日本ラグビーフットボール協会医・科学委員会では、このたび制作した「外傷障害ハンドブック」(2005年改訂版)のなかで、特に熱中症についてページを割きました。ラグビーの指導者・選手の皆さまに、熱中症の危険度とその予防法について知っておいていただきたく、ここにその内容をご紹介いたします。

なお「外傷障害ハンドブック」(2005年改訂版)をお求めの際には、当サイトの書籍のページをご覧ください。

冷却法(1)全身に水をかけて、あおぐ。   冷却法(2)くびの横、わきの下、もものつけ根前面に冷却剤や氷をあてる。
冷却法(1)

全身に水をかけて、あおぐ。

冷却法(2)

くびの横、わきの下、もものつけ根前面に冷却剤や氷をあてる。

1. 熱中症とは、
暑い環境でおこる障害を総称して熱中症と呼ぶ。大きく分けて、熱けいれん、熱失神、熱疲労、熱射病の4つの状態がある。熱射病は死亡の危険性が高い状態。
2. 症状
(1)熱けいれん
脚,腕,腹部などの痛みを伴ったけいれんがおこる。暑熱環境で長時間の運動をおこなったときに、水分のみ補給して食塩補給をしないと発生する危険性がある。
(2)熱失神
長時間の立位や運動直後に,脳血流が減少して,めまいや失神をおこす。
(3)熱疲労
脱水で、ショックに似た状態で、熱射病(重症)の前段階。脱力感,倦怠感,めまい,頭痛,吐き気など、症状が強い状態。
(4)熱射病
熱射病は、体温が上昇して脳や内臓の障害が明らかになり、死亡する危険性が高い。40℃以上の高体温と意識障害(応答が鈍い,言動がおかしい,意識がない)が特徴。とくに初期の意識障害の「応答が鈍い」や「言動がおかしい」に注意。赤褐色の尿(ミオグロビン尿)がでることがある。
3. 処置
(1) 涼しく風通しのいい場所に移し,衣服をゆるめて寝かせる。
(2) スポーツドリンクで水分補給。
(3) 熱射病(意識障害)のときは救急車の手配と気道確保(救急処置)
(4) 熱射病や体温上昇のときは冷却処置
(5) 熱射病以外でも症状が続くときは病院へ搬送する。
4. 予防
熱中症はいくつかの要因が重なって発生するので、すべての発生要因に対する対策が必要。
(1)環境条件を把握する
暑さの指標はWBGT という温度が最も確実。日本体育協会からWBGT による「熱中症予防のための運動指針」がでている。WBGT計が市販されている。WBGT の高いときは、運動時間や量を減らすことが必要。夏期は練習を早朝や夕方に設定する。WBGT31℃以上では運動は中止する。
(2)水分を補給する
暑いときには、スポーツドリンク(塩分と糖を含む)やそれを水で半分に希釈した飲料を、運動前にコップ1 ~ 2 杯、運動中は1 時間あたり1000ml 以上を目安に補給する。
(3)個人差を考える
熱中症になりやすい人(肥満、体調不良、有疾患者)に対する配慮が必要。また、体が暑さに慣れるのに1週間程度かかるので、暑さに慣れていない時期は運動量を減らす。
(4)暑いときは薄着にする
暑いときに熱のこもりやすいウインドブレーカーなどを着ていると危険。