一番特別な相手との一番タフな試合
ベストメンバーで世界最強にチャレンジ

「今までで一番特別な相手との試合、そして、今までで一番タフな試合になる。恐らく、人生で1度きりの経験」
2年前のW杯優勝チームで、IRB世界ランキング1位。今季もここまで10戦全勝。しかも勝ったのは全て世界トップ10のチームばかり。
まさに絶対的な世界王者として君臨し続けるNZ代表オールブラックスとの26年ぶりとなる日本での対戦に関して、冒頭のように語ってくれたのは日本代表の廣瀬俊朗キャプテン。
それは、日本代スコッド全員に共通する思いでもあるだろう。
そんな、特別な相手とのタフな試合には、当然ながら日本サイドもベストメンバーで臨む。
「世界のベストチームと戦うのだから、こちらもベストメンバーでいくしかない」(スコット・ワイズマンテルヘッドコーチ代行)

(text by Kenji Demura)

直前合宿でワイズマンテルHC代行と話し合うWTB廣瀬主将
photo by RJP Kenji Demura
直前合宿ではSH田中が積極的にまわりに指示を出し続ける姿が目立った
photo by RJP Kenji Demura

ポジションごとに見ていこう。
FW第1列は三上正貴と畠山健介の両PR陣にHO堀江翔太が先発。HO青木佑輔にPR長江有佑、山下裕史がリザーブに入る。
ワイズマンテルHC代行は「いくつかのポジションでセレクションが難しかった」ことを認めていたが、このフロントローがそのうちのひとつであることは間違いないだろう。

2年前のラグビ―ワールドカップでNZと対戦した経験を持つ畠山は、オールブラックスのスクラムに関して「フロントローだけではなく、8番までの後ろの重さが僕のところまで伝わってくるようなスクラムを組んできた」との印象を持っている。
「バックファイブ、LOとFLからしっかり押してくれということは口を酸っぱくして言っているし、そこが鍵になる」と畠山が言うように、いかに8人でまとまったスクラムが組めるかが、ポイントのひとつになる。
「受けに回ると、スクラムでもフィールドでもプレッシャーを受けてしまうので、どんなシチュエーションでも自分たちからしっかり前に出ることを意識していきたい」(畠山)

LOに関しては、伊藤鐘史、大野均の2人が先発。トンプソン ルークが控えに入る。

やはり、11年のW杯でオールブラックスと対戦した大野均は「W杯の時は、もっと思い切ってチャレンジするべきだった。もっと積極的にプレーしていれば、チャンスはあった」と感じている。

「反則を恐れず、インパクトを与えるようなプレーをし続けていく」ことが、世界王者を慌てさせることにつながるとの認識だ。

そして、FW第3列はヘンドリック・ツイ、マイケル・ブロードハーストのFL陣にNO8ホラニ 龍コリニアシが先発。バックアップには菊谷崇が回る。
ホラニを先発、菊谷をリザーブとした理由に関して、ワイズマンテルHC代行は「今季のトップリーグで常時プレーしていたのがホラニに対して、菊谷は3試合だけだった」と、現在のコンディションがホラニの方が上と判断した説明。
その一方で、「菊谷も試合の大事な場面で必ず途中出場することになる」とも。

2年前のW杯では初戦のフランス戦で膝を痛めたため、NZ戦ではプレーできなかったホラニは、その経験を「ただ、ただ悔しかった。ジャパンが負けたのも悔しかったし、自分がその場に立てないことが悔しかった」と振り返る。

「世界一と戦うチャンスはめったにない。ラグビ―人生の中で一番大事な試合かもしれない。膝の調子も戻ってきたし、ジャパンウェイを貫き通す試合にしたい。とにかく早い展開。アタックでもDFでもスピードと低さで勝負する」

日本の「アタックでの武器」と評価されるWTB福岡が先発
photo by RJP Kenji Demura
11年W杯NZ戦でSBWにタックルLO大野。新たなチャレンジに燃えている
photo by RJP Kenji Demura


ジョーンズHCとは密なコミュニケーション
HC不在はさらなる成長のチャンスでもある

ハーフ団は、スーパーラグビープレーヤーとして貫禄さえ感じさせるようになっているSH田中史朗と、今季のトップリーグでも1年目ながら圧倒的に質の高いプレーを続けるSO立川理道がペアを組む。

このNZ戦直前合宿から日本代表に復帰した田中だが、合宿初日から積極的にまわりの選手たちに指示を出し続ける姿勢が目立った。

「ひとりひとりが『自分がジャパンだ』という意識を持って、責任感を持てばチームも変わる。そういうことを意識しようというのは話しました。ミスもあるけど、以前よりはひとりひとりの意識は上がっている。チームとしてもレベルが上がっているのは感じます」

そんなふうに、すでにチームの精神的な支柱となってもいる身長166センチのSHは、ハイランダーズでのチームメイトや対戦相手がずらりと並ぶオールブラックスに対する戦い方のポイントを以下のように語る。

「BKのスペースの空いている部分をついてというのを意識してやっていきたい。FWは近場のDFもチャンピオンシップとか見ても隙がない。トライも狙いたいけど、まずは得点を取っていきたい。

自分のプレーに関しては、今季またNZでプレーすることで、少し落ち着いてプレーできるようになった。余裕ができたというか。でも、日本だとFWが違うので、プレッシャーを受けることも多くなる。そういう状況でも的確に指示でFWを動かして、安心させたりできるようにしたい」

CTBではクレイグ・ウィングとマレ・サウがコンビを組み、田村優がリザーブに。小野晃征もベンチスタートとなるが、リザーブにSHのスペシャリストを置かずに、小野がSHもカバーすることになる。

こうした変則的と言ってもいい構成にした理由に関しては「立川、ウィングのコンディションに不安があるため、9番、10番、12番を同時にカバーできるリザーブプレヤーが必要だった」というのがワイズマンテルHC代行の説明だ。

バックスリーは、「ジャパンのアタック面での武器になるワールドクラスのスピードを持っている」(ワイズマンテルHC代行)との評価を受ける福岡堅樹が左WTB、右が廣瀬キャプテン、FBに五郎丸歩。リザーブに藤田慶和が入る。

26年前が0-76、4-106、18年前が17-145、2年前が7-83。

日本がNZにチャレンジした歴史には残酷とも言える結果しか残されていない。

ただし、「日本の成長ぶりには敬意を払っている。トップ10国であるウェールズを破るなど、力のある厳しい対戦相手だと考えている」と、スティーブ・ハンセンHCが語るとおり、エディー・ジョーンズHC体制下の日本代表が着実にステップアップしていることは世界が認めている事実だと言っていい。

そのジョーンズHCが不在のまま世界最強チームと戦うことになった日本代表だが、「勝ちに行く」と宣言していた思想はメンバーひとりひとりの中にしっかり根づいているはずだ。

「受け身になったら絶対勝てないので、自分たちからどんどん仕掛けていきたい。自分たちのスタイルを信じてやればチャンスは必ずある。それを信じてやるだけ」(廣瀬キャプテン)

もちろん、ワイズマンテルHC代行が「エディーがボスであることには変わらない。メールも1日100通くらい来るし、スカイプでのやりとりもしている。メンバーに関しても決めるのはエディーだ」というとおり、現場にこそ来れないものの、相変わらずジョーンズHCとの密なコミュニケーションは維持されている。

「これまでエディーさんが『いまのいいプレー』とか言ってくれていたのを、これから選手が自分たちでそういうことを判断して作り上げていくいい機会。そういう部分の構築をシニアメンバー中心にやっていきたい」(廣瀬キャプテン)

最高指揮官なしで世界最強チームと戦うという、とびきりタフな状況で迎えるオールブラックス戦は、だからこそジャパンにとって得られるものも大きなビッグマッチとなる。

「一番特別な相手との一番タフな試合」に臨む日本代表
photo by RJP Kenji Demura