圧倒的な強さを見せ続けるパナソニックの2冠なるか
“らしさ”取り戻し、サントリー撃破の東芝が下克上か

9日、第51回 日本ラグビーフットボール選手権大会決勝が東京・国立競技場で行われる。
決勝に勝ち上がったのは、トップリーグタイトルとの2冠を狙うパナソニック ワイルドナイツと、準決勝で昨年の王者サントリーサンゴリアスを破った東芝ブレイブルーパス。
数々の名勝負の舞台となってきた現在の国立競技場で最後のラグビー国内公式戦でもある注目の一戦。どんなラストドラマが待ち受けているのか──。

指令塔として圧倒的な存在感を見せるパナソニックSOバーンズ。東芝がプレッシャーをかけられるかもポイントか

photo by RJP Kenji Demura

今季のトップリーグでの対戦では3戦してパナソニックが3勝。
直近の対戦、すなわち2月1日に行われたプレーオフトーナメントセミファイナルでも55-15という大差で東芝を圧倒。
「ひと言で表現するならパナソニックが強かった。セットプレーでも、ワン・オン・ワンの部分でも」
敵将の東芝・和田賢一監督をそう脱帽させる強さを見せつけたパナソニックの優位は、今季4度目となる大一番での対戦でも動かないと言っていいだろう。
それほど、シーズン終盤のパナソニックが見せる充実一路の強さは本物だ。
前述のセミファイナルでの大勝に続いて、TLファイナルでもディフェンディングチャンピオンであるサントリーに対して、後半完全に試合を支配して45-22で大勝。ワイルドナイツとして10-11年シーズン以来となるトップリーグタイトルを獲得した。

「(ファイナルでは)最初から勝つと思っていた。ウチはディフェンスで攻めるチーム。いまはしっかり意思統一できているし、みんなが同じ方向を向けている」(NO8ホラニ龍コリニアシ)
「(以前のチームと比べても)いまは個々の強さが違う。個々の能力が圧倒的に高い。自分たちのラグビーさえできればどこにも負けない自信をみんなが持っている」(PR相馬朋和)

NO8ホラニ(左)を筆頭にLOヒーナン、FL西原など激しく前に出られるメンバーが揃うパナソニックFWに死角なし?
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前述のとおり、10-11年にトップリーグを制した他、07-08年シーズンからは日本選手権3連覇を成し遂げた三洋電機時代の黄金期を知るメンバーも、当時以上の手応えを自覚するほどの強さ。
東芝・和田監督が認めるとおりの強いセット、そして「人数をかけなくていいところはかけないことを徹底している」(中嶋則文監督)というブレイクダウンで優位に立ち、意思統一された前に出るディフェンスで相手にプレッシャーをかけ続ける。

神戸製鋼を46-5と寄せ付けなかった1日の準決勝でも、後半はほとんど自陣に入らせず零封。
中嶋監督が「ディフェンスは安心して見ていられた」と胸を張る、鉄壁な守りでピンチを切り抜けた後はトップリーグMVPに輝いたSOベリック・バーンズのクレバー過ぎるエリアマネージメントでしっかり敵陣に入り、こちらはTLプレーオフMVPの山田章仁、日本選手権準決勝で2トライを記録した北川智規というWTB陣を筆頭に圧倒的な決定力を誇るBK陣がチャンスを確実にものにしていく。

すでに南半球でスーパーラグビーのシーズンが始まったこともあり、準決勝の神戸製鋼戦ではHO堀江翔太主将、SH田中史朗が欠場。
それでも、代役を務めるかたちとなったHO設楽哲也、SHイーリニコラス共に今季のトップリーグで常時試合に出てきたこともあり(設楽=13試合、イーリ=12試合)、「十分に役目を果たしてくれている」(中嶋監督)という活躍ぶりで、スーパーラグビー組抜きによる戦力ダウンは感じさせない。

再び、セット、接点で優位に立った後、WTB山田など決定力のあるBK陣が仕留める展開に持ち込みたいパナソニック
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名勝負が演じられてきた国立競技場
ラストゲームに相応しい熱戦を期待

前述のとおり、TLセミファイナルでは屈辱的と言っていい大敗を喫した東芝だが、日本選手権に入ってからは本来のフィジカルなラグビーを取り戻して、パナソニックへの再挑戦権を得た。
FLリーチマイケル主将を筆頭にケガ人が復帰してきたこともあり、日本選手権準決勝では、1ヵ月前のTLセミファイナル時と比較すると、先発メンバー6人を入れ替えた(加えてポジション変更メンバーも2人)“違うチーム”と言っていい構成でサントリーを王者の座から引きずり降ろした。
パナソニック戦で後手に回ったスクラムも準決勝では優位に立ち、FLスティーブン・ベイツ、リーチ、NO8望月雄太と並ぶFW第3列を中心にフィジカル面で圧倒しながらボールを前に運ぶ力強さも取り戻した印象。
一時はサントリーに6-24とリードされながら、ラインアウト、スクラム、モールと全て力強いFWプレーから後半3トライを奪っての逆転劇だっただけに、1ヵ月前とは全く違うチームに変貌を遂げているのは内容的にも間違いないところだ。

リーチ主将、ベイツ(写真)などフィジカルに前に出られるFW陣が調子を戻している東芝のアップセットはあるのか?
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「こだわってきた接点、フィジカルの部分で勝つこと」
当然ながら、リーチ主将は東芝らしいラグビー全開でTL王者パナソニックに対する真っ向勝負を宣言。
「セミファイナルでは穴があったディフェンスをサントリー戦で前に出るように修正して、それが機能した」と、和田監督も手応えを感じているとおり、FW第3列以外でもPR久保知大、CTB渡邊太生など、準決勝で先発に起用されたメンバーがハードタックルを繰り返すなど、守りの面でも進歩は明らかだ。

TLセミファイナルではリザーブだったSOデイビッド・ヒルを先発に戻して、キッキングゲームの精度を高め、後半の勝負どころで切り札のCTBリチャード・カフイを投入してアタックオプションを増やすスタイルもサントリー戦ではうまくはまった。
個人能力の高いSH小川高廣、WTB大島脩平、そしてWTBとSOの両役をこなす廣瀬俊明と、ようやくBK陣も陣容が固まってチームとして機能し始めているのも確かだろう。

「(パナソニックSO)バーンズがボールをもらう位置が深いところにヒントがあるかもしれない」と、和田監督は相手のキーマンとなる指令塔にプレッシャーをかけてパナソニックのリズムを狂わせる戦術も模索する。

トリッキーな走りと人に対する強さで前に出る能力を生かしてWTBに起用される大島は東芝の救世主になれるか
photo by RJP Kenji Demura

東芝府中時代も含めて、過去に6度頂点を極めてきた日本選手権決勝の舞台。
同じ相手に続けて4回負ける訳にはいかない──。
東芝にとっては、常勝集団のプライドを取り戻すための戦いでもある。

パナソニックがトップリーグ後半戦から続ける完璧なラグビーをもう一度披露して、シーズン完全制覇を果たすのか、それとも屈辱的な大敗で一度は地に落ちた東芝が本来の力強さを取り戻し、大下克上を果たして7年ぶりの日本選手権タイトルをものにするのか。

数々の名勝負を生み出してきた場所での日本選手権ラストバトルにふさわしい熱戦が期待される。

text by Kenji Demura

東芝としてはDFで粘り、SH小川のキックで得点を重ねながら僅差の勝負に持ち込みたいところ

photo by RJP Kenji Demura