●試合日 2011年8月13日(土)20:45キックオフ (日本時間 14日(日)3:45キックオフ)
●会場 イタリア・チェゼーナ「スタディオ・ディノ・マヌッツィ」
●試合結果 イタリア代表 31-24 日本代表 (前半14-17)

text by Kenji Demura

7月25日にベネチアから30kmほどのトレビゾ入りして3週間。

長期に渡ったトレビゾ合宿の総決算になることは間違いなかったイタリア戦を前に、ジョン・カーワンヘッドコーチは、ある重要な決断を下していた。

13日のイタリア戦、そして帰国後の21日に控える米国戦の2試合を、W杯初戦のフランス戦の最終セレクションと位置づけ、2試合をまったくと言っていいほど異なるメンバーで臨むことにしたのだ。

「イタリア戦でメンバー落ちしても、米国戦でチャンスが与えられるので、全員が高いモチベーションで合宿を乗り切ることができたと思う」

そんなふうに、チーム・イタリアとチーム・アメリカを分けたことのプラス面を語ったのは、FL/NO8菊谷崇主将。

イタリア代表 31-24 日本代表 イタリア代表 31-24 日本代表 イタリア代表 31-24 日本代表 イタリア代表 31-24 日本代表

ちなみに、菊谷主将に関してはキャプテンということもあり、イタリア戦でフル出場した後も米国戦でも先発出場する予定だが、それ以外はほぼ入れ替わることになる。

3週間に及ぶ現地合宿を敢行し、その間に地元の強豪ベネトン・トレビゾとの2度に渡る合同練習もこなしながら備えたイタリア戦に関して、カーワンHCが強調し続けてきたのは、「北半球の強力なスクラムを経験すること」の重要性。

6カ国対抗レベルの強豪との対戦という意味では、4年前のW杯でのウェールズ戦以来となる貴重な機会でもあった。

フランスは世界でも有数のスクラムの強さを誇るチームだが、イタリアは今年の6カ国対抗でそのフランスとセットピースで互角以上に戦い、2000年に6カ国対抗に参加して以来初となるフランス戦勝利も挙げていただけに、1ヵ月後にニュージーランドのノースハーバーで対戦するフランスの仮想体験相手としては申し分のない存在であることは間違いなかった。

スクラムのキーマンであるPR畠山健介などは、7月のパシフィック・ネーションズカップ(PNC)直後から「(イタリアとの対戦に向けて)もうすでに緊張している」と語っていたほど。

イタリア代表 31-24 日本代表 イタリア代表 31-24 日本代表 イタリア代表 31-24 日本代表 イタリア代表 31-24 日本代表

そんな欧州の強豪との対戦、立ち上がりの日本は、イタリアの圧力で自陣ゴール前に釘付けとなり、まったくボールを持てない苦しい時間帯が続いた。3分に、イタリアSHが日本ゴール前でのペナルティから自らトライラインに迫った後、BKのアングルチェンジであっさり先制トライを奪われてしまう。
10分にも相手SHの個人技で2トライ目を献上。それでも、時間の経過とともに、「(PNCの相手のように)フィジカルな強さだけというより、システム的な感じがした」(HO堀江翔太)というイタリアのプレーにも慣れてきたジャパンは、前半20分からの20分間、試合を完全に自分たちのペースにすることに成功する。一番のポイントだったスクラムに関しても、「相手ボールの時はプレッシャーを受けることもあったけど、マイボールに関してはしっかりキープできていたし、全体的に良かった」と畠山が言う通り、レフリーとのコミュニケーションの問題等で自分たちの間合いで組ませてもらえない場面などはあったものの、右PRが極端に上から内側に押さえ込んでくるようなイタリアのクセのある組み方にもしっかり対応。実際、日本の最初のトライは思い通りに組めたスクラムが起点になったものだった。

ブラインドサイドからオープンサイドのSOの外側に走り込んできたWTB遠藤幸佑にパスが渡ってラック。さらに、素早く順目に流れて、SOアレジがグラバーキックしたボールをWTB宇薄岳央が相手DFに競り勝って、再び足にかけて自らインゴールで押さえた。さらに28分にも、ニコラスライアン、そして平浩二のCTBコンビが連続してタテに突破して2トライ目、「イタリアのDFは全然前に来なかったので、シンプルにタテに切っていく方が有効だと判断して、攻め方を変えた」(平)という通り、相手のDFスタイルに対応して攻略したトライでもあった。

この時点では14-14と同点だったものの、スローなペースに持ち込みたいイタリアに対して、スクラムの安定も寄与するかたちで、テンポある攻撃ができていただけに、日本がどんどんトライを重ねる展開になってもおかしくないほど、試合は完全な日本ペース。前半終了間際にSOジェームス・アレジがPGを決めて17-14と日本がリードしてハーフタイムを迎えた。

イタリア代表 31-24 日本代表 イタリア代表 31-24 日本代表 イタリア代表 31-24 日本代表 イタリア代表 31-24 日本代表

「コンタクトをもっと低く。ボールを継続しよう。相手のスローなテンポにもしっかり対応すること。規律あるプレーでペナルティに気をつけるように」カーワンHCがそんな指示を与えて送り出した後半だったが、前半とは逆に時間の経過とともに、ジャパンのプレーからは前半終了間際のような勢いは消えがちとなってしまう。前半の立ち上がり同様、いきなり攻め込まれてモールでトライを奪われてイタリアが再逆転。ジャパンも何度かイタリアゴールに迫ったものの、前半のようにフィニッシュには持ち込めない。前半、安定していたスクラムも、後半12分に畠山が退いてからは、プレッシャーを受ける場面が目につくようになる。「前半を戦ってみて、日本のBKはスピードがあって危険だということがわかったので、とにかくFWのパックでプレッシャーをかけていくように指示を出した」(イタリア代表ニック・マレット監督)というイタリアのスローなペースを崩せないまま、17分にモールでのトライを重ねられ、22分にモールにこだわってペナルティトライをもぎ取ったものの、後半は日本らしいテンポあるアタックは不発のまま、7点差で惜敗した。

「いい経験になった」試合後、満面の笑みでそう語ったのはカーワンHC。金星こそ逃したものの、前述したとおり必ずしもベストフィフティーンとは言えない面もあったメンバーで、6カ国対抗の強豪を追いつめたことで、W杯のフランス戦に向けて、チームが大きな手応えを掴んだことも確かだろう。「課題がはっきりしたし、収穫も大きかった」欧州勢のクセのあるスクラムワークにも対応できるところを見せたPR平島久照の総括が全てを物語る、1ヵ月後を楽しみに待てる試合になったことは間違いない。