の試合に臨んでくれました。関係の皆様に感謝申し上げます」

──東芝の反則は多かったが?

「やはり、まず接点に1対1で食い込まれることが、前半は多く、そこに目が行ってしまって、外で獲られました。うまく縦を突くプレーとワイドを使い分けていました。東芝さんとは、接点でゲインラインを越えられると、ああいう展開になります」

──バーンズ選手は?

「ワラビーズ51キャップの超一流選手です。そういう人でも、私たちのやりたいことを理解し、うまくチームの力を引き出してくれて、自分の良さも出してくれる。トレーニングが終わった後も、若いメンバーに口先だけでなくタックルの練習をしたり、ボールキャリーの練習をしたり、彼らのモチベーションを維持してくれました。チームに色々な意味でプラスの要素をもたらしてくれました」

──連覇のためには?

「やはり、エディーさんのジャパンでも指導している、ストレングス、フィットネスは、どこのトップリーグチームでも強化しています。そこは、もっと強化しなくてはならないと思います。今シーズンは勝ちましたが、今度は追われる立場になって、強み、弱みを分析され、すぐに追いつかれてしまいます。そこを越えていきたいですね」

○北川智規バイスキャプテン

「今日の試合は、東芝さんと今シーズン4試合目でした。また、東芝さんか、ちょっと身体痛いし(笑)、と思っていましたが、本当に痛い試合でした。東芝さんはサントリーさんに勝って勢いあると思っていましたが、FWがすごく頑張ってくれて、ゲインされながら、ペナルティせずに、耐えて、耐えて、少ないチャンスを生かして勝てて良かったと思います。関係の皆様に感謝申し上げます」

──トップリーグ決勝での、堀江選手のスミス選手へのタックルのようなインパクトプレーは?

「今日は、本当に身体が痛いのと、しんどいのとで、覚えていません。ごめんなさい」

──ハーフタイムと4年ぶりの優勝の味は?

「最初、トスでリーチ主将が風下を取りました。ところが、試合が始まると、こちらが風下になり、このことを知っていたのかと思いました。ハーフタイムでは点差が4点なので、焦る点差でないし、あと40分しっかりやろうと。コリーが40分間、前半と同じことやると後悔すると言ってくれて、長いシーズンのラスト40分、走りきろうと意思統一できました。3連覇、あのときは、すごい先輩がいたし、自分も引っ張る立場でなく、自分のプレーだけ考えていれば良かったのですが、今日は堀江がいなくなって、俺が、俺がと頑張りすぎてしまって、終わって一言、ホッとしましたね。やってみて、ほんまにホッとしました。準決と全然ちゃいますね」

──ブレイクダウンは?

「東芝さんが泥臭いプレーで前に出ようという気迫を感じました。そこから外のプレーで点を取られて。東芝さんの気迫はすごかったです」

──バーンズ選手は?

「夏合宿で、選手の名前を覚えてきてくれて、サインも覚えていて、チームに溶け込もうとしてくれました。若い選手を集めて、オフの日にもやってくれて、尊敬する選手の一人です」