代表強化担当者に聞く日本ラグビーの未来
19年のラグビーワールドカップに向けたプランと展望

公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第62回が4月25日、東京都港区のみなとパーク芝浦内「男女平等参画センター(リーブラ)ホール」で開催された。今回は日本ラグビーフットボール協会の特任理事であり、薫田真広男子15人制ディレクター・オブ・ラグビーを招き、「日本代表 再始動に向けて」というテーマで講演が行われた。

■ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ初勝利を受けて

講演は先日のスーパーラグビーで初勝利を収めたばかりのヒト・コミュニケーションズ サンウルブズの話題からスタート。進行を務めるラグビージャーナリストの村上晃一氏に初勝利の感想を問われると、「勝ってほっとしている。結果を残さなければいけないので、価値のある1勝だったと思います」とコメント。勝因については「セットピース」と明言し、「セットが安定したことでゲームが締まった」と手ごたえを口にした。

■ラグビーワールドカップに向けた2016年の位置づけ

次に日本代表の試合スケジュールへと話題が移る。4月30日の試合を皮切りに、韓国、香港と2試合ずつ戦う「アジアラグビーチャンピオンシップ2016」が行われ、その後6月にはカナダ代表とアウェーでのテストマッチ、そして6月の「リポビタンDチャレンジカップ2016」でスコットランド代表との2連戦が予定されている今年の日本代表。2019年のラグビーワールドカップに向けて、今年はどのような位置づけになるのだろうか。

「どのスポーツもそうだが、約10年スパンで強化しなければ結果は出ないと言われています。協会としては、前ヘッドコーチ(HC)のエディー(・ジョーンズ)さんが就任した12年から19年に向けた8年スパンでの強化を考えています」と薫田氏。エディー体制を「ステージ1」と表現すると、「長期間のキャンプで拘束して、一貫してハードワークを行い、徹底した管理を行った」と話した。

さらに「16年からの2年間はステージ2」と話すと、「スーパーラグビーの参戦」と「トップリーグ」の2本柱で強化を進めていくことを強調。特にトップリーグに関しては「まだ日程が発表になっていませんが、今シーズンの日程は例年より試合数が増えます。トップリーグとスーパーラグビー、日本代表戦などを合わせると年間40試合程度のプレー数となる予定です」と、試合数をこなしながら強化を進めていく方針を明らかにした。

また「ステージ3では、(ラグビーワールドカップが)日本開催であるホームアドバンテージをどのように生み出していくかをしっかりと考えていきたい」とコメント。順次発表されていく試合会場やキャンプ地などの情報をいち早く収集し、日本代表にとって万全の準備を整えることが今後は求められていく。特に力を入れたいのは「選手のリカバリー」。「連戦が続いたとき、選手の回復をどのようにするのかを最後のステージでしっかりと考えていきたい」と話した。

■ジェイミー・ジョセフ体制は「9月から」

続いて話は日本代表の強化について及ぶ。新ヘッドコーチに就任が決まったジェイミー・ジョセフの新体制は「9月から」と薫田氏。「契約などなかなか難しい問題があるが、その中でもできるだけ早くできるように調整しています」と話した。

就任が9月からとなると、気になるのはそれまでのチーム強化について。現在活動中の日本代表の選手構成に関しても、「難しかった」と薫田氏は振り返る。「ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズに参加した選手や、海外でプレーしている選手は今回選ぶことができなかった。そして4月から企業に勤める新卒の社員選手も、新人研修などで1カ月間練習ができない」と話すと「4月、5月のセレクションと、6月のセレクションは結構変わってくると思う」とメンバー構成を変えながら強化を進めていくことを示唆した。

また今年はリオデジャネイロオリンピックが開催されることもあり、日本代表のメンバー構成にも影響が出ていると言う。「協会としてもオリンピックでのメダルが懸っているので、今年度に限って8月まではセブンズを優先にしている。それによって、今回は足の速い選手を呼べなかった」と、15人制日本代表の強化と、リオデジャネイロオリンピックに向けた強化の両立の難しさを振り返った。

また日本代表の強化において非常に重要な位置づけとなるヒト・コミュニケーションズ サンウルブズだが、ジェイミー・ジョセフが指揮を執る体制になるのだろうか。薫田氏は「確定はしていない。(ジェイミー・ジョセフは)上から俯瞰した立場で見て、強化していくのが一番良いのかなと考えています。もちろんオプションとしては考えているので可能性はあります」と、自身の考えを示した。

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講演に続いて、村上氏と会場からの質疑応答が行われた。以下は質疑応答の要旨。

——やっとサンウルブズが1勝した。ここまで勝てなかった理由は何なのか。

「まず、スーパーラグビーが連戦なため、どこでピーキングを上げていくかが難しいシーズンでした。一つは、どのようにトップリーグと連携を図るかだと思います。トップリーグの各HCと連携をとって、どうピーキングを持っていくのかを考えるのがまず重要だと思います。
もう一つは、サンウルブズのようなチームを2チームくらい持たなければ強化はできません。そのためには、来年の契約選手をできるだけ多くしなければいけない。予算の問題などもあるが、フル契約とハーフ契約の選手もいるので、ハーフの選手を多く持つなども考えられます。もちろん、ここには学生や若い選手にスーパーラグビーを経験させたいという意図があってのことです」

——ずばり、協会のふところ具合は?

「ぜひご支援いただければと思います(笑)。強化は本当にお金がかかります。どこの国もW杯の翌年は大変なシーズンだと思います」

——若い世代と代表をつなぐ育成プランはありますか? 大学は大学同士で試合をしていて、なかなかレベルの高い試合を経験できない問題がありますが。

「まず、帝京大の1強時代は大学リーグにとって大きなことです。どのように(有望な選手を)分散させるかが大事だと考えています。
あとはあくまでも私個人の考えですが、ポテンシャルがあり将来、世界のトップ選手と対等に戦えるような選手は、トップリーグと大学リーグで2重登録をできるようにするなども考えなくてはいけないと思います。少しでも早いタイミングからトップレベルでプレーできるような環境づくりも強化の一つだと思います。ただ、これは弊害になる可能性もあります。そういうことも踏まえて考えていきたいと思います」

——ジェイミー・ジョセフの目指すラグビーとエディー・ジョーンズのラグビーとの共通点や相違点は?

「まずはどちらも厳しいことですね。今回ジェイミー・ジョセフを選んだ理由もそこにあります。この前も会話をしていた時に、『この選手はハートが弱いね。僕とは仕事ができない』と即答するような厳しさを持っている指導者です。
ラグビー的には、オーストラリア(=エディーの出身地)とニュージーランド(=ジェイミーの出身地)の違いがあると思います。コーチングや、練習などをきっちり時間や形にはめていくオーストラリア方式と、選手の判断などを尊重しながらゲームを作っていくニュージーランド方式ですね」

——トップリーグの強化について。チーム数の増減は検討していますか?

「議論されるところだと思いますが、現時点では減らさない方がいいと考えています。日本のラグビーの現状を考えると、減らすことによって撤退するチームが出てきたりなど、負の要素が考えられます。バランスをしっかりと考えなければいけないと思っています。
ただし、来年度の試合日程も選手のコンディションを考えたら、16チームでカンファレンス制度にするなどを検討しています。年間予算を考えると、10試合だけだったらチームを持つ必要がなくなってしまいますので、トップリーグの試合を10試合~13試合ぐらいに抑えられるようにしたいと個人的には考えています」

——それは地域で西と東に分けたり、あるいは実力別に1部2部にしたりとかですか?

「一番分かりやすいのは、単純に8チームずつに分けて総当たりで7試合をやって、そのあとに上位リーグをやったりだとか。その上で選手のコンディションを考えながら、日本選手権などをどうするのかだと思います」

——秩父宮ラグビー場が改修工事で何年間も使えなくなるという話がありますが、その間の対応をどのように考えていますか?

「これはわれわれの範疇ではない話なのですごく難しいのですが、少しでも長く秩父宮を残してほしいと思っています。まだ正式には決まっていないようですが、もし改修するのであれば最後の最後まで使えるようにしてほしいです。そして、使えなくなったら、代替えのスタジアム、例えば新国立競技場を早く使えるようにしていただきたいというのはあります」

■日本のターゲットはスコットランド

——サンウルブズのシンガポールでの試合は来年も組まれるのですか?

「今のところそう聞いています。ただ、できるだけ日本でやりたいですね。あと、なるべく時差のないカンファレンスでと思っていますが…。
ただ、ハイランダーズなんかもサンウルブズと同じような長距離移動をしながら試合をしているようです。いきなり暑いところで試合をしてパフォーマンスを発揮できなかったりと。そういう意味では、日本だけでなくスーパーラグビーはハードな環境で結果を残さなければいけない世界最強のリーグだと思います」

——日本代表がターゲットとする国はどこでしょうか?

「(W杯で)前回以上の結果を残すという意味では、スコットランドやイタリアに勝てるようになりたいです。ただ、スコットランドはめちゃくちゃ強いです。この前U-19日本代表がスコットランドに初めて勝利しましたけれども、やっぱりターゲットはスコットランドです。あとはイタリア、アイルランドなどにまんべんなく勝てるようにならなければいけないと思っています」

——海外でプレーしている選手をサンウルブズに呼ぶようなことも考えていますか?

「そうですね。純粋にサンウルブズを強くすることが日本代表の強化につながると思っています」

——来年のサンウルブズと日本代表の選手重複は何パーセントくらいになりますか?

「可能な限りそろえなければいけないと考えています。一方で結果を残さなければいけないという意味で、サンウルブズが勝つためのメンバー選考もしていかなければいけない。ただ、なるべく19年の(ラグビーワールドカップに出場する可能性がある)選手でそろえたいという思いはあります」

——スーパーラグビーでは激しいプレーが見られますが、日本はローカルルールにこだわり過ぎているのではないでしょうか?

「ご指摘の通り、日本はあまりにもフェアにやりすぎているというのはあると思います。ただ、そういったことにもなるべく対処できるようにしていきたいです」

■あなたにとってラグビーとは?

「すべてを懸けなければいけないもの、ですね。19年以降に向けて(財産を)どう残すか、という事しか考えていません。まずは結果を残すこと。この1~2年に懸けるしかない、という思いでやっています。それによって(日本ラグビーの未来が)変わります。19年に向けてどれだけ完璧な準備をするかだと思います。ジェイミー・ジョセフが来てからいろいろと変わってくるとも思いますが」